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私達が街に戻ったのは丁度お昼過ぎで飲食店が賑わっている時間だった。
ミナちゃんは2人と仲良くなれたみたいでしきりに話しかけていた。
「それにしてもどうしましょうか…」
シュティがそう言ったのはもちろん商店街が人で混みあってるからだ。
「朝やってたときはこんなに人がいなかったのに…」
「学生が始業式終わってログインしてるだろうからねー」
ミナちゃんは賑わってるお店の方をキョロキョロと見回している。
『とりあえずギルドに報告してこようか』
人混みが凄いので会話が聞き取りづらいと思ってPTチャットで言う。
『うん』『そうですね』『はーい!』
人混みに入って、もし背の低いミナちゃんとはぐれてしまったら、探しにくいと思って飲食店の少ない道を選んで進む。
どの道も人はそれなりにいるけど飲食店が集まってる通りほど多くない。
私達は遠回りになっても人通りの少ない道を移動してギルドに到着した。
中に入ると受付の列はそこまで多くなかった。
その代わりなのかテーブルは人が一杯でクエストボードの前も混み合っている。
やっぱりプレイヤーが多い方が賑やかで良いなと思う。
列に列び報告をし終えると私達はテーブルとは逆に移動する。
こっちには年末イベントのポイント交換の際に掲示板や交換所があった場所だ。
今は掲示板だけになっていてスペースはそれなりにあるけど、イス等がないからそこまで人は多くない。
せっかくこちらに来たので掲示板を見てみる。
プレイヤーが使う掲示板ではなく新聞みたいになっているのだ。
ここ数日であった出来事が小さな事から大きな事まで記事になっている。
それだけではなく、端の方には人手募集と書かれたのがいくつも貼られている。
内容はアルバイトのようなモノばかりだ。
実際これらはクエストと違うけど、店に行って直接説明等を聞いて受けるか決めるらしい。
そういえば朝ミナちゃんがやってたのもこれに当てはまるのかな?
今ある記事はーっと…。
一番大きく書かれ目に付いたのは。
「シーサーペント?」
私の声に気づいてルナ達もこちらを向き記事を見る。
「あぁ、これかー」
「今海の方ではかなり問題になってるみたいですね」
「そんな事よりご飯どうするの?ミナお腹空いたよー」
「そうだね。まずはご飯食べれる所探そうか」
ミナちゃんに言われて苦笑しながらそう言うと2人も笑いながら頷いてくれた。
ギルドの外へ向かって移動しようとすると、見覚えのある人と出会した。
「昨日のちびっ子と妖精の嬢ちゃんか。よう」
そう言って声をかけてきたのは昨日ミナちゃんに訓練をしてくれた教官の男性だ。
しかし格好は制服ではなく汚れても良さそうな格好だ。
「「「「こんにちは」」」」
「妖精の嬢ちゃんは有名どころのマスターなんだってな。知らなかったとはいえ悪かったな」
「いえ、謝られるような事はなかったですよね。それよりもお世話になったのはこちらの方です。ありがとうございました」
「お世話になりました。ありがとうございます」
ミナちゃんは私と教官の話を聞いて一緒にお礼を言った。
お礼を言われて照れたのかそっぽを向きながら。
「暇だったからだよ。それより今からどこへ行くんだ?」
「食事がまだなのでお店探して回ろうかと思ってた所です」
「飯か…。この時間混んでるだろ?」
「混んでたよー。どこか良い所ない?」
私と教官が話てる所にルナが加わって質問をしてくれた。
私なら頷いて終わりにしてたと思うからこれは助かる。
「ふむ、最近行きつけの店で良ければ案内してやろうか」
「お願いします」
私達は教官についてギルドを出る。
商店街の方ではなくて教官は人の少ない路地に入っていく。
ミナちゃんは教官と並んで別れた後の事を手振りを交えて話していた。
ちなみにお金の方はアベルさんから報償金を受け取っており、そこから返して貰っている。
現れた時の事や事前に囲まれてた事などルナやシュティと一緒に説明した結果、情報料が報奨金以外に貰えていた。
その為思ったよりも多かったので4等分に分けようとしたら、ミナちゃんに借りたお金の分引いて欲しいと言われて返して貰ったのだ。
今はシュティに指導を受けながらウサギや狼を倒した事を話しており、教官は感心しながらも嬉しそうにしていた。
その間に私は2人からギルドで聞きそびれた事を聞いておく。
「それでシーサーペントって?」
「何でも領主様の帰還の時に一緒に海を渡って来ちゃったみたいなんだよね」
「撃退したと思ったら付いて来ていたようで今は島の周りで出没するようになっているそうです」
「倒せないの?」
