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エレンの知識欲

「せどり?」


「そう、せどり。彼はあれでお金を稼いでいるんだよ」

 エレンはピンと来ていないようだ。「ふむ?」というように首を傾げてこちらを見ている。最近、つやが出て綺麗になってきた赤毛が揺れた。


「せどりっていうのはね、ある魔本屋から魔本を仕入れて、それを他の魔本屋で売る。その差額で儲けることを言うの。転じて、せどりが職業名にもなったんだ」


 私の説明にエレンは考える素振り。そしておもむろに口を開いた。


「それではあまりサリー殿や他の魔本屋と変わらないのではないか? サリー殿は持ち込みの魔本を買い取ったり、組合? に注文をしていたりするだろう。それをこのお店で売っているではないか」

 エレンがそういって店内を見回した。ちなみに、この店の在庫は買取と注文が3:7くらいの割合である。


 さっきも思ったかもしれないが、エレンが賢い。最近、いろいろなことを覚えてきた影響か、剣以外の話ができるようになってきている。この間など、巷で有名な演劇の話を振ってきたのだ。私からはそんな話一切していない。一体、どこからの影響なのか不思議である。


 ――まぁ、私のせいかまだ魔本に偏っている気がしないでもないけど。


 うれしいようで、困るような……


 ……うれしいってことでいいか!


「結構違うんだな、これが」

 私は「ちっちっちっ」と舌を鳴らして人差し指を振る。エレンは中々いいところをついてきてくれた。


 私を二本指を立ててエレンに示す。


「せどりと魔本屋の違いは大きく二つ。一つ目はさっきエレンも言っていたところが大きな違いなんだ」

 エレンが「なんと!」というように目を見開いた。


「魔本の入手方法、だよ。私たちは店舗として買取をしていたり、卸売業者――組合から魔本を仕入れて売っているでしょ。でもせどりは小売店から小売店、つまり、魔本を魔本屋から別の魔本屋に流しているんだ」

 もちろん、例外はある。魔本は一般の読み物と違って遺跡から出土するもの。書き手がいないので、一般書籍の中古品のような立ち位置に似ているとも考えられる。


 まぁ、ここは今エレンには言わなくていいところだ。じっくり、ゆっくり、そして確実に教育してあげよう……。


 ぐへへ。


「で、二つ目は規模。せどりたちにもコミュニティがあるかもしれないけど、組織としての強さはない、と思う。個人事業主的な感じだね」

 せどりが一端の組織として徒党を組めばそれはもう卸売業である。フリマの参加者が経営者かと問われれば、少し引っかかる。そんな感覚だ。


「まとめると、せどりは買値と売値の差額で儲けているってこと」


「なるほどな」

 私がまとめると、エレンは喉に刺さった魚の骨が取れたかのように表情をすっきりとさせた。


 しかし、すぐに顎に手を当てて考え込んでしまった。


 いいね。エレンのその知識欲、満たしてあげたくなるよ。


 エレンの「むむぅ……」と言い出しそうな姿を見て思わず頬が緩んでしまう。


 ほら、どんとこい!

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