第89話:龍神エレンvs十傑シューベルト
第89話「龍神エレンvs十傑シューベルト」
戦場は、もはや伝説の英雄たちの決闘場ではなく、見るに耐えない「低次元な口論の場」と化していた。
---
シューベルト「散々暴れまくってくれたようだが、ここまでだ。……エレンとやら、聞いたこともねーが、テメエはどこの出で、どの爵位だ?」
エレン「ああん? アホかテメエは!! わたしは一般市民なんだよ!!!親父は中小企業のサラリーマンで、お袋はスーパーのレジのパートだボケ!!」
シューベルト「アホか、嘘つくんじゃねーよ(※この戦闘力で平民なわけがないという騎士の常識)」
エレン「嘘じゃねーよバーカ!!! じゃあテメエはどこ中出身なんだよ!!??」
シューベルト「……どこ中……? 帝国士官学校中等部だ」
エレン「知らねーよ!! バーカ!!」
---
エレンの怒りは、ついに「生活水準」への嫉妬へと火を吹いた。
エレン「じゃあテメエの家庭では、オムライスは月に何回出てくんだよ!!!???」
シューベルト「……。週一だ」
エレン「ああん!? シューベルト貴様ぁぁ〜〜!!!てめえはムカつくなぁ?? ナマイキなんだよ!!! じゃあポンカレーはどうなんだよっ!!??」
シューベルト「……食おうと思えば毎日食えるぜ……」
エレン「何だとぉ!? テメエはつくづくムカつくヤツだな!! バーカバーカ!!」
その光景を固唾を飲んで眺めるジェームズとエリーゼ。
エリーゼ「エ、エレン様凄い! カレン様に言われた通り、カンペキに時間稼ぎを遂行してる!!(感動の涙)」
ジェームズ「……会話のレベルが低すぎる……。田舎のヤンキーより酷い……(絶望の涙)」
---
シューベルト「……くっ!! キリがねえ!! 言い残すことはそれだけか!!!???」
エレン「待てコラ!! これだけは言わせてもらうぞ!!!」
シューベルト「……言ってみろ」
エレンは天を仰ぎ、まるで校舎の屋上で青春の不満をぶちまけるようなポーズを固めると、肺の中の空気をすべて吐き出した。
エレン「テメエら帝国軍のせいで!! わたしのせっかく合格した公務員の内定が!! 取り消しになったんだよぉぉぉーーーー!!!! バカヤロー!!!!」
その叫びは、戦場の空気を震わせ、帝国の理不尽な侵略によって奪われた「平凡な幸せ」への最大級の抗議となって響き渡った。
あまりにも切実で、あまりにも「一般市民」すぎるその慟哭に、エリーゼもジェームズも、こらえきれずに涙を流すのだった。
---
戦場は今、歴史的な転換点を迎えていた。帝国最強の「武」と、一般市民の「積年の恨み」が、城門の前で真っ向から激突したのである。
---
シューベルト「とにかく俺様は後がつかえてんだ。セシリアとマキをまとめてぶった斬ってやらなきゃならねーからな」
エレン「じゃかあしいわ! シューベルト! とにかくテメエはこの、最強の剣士エレン様がぶった斬ってやるよ!!!」
「おーい青汁茶(アルコール入り)」の力で増幅されたエレンの怒りは、物理的な嵐となって周囲を削り取る。
対するシューベルトは、音を置き去りにするほどの超高速かつ重厚な剣撃を叩き込んだ。
**ガキィィィン!!**
しかし、エレンはその一撃を正面から大剣で受け止める。
シューベルト「止めやがるか……。だが、すぐに終わらせてやるよ。俺様の最強の剣でな!」
---
そこから始まったのは、大陸十傑の真骨頂。シューベルトの猛攻は、暴風雨のようにエレンを襲う。
エレンは防戦一方、手も足も出ないかと思われたその時、彼女の瞳がさらに赤く燃え上がった。
エレン「くそったれがぁぁぁーーーー!!!!」
怒りの咆哮と共に放たれた、理屈抜きのフルスイング。
凄まじい衝撃波がシューベルトを捉え、彼は帝都の堅牢な城門へと叩きつけられた。
**ドォォーーーーン!!**
轟音と共に崩れ落ちる瓦礫。あの「不敗の貴公子」が、土煙の中に埋もれていく。
---
風と雷をその身に纏い、崩れた城門を見下ろして、エレンは不敵な、それでいてどこか「酔っ払い」特有の狂気を孕んだ笑みを浮かべた。
エレン「最強はこのエレン様だ!! 残りの十傑もすべてぶった斬り、大陸を制覇するのはこのわたしだ!!!!」
そしてアレクサンド騎士団とクレイドの帝国兵達の前で、誇らしく高々と剣を天高く構えるエレン。
エレン「そして戦争のない世界を作り、その世界で『最強の公務員』として給料を安定させ、家のローンを完済し、毎日定時退社してやるのだ!! 全世界の民よ、震えて待てぇぇぇ!! アーッハッハッハ!!」
エリーゼ「……す、凄い野望。エレンさん、わたしの心の奥まで伝わりましたよ……(涙)」
ジェームズ「……は、発想が凄すぎて、涙が止まらねえ……」
「定時退社」と「住宅ローン完済」のために大陸を統一する。
そのあまりに切実で、あまりに一般市民すぎる野望は、皮肉にもこの戦乱の世で最も「平和」に近い希望として、二人の胸に深く、深く突き刺さった。
---
崩れ落ちた瓦礫が重低音を響かせて崩れ、そこから「戦場の貴公子」が何事もなかったかのように姿を現した。
---
シューベルト「ゴタクは済んだか?(……一体こいつは何なんだ? 定時退社? ローン? 訳が分からねぇ……)」
ジェームズ「む、無傷かよ……。あの衝撃でピンピンしてやがる」
エレン「ほう? 生きてやがったか? じゃあ、何回でもぶっ飛ばすだけだーー!!」
エレンの動きは、もはや「酔っ払い」のそれではない。怒りとアルコールが混ざり合い、反射神経を極限まで研ぎ澄ませている。上段からの凄まじい唐竹割り!