「現状厳しいみたいだよー」
「やはり移動速度の差ですね。船よりはるかに速いので逃げられてしまうんです」
船より速く移動するのかぁ…。
「遠距離からの攻撃でもダメなの?」
「鱗が硬いらしいよー」
「それに向こうも遠距離攻撃があるらしく撃ち合いは不利みたいですね」
あれ、数で攻めれば勝てると思ったんだけど…。
「そうなの?魔法ならいくら鱗が硬くても防ぎきれないんじゃ…」
「妖精さんが言いたいのは数攻めでしょうけど…、前提条件が違うんですよ」
「前提条件?」
「こっちは被弾したらほぼ負け確なんです」
そう言われて驚いてしまう。
「当たったら負けってそんなに威力が高い攻撃をしてくるの?」
「お姉ちゃん…、海の上なんだよ。被弾したら船が無事じゃない可能性が高いと思わない?」
そう言われてようやく理由がわかった。
「そういう事ですね。船がやられて全滅したPTもあるみたいですよ」
「痛いよねー。船が沈められてロストするんだもん」
という事は相手の遠距離攻撃を防ぎつつ攻撃をして、逃げる前に倒すか追いかけて倒すかしないといけないのか。
「防御にどれだけ人手がいるんだろ…」
「現状3人のローテーションじゃ回せなかったそうですよ」
「攻撃はわかってるだけで遠距離攻撃の水ブレスに体当たり、巻き付き、噛み付き、尾ビレで叩いてくるんだっけ」
「さらに厄介なのは一定サイズの船になるとすぐに逃げてしまう事みたいです」
「多分だけど領主様の船にやられた事で学習したんじゃないかって話だよ」
聞いてる情報だけで考えるとかなり厳しそう。
「主な被害は?」
「ボスの独占だね」
「え?」
いまいちわからなかったので聞き返す。
「シーサーペントが居座ってる海域はボスのポップエリアなんですよ」
「沸いたボスを食べてるらしいんだよねー」
それってご飯が出現する海域って学習して居着いてるって事かな。
もしそうなら、一時的に追い払ってもすぐ戻ってきてしまうんだろう。
「漁とかに影響はあるの?」
「近場はほとんど影響ないみたいだよ」
時々近場には生息していない魔物が現れる事があるぐらいだそう。
現れても漁師さん達の船が襲われた事はないそうなので、今のところ問題にはなってないみたい。
そんな事を話していると前を進んでいた2人が足を止めた。
「ここだ。おーい、飯食いに来たぞ」
そう言って教官が入っていったのは昔懐かしい屋台だった。
垂れ下がっている暖簾にはらーめんと現実で使っている文字で書かれていた。
ミナちゃんは教官と一緒に入っているので残った私達は顔を見合わせる。
どう考えても店構えからして私達のよく知る料理だと思われる。
「客連れてきてやったぜ」
「そんなの頼んでないんだけどな…。で、その小っちゃい子は攫って来たのか?」
「馬鹿言うな、俺みたいな真面目な職員がんなことする訳ねえだろ。教え子だよ」
「ふーん、何でもいいけどな。注文はいつもので良いのか?」
「おう。って、外にいないで入って来いよ」
教官に催促されて中に入ってみるとやっぱり店主は異人だった。
店主はチラッと後から入った私達を見て、いらっしゃいと言い手元の作業に視線を戻す。
しかし、次の瞬間凄い勢いで顔を上げて私達を見た。
「お、お前なんて方達を連れてくるんだ!」
「有名どころのチームのマスターとメンバーだろ?」
「超が抜けてるんだよ!超有名どころだ!」
「へー。妖精の嬢ちゃん達がねぇ…」
そう言い合うと2人して私達を見てくる。
「えっと、私達まずかったですか?」
「いえ、とんでもないです!お口に合うかわかりませんが食べていって頂けると嬉しいです!」
私が聞くと店主は敬礼までして答えてくれた。
ちょっと大袈裟すぎると思うけどなぁ…。
「あぁ、見た事あると思っていたらファンクラブのメンバーですよね」
「はい、掲示板いつも見させて貰っています!あ、メニューはそちらです」
ミナちゃんは教官に渡されたようで、すでにメニューを見てどれにしようか迷っているようだ。
ルナとシュティもメニューを見て選び始める。
それよりも今シュティと店主はは何か恐ろしいやり取りをしてなかっただろうか。
私がそんな事を考えていると。
「ユキさんのは任せて貰って良いでしょうか?」
「え、はい。お願いします」
つい店主に聞かれて頷いてしまった。
とは言え一人分は食べれないのは…。
うん…、考えたくはないけど知ってると思う。
3人も決めたようでそれぞれ注文していく。
「ミナはちゃーしゅーめん!」
「大将、私はチャーシュー麺にチャーシュートッピングでー」
「私は特製ラーメンに煮卵トッピングでお願いします」
ルナ…。
流石にチャーシュー麺にチャーシュートッピングはやり過ぎなんじゃないかな…?
