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ログアウトした私は伸びをする。
何となくだけど知り合ったミナちゃんは幼いように思えた。
ん~、何か事情があって学校行ってないのかな?
気にはなるけど聞く事はしない。
携帯を手に取ってメールのチェックをしておく。
あれ、那月からメールが来てる。
もう終わったわけじゃないと思うけど…。
休憩時間に送ってくれたのかな。
内容は…、昼食は何が良いかの確認だった。
買って来て貰うか出前になるもんね。
ん~、ハンバーガーが食べたいかも。
ミナちゃんはサンドイッチを食べてたけど…、私は一緒に売ってたハンバーガーが気になっていた。
しかし、向こうでお肉を食べると言う事は動けなくなる。
買っておいて後で食べるにしても量があるから厳しいと思うしね。
それなら現実で食べた方が何も気にする事なく味わえる。
と言うわけで那月にはハンバーガーが食べたいと返事を送った。
するとすぐに返事が返ってきた。
あれ、始業式だから授業はないと思うけど…、11時過ぎだしまだHRか何かじゃないのかな?
内容を確認すると丁度終わったところだったんだそうだ。
始業式の日ってこんなに早く終わったんだっけ…?
もう覚えてないよ。
学校によって違うんだとは思うけどね。
何バーガーが良いか確認してきてたのでテリヤキバーガーをお願いした。
定番だけど美味しいよね。
帰りに買って来るというメールが届いたのでちょっと楽しみだ。
帰ってきたときにスープぐらいは用意できるように準備だけはしておく。
飲み物もその時で良いかな。
端末を持ってきてちょっと調べ物をする。
「うーん、やっぱり人の動きって複雑だなぁ…」
調べてみて改めて難しいと思ってしまう。
他のゲームとかだと1つのボタンで決められた動きをする。
ボタンの組み合わせで別の動作になったり、連続攻撃になったりとパターンがあるみたいだ。
再現しようと思うと魔石に刻印する動作はどんどん増えていく。
しかし右腕で剣を横に振るだけの動作だと、足は棒立ち左手は下げたままになるから実際に人が振る動作と比べると多分劣ると思う。
そうなってくると1つの動作をするのに幾つもの動きを設定しないといけなくなる。
多分凄く手間だと思う。
あー、でも魔法ってイメージで何とかなってたし動きをイメージして魔法に…。
って、身体の動きをする魔法って何だろう…。
ダメな気がしてきたなぁ。
じゃあ刻印できた前進やジャンプ、頭を持ち上げるという動作の刻印ができたのはなんでだろう?
予想としては魔法陣が載っていた本にあったんじゃないかな。
パラパラと流し読みしてたから詳しくは見てなかったのは失敗だったね。
とりあえず次のログインの時に確認したいかな。
そんな事考えながら過ごしていると玄関の方で音がした。
「お姉ちゃんただいまー!」
「おかえり」
那月は自分の部屋のドアを開け鞄を投げ入れ、買ってきたモノを私の方へ預けに来た。
「そんな乱暴に扱わないの」
「ごめんなさーい。お腹が空いちゃって…、つい」
舌をぺろっと出してから謝る那月から買ってきたモノを預かる。
私はてっきりハンバーガーのチェーン店で買ってくるのだと思ってたけど違ったようだ。
このお店の名前って…。
私が袋から出して包み紙に包まれた商品を取り出していると、手洗いなどを済ませた那月が戻ってきた。
着替えはしてないようで制服だったけどね。
「商店街のお肉屋さんが作ってるハンバーガーでね。ボリュームあって美味しいから学生に人気なんだよ」
そう言って包みの1つを私の方へ置き2つを自分の方へ持って行く。
えっと、思っていたよりも包み紙が大きいんだけど…。
ビニールから那月はポテトとサラダを取り出した。
サラダは海藻サラダとポテトサラダの2種類でコンビニで買ってきたみたいだ。
それを半分ずつ皿に盛って二人分にしていた。
その間に私はインスタントのトマトスープを作る。
「「いただきます」」
手を合わせて挨拶をしたら早速包みを手に取り開けてみる。
横幅は普通のハンバーガーかなと思えたけど高さが思ってたのより高かった。
パティが肉厚のハンバーグで上下をシャキシャキのレタスで挟まれている。
