第88話:明日は来るよキミのために
第88話「明日は来るよキミのために」
ノルフェアの夜。華やかなネオンが踊る繁華街の入り口で、ブキャナンは思わぬ再会に目を丸くしていた。
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ブキャナン「カリンちゃん!?」
カレン「ブキャナンさん久しぶり〜!!」
「カリン」に扮したカレンに誘われるまま、二人はハンバーグ専門店へ。
カレン「騎士団グッズのプロデュースもしてるんだ〜? ブキャナンさんって何でも出来るんだね!」
ブキャナン「いやいや、全てはカレン様の手の平の上だよ。……あ、俺はカリンちゃんグッズを売りたいんだけど、やらない? 絶対人気出るよ!」
カレン「わたしはイヤだな〜。目立つことはしたくないの」
ブキャナン「そうなんだ?もったいないな、カリンちゃんめちゃめちゃ可愛いから絶対にグッズ売れまくりなんだけどなー」
カリン「エヘヘ、カリンは可愛くなんかないですよーだ、褒められてもアイドルになんかならないもん」
ブキャナン「じゃあ、俺と一緒に参謀の仕事をやってみない?カリンちゃん参謀の素質すごくあるもんね」
和やかな会話の中、ブキャナンは再び彼女を参謀の道へと誘う。
しかし、その問いがカレンの「蓋をしていた記憶」をこじ開けてしまった。
カレン「カリンの家ね……皆そういう系統の仕事だったの。パパもママも、歳の離れた二人のお姉ちゃんも。……ある地方の軍の、凄い参謀だったんだよ」
ブキャナン「……だった、って……?」
カレン「……地方の戦争で死んじゃったんだ。カリンの自慢のお姉ちゃんたちだったんだけどね」
凍りつく空気。カレンは力なく笑いながら言葉を続けた。
カレン「それから、パパとママは変わったの。『お前には才能も素質もまったくない。お姉ちゃんたちと違って落ちこぼれなんだから。その仕事を目指しても無駄だ、お前が一番向いてない。だから、絶対にさせない』って……」
ブキャナン「……っ」
カレン「パパとママの言ってたこと、正しかったよ。……カリンには、向いてないんだよね。アハハ、ごめんね! せっかくの晩ごはんが湿っぽくなっちゃった!」
泣き出した「カリン」を前に、ブキャナンは慌てふためくしかなかった。
正体を見抜く余裕など一欠片もなく、罪悪感に苛まれながらその日は解散となった。
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部屋に戻り、一人で紅茶を啜るカレン。その瞳には、大軍師としての鋭さはなく、ただ傷ついた一人の少女の影があった。
カレン「わたしもバカよね。子供時代のトラウマなんか話す必要なんかなかったのに……」
家を飛び出し、祖母の元で死に物狂いで勉強し、アカデミー特待生を勝ち取った日々。
その後、マキから「参謀になってほしい」と頭を下げられた時、彼女は確信していた。
カレン「両親の言ってたことは正しかったわ。……たぶん、わたしが一番向いてなかった。でもね、もう引き返せないのよ。やるしかないの」
「向いていない」からこそ、誰よりも冷徹に、誰よりも緻密に。
彼女の「えげつない戦略」の裏には、愛する者を失いたくないという祈りにも似た執念が隠されていた。
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しんみりとした空気を切り裂いたのは、遠慮のないドアのノック音だった。
**ドンドンドンドンドンドンドン!!**
セシリア「カレン! へっぽこエレンと回転寿司に行ってきたから、これ土産だ!」
エレン「……夜中にすみません(回る寿司の速度に追いつけず、精神的に摩耗した顔)」
カレン「……。ホントに、あんたは気楽でいいわね。アハハ!」
セシリアの無神経な明るさが、皮肉にもカレンの孤独を溶かしていく。
最強の剣士でありながら最強のアイドルを夢見たシューベルトの過去。
そして、参謀の家系で「最も向いていない」と言われたカレンの現在。
皮肉な宿命を背負った軍師と剣士が、帝都クレイドの地で激突しようとしていた。
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帝都クレイドの重苦しい空気の中、ついに帝国最強の剣が鞘を走った。
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皇帝「シューベルトよ、本当にやるのか?」
