トラウマと覚悟
デュランがフォレスト王国でカオスに敗北する一年半前、デュラン達はクラインハルト家のある神聖プライド王国を訪れていた。
なんで神聖プライド王国を訪れたかというとスミス王国を旅立ってから半年間は人族の国家を回って協力を取り付けていたのだが、それぞれ剣神とは別の神を信仰していることの多い多種族とは違い。起源神ワールドや剣神を信仰している人族の国ではどこにいっても剣神様、剣神様とうるさくデュランが癇癪を起こしてしまったからだ。
……まあデュランは本当は多種族の国がよかったようだが、近くにないのだからしょうがなかった。
「……アリス、他の国を回ったからこそ強く思うんだけどさ。俺はこの国のノスタルジーな雰囲気好きだわ、なんか帰ってきたって感じがする」
「そうだね! だけどよかったのデュラン? メテオさんのこと苦手でしょ??」
「まあ、苦手だけど神様扱いよりかはマシだ。
そういうアリスこそこの国は苦手だろ、国の外で待っててもよかったんだぞ?」
「デュランの為だったら全然平気だよ、変装してるしね」
「……そうか、ありがとうなアリス」
デュランはサングラス越しに見えるアリスの目つきから相当無理していることが分かったが、誰のために無理しているのか理解していたのでお礼を言ってから正面を向いた。
しばらくして城に着くと国王でありおじいちゃんでもあるメテオへの面会を求め、近衛兵の許可を得てから久しぶりにメテオと会った。
「久しぶりじゃのうデュラン! ワシはデュランと会えて嬉しいぞ!! キャラメル食べるかの??」
「いや、用事が終わったらすぐ帰るからキャラメルはいらない。
――というかうるさいしうざい、ガキ扱いすんな」
デュランはおじいちゃんであるメテオのことが苦手だが、なんで苦手なのか最近までよく分からなかった。
だが色々なところを旅したり様々な人と出会ったことで、メテオの真っ直ぐに愛情を表現してくるところが苦手なのだと理解した。
そういうのはアリスしかやってくることがなかったから、聖域を犯されている気がして何か嫌なのだ。
「ガキ扱いなどしておらんぞ! 子供でも大人でもデュランはワシの孫なんじゃ!! ワシは孫に好かれたいんじゃ!!!」
「うざいとは思ってるけど別にじいちゃんのことは嫌ってないよ、ただちょっと苦手なだけ」
「――ガーン!!? 苦手、ワシが苦手……」
「……やっぱりキャラメルもらうわ、後少し聞いてほしい話があるんだがいいか?」
「――よいぞよいぞ!! なんでも聞くぞい!!!」
とはいえメテオには関係ないことなので苦手なだけだと正直に伝えたが、思っていたよりもショックを受けていたのでデュランはキャラメルをもらってから話を聞いてくれと言ったらすぐに立ち直った。
それから結婚式の招待状を渡してから事情を説明すると、こちらから協力を要請する前に手を貸すと言ってくれたまではよかったのだが。なんでか特殊部隊へメテオが入ると言い出したのでデュランは頭を抱えた。
「国王としての仕事はどうするんだよ、それにじいちゃんはこの国で一番偉くて強いって理解してるか? じいちゃん以外の誰がこの国を守るんだよ」
「それに関してはレウスへ国王の座をやれば全部解決じゃろ、彼奴は一回とは言えワシに勝っているのじゃから」
「国王としての経験値が違うし、レウスはこの国の騎士団長も兼任してんだろうが!! 我が儘言うならもう会いに来てやんねぇぞ!!!」
「――冗談じゃよ、冗談!! じゃあまたのデュラン!!!」
「……まったく」
デュランはそう言いながら手を振っているメテオをジト目で見ながら部屋を出ると、外で待っていたアリス達と合流し。町一番の宿である黄昏の憩い亭へ向かった。
ただアリスのために人混みをできる限り避けながら向かったので、黄昏の憩い亭へついたのは少し暗くなって来た頃だった。
黄昏の憩い亭は良くも悪くも普通の宿に見えたので町一番の宿? と一瞬思ったデュランだったが、中へ入ってもその感想は変わらなかった。本当に良くも悪くも『普通』だったのだ。
普通に宿の隅から隅まで掃除が行き届いているし、普通にスタッフへちゃんと教育しているのだろう。その接客は一から十まで完璧だった。
宿に入ってまだ数分だが。この宿はどこまでも普通に素晴らしい接客をして町一番の宿になったということが痛いほどよく分かったし、だからこそ人気なのだと思った。
ただ一つだけ以外だったのは――
「いら、いらっしゃ、ませ……」
「あぁ、その無理しなくていいからな? ゆっくり話してくれていいぜ、本当に」