「凄いボリュームでしょ?肉野菜マシマシつゆだくで頼んだんだよ」
楽しそうにそんな事言う那月の持ってるのは私のと同じハンバーグにベーコン、レタス、トマトが挟んであるがやっぱり高さが凄い。
那月はそれをゆっくり潰して食べやすくしている。
私はそれに倣ってゆっくり潰してから口にする。
「美味しい」
「でしょでしょ!おっちゃんのサービスも良いしおすすめなんだよー」
ソースの量が多いけどレタスも多いからかそこまでくどくは思えなかった。
「それよりさっき言ってたラーメン屋か牛丼屋かわからない注文は何…?」
「えっとねー。たしか常連の注文を聞いて具材を増やしたり抜いたりしてるのを、店主が遊びで言い方を真似てたら受けが良かったとか何とか」
「へー…。こういうのはやっぱり高いの?」
「普通のサイズで1個500円ぐらいするからちょっと高めかな?一応具材減らしたりすると割引してくれるし、マシマシしてもそこまで高くならないから学生には優しい気はするよ」
1個500円は確かに高く感じる気はするけどパティに使われてるハンバーグが美味しい。
粗挽きなのか噛み応えもあるし肉汁が溢れてくる。
テリヤキソースの甘い感じも私の好みだし、使われてる野菜もシャキシャキだし新鮮に思える。
ただソースがこぼれそうになって焦った。
包みの下の方にソースが溜まってるから下の方は味が濃くなってそうだ。
「増やしたりするといくらぐらいになるの?」
「トッピングをするとモノによって値段が違うんだけど…。パティを分厚いのに変えて貰う肉マシマシは50円で野菜マシマシも50円だから、肉野菜マシマシはお得な気がしちゃうんだよね。ぁ、ソース増量はサービスだよ。つゆだくと一緒だからね」
トッピングは迷うけどマシマシはしても良いって思える料金設定なのかな。
つゆだくは増やせばその分こぼれやすくなりそうで牛丼と同じく好みが出そうだ。
「色々やってるんだねー」
「だねー。ちなみにパティとバンズは抜けないけど、それ以外は抜くと50円割引してくれるよ」
チェーン店だと抜いても料金は変わらなかった気がするからその辺は優しいのかな。
「それにしても、やっぱりお肉屋さんだけあってハンバーグ美味しいよね。増量して分厚くしてあるからか肉汁も凄いし」
那月もそう言いながら嬉しそうにパクつく。
私はサラダやスープにポテトも摘まんでるから1個でかなりお腹が膨れるのは確実だ。
けど那月はもう1個あるんだよね。
1個目を食べ終えて次を潰しているときに私の視線に気づいた。
「お姉ちゃんどうしたの?ぁ、ちょっと食べる?」
「ううん、これだけでお腹一杯だから大丈夫」
「そう?こっちも美味しいのに…」
少し残念そうにしたが、次のハンバーガーを口にするとまた笑顔になった。
私が食べ終わったときに丁度妹も食べ終わっていた。
流石に食べるの早すぎないかな…?
「「ご馳走様でした」」
那月が使った食器を流しに持って行ってくれる。
その間に私は包み紙や袋、容器などを分別してゴミ箱に入れた。
那月に布巾を取って貰ってテーブルを拭いていく。
一通り片付けが済むと那月はソファーにもたれるように座る。
「そういえばお姉ちゃんデートしてたんだって?」
顔を私の方に向けてそんな事を聞いてきた。
「え、してないよ」
「嘘だー。PKKのレオンさんとベンチで話した後にお洒落なお店で昼食を食べたって掲示板に上がってたんだから」
「あぁ…。それの事かー」
なんて説明しようかな…。
あー、でも先に那月には言っておいた方が良いだろう。
「ちょっと相談に乗って貰って、お店に入ったのは一人で行きづらかったんだって。そこで忠告されたのと頼みごとされたんだよね」
「ふーん…、忠告は何だって?」
「私と母さん、スノウさんが狙われてる可能性があるんだって」
「ここ最近で変わったのは生産関係の情報…。母さんとスノウさんは衣類だけどお姉ちゃんは?」
「何かハゲヅラが話題になっちゃってるみたいなんだよね」
「あちゃー、プリメラさんが隠してなかった事に加えてお姉ちゃんがギルドに登録した事が決め手だったかなぁ…」
なるほど…。
ホントかどうかわかってなかったところに私が生産ギルドにも登録したから信憑性が上がった。
その上、噂でハゲヅラがどんな性能か広まったのもあるのかな?
