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お仕事拝見①

「「ありがとうございました~」」

 私とエレンの二人は、今日最後のお客を送り出してドアのカギを閉めた。


 売り上げは上々である。出入り口横に展開した泡魔法の魔本たちが予想以上に売れたのだ。しばらくこの国ではシャボン玉遊びが流行るだろう。世のお母さま方は洗濯物に注意が必要だ。


 エレンには「お疲れ様」と声をかけて休んでもらう。私はカウンター下からはたきを取り出し、平置きしている魔本たちのホコリを払い始めた。


 この作業はとても大事なものだ。閉店後、そして開店前にも行う。魔本を手に取ったとき、少しでもホコリのザラつきを感じてしまえば、お客の中では汚い魔本になってしまう。


 ……内容に関わらず。


 ひいてはその一冊でこのお店のイメージが決定してしまう。それはもったいないことだ。魔本を求めてやってきたお客に、マイナスな体験をさせてしまえば魔本師として失格である。


 エレンは「私も手伝おう」と言っていたが、今日のところは遠慮してもらった。今頃は居間でミルクでも飲んでいるだろう。


 今日はこの後、エレンには大事な仕事が待っている。その為にも体力を温存してもらわなければ。


 それに、サーレス魔本屋本店から帰ってきてから、エレンの様子が少しだけおかしい。お使いを頼んだのは昨日。最初は慣れない場所で疲れてしまったのかと思ったが、一夜明けてからも少し変である。


 正直に言って心配だ。こちらは半ば無理やり居候させている身。生活にストレスがあるなら申し訳ないし、取り除いてあげたい。


「あっ」

 エレンのことを考えながらはたきを振っていると、すでに店内を二周ほどしていることに気が付いた。いつの間にか考え込んでしまっていたらしい。


 ……いきなり突っ込みすぎるのもよくないのかな。


 それに勘違いということもある。昨日今日と修正依頼の関係で仕事を振りすぎていたきらいもあったので、今度気分転換にでも誘おう。


 適度な休息は大事だと、師匠も言っていた。



「エレンさん。どうぞ、ここが私の工房です」

 一階売り場裏にある居間には、我が家の二階と三階へつながる階段がある。今、私はエレンを連れて二階に来ていた。


 二階は私の工房だ。ここで魔本の解読や修正等を行っている。


 工房につながるのは鉄でできた扉。師匠が旅に出てから、扉自体の整備を怠っていたため大分サビている。その具合をみたエレンは「……ここも私が綺麗にしよう」とつぶやいていた。


 エレン、本当に頼りになる!


 私は「助かるよ、ありがとね」と返して扉を開けた。その先にはまた扉。今度は木で作られたものだ。荒れ具合は言わずもがなである。


 この工房は二重扉を採用していて、木製の扉には鍵もついている。ちなみに、二重扉を使っているのは工房内の温度と湿度を一定に保つためだ。


「魔本の整備はしっかりと環境を整えてやらないといけないんだ。温度と湿度はその筆頭。だからこの部屋に来たときは、扉を閉めるのを忘れないでね」


「うむ、承知した」


 ちなみに、温度調節を行っているのも魔本。魔本を使うには魔力を流す必要があるけれど、魔石を使うことで代用が可能なのだ。魔石から魔力を供給するための専用の器具を魔本に装着している。


 その後も、何個か工房に関する注意事項をエレンに説明した。

 

「じゃあ、お仕事開始!」

 仕事モードである。私は黒縁の丸メガネをかけた。

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