サインと爆発
「それじゃあ行ってくる、ナハト達は留守番よろしくな」
「――行ってくるね! みんな!!」
「あ、お父様、少しいいですか?」
「うん? いいぞ」
デュランとアリスはホスピタル王国の宿で留守番するナハト達にそう言ってから呼び出したスペースファルコンをバイクに変形させて変形が終わった後、二人で乗り込んで宿を飛び出そうとしたが。ステラに呼び止められたのでデュランはバイクを停車させてからステラの方へ振り向いた。
……アリスは少し頬を膨らませている。
「お父様、できればいいのですが。お土産に狐サブレを買ってきていただけませんか? お金は払いますので」
「いや、全員分買ってくるよ。俺もアレは好きだからな、金ならあるから気にすんな。
……アンナからもらったお小遣いだからあんまり威張るのも違うか? まあ子供の小遣いにしては多すぎるがな。十箱くらい買ってくるよ」
「デュラン。ホスピタル王国の入り口でもう既に五箱も買っているし、食べ過ぎじゃない?
今回は狼煎餅にした方がよくないかな??」
「いや、アリスが狼煎餅好きなのは知ってるからそっちも十箱買うぞ? もう入り口で買ったのは全部食っちまったもんな!!」
デュランは狼煎餅も買ってほしいのだろうと思ってアリスへそう言ったが、なんでか顔を真っ赤に染め上げたアリスが背中をポカポカと叩たたいてきたため頭の上へ疑問符を浮べていたが。
アリスが何かを誤魔化すかのように体をデュランへ押しつけながら上下に揺らしてきたので、デュランはマシュマロのようなおっぱいの感触で頭へ一気に血が上った。
「な、ななっ、何を//////」
「デュラン~、早く行こうよ! まだ道路をこのバイクで走ったことがないから僕すんごい楽しみなんだ!!」
「――おっぱい当てながら体を振るな! 運転に集中できんわ!! そういうのはベッドの上でな!!!」
「うん♡♡♡、分かった♡♡♡♡」
デュランはアリスが体を上下に揺らすのを止めたのを確認してからバイクを発進させ、ホスピタル王国の中心部にあるホスピタル病院を目指してバイクを走らせた。
「ウィンクルム連合王国ほどじゃないけど、ホスピタル王国もかなり立派な建物が多いな。ああいう古い作りの建物は高層ビルって言うんだったか。
アリス。街の中はあまり変わってないが、やっぱりホスピタル病院は新しくなっているのか? どんな感じだ??」
「う~ん、建物自体は百年前に作り直した時からあまり変わってないよ。
医療関係の機械は最新鋭すぎて僕には理解できないからよく分からないけど」
「へぇ、あいつら頑張ったんだな。ただの回復魔法じゃガンや病原菌とかには対処できないからな、これからも獣人族とは仲良くしなきゃな」
ホスピタル王国は住人全員が五感が人族よりも優れている獣人族か他の種族の実力者しか住んでいないため、全ての道路の法定最高速度が100キロの最高にイカれた国である。
なので必ず入り口で観光客にはその危険性を説明し、公共交通機関を利用するのを推奨しているのですが。
デュランは五歳児にも関わらず普通に100キロの速度を出しながらバイクを操り、ホスピタル病院まで何事もなく到着しました。……バケモノかな。
「本当に建物自体は変わってないな、この病院が完成するまで何回か通ったし。俺も患者として大分世話になったから感慨深いな」
「……僕はデュランのことを治せないお医者さんに数え切れないくらい八つ当たりしちゃったから、正直気まずいかな。
当時八つ当たりした人がもういないとは言え、みんな変革の剣神のアニメや小説経由で知ってるだろうし。どの面して来やがったとか思われないかな! どうしようデュラン!!」
デュランはアリスが真剣に悩んでいるようだったから一分ほど考え込んだが、どれほど考えても死人に口なしだろとしか思わなかったので。そのまま伝えることにした。
「……別に気にする必要なくないか、どうせもう全員死んでるんだし。死人に口なしだぞ?」
「まあそうだけどね! 僕が気にするの!!」
「じゃあ気にしてていいんじゃないか、それだけアリスが反省してるってことなんだからさ」
