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加減が大事

「エレンさん、棚整理をお願い」


「承知」


「エレンさん、品出しも!」


「サリー殿、これはどこに置けばいいのだ?」


「えっと、とりあえずそっちへ――やっぱ裏に回そう」


「サリー殿」


「エレンさん」


 依頼を終えてから早四日。週末ということもあってか、お客の出入りが激しい。エレンと私の二人は通常業務と合わせ、それらの対応に追われて忙しなく動いていた。


 ひっきりなしにミミズク型の釣り鐘が音を奏でている。


「「いらっしゃいませ~」」

 今日何回目かもわからない挨拶を口にした。


 毎日これくらい混んでくれれば、売上がウハウハで最高なのになぁ。


 そう思いつつ、持ち込まれた買取の魔本を査定していると、カウンター付近にいたお客の話し声が聞こえてきた。


 ふむ、なるほど。


 どうやら向かいに新しい魔本屋ができたらしい。開店セール中でお客が来ているようだ。その影響が近隣の魔本屋にもあったのだろう。私は道理で、と納得した。


 この店の向かいには大きな空き店舗がある。おそらく、その建物をそのまま使っているということだろう。


 にしても、全く気が付かなかった。


 いつのまに開店準備をしていたのか。


 修正依頼で忙しくはしていたが、ここ数日は落ち着いていたはず。


 混んでいるのは今日だけだ。


 ――その事実に気落ちしそうになったが、なんとか持ち直して思考を巡らす。


 この体たらくでは師匠に怒られてしまうかもしれない。


 いやいや、そもそも向こうの魔本屋からの挨拶が……


「挨拶!」

 私はガタッと立ち上がった。


 周りのお客がビクッとしてこちらを向く。エレンも「どうしたのだ?」というような目でこちらを見てきた。「す、すいません~」と縮こまって椅子に座りなおす。


 そうだ。向こうからの挨拶がない。


 東部ストリートでは魔本屋を開店する際、近隣の魔本屋に挨拶をするという風習がある。左右のお店と向かい三店に店主が赴いて、挨拶と品を贈るのだ。


 各魔本屋店主はそれぞれが自分の裁量で経営を行っている。しかし、東部ストリートは西部と並んで魔本産業の要だ。産業発展の為にも、一つのコミュニティとしてつながりを深くしていく必要がある。


 よって、ここ東部ストリートでは東部魔本組合への参加を筆頭に、新店舗のあいさつ回りやイベントの運営協力など、様々な活動やルールが存在するのだ。


 正直、めんどくさい。


 特に、イベントの運営協力はだるくて仕方がない。

 

 サボりたいのはやまやまだが、魔本業界の為にも組合が必要なのは事実なので、しぶしぶ飲み込んでいることも多いのだ。

 

 で、向かいの魔本屋は挨拶をしないまま開店してしまったらしい。


 どうしようかな……。


 東部ストリートの魔本屋がルール破り、それが判明した場合には、組合に報告する必要がある。それは気づいた者が行う決まりだ。


 他の誰かが報告するかなぁ。任せちゃうか……。


 まさか私の店だけに挨拶していないということはないだろう。だったら隣、右向かいか、どこかの店主が報告してくれるかもしれない。


 でもそれで放置ってのも落ち着かないし……。


 どうしたものかと迷いながら、エレンと二人でお客をさばき、仕事をこなしていく。


 卓上の釣り鐘が何回か鳴る。外を見れば日が紅色に染まっており、ちょうど店々の間に沈んでいくところだった。


 いつのまにか閉店時間になっていたようだ。忙しすぎて気が付かなかった。


「エレンさん、お疲れ」


「お疲れ様、だ。今日はいつにもまして忙しかったな」

 エレンは凛々しさの中に草臥れ感をにじませている。器用な表情だ。さらに首をひねりながら肩をまわしている。


「いつもこれくらい混んでればなぁ」

 私は両手を挙げて伸びをする。そして、「やっぱウソ。もう少し暇じゃないと忙しさで死んじゃう」と続けた。

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