とは言ってもただ光るだけだけどね。
「お姉ちゃんしばらく拠点に籠もるの?」
「ううん、母さんとスノウさんの護衛は考えないといけないと思うけど、私は時々1人で行動しようと思う」
「1人って……囮?…レオンさんか」
私の言葉を聞いた那月の目が細められる。
ちょっと怖い感じだ。
「私の大事なお姉ちゃんを囮にしようとするなんて話し合いが必要だね」
「那月その事だけどね…」
なんて言えば納得して貰えるだろう。
私の事を気にしてくれてるのはわかるから怒らないでとは言い辛いし…。
言い淀んで悩んでる間、那月はじーっとこちらを見ていてちょっと居心地が悪い。
「はぁ…」
私に向けていた顔を天井に向けて溜息をついた。
「わかってるよ。もう引き受けちゃってるんでしょ…」
拗ねたような表情で私の方を向く。
拗ねた顔も可愛いから見ていたいが今回の件は勝手に決めちゃって非があるから顔を逸らす。
「とりあえず蓮花にも報告して対策考えてからだよ」
「えっと…?」
「お姉ちゃんが1人で行動してるように見せかける方法だよ。どうせレオンさんの所のメンバーが付くんだろうけど、私達はその間お姉ちゃんほったらかしなんてイヤだもん」
それって…。
「守ってくれるんだ」
「当たり前だよ。蓮花やチームのみんなだって絶対私と同じ意見だよ」
「そっか。方法…考えないとね」
「うん!」
この件はルナも協力してくれるみたいで安心だ。
確かにレオンさんの所に助けて貰うの前提じゃなくてみんなに相談して協力した方が良いよね。
「デートの件は…まぁ、大体わかったけど。他に何やってたの?」
聞かれてログインしてからの事を話していく。
表情をコロコロと変えながら相づちを打ち聞いてくれる。
「何か一日の間に色んな事になってるねぇ」
楽しそうにそう言ってくる。
話してて思いだしたけど聞いておく事があった。
「妖精に冒険者の格好してた子がいたんだけど、アレは那月の提案かな?」
「私とプリメラさんだね!仲の良い子達で他の子達から頼られてるからベテラン冒険者っぽいのが良いよね…って……」
「そうなんだ」
「えーっと。お姉ちゃん怒ってる…?」
「怒ってないよ」
ちょっと名前を考えないといけなくなったけど、どんな名前にすれば良いかわからないんだよね。
それを伝える。
「名前かー。じゃあさ…」
・
・・
・・・
2人で色々案を出しあっていると、あっという間に時間が経過していた。
気づけば2時10分前になっている。
「ぁ、お姉ちゃんログインしよう!」
「もうこんな時間なんだ。ぁ、待ち合わせに遅れちゃう!」
私達は急いで部屋に戻りベッドに横になる。
那月は自分の部屋から機器を持ってきて隣に寝転がっている。
「「ゲームで」」
同じタイミングで言って笑い合う。
そしてゲームを立ち上げてログインした。
目を覚ましたのはサクヤの繭がある部屋だ。
何となく寝るときは一緒の方が良いかと思って、ここで落ちたのを思い出した。
PTは解散していたので1人だ。
私が目を覚ますと繭がドクンと脈打った気がする。
「サクヤ行ってくるね」
声をかけてから繭を撫でて部屋を出た。
待ち合わせ時間をゲーム内で8時にしておいてよかった。
ログインしたばかりなのにもう7時半だった。
もうちょっと悩んでたら完全に遅刻だよ。
地下に下りてテーブルのあるところへ移動する。
「おはよう」
挨拶をするとテーブルに伏せていた人物がガバッと起き上がった。
「お姉ちゃん!どこにいたの?部屋にいないから置いて行かれちゃったかと」
「ごめんね、サクヤの所で寝たのを言い忘れてたんだよ」
「サクヤって世界樹の精霊だっけ…。もう会えるの?」
「ううん、まだ繭の中だったよ」
「早く会いたいねー」
「そうだね。待ち合わせがもうすぐだから街に移動しよう」
ルナは頷いてくれた。
「おはようございます」
「おはよう」「おはよー」
そこへシュティもログインしてきたみたいで広間に来た。