――それらの指導をした筈のオーナーがコミュ障だったという事実だった。
思わずこれでどうやって教育等をしたのかここまで連れてきたくれた女性へこっそり聞いてみると、人に何かを教える時はハキハキ喋れるが。人間関係のトラウマがあって日常会話だとこうなってしまうらしく。
だからこそスタッフが育った後は邪魔になるから基本的に裏方へ回っているのだそうだ。
是非ともこの店のオーナーと話がしたいと言ったのはデュランだったが、こういう事情があるのなら予め教えてよと思いつつ会話を続けながら作業を見学してみると。
あれだけしっかりした教育をしているだけあってシエルはコミュニケーション能力以外は軒並み高く、裏方の仕事をテキパキと終わらせていてすごかったが。
だからこそどんなトラウマを抱えているのか気になったし、もう他の人族の国にはしばらく行きたくなかったので。アリスへ理由を話した上で少しの間この宿に泊まっていいか訊いてみた。
「いいよ、ただしシエルちゃんのところへ行くときは必ず僕と一緒に行くこと。この約束を守ってほしいんだけど、いいかな?」
「うん? まあいいぞ」
そうしたらなんでかアリスと一緒にシエルへ会いに行くならと条件をつけられて少し不思議に思ったが、何はともあれ許可は貰えたので一週間くらいアリスと一緒にシエルの所へ通うことにした。
そうしてちょうど一週間が経った頃、珍しくシエルの方からデュランに話しかけてきた。
「でゅら、んく、んは、どうし、てわた、しのと、ころ、くる、です、か?」
「う~ん、気になったからだ。こんなにすごいシエルのトラウマが」
「とら、うまが、ですか?」
「あぁ、だってそんなに仕事ができるのに裏方だけなんて勿体ねぇだろ? だからシエルのトラウマをなんとかしてやりたいと思って通ってる」
「……じゃあ、きい、てく、ださ、い」
「ああ! いいぞ!!」
デュランがそういうとシエルは少しずつ過去のトラウマについて話してくれたが、あまり気分のいい話ではなかった。
剣神であるヘルトの子供なのに宿屋を経営したいなんておかしいと、先生を含めた周囲から言われ。将来の夢という題材で勇気を振り絞って出した作文を先生にみんなの前で破かれてゴミ箱へ捨てられたこと。
そしてそれがトラウマになって学校へ行かなくなったが父親であるヘルトは一言も攻めず、それが逆に苦しくて故郷であるウィンクルム連合王国を飛び出し。誰も自分を剣神の娘として見ない神聖プライド王国で宿屋を始めたことを教えてくれた。
取り敢えず色々と言いたいことはあったが、少し用事ができたデュランはその部屋を飛び出そうとして――アリスに捕まった。
「……アリス、手を離してくれないか。その先生とやらを殺しに行けない」
「うん、やっぱりそうなるよね☆ もうその人は職を失ってるし、路頭に迷っているから許してあげてって言ってもダメだよね☆☆」
「ダメだね、殺す――俺の孫にトラウマ植え付けてるんだぞ!! 地獄の苦しみを味合わせてから殺さなければ気が済まん!!!」
「ま、ご? おじい、さま??」
「……あっ、えっと、その」
デュランは話を聞き終わってから殺意に支配されていてシエルもいることをすっかり忘れていたが、変装もかねて髪と目の色を緑色にしていたため。
たった今シエルは少し前の己と同じでデュランの正体へ気がついたのだと理解して言葉に詰まり、ほんの少しの間だが――隙ができた。
「始原魔法――ドリームワールド改ッ!! 2人とも夢の世界へ行ってらっしゃい~~」
「アリス、テメェッ!!」
「な、にこ――」
その隙をついたアリスがデュランとシエルを魔法を使って夢の世界へ送り、部屋の中にはアリスだけが残った。
それからアリスは出発前にこういう事態を見越して渡されていた携帯を使ってヘルトへ連絡し――
「ごめんねヘルト。例のバカ教師の件、デュランにバラしちゃった☆」
「えっ、ちょ――」
――と言ってから通話を終了した。
ヘルトが何かを言おうとしていたが、何を言おうとしていたのか予想がついていたので聞く必要はなかった。
デュランのことだからどの道いつかはばれるだろうし、それを敵に利用されたらたまったものではない。
だからシエルとストームの件についてアリスは旅の中で初めから話すつもりだったが、ちょうどいい機会だったので上手く2人を誘導し。アリスはこの状況を創り出していた。
「例えデュランに嫌われるとしても、デュランが死ぬよりはいい」
アリスはそう狂気的な表情で言った後、部屋を出て行った。
……覚悟ガンギマリで草。