店主も同じ事を思ったようで確認していたが撤回はされなかった。
待つ事数分それぞれが注文したのが出てくる。
4人の分を出し終えた店主は何やらかなり慎重に作業をしている。
少しすると私の前にそっと小さな丼が置かれた。
店主を見るとやりきったという表情で汗を拭っていた。
「申し訳ないですがユキさんのは試作になるので、食べれなかったら残してください」
「いえ、これはわざわざ妖精向けに作ってくれたんですよね。ありがとうございます。それよりも普通に話して欲しいです」
「わかりまし…、わかったよ。まぁ食べてみてくれ」
敬語を辞め食べるのを勧めてくれる店主に頷き返し、アイテムボックスから自前の箸を取り出す。
「いただきます」
まずは麺を持ち上げてみる。
あれ?
湯気が出てない?
そっと口に運んでみると冷たかった。
冷やしラーメンだ!
これなら熱さを気にせずに食べれて嬉しい。
味付けは見た感じみんなのと同じとんこつベースみたいだ。
「どうだ…?」
店主が心配そうに私の方を見てくるけど、心遣いも嬉しく思える。
麺もきっと細さや茹で加減を試行錯誤して大変だったんだろう。
そう思うと自然と笑みがこぼれる。
「美味しいです」
そう答えると余程嬉しかったのかガッツポーズをしていた。
「具の方がまだ寂しいから今後の課題だな」
店主はそんな事を言ってあれこれ考えてるようだ。
私はラーメンを楽しませて貰う事にする。
プレイヤーのお店でも妖精向けの料理が増えてくるかな、と思うとちょっと期待してしまう。
「そういや小っちゃい子は戦闘…してるのか」
「俺が指導したっつただろう」
「そうだったな…。小っこいのにすげえな。ほら、これはサービスだ」
そう言って店主はミナちゃんにトッピングをサービスしている。
ミナちゃんは少し迷っていたが教官に貰っとけと言われるとお礼を言って受け取った。
そんな店主を見てルナが質問をする。
「大将は戦闘しないの?」
「俺も最初はやろうとしたんだけどな…。どうしても怖かったんだよ。敵を前にすると震えちまうんだ。笑えるだろ?」
「ううん。私は笑えないよ、この世界すっごくリアルだもん」
「そうですね。魔物との戦闘は恐怖を感じる事もありますしね」
店主が言う事をルナとシュティは店主の言葉を否定せずに共感していた。
逆にそれを聞いた店主の方が驚いていた。
「2人もそうなのか?」
「そりゃ怖いとは思うよ。ヒヤッとする事なんてしょっちゅうだし、痛い思いだってしてる」
「他のゲームと違って敵意や殺気を感じる気がします。なので緊張しますし油断はできませんね」
2人にそう言われて俯く店主。
初めて聞いた2人の言葉に驚いた。
でも。
「近距離で敵と戦ってるみんなも凄いけど、私は店主さんも凄いと思うな」
私がそう言うと店主さんだけじゃなくミナちゃんを除いた3人もこちらを見てくる。
「だって簡単に戦う力を手に入れる事ができるから戦闘をしてる人の方が多いよね。そんな中で製作や生産ってやってみると大変だし地味で、苦労しても失敗する事だって多いしお金だってかかる。それでも店主さんみたいに色々試しながら工夫して作ったモノが、異人達だけじゃなくて島の人達を笑顔にしてるのって私は凄いと思う」
「そうだな…。異人の事を詳しくは知らないけどよ。戦う事と何かを作る事は同じとは言わないが、それぞれ大変な事があるだろ?俺からすればどっちもすげえと思うぞ」
教官がそう言い終えると私達は口を閉ざした。
そんな中ゴトンと丼を置く音がした。
「おいしかったよ。ごちそうさまでした」
スープも飲み干していたミナちゃんがそう言った。
「あぁ、ありがとよ」
店主はそう言って丼を下げ流しに置いた。
みんなの丼も下げて水のおかわりを注いでくれる。
あれ、長居しても大丈夫なのかな?