「2人はどこかへ行くのですか?」
「うん、約束してる子がいるんだ」
そう言うとシュティは一瞬気落ちした様子を見せる。
一緒に遊びたくて急いでログインしたのかもしれない。
「そうなんですか」
「来る?」「行きます」
私が聞いた瞬間に返事を返してくれていた。
「とりあえず、いつもの宿行こうか」
頷く二人とPTを組んで、私達は街に転移した。
転移が終わると時間にあまり余裕がなかったのでルナにしがみつく。
「よろしく」
「まっかせてー」
ルナは返事をすると走り出す。
シュティはその後ろを付いてきている。
急ぐのなら私が飛ぶより走って貰って、私はしがみついてた方が速いのだ。
『そういえば』
走りながらルナがPTチャットで声をかけてきた。
PTチャットなのは走りながら走ると舌をかむ可能性があるからかな?
『妖精達の名前はいつつけるの?』
『名前って何かあったんですか?』
『あー、シュティには後で説明するよ。夜で良いかなって思ったんだけど遅いかな?』
『ファエリ呼んだ方が良いですか?』
移動しながらだから後でシュティには説明しよう。
とりあえずいつが良いかルナに聞こうと思ったらシュティから提案が。
聞くなら確かにファエリの方が良さそう。
『お願いしても良いかな?』
『聞いてみます』
契約していると離れていても連絡が取れるみたいだ。
そういえば契約するとできる事って聞いた事無かったな。
『契約してるとPTチャットみたいな事できるんだねー』
『えぇ、PTに入ってる扱いになりますからね。ただエリアが違うと別ゲームで言う個人チャットの様な感じになるみたいです』
『それでも凄いね』
『そうですね。思った以上に便利なときがありますよ』
『他にも何かあるの?』
『契約者の元へ呼ぶ事もできますけど、居た場所へ返す事はできませんでした』
『『へー』』
聞きたい事はルナが聞いてくれたから私は感心しているだけだった。
あれ、でもこの場合シュティに聞いて貰えば解決しそう。
『シュティ、ファエリと話せるなら妖精達の名付け夜でも良いか聞いて貰える?』
『わかりました。………良いそうですよ』
『ありが』「きゃっ」
「っとと、お姉ちゃんごめん」
ルナが急に止まったので振り落とされそうになってしまった。
幸い手で守ってくれたから助かったけどね。
付いてきていたシュティはゆっくりと停止した。
「お邪魔しまーす」
ルナがそう言って中に入るとカウンターに座っていた女将さんが気がついた。
「アンタ達かい。良く来たね」
「朝ご飯お願いして良い?」
「仕方ないね」
女将さんは笑顔でそう言うと厨房に入っていく。
私達は空いてるテーブルの1つを使わせて貰う。
ルナとシュティはメニューを見て何にするか考えているみたいだ。
私は選ばないので周りを見ている。
すると見覚えのある茶色のツインテールがホールを動き回っていた。
「いらっしゃいませ!…ってユキお姉さん?」
「ミナちゃん?何してるの…?」
見間違いではなく待ち合わせしている相手がそこにいた。
「一人で行かせて何かあったらアンタに合わせる顔がないからね。早くに起きてきたから手伝いをさせてたのさ」
そう言ったのはお水を運んできてくれた女将さんだ。
「ほら、手伝いはもう良いからエプロン置いてきて席座ってな」
女将さんはミナちゃんにそう言うと私達の注文を確認する。
ルナとシュティが注文をすると、何か食材をあるか聞いてきた。
シュティが豚肉のブロックを渡す。
女将さんはそれを受け取ると厨房へ戻っていった。
入れ替わりでミナちゃんがやってきて空いてる席の一つに座る。
席に着いたミナちゃんは落ち着かない様子で私を見たり2人を見たりしていた。
2人も私の方を見ていた。
あ、私が紹介するのか。
「えっと、この子が待ち合わせ相手で午前中に知り合った初心者のミナちゃん。こっちの2人はチームのメンバーで、薄紫の髪の子がシュティナ、金髪の子がルナだよ」