**キィィィイン!!**
シューベルト「ナメてんじゃねーよ!!!」
だが、シューベルトは大陸十傑。ただ受けるだけではない。剣を斜めに滑らせて衝撃を逃すと、そのまま最短距離で強烈な胴打ちを叩き込んだ。
**ドォォン!!**
エレンは木の葉のように十メートルほど後方へ弾き飛ばされる。
---
ゼッターランド帝国の武の象徴の神速の連打
エレン「!!!」
そこからは、シューベルトの独壇場だった。
「神速」と称される彼の剣撃は、一撃一撃が必殺の重みを持ちながら、残像すら残さないスピードでエレンを蹂躙する。
キィン、キィン、キィン……!!
エレン「くっ……ふざけやがって……うおっ!?」
シューベルト「くたばれ!!!!」
渾身の一振りがエレンの正中線を捉え、爆音と共に彼女の身体を城壁へと叩き込んだ。今度はエレンが、積み重なる瓦礫の底へと沈んでいく。
---
シューベルトは切っ先をジェームズに向け、冷酷に告げた。
シューベルト「見たか? テメエらなんざ相手にするだけ無駄だ。さあとっとと、セシリアを連れて来い!!」
だが、その直後。
**ドォォォォン!!!**
地面を揺らす咆哮と共に、瓦礫を粉砕してエレンが這い出してきた。
シューベルト「ああん!? あれを受けて立ちやがるか?」
エレン「このエレン様に向かって、ふざけたことしやがって……。絶対に許さんぞ!!!!! ブッ殺す!!!!」
立ち上がったエレンの周囲で、龍神のオーラが再点火される。それどころか、先ほどよりも密度が増し、大気がビリビリと震えていた。
ジェームズ(そういえば以前、隊長ズの皆から、セシリア様からエレンちゃんに乗り換えた方がいいって勧められてたなぁ……。ルックスやスタイルはまったく同じなんだから扱いやすいエレンちゃんに乗り換えがオススメだって……‥絶対にイヤだ!!!こんな怖い女の側にいたら命がいくつあっても足りねえよ!!)」
エレンの執念の源は、もはや「公務員内定取り消し」という個人的な恨みから、「自分の安寧を邪魔する存在すべてへの制裁」へと進化しつつあった。
---
戦場は、大陸十傑の底知れぬ実力と、一人の平民の異様なまでの頑強さが交錯する、異常な空間へと変貌していた。
---
シューベルト「俺様の剣技にここまで圧倒されときながら、まだほざけるとは……よほどのアホとみた。最強の剣士は俺様だ」
エレン「ざけんな!! 最強の剣士はわたしだ!!」
怒り狂いながら剣を振るうエレンだが、シューベルトはそのすべてを冷徹に弾き飛ばす。
パワーこそ互角、しかし「技」の次元が違いすぎた。
エレンの渾身の横薙ぎを後ろに飛んで躱すシューベルト。しかし、エレンはその着地の瞬間を逃さない!
エレン「くらえボケぇ!!!!」
**ゴォォォーーーーーーッ!!!**
エレンの掌から放たれた、龍の咆哮のごとき巨大な直線火焔。それが、空中にいたシューベルトを完全に飲み込んだ。
ジェームズ「こ、これはやったか!?」
エリーゼ「エレンさん凄い……あのシューベルト様を……!」
しかし、紅蓮の炎が晴れたとき、一同は愕然とする。
そこには、煤一つ付いていないシューベルトが平然と立っていた。彼の手に握られた魔剣が、妖しく、そして不気味に光り輝いている。
シューベルト「悪いが……俺様には炎の攻撃は効かねーんだよ!!!」
---
絶望を突きつける事実。そこから再び、シューベルトの「一方的な」猛攻が始まった。
もはや袋叩きである。エレンの巨剣は空を切り、シューベルトの刃が彼女の肉体を確実に削っていく。
エレン「ぐはっ!? く……くそっ!!」
シューベルト「これで終わりだ!! 剣技・未完成!!」
それは、あえて型を持たぬことで完成させた変則の極致。
重力を無視したような軌道から繰り出された力強い一撃が、エレンのガードを強引にこじ開け、その胸元へ直撃した。
**ドォーーーン!!!**
再び城壁へと激しく叩きつけられるエレン。だが、今度は土煙の中で、彼女はピクリとも動かなくなっていた。
---
ジェームズ「エレンちゃん!!!」
シューベルト「今のはまともに。入ったぜ? 意外と手こずらされたが、もう終わりだ。さあ、とっととセシリアを出せ!!」
勝利を確信し、踵を返そうとするシューベルト。しかし、背後の「気配」が消えていないことに気づき、眉をひそめる。
シューベルト「……ああん? 何だ、フルーティ(エリーゼ)?」
エリーゼは何も答えず、ただ一点を指差していた。
シューベルトが振り返ると、そこには、ボロボロになりながらも……口元に「不敵な笑み」を浮かべて立ち上がる女の姿があった。
エレン「……。……いい加減にしろよ、週一オムライス野郎……」
その姿はまさに、どれほど踏まれても、どれほど理不尽な税金を課されても立ち上がってきた「最強の一般市民」の歴史そのもの。
エレンの瞳には、もはや怒りを超えた「生活者としての意地」が宿っていた。
---




