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影はどこにでも

「サリー殿のお陰でせどりについては理解した」

 しばらく考え込んでいたエレンはおもむろにそう口にした。


「それほどでも!」

 

「だが、サリー殿はなぜあの少年がせどりだとわかったんだ? その……、正直に言えば、あの身なりでは万引きだと疑われて終いだろう」

 エレンはさらに、「現にサリー殿も最初は万引きだと疑っていたはず」と続けた。


「確かに、私も最初は万引きだと思ったよ。というかそもそも、彼のような小さい子がせどりをやること自体が珍しいんだ」


 あの身なりでは彼は孤児だろう。戦争か、はたまた別の原因か、それは分からないが、孤児であることはほぼほぼ間違いない。


 この国には国営の孤児院がある。孤児院にいる子はよっぽどのことがない限り、独り立ちできるようになるまで衣食住の心配はいらない。それも最低限かそれより少し下にはなってしまうだろうが。


 そしてそのよっぽどのことというのが、孤児院が立ち行かなくなる場合である。献金や運営にバックがいる孤児院がほとんどではあるだろうが、例外はある。バックが消えたり、そもそもが悪徳な孤児院だったり、国がすべてを照らせるわけではない。影ができてしまう。そんな影になった孤児院は、子供たちを放逐するのだ。


 自立にはまだ早い子供たちが生き抜く方法は少ない。ほとんどが物乞いか物盗りになってしまう。


 やっとの思いで手に入れたお金。そして苦しい生活。そんな状況で目先の利益《食料》を取らず、せどりになる選択を取れる子供はいない。それはこの国が魔本であふれていたとしても、だ。


 よほどのお金を手に入れるか、才能か、運か、拾われるか、そのさまざまな少ない可能性を引けるのは一握りである。


「で、それとは別に彼が万引きじゃないと確信したタイミングがあるんだ」


「ほう?」


「それはね、彼の『魔本はこれだけしかないのか?』ってセリフ」

 私はカウンター下から椅子を出してエレンを手招きした。


「せどりは差額で儲けるって言ったでしょ。それって意外と難しいんだ」

 エレンはそれを聞いて疑問顔だ。「そこはサリー殿も一緒だろう?」と続ける。


 ここもポイント。


「魔本屋は儲けるために、仕入れ値より高く設定して売ってるんだよ。それを買って、また別の魔本屋に売る。魔本師は目利きのプロだから、どこの魔本屋に行っても同じような買い値にしかならないんだ」

 エレンは真剣に相槌を打ってくれている。


「だからスキルや知識が必要になるの。この魔本の値付けは甘いな、とか。あの魔本屋の店主はこういった魔法が好きだから高く買い取ってくれるかも、とかね」

 

 ちなみに、せどりは転売と似ているといわれることも多い。両者とも、楽にできそうに見えて専門知識が必要なのである。


「彼のあのセリフから、せどりのスキルと知識がありそうだと思ったの。それに、もし万引きだったらわざわざそんな余計なことは言わないだろうしね」

 

 あとは魔本師の勘、と言おうとしたが、エレンに笑われそうなのでやめておいた。

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