裏世界
「デュラン殿! この度はホスピタル病院を守っていただき本当にありがとうございました!! 我々ができることならば何でもします!!! 何なりとお申し付けください!!!!」
「じゃあその丁寧すぎる言葉使いと土下座を止めてくれ、今の俺はただの五歳児なんだからさ。そんなに気を遣わなくていいから」
「いいえ! そうはいきませぬ!! 我々獣人族は百年の時が過ぎ去ろうとも――決して忘れてならない恩がデュラン殿にあるのです!!! これはホスピタル国民の総意でもあります!!!! どうかご容赦願いたい!!!!!」
デュランは面倒くさい取り調べはなんとか回避できたが、事情を聞いたこの国で二番目に偉い王配である玉藻狼鬼がなんでか目の前で土下座をしており。土下座は流石にダメだろと思ったので気を遣うなと言ったのだが、責任感の強い獣人族には逆効果だったようで国民の総意とまで言われてしまった。
デュランはもう色々と考えるのが面倒くさくなったので、元々買う予定だった狼煎餅と狐サブレをタダでもらうことにした。
「……百年も経ってんのに、この国は本当に変わらねぇなあ。相変わらずなようで安心したよ。
だったら今回の報酬は狼煎餅と狐サブレを二十箱ずつにする、それでいいか?」
「二十箱でよろしいのですか? もっとたくさん用意できますが??」
「それ以上は嵩張るからいらねぇ、連れと泊まっている宿を教えるからそこに届けてくれ」
「分かりました! 責任もって焼きたてを届けさせてもらいます!! それではゆっくりしていってください!!!」
デュランが宿の場所を教えると狼鬼は文字通りすっ飛んでいった。
何はともあれ一応話は終わったのでアリスに相手しといてもらった爆発から助けたおばちゃんの話を聞くため、椅子から立ち上がり。少し歩いて二人が対面しているソファへ腰かけた。
「えぇ~と、確か名前は風花だったよな。少し話を聞いてもいいか?」
「だからデュラン、初対面の人にその言葉使いはダメだって! ごめんね、風花さん?」
「いいえ、別に構いませんよ。それで私に聞きたいこととは何でしょうか?」
デュランは謝るアリスを尻目に天晴の鯉口を切った。
「まあ、俺は回りくどいの嫌いだから単刀直入に訊くけどよ。さっきの時限爆弾――アレを仕掛けたのはお前だろ」
「……なるほど、どうして私が犯人だと分かったのですか?」
「犯人だと気がついた理由はいくつかあるが、一番大きいのは近くで爆弾が爆発したにしては動揺してなさ過ぎたからだな。
一般人ならパニックを起こしてもおかしくないのに、アンタは落ち着き払って助けた俺に礼まで言ってただろ。だからアンタのことを調べた。
そうしたら腹壁ヘルニアで入院していることが分かったがアンタ全然痛がってなかったからな。鎌をかけたんだよ、確信はしてたがな」
「流石は剣神様、お見それしました」
デュランはそう語り終わってから天晴を抜刀し、アリスと共に風花を攻撃した。
しかし――
「それではお詫びの手榴弾をお受け取りください!!」
「「――何ッ!!?」」
――部屋中を埋め尽くすように爆発寸前の手榴弾が現れて大爆発した。
デュラン達はなんとか結界で爆風を防いだが、手榴弾の数が多く防御するので精一杯だった。
「あの野郎! 逃がすか!!」
『カウントスタート!』
「デュラン、ま――」
デュランは止まらない爆発にこのままだと逃げ切られると判断し、アクセルブースターのボタンを押しながら結界を飛び出した。
そして部屋の中央で閉じようとしていた空間の穴を見つけると急いでその中に飛び込んだのだが、辿り着いたのはまったく知らない場所だった。
「……うん? ここは何処だ??」
『分析をしたところ、どうやら現実世界の影にあたる世界のようです。
それと十秒を切りましたので天下無双を解除するのを推奨します。半径500メートルまで探知しましたが、生命反応はありませんので』
「そうか、ありがとう。アイ、引き続き周囲の警戒を頼んだ」
『了解です』
デュランはアイから言われたとおり天下無双を解除した後、試しに周囲の気配を探ってみたが。アイの言うとおり虫の気配すら感じなかった。
デュランがどうするべきか悩んでいると、アイが『リーベ博士がアクセルブースターに新機能を追加しました』と言った。
「新機能? 詳しい説明を頼む」
『どうやら今までデュラン様が吸収できないため当たりに散らすしかなかった闇属性を一旦アクセルブースターの予備領域に溜めておき、それを使って私が重力を操ることでデュラン様をサポートするのが目的の機能のようです。
この機能があれば天下無双状態のデュラン様が体に纏っている超重力の鎧を私が展開することができます。再現率は99.9%です。』
「そいつはすごいな!! それじゃあアイ、俺はこの世界の探索をするから防御は任せたぞ!!!」
『了解しました、お気をつけて』
デュランはそうしてこの世界の探索を始めたが、予想以上に世界が広くて難航していた。
時々探知に生命反応が引っかかることがあったがすぐに消えてしまい、下手人とは対面できなかった。
「……このやり方じゃ時間の無駄だな。
アイ、天下無双を使って一旦現実世界へ戻るからサポートを頼む!」
『分かりました』
「我が身は剣となりて敵を討つ――天下無双ッ!!」
デュランは短縮詠唱の天下無双を使うとすぐに空間を斬って現実世界へと戻り、アリスと二人でいた部屋に向かったのだが。
そこで待っていたアリスはデュランの姿を目にすると幼子のように泣き出し、デュランを捕獲して離してくれなかった。
デュランは自覚なしに前世と同じ行動をしていたが、今の体はただの五歳児だったことを思い出し。心配かけたようだったので全力でアリスに甘えてご機嫌を取った。
結局アリスを落ち着かせるのに時間がかかったため、あの世界の探索を再開できたのは一週間後だった。
……エルフは寿命が長いからか知らんけど、時間のスケールがデカいな!!




