友達
「……本物の剣神、か。ヘルトが言っていたことは本当だったんだな」
「お前も髪と目の色を変えているみたいだが黒神だな、お前も生まれ変わってたんだな? お互いにこの時代に生まれ変わってるなんて妙な縁を感じるな。
――それで。今日はどうしたんだ、黒神」
アリスからの接待プレイを受けた翌日、神聖プライド王国にあるクラインハルト邸へ帰ろうとしていたデュラン達はヘルトから「あってほしい人がいるのですが、帰る前に少し時間をもらってもいいですか?」と言われ、案内された場所で出会った髪と目が赤い謎の少年の姿を目にしたデュランはすぐにその正体がかつて世界の存亡をかけて闘った黒神だと気が付いた。
決着がつき転生した今となっては特に思うところもなかったため、デュランは世間話をするかのような気楽さで話しかけたが。
黒神の表情が暗いことに気が付き、その表情を真剣なものへと変えた。
「どうしたんだ、お前。やけに暗い顔をしているけど、何か悩みごとでもあるのか?」
「――悩み、か。たしかに悩みといえば、悩みだな。
剣神、今日はお前に一つ頼みがあって会いにきた」
デュランは黒神の頼みというものがとても困難ものだと予測がついたが、好敵手である黒神の頼みだしできる限り叶えようと思いながら口を開いた。
「何を頼みたいんだ? できる限り叶えてやる」
「ありがとう剣神、頼みはそんなに難しいものじゃない。
私の首を剣神――否、友である君に切ってほしいという簡単なものだ。心配しなくても大丈夫だ」
「――ふざけてるのかテメェッ!!」
だが黒神の首を斬れというふざけた頼みにデュランは一瞬で頭へと血が上り、黒神の頭を鷲掴みにしながら目の前のテーブルへ叩きつけた。
大きな音が響き。周囲で見守っていたアリス達が驚いていたが、デュランはそれを気にすることなく黒神の頭を持ち上げて目線を合わせてから睨みつけた。
「いいか黒神! 俺とお前は敵同士だったけどな、頼まれたからってその首をあっさりと斬れるほど俺はお前のことを嫌っていない!! 見くびるなよ!!!
……お前がそんなことを頼んできた理由は察しがついている、償いたいんだろ。お前が奪ってしまったたくさんの命に対して」
「ッ!!? ――そうだ、償いだ! 私は私のエゴで殺してしまった数多くの命へ対して償う義務があるのだ!!」
「その考えは間違っているぞ! お前一人が死んだところでお前が奪った命が蘇るわけじゃない!! お前が死んだところで何も変わらないんだよ!!! このバカが!!!!」
デュランは涙を流しながらそう口に出した黒神へそう言い返し、睨みつけながら「死んだって罪滅ぼしにはならねえぞ!!!」と叫んだ。
「ッ!」
「そうやって逃げてんじゃねェ!!
死んで罪を償うなんて、卑怯者のやることだ!!!」
「じゃあどうやって償えばいいんだ!!!
奪ってしまったありとあらゆる命に、どうやって……」
デュランはそう言いながら顔を歪めた黒神の頭を放してから「バカか、テメェ」と言うと、床へ倒れこんだ黒神に手を差し伸べた。
「お前が今の人生を精一杯生き抜くのが一番の償いだ。
俺も友達として手を貸してやるからよ、一緒に生きようぜ。黒神」
「そんな、そんなことが償いになるわけ」
「バーカ、お前が奪った命の分もお前が背負って生きてくんだ。
お前が想像してる以上に辛くて苦しいよ、実際に生き抜いた俺が言うんだから間違いない。
それでも納得できないのなら奪った以上の命を救ったらどうだ?
――まあ。俺はそんなかったるいこと、死んでもごめんだがな」
デュランはそう言葉を発してから黒神の手をつかんで立ち上がらせ、顔をテーブルへ叩きつけたことを詫びてからアリス達とクラインハルト邸に帰ろうとしたが。黒神から呼び止められて立ち止まった。
「どうしたんだ黒神、頭痛いのか?」
「頭は大丈夫だ、別れの挨拶がしたいだけだ。
それと私の今の名前はナハト・ノイモーントだ。黒神じゃないぞ、デュラン。
……私も名前で呼ぶから黒神は止めろ」
「分かった、これからよろしくな。ナハト」
デュランがそう返事しながら手を差し出すとナハトは嬉しそうに微笑みながら「あぁ、よろしく頼む。デュラン」と言ってからデュランの手を力強くつかんだ。
デュランはなんとか死ぬことを止めさせることができたと内心ほっとしながら「ノイモーントか、つくづく妙な縁だな」と呟いた。
「うんっ? 何がだデュラン??」
「まあ、簡単に言っちまうとノイモーントはウィンクルム連邦国の住人で唯一生き残った侍の男へ俺がやった家名なんだ。
何せ名前を尋ねても『主であるナイト様を守れなかった拙者に名前など贅沢すぎます』って言って某としか名乗らなくてな、仕方なく俺が名字をやったんだよ」
「なっ、それは本当かデュラン!! ま――」
「――おいッ!! 名前を言おうとするなよ!!!
もう死んでいるとはいえ俺はあいつと約束したんだよ、何があろうと絶対にあいつの名前を知ろうとしないって。
男と男の約束なんだ!! 絶対に言うなよ、分かったなッ!!!」
デュランは某の名前を言おうとしたナハトの口を押さえつけながらそう叫び、ナハトが頷くと口から手を放した。
そして頭を手でかきながら掻い摘んで某との会話と出会いを某の主であるナイト・エンペラーもといナハトに話した。
……自身の臣下でありナハトの臣下でもあるとかややこしいなと思いながらもデュランは口には出さなかった。
「――とまあ、こんな感じだ。某は本当に仕事ができるやつで助かったぞ。
あいつがいなければ俺が死ぬまでにこの国をアリスへ残すことができなかったからな……本当に某には感謝している」
「私からもお礼を言わせてくれ、私の臣下を救ってくれてありがとう。
その上ウィンクルムの名を継ぐ国を建国してくれるなど、感謝してもしきれない」
「お互い様だ。じゃあな、ナハト。
今度会う時は思いっきり闘おうぜ、ナハトは強いからな。闘えれば俺の目標に近づけるからな!!」
「目標? 何かやりたいことがあるのか、デュラン??」
ナハトからそう言われたデュランはニヤリと笑いながら「俺の目標は世界最強だッ!!」と声を上げた。
ナハトはその目標を聞くと涙が出るほど笑った後「相変わらずすごいなデュランは。その夢、応援するよ」とデュランの手を握った。
こうしてかつて敵だったナハトと友達になったデュランはクラインハルト邸へ戻ると再び現し身と死ぬことが前提の修行を再開したが、デュランが死ぬ光景を目の当たりにしたアリスからお説教されて少し反省していた。
「分かった、今度からは死ぬ寸前で止めとく。これでいいか、アリス?」
「いい訳がないでしょうがっ! このおバカ!! そこに正座しなさい!!!」
なので次からは死ぬギリギリで止めとくと言ったのだが、何故かアリスから正座るように言われてこんこんと説教された。
そのことに対してデュランは解せぬと思いながらもメイド服を着たアリスは可愛いなぁと思いながら聞き流していたが、何故かアリスにバレて投げ飛ばされた。
後から訊いてみると「デュランが何を考えているかくらい分かります!!」と言われて思わず笑顔になったデュランはその可愛らしい姿でアリスをノックアウトし、デュランは何故か鼻血を吹き出しながら気絶したアリスのことを心配しているのでした。
……アンジャッシュで草ァ!