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」「よろしくね~」
紹介するとミナちゃんは2人に頭を下げる。
「そんな頭下げたりしなくて良いよ」
「そうですね。一緒に遊ぶんですから気楽にしてください」
2人がそう言うとミナちゃんはガバッと頭を上げた。
「そんな!だって2人ともβからやってた有名なプレイヤーさんだって書いてあったもん」
そう言われてお互い顔を見合わせた後、私の方を見てきた。
なのでミナちゃんが2人の事を知ったであろう掲示板を教える。
すると2人はすぐに書かれている事の確認をし始めた。
「嘘は書かれてないけど…、やっぱりβの事しか書いてないね」
「私も同じですね。妖精さんと行動するようになって落ち着いたからでしょうけど…」
「じゃあ、シュティナさんがβの時は対人最強だったのはホントなの?」
「最強かどうかはわかりませんね。最初の方はPKに何度もやられてましたし」
シュティにそう言われてミナちゃんはルナの方を見る。
「私が始めてからやられたって話は聞いた事無いから上位プレイヤーなのは間違いないよ」
ルナが視線に気づいて教えてあげると、ミナちゃんは目をキラキラさせてシュティを見ていた。
見られたシュティは居心地が悪そうに顔を背けて水を飲んでいる。
「はい、おまち」
そこへ女将さんが料理を運んできてくれた。
そのおかげでミナちゃんの視線は料理に釘付けになっている。
「それじゃ、食べようか」
「「「「いただきます」」」」
私用に注いでくれたスープを飲む。
2人はミナちゃんに料理を勧めたりしながら食べている。
特にルナが世話を焼いているようだ。
そういえばアエローちゃんがルナは後輩の面倒見が良いと言っていたのを思いだした。
そんな様子を見ながらゆっくりと食事をする。
食べ終わると食器を下げて女将さんにお金を払う。
ミナちゃんをPTに入れてから私達は宿を出た。
歩き始めてちょっと進んだところで宿から出てきた女将さんから呼び止められる。
「ほら、忘れ物だよ」
女将さんはそう言ってミナちゃんの手を取り何かを握らせる。
ミナちゃんが手を開くとそこには1枚の銀貨があった。
「女将さんこれ!」
「アンタは忙しい時間に手伝ってくれてたからね。手間賃だよ。あんまり迷惑かけるんじゃないよ」
「女将さんありがとう。行ってきます」
女将さんは手をひらひらとさせて宿の中に戻っていった。
ミナちゃんは嬉しそうにその姿を見送ってから私達の方へ駆け寄る。
もしかしたら女将さんはミナちゃんの人となりを見る為に手伝いをさせてたのかな。
きっと手伝いをしてる様子を見て素直な良い子だとわかってくれたんだろう。
「良かったね」
「うん!」
ミナちゃんは嬉しそうにしばらく銀貨を見ていたけど、転びそうになってルナに助けられてた。
それからは銀貨をしまってルナとシュティに話しかけながら歩いている。
私達は冒険者ギルドへ寄ってクエストを受けてきた。
ミナちゃんは昨日クエストを受けずに街の外に出ていたみたい。
なのでルナが説明してクエストを受けていた。
シュティはその説明に補足を入れたりしていた。
冒険者ギルドを出て今は東門の方に向かっている。
私は行った事が無いけど草原エリアで狩りをする予定だ。
狩猟スキルはつけないけどね。
いきなりスプラッタな事態はあまり精神衛生上よろしくないし。
今3人が話してる内容は戦闘の事だから私に聞かれても答えれない。
なので私はルナの肩の上で休憩ですよ。
動きのアドバイスはシュティが実際の動きを見ながらしてくれるようだった。
ミナちゃんは2人の事もお姉さんと呼んでいる。
見た目から年下に見えるし頼られてるのがわかるからか2人とも張り切っている様に見える。
それにしても…。
2人の格好はどうにかならなかったのかなぁ…。
シュティはいつもの鎧姿ではなくこの世界での私服。
