第86話:アスファルトに咲く花のように
第86話「アスファルトに咲く花のように」
帝都クレイドの「推し活禁止令」という名の抵抗は、カレンの次なる一手によって無惨にも粉砕されようとしていた。
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撤去しても、撤去しても。翌朝には新たな笑顔で街を占拠するアレクサンド騎士団のパネルたち。
そこに、追い打ちをかけるように投入されたのは、新ユニット「副師団長ズ」の全身パネルだった。
市民「うおおお! このグレー髪の美女、フルーレ様かと思ってたら『サーヴェル』ちゃんっていうのか!?」
若手兵士「アレクサンド騎士団、レベル高すぎだろ……。もう戦うとか無理だわ……」
フルーレとサーヴェルの「似て非なる」美しさが、禁じられていた市民たちの情熱に再び火をつける。
禁止令を出せば出すほど、希少価値が高まり「闇取引」まで始まる始末。カレンの思惑通り、帝都の士気はもはや底が抜けていた。
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ショパンずラボでは、モーツァルトがカレンの「リリース・タイミング」の完璧さに戦慄していた。
モーツァルト「効果的に若い兵士層の士気を削いでいる……。これが、戦わずして勝つということか」
ブキャナン「ええ。フィギュアの製作も順調ですよ。モーツァルト様なら、すぐにカレン様のテンポについていけます」
一方、当のカレンはバッハや将軍ズと共に、別の「戦略物資」の監修に余念がなかった。
カレン「『住み良い街ノルフェア・完全バリアフリー化未来予想図II〜きっと何年たっても〜』。このポスター、フォントをもう少し優しくして。……それとバッハさん、『ニャンニャンセンター〜猫といっしょに明るい未来〜』の仕上がりはセシリアに確認してちょうだい」
バッハ「さすがカレン様! 我々のPRまで考えてくださるとは! これまで以上に頑張りますよ!!」
ブラームス&ヴィヴァルディ「……公務員の福利厚生をPRするポスターまで。天国のエレンちゃんも、きっと喜んでいるはずだ……!!」
※エレンは公園でセシリアブートキャンプを敢行させられながら生きています。
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モーツァルトの脳裏に、かつてのハイドンの言葉が蘇る。
『支配下になった街の民は、我々の味方になる民です』
モーツァルト「私は……本当の馬鹿だったな。民を愛せぬ者に、真の勝利などあるはずがないのだ」
その傍らで、マキもまた、この「平和な侵略」の景色を見つめて自問自答していた。
マキ「カレンよ……。剣一本で生きてきた私も、間違っていたのか……? 戦後こそ、真の……むぐうっ!?」
感傷に浸ろうとした瞬間、リノの濃厚なディープキスがマキの思考を物理的に停止させた。
リノ(思念)「マキ様ぁ〜! おはようのチューですよぉ〜! てへっ♡」
マキ「ぷはっ! ……変態は悩みがなくていいな!!!!(怒)」
リノの無尽蔵な愛(蹂躙)に窒息しかけながら、マキは「やはり世界は狂気に満ちている」と確信するのだった。
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帝都クレイド。カレンの「芸能侵略」によって内側から腐食し始めていた巨大要塞に、一筋の烈風が吹き抜けた。
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ざわつく十万の兵を前に、大広場の壇上に立ったのは大陸十傑の一角、
三英雄の中でも最強の武を誇ると謳われる貴公子、シューベルトであった。
シューベルト「よお、お前ら。俺様が何でお前らを集めたか、分かってるよな?」
十万の軍勢が固唾を呑む。
シューベルト「セシリア・ローランドとかいう女がメンデルとショパンを倒し、この帝都が包囲された。……だからどうしたって言うんだ?」
一瞬で静まり返る広場に、彼の怒号が響き渡る。
「この俺様が、セシリアという女に負けるとでも思ってんのか……? ふざけたこと言ってんじゃねえよ!!!!!」
