嘲笑と猫耳
フォレスト王国。
雲よりも高く成長するジャイアントフォレストと呼ばれる巨大な木だけでできた森の上へ木人族と鳥人族が築いたこの国は、地上からでは発見できないほど高い場所にある。
そのためかつて世界を支配した起源統一教団の被害を唯一逃れた多種族の国であり、その情報を知った他の種族はこの国のことを桃源郷と呼んで多くの多種族がこの国を目指したが。
海からの湿った北東風が年中、ジャイアントフォレストにぶつかり雨を降らせるため。
ジャイアントフォレストの生えている場所は水が溜まって海とつながってしまってる上に木竜という凶暴なモンスターの群れの縄張りでもある。
その影響でフォレスト王国にたどり着けるのは全体の0.01%ほどでしかなく、そのためこの国は難民等に悩まされることなく。剣神が表れるまでの最悪の時代を無傷で切り抜けることが出来ていた。
そんなフォレスト王国の城の中でこの世界で起こるありとあらゆる事件や戦争の裏で必ず暗躍している全ての黒幕――クラウンはデュラン・ライオットの死体から創り出した泥人形の剣神の報告を聞くと満面の笑みを浮べながらガッツポーズをした。
剣神はその行動に眉をひそめることもなくオペレーションスワンプマンの報告を続けた。
「……カオス様、今説明したとおり。
全ての街からチンピラやニートなどのこれからのゲームに必要ないNPCの排除、完了しました。
次の任務を言いつけてください」
「分かったありがとう、次の任務は剣神デュラン・クラインハルトの修行相手になるだけだから簡単だと思うよ。
それ以外にお願いする任務はないし、もう我が輩にしたがうことも強制しない。自由に生きてくれたたまえ」
「……? 自由とは何でしょうか、カオス様」
「とっても素晴らしいことだよ、剣神。
後の分からないことはアリスに聞きなさい、彼女は優しいからね。きっと丁寧に答えてもらえるよ」
そうしてめんどくさいことをアリスへ押しつけたクラウンはこれからくる客人のために唐辛子を入れたお冷やを用意し、今日はどうやって虐めてやろうかと考えながらヴィンデの到着を待つのだった。
……どうせクラウンからのお冷やなんてヴィンデは呑まないのに唐辛子入りを準備するとか、最高に陰湿で草。
※ゴミみたいな性格をしていますが、こんなんでも一応は剣神に関する物語全体のラスボスです。鼻で笑って見守ってあげましょう。
部屋に入ってきたヴィンデは殺気立っていることを隠そうともせずにクラウンの眉間にリボルバーの照準を定めると、撃鉄を起こすした。
「……急に呼びつけるなんて何のつもり、このクズ。答えによってはその頭を撃ち抜くわよ」
「S&WのM500、ヴィンデ殿は本当にその銃が好きでござるなぁww。
もっといい銃をプレゼントするので我が輩に売らないでござるかww、大金貨千枚までなら出すでござるよww」
「――ッ!!!」
バンッという銃声が鳴り響いてクラウンの頭に大きな風穴があいたが、すぐに元に戻ってってしまった。
部屋の外から守兵が駆けてくることに気がついたヴィンデは幻惑魔法で姿を隠し、クラウンが上手く誤魔化して守兵が外へ出るのを待ってから再び姿を現した。
「剣神一条刹那の形見を売ってくれと言うだけで発砲するんでござるなww、短気すぎるでござるよww」
「――黙れ、さっさと用件を言え」
「怒っているでござるなぁ~、そんなに言うんだったら用件を言ってやるよ――負け犬」
「……」
負け犬と言われたヴィンデは今度は反論することなくただ耳を澄まし、クラウンの言葉を待っていたが「いくつか条件をつけるけど、もうデュラン達へ秘密を話してもいいよ」というあまりにもヴィンデにとって都合がよすぎる物だったため。目を見開いた。
「――それは本当かクラウン!! 嘘じゃないだろうな!!!」
「勿論本当だとも、その方が面白くなりそうだからね。
ただし喋っちゃダメなこともいくつかあるけどね、それに関しては後でまとめるとして。
一つだけ条件があるんだけど、いいかな?」
「……何」
確認を取れて少し落ち着いたヴィンデは目の前のクズの性格を思い出し、どうせろくでもない条件だと思いながらも話を聞くことにした。
するとクラウンは二チャリとした笑みを浮べながらヴィンデの耳元へと口を寄せた。
「負け犬が今も大事に抱えているその銃を破壊してくれ、今ここで」
「――えっ」
クラウンの言葉を聞いたヴィンデは思わず小さな子供のように震えながら形見のリボルバーをクラウンから隠し、聞き間違えではないかと願いながらクラウンの方へ視線を向けたが。
まるでヴィンデの心を理解しているかのようにもう一度同じことを言ったクラウンへヴィンデは涙を流しながらその場で土下座すると「すいません、それだけは勘弁してくださいッ!!」と叫んだ。
「ブフフ、いいでござるよww。見たかった物は見せてもらったでござるからなww」
「ほ、本当ですか!」
「我が輩は嘘はつかんよ、それじゃあこのリボルバーを預かるだけにしておいてあげるでござる。
このゲームにヴィンデ殿が勝利すればきちんと返すでござる、これでいいでござるな」
「はい……それで、お願いします」
そうしてクラウンは土下座するヴィンデの目の前からリボルバーを取り上げると背後に創り出した異空間へと投げ込み、禁則事項について長々と語った後。
ヴィンデへ「我が輩は十年後にデュラン殿へ闘いを仕掛けるでござる、それとこのスワンプマンの剣神をデュラン殿の修行相手として送るのでよろしくと言っておいてでござるww」そう伝えてから部屋を出て行った。
ヴィンデは悔しさから言葉にならない叫び声を上げながら自身の弱さを呪い、しばらくの間土下座したままだったが。
少しでも速くデュラン達へ情報を伝えるため、涙を拭いて立ち上がるとクラインハルト家を目指して飛んでいった。
こうして世界を取り戻せるかどうかの闘いの火蓋は切られたのだった――この闘いの勝者は神にも分からない。
――一方その頃、デュランは。
「あ、アリスにゃ――こ、こういう格好は俺には似合ってないと思うにゃー? それと語尾に『にゃ』がつく魔法は解除してくれにゃ。
けっこうにゃ、恥ずかしいにゃよ??」
「勝手に修行したおしおきなんだからダ~~メ♡♡♡、もっと可愛い顔をみせてよ。デュランちゃんっ♡♡♡♡♡」
「――鬼にゃ! 悪魔にゃ!! 人でなしだにゃっ!!!」
「デュランったらそんなこと言っていいのかな~~♡♡、アリスお姉ちゃんはこの写真をいつでもばらまけるんだよ~~♡♡♡。
ざーこ♡、ざーこ♡♡」
崖登り修行をしたおしおきでアリスに魔法で猫耳と尻尾を生やされ、語尾を『にゃ』に変えられた上でピンク色のメイド服を着せられていた。
デュランはあまりの恥ずかしさに全力で抵抗していたが口でも力でもアリスに勝てなかったため、最終的にアリスの膝の上で死んだ目で考えるのを止めた。
……この部屋へ入った上で自分のやらかしを話さなくてはならないのかヴィンデは、流石に可哀想で同情する。強く生きて。




