第91話:未完成になった夢
第91話「未完成になった夢」
激突する火花は、もはや戦火ではなく、純粋な「武」のぶつかり合いへと昇華されていた。
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セシリア「食らうがいい!!」
上段から断罪のごとく振り下ろされる「鬼王」の一撃。それをシューベルトは魔剣を両手で保持し、正面から受け止める。
だが、彼はただ耐える男ではない。剛剣を強引に押し返し、そのまま流れるような動作で反撃の刺突へと繋げる。
スピード、パワー、そして天性のテクニック。大陸十傑でありゼッターランド最強の名は伊達ではない。
セシリア「ワハハハハハ!! 久しぶりだ……久しぶりにこの手のヤツと戦える!!」
セシリアは心底楽しそうに、歓喜の咆哮を上げた。マキとの地獄のような組み手以外では味わえなかった、死の淵を歩くような緊張感。
戦いの中にしか居場所を見出せない彼女にとって、この瞬間こそが極上の幸せだった。
シューベルト「ちっ、笑ってやがる……。こっちはマキを控えてるんだ! ここでグズグズしてる暇はねえ!!」
シューベルトの構えが、再び型を失う。予測不能。先ほどエレンを沈めたものとはまた異なる軌道。
『シューベルト流剣技・未完成』!!
**スドォォン!!!**
剣で受けたはずのセシリアごと、空間を薙ぎ払うような一撃が炸裂した。セシリアは再び、巨大な瓦礫の山――もとい「エレンの塔」の付近へと叩きつけられる。
セシリア「ぐはあ!!!」
ジェームズ「ぐはあ!!!(※瓦礫の破片が顔面に直撃)」
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口端から血を流しながらも、セシリアは不敵に笑い、瓦礫の中から立ち上がる。
セシリア「……わたしを倒せないようでは、マキ様と戦うなど戯れ言にしかならんぞ? 何せマキ様は、わたしを千回以上は半殺しにしてきた本物の化物だからな……」
シューベルト「お前を倒して、そのマキとやらも俺様が倒す。最強の剣士を目指す以上、避けて通るどころか望むところだぜ!!!」
セシリア「フハハ! シューベルトよ、ますます気に入った!! わたしも同じだ! 十傑をすべてなぎ倒し、そしていつかマキ様をも倒す。それがわたしの覇道!!」
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カレンの陣。戦況を見守るマキは、冷や汗を流しながら呟いた。
マキ「セシリア……あやつほどしぶとい奴はこの世におらん。できることなら、あまり相手にしたくなかったぐらいだ……」
リノ(思念)「千回以上も半殺しにしちゃうなんて、かわいそ〜〜。でもマキ様、セシリア様を半殺しにしてた時、すごく楽しそうでしたよ? てへっ♡」
マキ「わたしを冷酷非情、鬼悪魔、恐怖の壊滅の魔女と一緒にしないでくれ!!!」
リノ(思念)「あーあ、自分を否定しちゃった。はい、お仕置き確定〜」
マキ「……えっ」
戦場では最強の騎士たちが命を削り合い、本陣では元騎士団長
が側近(の思念)に詰め寄られる。アレクサンド騎士団の「不協和音」は、決戦の最中でも止まることはなかった。
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戦場はもはや、人知を超えたエネルギーの奔流と化していた。
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セシリア「フフフ……シューベルトよ、本気でかかってこい!」
シューベルト「エレンというやつにも少し驚いたが、やはりテメエは一筋縄ではいかないみてーだな……」
シューベルトの全身から、不気味で苛烈な赤い光が噴き出した。その光は意思を持つかのようにユラユラと揺れ、大気を焦がす。
シューベルト「魔王モード……いくぞ!!」
セシリア「ようやく本気か!」
それは、これまでの「神速」をさらに塗り替える絶望的なまでの速度。
**キィィィン!!!**
防ぎ切るセシリアも常軌を逸しているが、シューベルトの剣撃には先ほどまでの比ではない「重圧」が宿っていた。
かつて、数多の逆境をたった一人で塗り替えてきた「戦場の貴公子」の、これが真の姿。
圧倒的な猛攻に、さしものセシリアも防戦一方に追い込まれる。そこへ、シューベルトの「未完成」が必殺のタイミングで放たれた。
**スドォォーーーン!!!**
セシリア「ぐふうっ!!!!」
ジェームズ「ぐふうっ!!!!(※本日何度目かの二次被害)」
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再び城壁へと深く叩きつけられ、膨大な瓦礫の底に沈むセシリア。
シューベルト(今のは完璧に入った。いかにセシリアとはいえ、ただでは済まないはず……)
だが、戦場の神はまだ微笑まない。
**ドォォン!!!!!**
セシリアが埋まっていた瓦礫の山が内側から爆散し、すさまじい衝撃波が周囲をなぎ払った。
ジェームズ「ぐぎゃあ!!!!(※もはや絶叫にキレがない)」
土煙の中から現れたのは、全身から琥珀色の輝きを放つセシリアだった。周囲の瓦礫が共鳴するように振動し、大気が重力に抗うように逆巻く。
これこそが、数千回に及ぶマキとの死線で練り上げられた、セシリアの本気――「鬼神モード」。
赤と琥珀。二つの最強の光が、帝都の前で火花を散らす。
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その頃。瀕死の重傷を負いながらも、セシリアとシューベルトの「人間砲弾ごっこ」の余波に耐え続けていたジェームズ。
彼はついに、瓦礫の最下層で「それ」を発見した。
そこには、数トンの瓦礫の重圧を物理法則無視で受け流し、にこやかに、かつ健やかにスヤスヤと眠り続けるエレンの姿があった。
ジェームズ(何で……何でこの子は死なないんだ……???)