そんな事を思って店主さんを見上げると私の視線に気づいたのか。
「うちは滅多に客来ないから良いんだよ。それよりユキさんは魔道具作ってるんだろ?そっちの方が凄いよな」
「そうなんだよ。お姉ちゃん凄いんだよ!」
私が褒められてルナが自分のことのように喜んでいる。
けれどそう言われても私としては渋い顔をせざる終えない。
「うーん…。確かに魔道具は凄いんだろうけどね」
だって店主さんと違ってる事があるんだよね。
「妖精さんが気にしてるのは値段ですか?」
「あー、魔道具は高いからな…」
私が気にしている事をシュティが当ててきた。
そんなにわかりやすかったかな…。
教官は頷いて納得している様子だ。
「だけど役に立つんだろ?」
店主は魔道具のお値段を知らない様子だ。
「魔道具ってのはな。最低ランクの物でも金貨が数枚いるんだ」
「はっ?マジかよ…。だから魔道具使った設備じゃなくて自分で魔法覚えろって言われたのか…」
屋台を見渡すと確かに魔道具は使われていないようだった。
大鍋を温めているのは薪を利用した竈のようだった。
ホームの設備と比べるとやっぱり火の管理とか大変そうだ。
「安くしようにも他の職人さん達が生活できなくなっちゃうんですよね…」
「魔道具は1個作るのにかなり日にちがかかるらしいな」
教官に時間がかかるんじゃなくて日にちがかかるって言われてちょっと目を背けたくなった。
「なるほどなぁ…。あー、みんなに使って貰いたいなら安く利用できるような施設とか作れば良いんじゃねえか?」
店主は何か案を出そうと考えてくれている。
うーん、施設かぁ…。
魔道具でできる事って何があったかな。
「魔道具を使って作れそうな施設って何かあったっけ…」
「あー…。小説とかだと風呂とか?」
ルナが首を傾げて考えている。
それを見て店主は唸ってから疑問系で言った。
「「「それだ!」」」
「お、おう…」
私とルナ、シュティの勢いに店主は思わず後ずさりしていた。
教官もちょっと引いてるご様子。
しかしそんな事よりも。
「海の近くですし銭湯のような施設があれば利用する人は多いと思います。お風呂は宿にもありませんでしたし丁度良いのでは?」
「問題は場所だよね。確保できるかな?」
「その辺は今度領主様に相談してみるよ。丁度明日行かないといけなかったし。ついでに良さそうならホームにも転用できるよね」
私達はつい夢中になって意見を出し合っていく。
「おい、あいつら領主に頼むとか言ってるぞ」
「流石だよな。ただ領主に頼むのに試作で考えてないか?」
教官は驚き、店主は尊敬と不安の眼差しを向けていたが私達がそれに気づく事はなかった。
しばらく話していると、退屈になったのかミナちゃんが移動しようと言ってきた。
確かにお店に居座ってても迷惑だろうし私達はお金を払い移動する事にする。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
「まいど!また来てくれ」
教官は休憩時間が終わるからか店を出ると急いで戻っていった。
裏道を入った所に屋台を出しているからか、客が来る様子は無さそうだ。
私達は移動しながらこれからどうするかを話し合う事に。
『午後からどうしようか』
『妖精さんは何か予定はありますか?』
『やりたい事があるからサロユさんの所行きたいかなぁ』
私がそう言うとルナがミナちゃんに話題を振った。
『ミナちゃんはまだ戦闘に行きたい?』
『うーん…、お姉さん達はどうするの?』
『妖精さんが生産するようなので、私かルナがミナちゃんと一緒に行動すれば良いかと思いますけど』
ミナちゃんは話を聞きながらどうしようか迷ってる様子だ。
そこへルナが何かを思いついた様子で提案をした。
『せっかくだしさ、みんなでサロユさんのところに行くとか』
『私達は良いかもしれませんけど、ミナちゃんが暇してしまうのでは?』