「あんまり甘やかさないでよ!! 一人で立てなくなっちゃう!!!」
その場に座り込みながらマジ顔でそう叫ぶアリスに対してゾクゾクしたデュランはニヤリとした笑みを浮べた後、唇を彼女の顔へ近づけてから「俺はそういうアリスも大好きだよ――俺に依存しちゃえ♡♡♡、愛してる♡♡♡♡」と耳元で囁いた。
そうしたらアリスが腰砕けになったのでその体を受け止め、デュランは彼女が立てるようになるまで愛の言葉を囁き続けるのでした。
……やっぱりアリスの凶行に関しては八割方デュランが悪いだろ。コイツは無駄に顔と声がいいからな、ハァッ。
「デュラン! あのASMRボイスは酷いよ!! ちょっとだけおしっこを漏らしちゃったんだよ僕!!!」
「なんだパンツが欲しいのか? ほれ替えのパンツをだぞ、トイレで履き替えてきなさい」
「幼稚園の先生か!! パンツ替える必要があるほど濡らしてないわ!!!」
「アリス、一応病院の敷地内だからあまり騒がない方がいいぞ? 迷惑だからな」
「――ASMRボイスでさっきまで囁き続けていたやつが常識を語るなァッ!!!?」
デュラン達がこんな感じの夫婦漫才をホスピタル病院の入り口で披露していると、通りがかった人々から御捻りをデュランは手渡され。貰えるものはもらっとくかの精神で全てデュランのお小遣いにした。
アリスへ渡そうとする人も中にはいたが、デュランが殺気を飛ばして阻止したので。アリスに触れる愚か者はいなかった。
ただデュランの攻撃を受けるのが目的の剛の者が結構いたため、短縮詠唱の天下無双を使ったデュランが全力で叩きのめしました。
そのためアリスに飛びかかった者達は全員が恍惚の表情で気絶しながらその場へ倒れ伏すことになりました。……全員ドMで草。
何はともあれホスピタル病院に辿り着いたデュラン達は手土産として狐サブレを一箱買ってからこの国の女王である玉藻天狐の部屋を目指して歩き、部屋へ着くと三回ノックして許可をもらってから中に入った。
そして結婚式の招待状と狐サブレを天狐へ渡し、事情を説明してから協力を要請すると二つ返事で受け入れてくれた上。
少数精鋭の特殊部隊の医者兼剣士として娘である玉藻空狐を推薦してもらったので、取り敢えず会いに行って見たのだが。
「この色紙と本にもサインをお願いいたします! デュラン殿!! アリス殿!!!」
「――色紙も本も数が多すぎるわ!! 腱鞘炎になるだろうが!!! ちったぁ遠慮しろ!!!!」
「おぉ!! 生ボイスありがとうございます!!! これだけで後百年は闘えます!!!!」
「あ、あははっ、すごく個性的な子だね」
色紙と本にデュランとアリスの二人がサインしてくれるのなら特殊部隊に参加してもいいと空狐が言ったので、サインをデュラン達は書き続けていたのだが。
色紙と本の数が百を超えた当たりでデュランが我慢できなくなり、空狐へクレームをつけたがまったく効いていなかった。
もう色々と面倒くさくなったデュランは現し身を十体創り出し、アリスの分のサインも同時に終わらせてから空狐の部屋を出た。
そうして予定が全部終わったので宿に帰ろうかアリスと二人で相談していると、近くの病室で何かが爆発した。
デュランは状況がよく飲み込めなかったが、緊急事態であることは理解したのでアクセルブースターのボタンを押した。
『カウントスタート!』
「面倒くせえなクソッタレ!! 病院で爆弾なんか使ってんじゃねぇ!!!」
「あ、ありがとうございます」
「――いいから速く逃げろ! 邪魔だ!!」
デュランは爆発が直撃しそうになっていたおばちゃんを助けてから周囲の気配を探ったが、怪しい人物はいなかったので時限爆弾だと断定すると。僅かな駆動音を元に五十個の時限爆弾を見つけ出し。
「界破斬――断ッ!!」
それら全てを天晴で空間を斬り裂いて創り出した穴へ放り込み、なんとか被害者ゼロで事件を解決することができたが。この後の取り調べが面倒くさくて仕方なかった。
思わずため息を吐いてから近くへ来た警備員に向けて両手を上げ、無抵抗だと示しながら天下無双を解除した。
――残り時間は十五秒だった。