シューベルト「十万の中から、まだ『牙』の折れていない五万を選りすぐった。まずは南方の衛星都市を奪還し、その勢いのまま神速でノルフェアへ突っ込む。セシリアとカレン……首魁の二人さえ討てば、戦況などいくらでもひっくり返る」
皇帝「しかし、アレクサンド騎士団は投降兵を飲み込み、今や数十万。いかにお前であっても、五万では死にに行くようなものだ……」
シューベルト「フッ、皇帝。この俺様が、ただの犬死にを選ぶとお思いか? 要らぬ心配だ。……行ってくる」
背を向けて歩き出すシューベルト。その後を追う側近たちは、不安げに小声で囁き合う。
側近A「陛下は……本当は無血開城を望まれていたのでは……」
側近B「これが最期かもしれんというのに、陛下は最後までお姿を見せてはくださらなかったな。いつもカーテンの向こう側だ……」
シューベルト「テメエら、何をコソコソ言ってやがんだ? ぶった斬るぞ?」
側近「ひいいっ! す、すみません!!」
シューベルト「最期じゃねえ! 無敵の俺様がついてるんだ、勝つのは俺たちだ!!」
その叫びは、自らに言い聞かせる誓いのようでもあった。
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一方、クレイドの南。
シューベルトの進軍を完璧に予測していたカレンは、第一次迎撃部隊として「彼女」を送り込んでいた。
宿営地に並べられたのは、戦場には似つかわしくない、どこか家庭的で温かい料理の数々。
オムライス、マカロニグラタン、ブリカマの塩焼き、ポテトサラダ、ポンカレー、だし巻き卵。
「わあ! わたしの大好物ばかりじゃないですかー!! カレン様、わたしの好物知ってたんだー!?」
エレンの脳裏に、出発前のカレンの言葉が蘇る。
カレン『いい? あなたがシューベルトに勝てるとか、生き残るとかなんて、微塵も期待してないから安心して? だけど、あなたは一分一秒でも長く彼を手こずらせて、少しでも多く削りなさい。……地獄でまた会えたら、その時は改めて、たらふくご馳走するわ』
それは、カレン流の「死に装束」の贈り方だった。
エレン「おいしい……。全部めちゃめちゃおいしい! おいしいよぉ……!!」
とびっきりの笑顔を浮かべながら、大粒の涙をボロボロとこぼし、大好物を口に運ぶエレン。
一般市民にとっての「最高のごちそう」が、これから始まる凄惨な防衛戦の幕開けを告げていた。
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帝都クレイドの重厚な城門が開かれたその瞬間から、カレンが書き上げた「地獄の台本」は動き出していた。
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密偵「前方にアレクサンド軍! 総勢約二万!」
シューベルト「そんなもん、見りゃ分かる。……先鋒の大将は誰だ?」
密偵「……龍神エレンの旗印かと……」
シューベルト「エレンだと? ちっ! セシリアじゃねーのかよ……!!」
舌打ちするシューベルト。彼の懸念は、セシリアに辿り着く前に他の幹部に「削られる」こと。
そして、カレンが用意した布陣は、まさにその「最も嫌なシナリオ」の体現であった。
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一方、遥か後方のカレン本陣。冷徹に戦況を見つめる軍師の脳裏には、昨夜の「えげつない」光景が浮かんでいた。
セシリア『明日、西方の街で「世界のペナントフェスタ」が開催されるだと!?』
カレン『フフフ、それ、前売りチケットがないと入れないわよ?』
セシリア『ぐぬぬ……! 誰か、誰かチケットを持っておる者はおらんのか!』
カレン『あら、偶然ね、わたし持っているわよ? 欲しいかしら? 欲しいわよねぇ? フフフ……』
(※セシリアを「限定グッズ」で後方に縛り付け、最前線のエレンを極限まで追い詰める。カレンの采配は、もはや味方にすら容赦がない。)
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エレンの陣。そこには、震える手でおにぎりを握る一人の少女がいた。
エレン「……あ、あれが帝国最強の……。わ、わたし死んだ。間違いなく、死んだぁ……」
最後だと悟ったエレンは、カレンからの「梅おかかおにぎり」を頬張り、シルフィからの差し入れである「おーい青汁茶(※おそらく不健康を一切許さない配合)」で流し込む。