『ふふん、もちろん考えてありますとも。ミナちゃん一緒に行って工作しない?』
『工作?何を作るの?』
『アクセサリーだよ!』
『アクセサリー!作れるの!?』
『多分頼めば作らせてくれると思う』
『行きたい-!』
ルナに言われてミナちゃんはテンションが上がったようで両手を上げぴょんぴょんしていた。
その様子を見ると私まで自然と笑顔になれる。
さっきまでどうしようか迷って難しい顔をしてたのにね。
『確認もせずそんな事言って良いんですか?ミナちゃん楽しみにしてますよ』
『うっ、大丈夫だよ。この前やらせてくれたし…』
私もルナが言うように大丈夫な気がする。
なので反対意見は出さない。
『とりあえず行こうか』
シュティを先頭に移動を開始する。
裏路地を進んでサロユさんのお店に着くと工房から中へ入る。
「おや、ユキさん達ですか。いらっしゃいませ」
「「「お邪魔します」」」
「お、おじゃまします」
「お嬢さんは初めましてですね。今日はどうされたんですか?」
サロユさんに聞かれて私の用事を伝える。
それと…。
「ルナとこの子がアクセサリー作りしたいそうなんですけど良いですか?」
「えぇ、構いませんよ。そうですね……、お嬢さんにはこれとかどうでしょう」
そう言ってサロユさんが取りだして来たのは棒状の金属だ。
それにハンマーやペンチ等の工具を作業台に置いていく。
「お嬢さんはドワーフの様ですので小さくても力があるでしょうし、リング作りでも体験してはいかがでしょう?」
「りんぐ?」
「指輪ですね」
「やりたい!」
せっかくだからシュティもアクセサリー作りに参加するみたい。
サロユさんの説明を聞いている。
現実だとガスバーナーも使うんだっけっ、と思っていたらここでは魔法ではなく魔道具でやるみたいだ。
リング以外にも作れるようにと色々道具を用意してくれている。
私はその間サロユさんに魔法陣が載ってる本を借りて確認していく。
ゴーレムに関連する本があればきっと使えるのがあるんじゃないかと思うんだよね。
サロユさんも説明を終えたら手伝ってくれた。
探しても見つからなくて途方に暮れていると私の持っている魔法陣の載っている本を見せて欲しいと言われた。
アイテムボックスから取り出して渡すとパラパラと確認をしていく。
そしてあるページで捲る指が止まった。
「ユキさんありましたよ」
そう言ってみせられたページには私が使った魔法陣以外のモノも色々と書かれていた。
「しかし、これは…。ふむふむ…」
「何かわかりましたか」
「ユキさん、これはゴーレムとは違うようですよ」
「そうなんですか?」
サロユさんに言われて本を覗き込む。
書かれている魔法陣はいろいろな行動パターンのようだった。
「えぇ。まずゴーレムというのはどういうモノだと思いますか?」
「えっと…。コアがあって砂や岩などの素材で身体ができてる命令に忠実な人形?」
「少し違いますね。人形ではなくて魔道兵器です」
えーっと、魔道兵器って何だろう…。
私が考えていると話を聞いていたのかルナが声をかけてくれる。
「多分だけどAI積んだロボットみたいな感じな気がするけど」
「命令に対して自分で考えて行動するって事?」
「あぁ、そんな感じですね。付け加えるなら自動操作が刻印された核を持つ事でしょうか。それでここに書かれているのはゴーレムに似せた魔道具を作ってた人が残したモノみたいです」
サロユさんに言われて私も確認してみると確かに開いてあるページに書かれている魔法陣はゴーレムもどき用と記されていた。
「あくまで魔道具なので操作する人がいないと使えない物ばかりですね。ただこれを使ってもユキさんの目的は達成できないのでは?」
人型で使えそうな魔法陣は手に持ったモノで突く動作、横なぎの動作、振り下ろす動作、振り上げる動作かな。
確かにこれを利用すれば戦闘はできるかもしれないけど、最終的な目的は達成できないね…。
