第93話:ゼッターランド帝国
第93話「ゼッターランド帝国」
凄惨な死闘の余韻はどこへやら。帝都の城門前には、戦場にはおよそ不釣り合いな甘い香りと、奇妙な静寂が漂っていた。
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カレンが馬車で到着したとき、目にしたのは軍略を遥かに超越した「カオス」だった。
カレン「……何この状況は?」
そこにはセシリア、シューベルト、そしてシャルロット皇帝の三人が、円になって「ペナペナくんクッキー」を齧りながら、「ペナペナくん缶コーヒー」を優雅に啜っていた。
セシリア「おお、カレン遅かったな。この皇帝が無条件降伏したいと言いおってな。わたしの独断では決めれんから、とりあえず菓子を与えていたのだ」
カレン「……だいたいの状況は把握したわ。随分若く見える皇帝なのね……」
シャルロット「貴殿がカレン殿か、わたしがシャルロットだ。我々ゼッターランド帝国は無条件降伏をすることにした。よしなに受理を願いたい」
セシリア「カレンよ、この皇帝はこう見えてわたしらの三つ上だぞ?」
カレン「……皇帝が24歳ということぐらいは知ってるわよ。……え、えっとシャルロット陛下? 降伏の正式な調停はラーズ王の権限でしか決定できないので、ひとまずは停戦調停の受理ということで……」
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場所を「皇帝の間」に移し、事務的な手続きが進められる。
カレン「これでアレクサンド王国とゼッターランド帝国間の停戦調停、それとクレイドの無血開城は締結しました。あとはラーズ王の決議を待つだけです」
シャルロット「誠に申し訳ない……」
セシリア「気にするな皇帝、ほれ、ペナペナくん饅頭もやるから元気だすんだぞ?」
気さくにシャルロットの肩をポンポンと叩きながら笑顔で励ますセシリア。
カレン「ちょっとセシリア! まだ停戦中なんだから、一国の王に対して失礼すぎでしょ!!!」
シャルロット「カレン殿、私は構わない。むしろ、そう接してもらえた方がありがたいのだ」
かつて「未完成の夢」を語った少女の顔に戻り、微笑むシャルロット。それを見たセシリアは、思い出したように隣の男を振り返った。
セシリア「シューベルトも、無事にロリコン疑惑が晴れて良かったな?」
シューベルト「だからロリコンじゃねーと言ってるだろうが! ていうか相手は皇帝だ、付き合ってすらねえよ!!」
全力で否定するシューベルトだが、必死に否定すればする程、セシリアは生暖かい目で見る。
セシリア「お前はわたしの弟子(推し)になるのだから、もうロリコンは金輪際やめて、これからは真っ当に生きるのだぞ?」
シューベルト「警察みたいなこと言ってんじゃねー!!!(絶叫)」
身の潔白を証明しようとすればするほど、セシリアの「更生させてやろう」という親切心がシューベルトの心を削っていく。
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数時間後、アレクサンド王国――ラーズの間。
カレンからの鷹便を読み終えたラーズ王は、椅子に深く沈み込んだ。
ラーズ「あいつら……ひと月も経たないうちにゼッターランドを落としたというのか……」
軍事大国を相手に、これほどまでの超短期間で勝利を収めた配下たち。
その有能さと規格外の行動力に、ラーズは安堵と、それ以上の「恐れ」に近い溜息をつくのだった。
ラーズ「……すぐに準備を進めろ。ゼッターランド皇帝を迎え、和平の調停を行う」
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帝都クレイド、皇帝の間。
停戦の喧騒が遠のいた静寂の中で、シャルロットは一人、重い記憶の扉を開いていた。
それは、彼女の無邪気な「未完成の夢」が、冷酷な現実によって粉砕された日の記憶。
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突然の北の大国アスラン帝国による侵攻。
報を受けた皇帝は、歴代の伝統に則り、自ら大軍を率いて出陣した。
シャルロットにとって、父は武の頂点に立つ最強の守護者であり、心から尊敬する自慢の父親だった。
しかし、戦場から届いたのは勝利の凱歌ではなく、凍りつくような「悲報」だった。
シャルロット「父上が暗殺されたですって!?」
膝を突き、震える声で報告する敗残の近衛隊。
近衛隊「……はい。敵の巧妙な罠にかかり……開戦を前に、自陣で暗殺されてしまいました……」
シャルロット「……そ、そんな……あの父上が……嘘だ……嘘よね……?」
だが、地獄はそれだけでは終わらなかった。
近衛隊「……同様に……ドヴォルザーク皇太子殿下も……暗殺されてしまいました。姫君、本当に申し訳ございません……」
シャルロット「……兄様……。兄様まで……。そんな、そんな……!!」
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一日にして父と兄、そして帝国の盾を失ったシャルロット。その傍らで、一人の少年が獣のような怒りを爆発させた。
