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魔本市場の日陰者②

「買取をお願い」

 気持ちを新たに、昼休憩前の業務をこなそうと立ち上がる。それと同時、カウンターにドサッと魔本が置かれた。


 浮かしかけた腰を落とす。意外と中途半端なこのタイミングがツライ。


 お客をさっと伺う。歳は10かそこらで男の子、だろうか。この年頃は声で判別がつきずらい。髪は短く雑に切られており、あまり洗えていないのか油で固まっているように見える。


 服装は半袖短パン。あまりいい品ではない。汚れは落ちていないし、ほつれも散見された。元はごくごく一般層向けの商品だったんだと伺える。


 さりげなく臭いをかいでみる。あまり不快感は感じなかった。どこかで水浴びでもしてきたのかもしれない。


「買取ですね、拝見いたします」

 置かれた魔本は二冊。ぱっと見、状態は悪くないようだ。


 もう少し詳しく見ていく必要がある。


「査定には少々お時間がかかります。店内をご覧になってお待ちください」


「……わかった」

 数舜の沈黙。少年は小さい声でそれだけを言って、私に背を向けた。


 少年を見送り、こちらを伺っていたエレンを手招きする。


「どうしたのだ?」

 察しの良いエレンは足音を立てずにこちらまでやってきた。そして私の耳元に顔を寄せる。


 無音で歩くというのも騎士のスキルなのだろうか。


 私には絶対できない芸当である。ぼてぼてとしか走れず、全然歩いたほうが楽なのだ。


「査定が終わるまであの子のこと見てて」

 目線だけで男の子のことを示すと、エレンは静かにうなづいた。


 エレンが一旦カウンター裏に消え、すぐに戻ってきた。魔本が入った木箱を持ってきている。


 おそらく在庫チェックと品出しをカモフラージュにするつもりなのだろう。いや、むしろ両方こなしてしまうかもしれない。最近のエレンは仕事を覚えた上に慣れも出てきたので、頼りになるのである。


 特に魔本の配置場所を覚えてくれたのが大きい。お客に場所を聞かれてもすぐに案内できるようになったし、品出しも魔本を渡すだけでよくなった。


 居候初期と比べて格段に私が楽になった。おかげで別の仕事や修行に集中できている。


 よく、新人は即戦力にならないと言って毛嫌いする人がいる。そんなことを言っていたら人が集まらない。大きなお店や王宮ならまだしも、個人経営の小さな商店がそれを言い出したりしたらお終いである。経験者など、来てくれたらラッキーと思うくらいで丁度いいのだ。


 それに、新人にも利点はある。経験者――その中でも自信だけあるやつは何かと面倒くさい。やれここはこうやっていただとか、前の職場ルールを持ち出したりしてくるのだ。新人にはそれがない。こちらのルールを最初に学んでくれるのだ。


 そんな利点がある新人だが、注意しなければならないこともある。私たちにはその新人をしっかりと教育する義務が生じるのだ。エレンの責任を持つことが私の仕事なのである。


 エレンは木箱を持ち上げ、さりげなく男の子の近くに寄った。


「…………」

 男の子がエレンを気にする素振りはない。エレンの方を伺うこともせず、棚を見つめていた。


 あちらはエレンに任せておけばいいだろう。


「よし」

 私は私の仕事をするだけだ。

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