だってどれも料理に使えそうにないもんね。
「ゴーレムなどのコアに組まれている自動操作ではなく、手動操作なんてのがあればユキさんの目的は達成できそうですけどね」
「戦闘するにしても動きが決まってるから使える武器も限られますね」
「そうですね。戦闘ならユキさんが言っていた4足歩行を改良してみるのも面白いと思いますよ」
サロユさんに言われて確かにそうだなぁ、と思いつつ視線を本から3人に移す。
楽しそうに棒状の金属を叩き形を整えて指輪にしたり、金属板を切って好きな形に加工している。
視線を戻すが現状だと氷人形を改良できる魔法陣は無さそうだ。
サロユさんの言った通り手動操作みたいなのがあればいけそうだけどね。
溜息をつき、この事は一旦諦めて魔道具の事を相談していく。
もちろんさっき話していたお風呂に使う為の物だ。
聞いて貰うとサロユさんとしてもお風呂屋さん…、銭湯の様なモノがあったら利用する人は出ると思うそうだ。
ただ規模を考えると魔動核で作った方が良いだろうという。
サロユさんの見立てでは魔動核に刻印できる練度はあるのではないかという。
だけどいきなり本番というわけにはいかないので、使えそうな魔法陣をピックアップして魔石に刻印していく。
べ、別に以前みたいな爆破事故が起きたらと恐れてるわけじゃないんだよ…。
魔動核の刻印はサロユさんに指導して貰いつつの方が良いかな…。
そうなると魔動核は手持ちに幾つかあるけど、時間があるときにもっと確保した方が良さそうだ。
成功したら余るかもしれないけど、予備があって困るモノじゃないだろうしね。
とりあえず新しく作ったのはお湯を出す魔道具、温風を出す魔道具の2つだ。
どちらもサロユさんに習いながら2つの魔法陣を1つの魔石に刻印したモノだ。
幾つか失敗もしたけど作った魔石なので問題は無い。
複数の魔法陣を刻印する場合は使う魔石は多面体に加工した物の方が良いみたい。
球状だと同じ大きさの魔法陣を刻印するのが難しいからだそうだ。
私はサロユさんの用意した魔石に刻印して練習をしていく。
夢中になって作業とも言える練習をしていた為、終わった頃には2時間ほど経っていた。
3人はアクセサリーができたからか嬉しそうにしている。
「ユキお姉さん見て、見て!」
そう言ってミナちゃんが見せてくれた指輪は何か文字が掘ってあった。
凄いねと伝えると嬉しそうにしている。
「やっぱりクレイシルバー使った物ではないので複雑な形は難しいですね」
そう言ったシュティはペンダントトップにしたみたいだ。
蓮の花をモチーフにした模様が彫ってあった。
2人とも作ったのは1つずつのようで丁寧に作ってある様に思えた。
それに対してルナは…。
「お姉ちゃん見て!サイコロ!」
何故か四角の板を6個作ってくっつけたみたいでサイコロができあがっていた。
持ってみると意外と軽く私でも持てた。
「きちんと測って作ったから寸法も完璧!」
何でその丁寧さを前回のアクセサリーの時に発揮しなかったのだろう。
そんな事を思いながらもルナから受け取ったサイコロを放り投げた。
「3だね」
ルナはミナちゃんと一緒に楽しそうにサイコロを拾い振る。
それを見ていたサロユさんが。
「あぁ、ユキさん。私達人間が作る魔道具は複雑な物だとあの四角の箱の様な感じで、6面に魔法陣を刻印したりするんですよ」
そう言われて改めて見ると教えて貰いながら刻印した魔道具はサイコロの様だった。
「私は魔石の中に刻印してますけど普通はあんな感じになるんですね」
「そうですね」
何だかんだ、前回といいルナがやる事は私にもプラスになってる気がする。
そう思うとちょっと嬉しくなって笑みがこぼれる。
「それじゃ、私達はこれで失礼しますね。ありがとうございました」
「「「ありがとうございました」」」
「いえいえ、また気軽にお越しください」