絶望と、おにぎりの塩気と、青汁の苦味。
そのすべてが彼女の体内で混ざり合った時、何かが臨界点を超えた。
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シューベルト軍、近衛隊長「絶対に龍神エレンをシューベルト様に近づけるな! セシリアと当たるまで温存させるのだ!!」
その言葉をかき消すように、ドォォォーーン!!という凄まじい衝撃波が近衛隊の中央に叩きつけられた。
爆炎の中から現れたのは、いつも泣きべそをかいていた「へっぽこ」ではない。
瞳を真っ赤に染め、全身に雷鳴と暴風を纏った、真の「龍神エレン」の姿だった。
エレン「わたし参上!!!!!」
その横には、なぜか首根っこを掴まれ、ズタボロの雑巾のように引きずり回されているジェームズの姿が。
エレン「おい! へっぽこジェームズ!! どいつがシューベルトだ!!?? このわたし自ら、ぶった斬ってくれるわぁぁぁ!!!」
怒気と殺気、そして「死ぬ前に一発ぶち込んでやる」というヤケクソの覇気。
シルフィが「おーい青汁茶」混ぜたのは例の青汁カクテルである、それによって龍神モード怒り上戸バージョンが発動したのだ。
最強の貴公子を前に、最強に「キレた」龍神が牙を剥いた。
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戦場に響き渡るのは、咆哮か、あるいは怨嗟の声か。
「おーい青汁茶(アルコール入り)」によって、日頃の「不幸」がすべて「怒り」へと変換されたエレンの進撃は、誰にも止められなかった。
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エリーゼ「ハァハァ……やっと追いついた。エレンさんとジェームズさん、早すぎですよ……」
ジェームズ「……俺が早いわけではない……。俺はただ、時速百キロで引きずられていただけだ……(死んだ魚の目)」
帝国軍近衛隊長「こ、こいつがアレクサンドの龍神エレンか……! かかれ! ここで討ち取れ!!」
エレン「うっせぇ!! シューベルト出せやコラァ!!!!」
詠唱? 精神統一? そんなものは酒(青汁)と一緒に飲み込んだ。
エレンの手から放たれる火球、雷球、氷塊の雨あられ。無詠唱かつ無秩序。
「こいつ、めちゃくちゃだ!?」と戦慄する帝国兵百人が一斉に斬りかかるが、エレンはそれを「うぜぇんだよ!!」の一言で一蹴する。
ドカァァァン!!!
かつてのセシリアの『百花繚乱』を彷彿とさせる、あるいはそれ以上に「雑で破壊的」な乱舞。
吹き飛ぶ帝国兵たちを背に、エレンの怒号が戦場に響き渡る。
エレン「テメエら帝国が攻め込んで来やがったせいで!! わたしの公務員内定が、取り消されたじゃねーかぁぁぁ!!!! 覚悟しやがれコラァ!!!」
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史上最強の「一般市民」‥‥。
エリーゼ「す、凄い……エレンさん、こんなに強かったんだ……」
ジェームズ「……だから、護衛は必要ないって……言っただろ……」
傷の手当てを受けるジェームズを他所に、二千人の近衛隊が、たった一人の「怒り上戸の一般市民」に蹂躙されていく。
龍の咆哮のごとき火焔が近衛隊長を掠め、戦場はもはや一人の女の「酒癖の悪い飲み会(大荒れ)」と化した。
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カレンの陣。遠眼鏡を覗くカレンの隣では、フルーレが退屈そうに出番を待っていた。
カレン「凄いわね、まるで一昔前のセシリアみたいだわ」
フルーレ「私の出番はまだっすかね?」
カレン「……。いよいよ、出てきたわよ」
砂塵の向こうから、一際鋭い覇気が立ち昇る。
近衛隊をなぎ倒され、ついに帝国最強の「貴公子」が重い腰を上げた。
シューベルト「おいテメエ……。派手に暴れてくれてるじゃねーか」
エレン「ああん? ……テメエが、シューベルトかぁ?(ヤンキー風に睨みつける)」
ゼッターランド帝国が誇る「大陸十傑」シューベルト。
対するは、龍神の異名を持つ、アレクサンド最強の「一般市民」エレン。
有史に残る、そしておそらく後世の歴史家が「あまりに支離滅裂すぎて記録に残しづらい」と頭を抱えるであろう決戦の幕が、今、上がる。
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