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カフェにて③

「なるほどねぇ」


 話してしまった。いや、話させられてしまった。フォーディン家については隠し通したが、サリー殿への不安は全部、丸裸である。


「エレンちゃん、正直に言ってなーんも心配いらないわね」

 エヴァリットはそう言ってケーキを一口。そして、「その子、エレンちゃんのこと大好きよ」と続けた。


 サリー殿が私のことを?


 そんなわけはない。サリー殿が優しいことは間違いないが、それは私のことを大好きだからというわけではないだろう。


「エヴァリット殿、そんなわけはない。あの人が好きなのは魔本だ。この前なんて、私に日が落ちるまで魔本のことを説明していたんだぞ」

 私の言葉を聞いてエヴァリットは目をぱちくりとさせる。


「じゃあなおさらよ。自分の大好きなモノを大好きな子に教えたい、それは当たり前の気持ちじゃない?」

 そして、エヴァリットはさらに「だからエレンちゃんには私のこと、もっと知ってほしいなぁ」と続けた。


 サリー殿が、私のことを好いている……。


 いやいや、やっぱりそんなことはあり得ない。ぶんぶん首を振って否定する。


 サリー殿は魔本屋経営の人手として私を必要としているのだ。拾ってもらった私はその期待に応えるべく仕事をする。そんな関係。


 そういうことだ。そうに違いない。


「エヴァリット殿、今日はこれで失礼する」

 少々赤裸々にしゃべりすぎた。それにサリー殿も待っているだろう。気分転換は十分だ。


「エレンちゃん、待ってよぉ」

 私の手をつかんで離さないエヴァリット。


 くっ、見た目に反して力が強い!


 しばらく二人でもみ合っていると、何やら外が騒がしくなり始めた。


 二階に続く階段から男が数人降りてきて外に飛び出る。彼らが身につけたエプロンは汚れており、私の前を通り過ぎたときには地下売り場と同じ匂いがした。


 確か二階は工房のはず。この店の魔本師たちだろうか。


「ほぉ、ここがおぬしの店が経営するカフェ。魔本屋風情が本当に経営できているのかね」

 外の様子を確認しようと出入り口に近づく。その途中、外から大きな声が聞こえてきた。


 あの声はもしかして……《《エルドナー子爵》》。


 なぜこの店にエルドナー子爵がいるのだ。


「せっかくだから茶を出せ。儂が直々に飲んでやるのだ、感謝するといい」


 子爵が来る。


 このカフェに来る。


 出会ってしまう。


 エルドナー子爵がいるならばあの男も……。


 まずい。それだけは避けないといけない。


 それに、もし騒ぎになればこの店にも迷惑が掛かってしまう。


「あ……」

 この場からすぐに離れないといけないのに、足が震えて動かない。


 思わずエヴァリットの方を見る。彼女はすでにこちらを見ていたようだ。目が合った。


「………そうね、今日はもう帰った方がいいかしら」

 あんなにごねていたのに、エヴァリットは私の手をつかむと「こっちに裏口があるの」と言って引っ張ってくれた。


「その素材の代金は私が払っておくわ。また、会いましょうね」

 そう言って裏口を開けてくれたエヴァリットにお金を渡すと、私は震える足で走り出した。

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