挨拶をして工房を出ると日が傾き始めていた。
私の希望でケーキを買いに行く事に。
名前を付けてあげる約束してるから早く帰った方が良いけどお祝いにと思ってね。
ついでだから食べていこうと言うルナに2人が賛成してお店の個室に入った。
注文したケーキが来てそれぞれ食べ始める。
「そういえばミナちゃんはこれからどうするの?もし良ければ私達の所来る?」
2人とも仲良くしてるしチームに誘おうと思ってたので提案してみる。
するとミナちゃんは嬉しそうにしたあと少し考えて。
「もうちょっと先でも良いかな…?」
「良いよ。入りたくなったら声かけてね」
イヤでは無い様だから安心。
うちはちょっと面倒な契約を受けてもらってるからその事は伝えておこうかな。
「理由聞かないの…?」
「うん、イヤじゃないみたいだし気が向いたらで良いよ?それより私達のチームに入る事になるとゲーム内で契約って形で秘密を守って貰てるんだ。それと現実でも言わない様にして貰いたい事があるんだよ。そう言う面倒な事があるのは覚えておいて」
「そうなんだ?うーんと、ミナは女将さんにおんがえしをしたいの。それが終わったら入れてくださいってお願いに行くね」
「わかった。待ってるよ」
「うん!」
うちのチームに秘密があるって言うのはいまいちわかって無さそうな感じ。
でも女将さんに恩返しかぁ。
ちょっと言い方キツい所はあるけど面倒見良さそうだからね。
あー、女将さんと言えば熊肉の調理法教わりにも行きたいけど…。
先送りかな…。
やりたい事があれこれ溜まって来ちゃってるしね。
そういえば今日また増えたんだっけ。
1つずつ進めていかないとね。
「ミナちゃん、フレンド登録よろしくね。クエストとかやるときは気軽に声かけてね」
「私もよろしくお願いします。大きなグループは捕まえましたが、PKは他にもいるかもしれませんので頼ってください」
「ルナお姉さん、シュティナお姉さんありがとう。よろしくおねがいします」
私が考え事をしている間に3人はフレンド登録をして話ながら食べている。
「明日…。ぁー、ゲームでの明日ね。お姉ちゃんは用事があるけど、狩りに行くなら私かシュティに声かけてよ。一緒に行くよ」
「ゲームで明日だと夜だよね?」
「そうですね。インしませんか?」
「すると思う。えっと、ログインしたらメールすれば良いかな?」
「うん」「えぇ」
私は除け者になるんだね。
寂しいなー。
まぁ、冗談はさておき。
明日何時に行くんだっけ…。
「あっ」
「お姉ちゃんどうしたの?」
「ギルドに行ったのにルガードさんに明日の事確認し忘れた!」
「では食べ終わったらギルドに行って帰りましょうか」
シュティの提案に頷いて私達はおしゃべりをしながらケーキを食べる。
店を出た所でミナちゃんは宿に戻るそうで別れた。
私達はギルドに行きルガードさんの所へ向かう。
「嬢ちゃん!来たのに報告だけして帰ったって聞いて焦ったぞ」
「すみません。忘れてました」
私が申し訳なさそうにそう言うと。
「まぁ、来てくれたから問題ない。明日だが何時でも良いそうだ。ゲストを連れてくるときは…、なるべくフードとかで隠して来て欲しいと言ってたぞ」
「わかりました」
ルガードさんは気にしてないという様子で笑いながら言ってくれた。
フードとかで隠して欲しいというのはきっと住民を怖がらせない為の配慮かな。
メギーアー女王様は喜んでフードとかをしてくれそうな気がする。
「それとギルドに寄っていけ。馬車の手配はしておいてやるから」
「ありがとうございます。お手数おかけしますがお願いします」
個室じゃないので内容は他の人が聞いてもわかりにくい様に言ってくれてるみたいだった。
歩きで移動できなくはないけど、入るのにはやっぱり馬車の方が良いのだろう。
もう一度お礼を言ってギルドを後にした。
さて、帰ったら名付けだね。
気に入ってくれれば良いんだけど…。




