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馬車にて

 私とエレンの二人は今、東部ストリートを出て、中央区内で乗り合い馬車に乗っていた。ほどよい速さで進む馬車の中には、さわやかな風が吹いてきていて心地が良い。


 他に乗客はおらず、周りを気にせずに話せている。正直、乗り合い馬車は人でごった返しているものだと思っていた。少なくとも、師匠と一緒に乗った時は毎回そうだった。


 今日はラッキーな日なのかもしれない。なんとなく、これからもいいことが起こりそうだと思えた。


 乗り心地は中の下くらい。街中を走っているので、路面が舗装されており、森のような悪路を走っているよりは相当楽だった。


 しかし、そもそも舗装が完璧ではない。どうしても揺れはするので、私たちは何回か座りなおしている。振動でお尻や腰が痛いのだ。


 これが王城内なら別なんだろうけどなぁ。


「で、私たちは今どこに向かっているのだ?」

 エレンは私にそう問いかけながら、何度目かの座り位置の調整を行った。


 私がエレンの言葉に「ついてからのお楽しみ~」とはぐらかすと、エレンは少々不満そうに唇を尖らせた。ちなみに、これももう今日何回目かのやり取りである。


 最近、エレンは仕事や生活面での成長が著しい。それに加えて思ったのが、エレンの表情が豊かになったこと。


 出会った当初は余裕がないというか、行き急いでいるという感じで、張り詰めた表情でいることが多かった。居候させてからは申し訳なさそうな表情も追加された。


 しかし、最近は様々な表情が見れるようになった。魔本の修正を見せた時から、尻上がりにいろいろなエレンを拝めているように思う。


 緊張がほぐれてきたのか、過去のことを乗り越えたのか。それとも、ここを自分の居場所と思ってくれたのか。


 どれであってもうれしい。でもできれば、どれでもあってほしい。


 私はエレンと一緒に居れて楽しい。恥ずかしくてまだ言えてないけど。

 

「もう教えてくれてもいいだろう、サリー殿!」


「まだって言ったらまだですよ~」



 東部ストリート入り口から馬車に乗っておよそ一時間。振動に体をやられながらエレンと会話をしていると、周りがガヤガヤと騒がしくなりだした。


 それから少し経った頃、馬車がゆっくりとスピードを落として停止した。先ほどのガヤガヤ感は二倍、いや三倍以上になっている。


 目的地に着いたのかもしれない。そう思った矢先、御者から「着いたよ」と声をかけられた。


「ん~」


「むっ」

 

 馬車を降りる。日差しがまぶしくて目に突き刺さった。思わず手をかざして上を見上げる。日は真上より少し下くらい。正午を回ったころだろう。


 二人そろって体がバキバキだ。やはり座りっぱなしというのもよろしくない。腰をまわしたり、ゆっくり伸びをしたりして体をほぐす。


「お客さん、乗車賃」

 御者がこちらに身を乗り出して催促をしてきた。どうやら、ストレッチに夢中になってお金を払うのを忘れてしまっていたようだ。


 私は御者に800リズを支払う。エレンは「自分で払う」と言っていたが、ここは私が、と無理を通させてもらった。


 日頃の感謝である。

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