もはや「不幸」を通り越して「神の加護(あるいは呪い)」の域。
最強の二人が世界を壊さんばかりに戦うすぐ側で、一般市民エレンの平和な寝顔だけが、この戦場の唯一の異彩を放っていた。
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戦場は今、二つの「最強」が放つ熱量によって、帝都クレイドの空気そのものを変質させていた。
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エレンを背負い、まるで幽霊のような足取りでエリーゼの元へと辿り着いたジェームズ。
その姿は、およそ「騎士の従者」とは思えないほどボロボロに磨り減っていた。
エリーゼ「良かった! エレンさん! 無事だったんだ!! ……でも、ジェームズさん、こんなボロボロに。何でこんな無茶を……」
ジェームズ「……エリーゼちゃん‥‥キミが……魔剣で後頭部ぶった叩きまくりながら……無理やりやれって……」
エリーゼ「……ジェームズさん、そんな事よりセシリア様とシューベルト様の戦いに集中しなきゃ!! セシリア様を応援しましょう!!!」
ジェームズ「…………(※涙も枯れ果てた絶望の無言)」
理不尽という名の暴風が吹き荒れる中、ジェームズはただ一人、エレンの安らかな寝息だけを支えに立っていた。
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一方、戦場の中央では、シューベルトがその真の力を解放しようとしていた。
シューベルト「魔剣フレイム、俺様に力を貸せ」
赤い闘気のオーラに加え、全身を猛火が包み込む。それは近づくものすべてを灰にする、終焉の紅。
セシリア「赤い光の闘気に炎を纏うか……マキ様を思い出すな‥‥‥久しぶりだ!! こんな嬉しい事はないぞ!!」
マキとの地獄の組手が途絶えて以来、枯渇していたセシリアの戦士としての本能。それが今、シューベルトという最高の「獲物」を前にして、狂喜の叫びを上げていた。
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シューベルト「俺様は最強。それを証明しなければならねーんだ!」
セシリア「フハハ! 最強の剣士には、わたしがなるのだ!」
シューベルト「ぬかせ!!」
再び、変幻自在の構え。
『シューベルト流剣技・未完成』!!
セシリア「また違う型か!」
打ち込まれる一撃一撃が、もはや物理現象の域を超えている。剣で受けたとしても、その衝撃波が直接内臓を揺さぶり、セシリアの身体を確実に削り取っていく。
セシリア「……ふふ、ふふふ。……楽しいな」
口角から鮮血を垂らしながらも、セシリアの笑みは深くなるばかり。
それに応えるように、全身から放たれる琥珀色のオーラが一際激しく、、そして鋭く輝きを増した。
ボロボロのジェームズ、寝落ちしたエレン、そして笑いながら死地を舞うセシリア。
アレクサンド騎士団の「不協和音」は、ついに大陸最強の武を前にして、最高潮の盛り上がりを見せようとしていた。
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激突する二人の英雄は、刃を交えながらも、互いの魂の深淵に触れようとしていた。
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シューベルトが再び、捉えどころのない『未完成』の構えに入る。
セシリア「未完成……。完成はさせないのか?」
シューベルト「……完成はない。一緒に完成させるはずだった奴が、裏切りやがったからな」
その言葉に宿る微かな熱と孤独。しかし、セシリアはそれを否定しなかった。
セシリア「……フフ、良いではないか。わたしも同じ……未完成だ。未完成のままだからこそ、最強を目指せる。完成してしまったら、その先はないからな」
セシリアは愛剣「鬼王」を逆手に取り、その先を地面に突き立てた。両手を添え、嵐のような戦場の中で静かに目を閉じる。
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シューベルト「……何だそりゃ。死にに来たのか?」
セシリア「フフ、遠慮するな。来い」
シューベルト「それじゃ遠慮なく行くぜ!! シューベルト流剣術『未完成』!!」
炎と赤いオーラを纏った超高速の剛剣が、無防備なセシリアへと肉薄する。だが、セシリアは動かない。刃がその肌を裂く、コンマ一秒前。
**ギィィィン!!!**
セシリア「セシリア流剣術……『鏡花水月』」
目を開けることなく、最小限の動作で鬼王を回転させ、シューベルトの「未完成」を完璧に弾き飛ばした。
シューベルト「何いっ!? 未完成の剣撃すら防いだだと!?」
セシリア「この技もまだまだ未完成でな。まあ、完成しないからこその良さがある。最強を目指す者は、完成という『終着点』など求めてはおらんのだ」
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シューベルト「……最強は俺様だ。俺様が最強の剣士になる。それだけは譲れねえ」
セシリア「フハハ! 奇遇だな、わたしもだ! しかし、わたしの夢はさらにその上!!」
セシリアはカッと目を見開き、琥珀色のオーラを爆発させながら叫んだ。
セシリア「最強の剣士でありながら、最強のアイドルにもなるのだ!!!!!」
シューベルト「……。…………テメエ……」
かつてないほどの、そして今までで最も「純粋な殺意」がシューベルトから立ち昇る。
シューベルト「……許さん。テメエは絶対に許さんぞ……!!!」
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