一応冒険者用の生地が厚いシャツとパンツなので丈夫みたいだけど、私からすれば暑そうに見えるのが難点かな。
ルナに至っては半袖のシャツにハーフパンツという凄くラフな格好だ。
と言うか靴じゃなくてサンダルって怪我とかしても知らないからね…。
それに対してミナちゃんは革の防具を付けて盾を持ち、武器をいつでも持てるように腰に下げている。
話ながら歩いて十数分。
東門に到着した。
守衛の方に挨拶をして門をくぐって草原エリアに出る。
門から見えていた外の景色でわかってはいたけどほとんど何もない。
視界の悪い森とは逆で隠れる場所がほとんどない。
ほとんど、というのはポツンと木があったり人間の膝ぐらいの岩が希にあるからだ。
見渡せば北の方に森が見えるし南の方は崖になっているようだ。
と言っても、かなり距離はあるみたいではっきりとは確認できないけどね。
「それじゃ進むよー」
3人は私が景色を見ているのを待っててくれたみたい。
そういえばシュティとルナはβで、ミナちゃんは昨日来ているから知ってたのか。
「そういえば草原はβから変わってる事ってあるの?」
「エリア境界がわからなくなったそうです。エリアボスがいるのは今いる足首ほどの草しか生えてないエリアと、1メートルを超す草が生えているエリアの境目付近だそうです。森と違うのはボスと対峙してから結界が発生する所でしょうか」
「へぇー」
森だとエリアに入ってから結界が発生してボスが登場だもんね。
草原はボスが先らしい。
草原エリア1と呼ばれてるのは北から南に広いエリアで、東の方へ行くと1メートルを超える草が生えている草原エリア2に変わるみたいだ。
エリア間のボスは狼型で取り巻きがいるのだそうだ。
草原エリア1で見かけるのは主に羊、狼、鳥に森にもいたホッピンラビットが出るそうだ。
戦闘になると狼がこのエリアでは強いみたい。
ボスの取り巻きと同じ種類らしいけど大きさは少し小さいんだとか。
羊は滅多に襲ってくる事はなくて毛を刈っても襲ってこないのだそうだ。
倒すと毛糸がドロップする。
その為倒しちゃう人が多いみたい。
だけど最近わかった事があって、刈った毛の方が品質が良く魔力も含んでるんだとか。
狩猟で倒しちゃうと魔力は失われるそうで倒さずに刈るのが良いそうだ。
鳥は突いてくるのと上空からフンを落としてくるらしい。
後厄介なのは光り物を持って行こうとするのだそうだ。
主にアクセサリー。
イヤリングを咥えて逃げようとした事もあったとか。
咥えられ引っ張られた人は相当痛かったんじゃないかなぁ…。
放さなかったら隙だらけだったと思うけどね。
ん~、光り物が好きって鴉みたいだ。
「そういえば牧場があるのはどっちのエリアなの?」
「んっと、中間地点らしいよ。定期的に狼のエリアボスと戦闘になるらしくて駐留してる騎士もいるとか」
「へぇー。危ないんだね」
「逆に言えば探さなくてもボスに会える拠点って感じみたい」
シュティがミナちゃんに指導してるのを見ながらルナと暢気に会話をする。
さっき話してるのを聞いて知ったのだが、どうやらミナちゃんはいきなり狼と戦ったのだそうだ。
戦いに慣れてない初心者が相手をするのは厳しいようで、シュティに言われ今はウサギと戦ってみようと探しているところだった。
ウサギを探して歩き見つけては戦闘するのを繰り返す。
思ったよりも草原には数がいないようで森みたいに集まってこないようだ。
戦闘の方はシュティにアドバイスを貰う事無く倒す事はできていた。
しかしやっぱり動きが悪いところもあるようでアドバイスを貰っている。
『お姉ちゃん、さっきから辺りを見渡してるけど何かあった?』
『んー、ルナってマップにプレイヤーのアイコン表示されてる?』
『こんな時間に草原にいるのって私達ぐらいじゃないの?』
『うーん、ちょっと離れてるけど私達を囲むように人がいるみたいなんだよね』
『敵ですか?』
PTチャットで話してたからかシュティに聞かれてマップを確認する。
