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闇と日常

 「――その日の夜、春人は一度家に帰り、……」


 春人は一口、冷めたコンビニ弁当を口に運んだ。テレビからは、今日のニュースやバラエティ番組の陽気な音声が流れている。だが、その音の裏側で、先ほど病院で聞いたじいちゃんに起きたことや、さきからの不気味なメッセージが耳元でぐるぐると回っていた。


「……16年か」


 春人は箸を止め、誰もいないリビングを見渡した。

 物心ついた時から、両親はいなかった。唯一の身寄りであるじいちゃんは、春人を温かく育ててくれたが、決して「普通の家庭」ではなかった。


 あの家――じいちゃんの家は、どこか異質だ。

 古びた日本家屋の奥には、絶対に近づいてはいけない廊下がある。幼い頃、そこから聞こえてくる人間とは思えない叫び声や、湿ったうめき声に怯えて夜通し泣いたことが何度あっただろうか。「気になさるな」と、じいちゃんはいつも穏やかに、けれど決してそれ以上は語らずに微笑むだけだった。

 じいちゃんは僕を可愛がってくれた。おいしい食事を作ってくれたり、面白い話をしてくれた。


 ばあちゃんは、石鹸を売るために全国を回っている……。

 

 そう聞かされているが、一度も石鹸の実物を見たことはない。本当に石鹸の営業なのだろうか。それとも、あの家から漏れ出る「闇」と何か関係があるのか。


 春人は窓の外を見た。外はもう、すっかり日が暮れている。

 一週間間前ににじいちゃんの言っていた「奴らが来る」という言葉が、胸の奥で重く沈んだ。


 ふと、またスマホが震えた。千田さきからのメッセージだった。


『ねえ、春人。今、あなたのじいさんの家の前を通ったんだけど……。家の中から、何か「光」が漏れてない? まるで、闇を飲み込もうとしているような……』


 その瞬間、春人の心臓が嫌な音を立てて跳ねた。

 さきは、自分の家の異常さを知っているのか。それとも、じいちゃんの身に起きたことと、この家はつながっているのか。


 春人は立ち上がり、玄関へと向かった。

 じいちゃんの家に行かなければならない。あの「入ってはいけない部屋」に、すべての答えが隠されているような気がした。


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