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お仕事拝見③~閉じ紐~

「じゃ、じゃあ実際の修復に移っていこうか」

 私は作業机に向き直ると、薄く息を吐いた。


 あの笑顔は反則だよ……。


 ふと見せたあの柔らかい笑みにはびっくりした。畳みかけるように魔本について説明していた自分が恥ずかしい。


「じゃあまずは魔本を分解しよう!」

 

 魔本は大まかに分けて四つに分けることができる。表紙、裏表紙、背表紙、そして呪文紙。それらを閉じ紐で一つにしているのだ。


 ちなみに、ページ数はそれぞれの魔本で違いがあるのだが、それらすべてに呪文が書かれているわけではない。こと初級魔本に関しては一ページに一節載っているだけだったりする。他の用紙は真っ白なのだ。級が上がればおのずと呪文も長くなるのだが。


 分解は慎重に行わなければならない。依頼人のものだから大事に――というのはもちろんだが、もし損傷してしまえば手間が増える。


 もし仮に呪文が壊れてしまえば、そちらも個別に修正する必要がある。その分の費用はこちらが負担しなければならないのだ。


 ゆっくりと閉じ紐をほどいていく。実際に触ってみてわかったが、思っていたより閉じ紐の損傷がひどい。ささくれ立っていて指がチクチクするし、砂のように崩れさってしまいそうな弱さもあった。


 閉じ紐はそっくりそのまま交換の必要がありそう。


 分解はつつがなく終了した。それぞれをトレーに入れて薄い布をかける。


「次に閉じ紐を作るよ」

 

「作る、とは?」

 私の言葉にエレンが不思議そうな顔をした。


「魔本で魔法を発動するには魔力を流す必要があるの。だから、魔本を構成する素材は魔力をよく通す上に丈夫な必要があるんだ」

 私は再び、壁際の棚を開けて素材たちを持ってきた。


「……」

 エレンは私の一連の動作を目で追っていた。


 素材棚に興味があるのかな。それとも私の仕事ぶり!?


「こほん、じゃあ閉じ紐を作っていこう」


 用意したのは閉じ紐、瑪瑙のすり鉢とすり棒、そして種。


「この種はカリンの木っていう植物の種なんだ」

 カリンの木は南方にある大森林に群生している木。大森林は魔力が湧き出る場所として有名で、その環境の影響か独自なうえに特殊な生態系を築いている場所だ。ゆえに国に属しておらず、中立地帯として扱われている。


 そこに生える木ということもあり、カリンの木は魔力の通りがよい。それは種も同様だった。


「で、この種を粉にする」

 種は他の植物のものと比べて固くはあるが、瑪瑙の道具ならば問題はない。


「ごりごり~、ごりごり~」

 すり棒で種を挽いていく。


 私はこの作業が好きだ。ごりごりと種がつぶれていく感触、粉になるにつれて香り立つ甘い匂い。カリンの木の匂いは疲れに効くと有名で、王都ではカリンの木の芳香剤が非常に売れている。


 その芳香剤が売れ始めたころ、師匠が微風しか出せない風魔法の魔本を店頭に並べたら、飛ぶように売れたらしい。


 自分とは関係がないと思えるような流行りが、商売につながるのだと師匠は教えてくれた。


 まぁ、半分以上は自慢話のつもりであろう。


「なんだかいい香りがしてきたな」

 エレンがキョロキョロと部屋を見回した。私が「この種の香りだよ」と返すと、エレンは目を閉じて息を深く吸い込んだ。そしてゆっくりと吐き出す。それを繰り返しだした。


 どうやらエレンもこの香りが気に入ったようである。


 私はつい、すり棒を動かす手を止めてしまう。


 ………。


 あぁ、とっても癒されるぅ~。

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