そこに表示されてるアイコンの色は…。
『表示が紫だからそうじゃないかと思う』
『紫って何だっけ…?』
『多分PKみたいな敵対する意思のあるプレイヤーだと思う』
緑が住人や生き物、赤が敵意がある住人や生き物だった。
プレイヤーは普通青表示で紫は普通じゃない…、敵対意思があるんじゃないかと思う。
ミナちゃんはPTチャットを聞いてキョロキョロと辺りを見回している。
あからさまに反応してるように見えるけど、次の敵を探してるように見えるから私達は注意をしない。
『わざと街から離れてみますか』
『狙いがお姉ちゃんだったら…、後悔して貰わないとダメだよね』
その意見に反対する事なく私達は草原を奥へ向かって進んでいく。
マップに表示のされているプレイヤが包囲を狭くしているのがわかる。
それを伝えてしばらくするとシュティのマップで確認できる位置まで近付いてきたようだ。
『見えませんけど確かにいますね』
そうPTチャットでシュティが言うと同時に景色がぼやけていく。
そして次の瞬間、何もない所から人が出てきた。
「おい、テメエ等。死にたくなければ有り金と手持ちのモノ全部置いていきな」
何となくどこかの世紀末の人達を彷彿とさせる格好をした人達が私達を囲んでいる。
その数は12人なので2PTもいるようだった。
見渡すと私達に声をかけたリーダー格らしき人物以外も、こちらを見て馬鹿にしているように笑っていた。
発言内容からして私を狙ってたんじゃなくて初心者を狙っているんじゃないかと思えた。
確かに2人は舐めた格好をしてるし見ただけじゃ強くは見えない。
だから初心者とその仲間みたいに見えたのかな?
「おいおい、ビビってるのか?さっさと渡せば命だけは助けてやるぞ」
-ぎゃははは-
リーダーの男と一緒に手下達が笑っている。
『とりあえず妖精さん狙いじゃ無さそうですね』
『リーダーも頭悪そうだよね』
『だ、大丈夫なの?』
『大丈夫ですよ。私が片付けてきますね』
『りょーかい。お姉ちゃんとミナちんは私が守ってるよ』
『ルナお姉さん、シュティナお姉さん気をつけてね!』
『えぇ』『任せてー』
PTチャットで打ち合わせをすると2人はすぐに行動に移った。
2人は一瞬で格好が普段の戦闘時の格好に変わる。
それを見た男達は一瞬固まった。
けれどその一瞬が命取りだ。
「《強制決闘》!」
シュティがそう言った瞬間、シュティと向かいにいたリーダーの男が光に包まれる。
姿が消えると宙に水晶玉のようなモノが浮いている。
そして水晶玉の周りにウインドウが出て映像が表示される。
カウントダウンが終わり戦闘が始まると、開始わずか数十秒で武器を砕かれたリーダーの男がシュティに切られHPを失っていた。
その間手下の男達はその映像に目を奪われていたようだ。
強そうじゃないと思って舐めていた相手にリーダーがあっさりとやられてしまったのだ。
決闘の場合死に戻りにはならずその場に戻る。
HPは回復するわけじゃないが死亡は回避されて1になるようだ。
2人が光と共に現れると相手の手下達は我に返ったようにこちらへ向かって攻撃をしかけてきた。
遠距離攻撃で飛んでくる矢をルナとミナちゃんが防いでいく。
ミナちゃんは完全には防げていないようだけど防具のおかげでそこまで目立ったダメージは無さそうだ。
「妖精さん壁で退路を防いでください」
シュティはそう言うと男達の方へ走っていく。
リーダーの男は慌てて回復薬を使っているようだ。
「《アイスウォール》」
私が魔法を使って氷の壁で逃げ道をなくす。
するとルナはミナちゃんの手を引いて壁際に走って行く。
私は風の魔法を使って上空に逃げる事にした。
普通に上がると時間かかるからね。
ルナは壁際に移動を終えると、ミナちゃんを庇うように前に立ち攻撃を防ぎ守っている。
接近しても逆に返り討ちにできているのは実力差なのだろう。
初心者を狙って襲ってたみたいだし、そこまで強くなかったのかな?