シューベルト「ちくしょう!!! テメエら近衛隊は何やってたんだ!? 皇帝を守るのが仕事だろーが!!!!!」
近衛隊「だ、黙れ!! 貴様ごとき
に何がわかる!!??」
近衛隊「たかが姫君の付き人風情が無礼にも程がある!!!!」
エリートとしての自尊心だけが残った近衛隊の言葉に、若きシューベルトの逆鱗に触れる。
シューベルト「テメエらうるせえ!!!その付き人ごときより弱い役立たずに言われたくねーよ!!!!」
迷わず剣を抜き、殺気を放つシューベルト。シャルロットの絶望の中でさらに血が流れようとしたその時。
シャルロット「……シューベルト、やめて……」
震える小さな手が、シューベルトの服の裾を掴んだ。
シャルロット「シューベルト‥‥あなたまでいなくなったら……わたし……わたし‥‥‥」
その涙ながらの懇願に、シューベルトは抜いた剣を止めるしかなかった。
この瞬間、彼は誓ったのだ。自分一人が泥を被ってでも、どれほど「変態」と呼ばれようとも(?)、この小さな皇帝だけは、自分の「武」で守り抜くと。
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回想から覚めたシャルロットの目の前には、今、かつての敵であるセシリアがのんびりとクッキーを食べている。
セシリア「……。皇帝、どうした? 涙が出ているぞ。この『ペナペナくん激辛チップス』が効いたか?」
シャルロット「……。いや、少し昔を思い出していただけだ、セシリア殿」
悲劇から始まった皇帝の椅子。
シューベルトがなぜ「ゼッターランドを裏切れない」とあれほど頑なに拒んだのか。
その重すぎる理由が、今ようやく紐解かれようとしていた。
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帝都クレイドの最奥。歴史が動いた「皇帝の間」には、かつて流された涙を乾かすような、静かで穏やかな時間が流れていた。
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シャルロットは再び、意識を過去へと沈める。父と兄を失い、絶望の淵に立たされたあの日。
大臣「姫様には今すぐにでも皇帝に即位していただかないといけません」
無慈悲な国家の論理。一人残された皇帝の間で、シャルロットは声を上げて泣き崩れた。
最強の剣士にも、最強のアイドルにもなれず、ただ政治という濁流に飲み込まれる恐怖。
シューベルト「泣くな、シャルロット……」
背を向けたまま、少年は震える声で呟いた。それは、自分自身を鼓舞する誓いでもあった。
シューベルト「俺様が最強の剣士になってやる。お前と磨き上げたこの剣術が最強だと、世界に証明してやる……!」
シャルロット「……でも、わたしは……皇帝なんかなりたくない……」
シューベルト「泣き言は言うな!!北のアスランも、南のグラドも、西のアレクサンドも、すぐにでも俺様が全て倒して戦争を終わらせてやる!!!!」
彼は、シャルロットの汚されるはずだった「手」の代わりに、自らの手を血に染める決意をした。
シューベルト「そしたらその後は、テメエはアイドルにでも何にでもなればいい……。だが、テメエは絶対に前線には出るな。全て俺様に全権を委ねたと言え。テメエは絶対に、手を汚すんじゃねえぞ」
その日から、姫の付き人だった少年は「魔王」へと変貌を遂げ、瞬く間に大陸十傑の座へと駆け上がった。
すべては、小さな少女が再び「未完成の夢」を語れる世界を取り戻すために。
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数週間前、開戦の号令を下したあの張り詰めた空気。
カーテン越しに、三英雄――メンデル、ショパン、そしてシューベルトが跪いたあの日が、まるで遠い昔の出来事のように感じられる。
セシリア「皇帝、ペナペナくんチップス『しあわせなバター味』もかなりいけるぞ? 食べてみるがいい」
現実に引き戻した明るい声。セシリアの手には、どこかパチモン臭いデザインの袋が握られている。
シャルロット「セシリア殿。……皇帝ではなく、わたしのことはシャルロットと呼んでもらって構わない」
セシリア「む、それならセシリア『殿』もおかしいな。なあ、シャルロットよ? 早くこの味を試すのだ! フフフ、これはまさに禁断の味だぞ!」
シャルロット「……フフフ、そうですね、セシリア」
かつて「手を汚すな」と言ったシューベルトの隣で、シャルロットは今、自分の手で菓子を掴み、かつての宿敵と笑い合っている。
それを見守るシューベルトの表情は、相変わらず不愛想ではあったが、その口元には、数年間一度も見せることのなかった微かな「安らぎの笑み」が浮かんでいた。
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ジェームズ「……。……。なんか、いい雰囲気になってるけど、俺の背中で寝てるエレンちゃんの『……残業代……バター味……』っていう寝言が全部台無しにしてる気がする……」
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