時折私の方にも矢が飛んでくるけど氷で防いだり避けている。
氷を生み出して防ぐとその氷は落下するわけで、下にいる襲撃者が慌てて逃げている。
ぁ、弓を持ってた人が今シュティに倒された。
私が氷壁を築いてから10分もしないうちに決着は付いた。
シュティならもっと早く終わったんじゃと思ったけど…。
「おーい、来たぞー」
氷壁の外にかなりの人数の人が来ていた。
もしかしたら時間がかかったのは応援を待ってたからかな?
「妖精さん壁を消して貰えますか?」
シュティに確認された。
けどね…。
「自然に消える以外に消せるの?」
私はそんな事やった事がなかったから知らなかった。
と言うわけで教えて貰いながら解除する。
壁系の魔法でできたモノは消す事もできるそうだ。
やってみると解除は魔法名の後に解除と言うだけなので簡単だった。
ただMPを消費するのはちょっと面倒かなと思う。
それと生成で産みだしたモノは消せないのだそうだ。
ちなみに襲撃者の皆さんは縛られて転がされていました。
縛っているロープはシュティの持ち物で色んな場面で使えるから持っておくと便利だと言われた。
遺跡の時と良いシュティは色々持ち歩いてるんだね。
来ていたのはレオンさんと仲間が数名にネルア聖騎士団の人達だ。
何でもアベルさんに話を聞いた所、初心者狩りをしているプレイヤーは以前から知られていて捕まえようと動いていたのだという。
時期的に人が増えて初心者も増えてたからみたいだけど、被害に遭うのは人が少ない時間帯が多いから中々進んでなかったみたい。
けど現れ方から姿を隠せたのだと思うし見つからなかった可能性の方が高そうだ。
「初心者狩りの賊を捕縛してくれて感謝します。我々が防げなければいけなかったんですが…」
「ホントに今回は偶然ですよ」
「それでも助かりました。所であれは良いんですか?」
話していたアベルさんに言われて視線の先を私も見る。
そこにはレオンさんがルナとシュティに問い詰められている光景があった。
手は出てないから多分大丈夫だと思うので大丈夫と伝えておく。
ミナちゃんはネルア聖騎士団の仕事ぶりを見て目を輝かせている。
入りたいのかな?
「ユキお姉さん、騎士の人格好いいよ!」
どうやら仕事と言うよりは格好が気になってたみたいだ。
「そうだね。ミナちゃんもネルア聖騎士団に入りたい?」
私が聞くとミナちゃんはうーんと考え始める。
「ううん、ユキお姉さん達と一緒が良い」
「そっか」
「うん!」
運ぶのは馬車が用意されていて、襲撃者は縛られたまま荷台に積まれていた。
捕らえても牢に入れるまで何があるかわからないので警護しながら戻るのだという。
縛られてるだけならアイテムや魔法で逃げれるんじゃって思ったんだけど、魔法には詠唱が必要なので猿轡で防げるという。
防犯上牢に入れる前には魔法を封じる魔道具をつけるそうだけどね。
アイテムに関してもある事をするから大丈夫だと言われた。
何かは教えて貰えなかったけどルナとシュティは状態異常にするんじゃないかって予想していた。
馬車の出発に合わせて警護しているネルア聖騎士団の方達だけでなく、レオンさん達も街に戻るみたい。
私達は見送ってから草原エリアでクエストをこなしていった。
そしてお昼前になってお腹が空いた頃、街に戻るのだった。