その圧倒的な自信。絶望的な状況を幾度も覆してきた「不敗の神話」が、兵士たちの冷え切った心に火を灯す。
シューベルト「俺様がいる限り帝都クレイドは無敵だ! お前らは俺を信じていればいい。勝つのは、ゼッターランド帝国だ!!!」
「「「オオォォォーー!!!!!」」」
一瞬にして塗り替えられた士気。暴力的なまでのカリスマ性が、帝都を再び鉄の要塞へと変貌させた。
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だが、軍事的な士気が最高潮に達したその直後、クレイドの街中では別の意味での「熱狂」が爆発していた。
女子高生「ブラームス様のアクスタください!」
主婦「私はバッハ様のポスターを二十枚!」
熟女「ハイドン様のアクスタとポスター、百個ずつ買うわ!!」
ショップに殺到するあらゆる年齢層の女性たち。彼女たちの視線の先には、カレンが仕掛けた「禁断の劇薬」が貼られていた。
『将軍ズ総選挙! あなたの推しをセンターに!』
シューベルトが兵士の「闘争心」を煽るなら、カレンは市民の「独占欲」を煽る。軍事的な結束を、経済的な「推し活」という名の混沌で粉砕し始めたのだ。
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ショパンずラボ。その狂気じみた光景を魔法鏡で見ていたモーツァルトは、もはや恐怖を通り越してカレンに敬意を抱いていた。
モーツァルト「シューベルト様の鼓舞を逆手に取り、市民の関心を別の方向へ逸らす……。既にこの『総選挙』を用意されていたとは。カレン様、なんと恐ろしいお方だ」
カレン「モーツァルトさん、驚いている暇なんてないわよ? ……これを見てちょうだい」
カレンが差し出した中間集計の表。そこには残酷な数字が並んでいた。
カレン「あなた、現時点で最下位なんだから。 早く何とかしないと、ポスターの端っこにも載らなくなるわよ?」
モーツァルト「(絶句)……。わ、私を捨て駒にしたのはあなたでしょう!? ……いや、それより、この順位をどうにかせねば……!」
かつての大参謀は、軍事戦略よりも「どうすれば好感度が上がるのか」という、人生最大の難問に直面するのであった。
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「将軍ズ総選挙」で帝都の女性層を制圧したアレクサンド騎士団。だが、カレンの「芸能侵攻」は止まる所を知らない。
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皇帝が大臣たちと対策を練る最中、帝都の壁を埋め尽くしたのは、歴史にその名を刻むことになる伝説のユニットポスターだった。
センターには「美しき歌姫」エリーゼ。
そして彼女を固めるのは、ショパンずラボが誇る精鋭アイドルたち。
ルマンド、リエール、ルーベラ、そしてロリィ。
**「アレクサンド騎士団・超カワイイ♡過激な歌劇隊」**
元々絶大な人気を誇る5人がアレクサンドの制服を纏ったという事実は、帝都の男性層を狂喜乱舞させ、ショップには商品が届く端から消えていく社会現象が勃発した。
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ショパンずラボでは、最下位からの脱却に必死なモーツァルトが、カレンに新たな戦略を提案していた。
モーツァルト「カレン様! クレイドの兵士たちの心を取り戻すため、『アレクサンド騎士団幹部総選挙』を実施してはいかがでしょうか!?」
ショパン「……。モーツァルト、私はそれに賛同しない。というか、やるなら一切関与しないからな? 分かったな?」
ショパンの顔は引きつり、冷や汗が流れている。
カレン「あら、いい発想だわ。私が帝国の参謀なら、間違いなくやるわね」
モーツァルト「え? ええっ!? な、何ですか、私は敵ではありませんよ!?」
カレンは残酷なまでに美しい微笑みを浮かべた。
カレン「やってもいいけど、恐ろしく凄まじいことになるわよ? ……こっち(幹部側)がね」
ショパン「新参の私でも、容易にその『修羅場』が想像できる……」
カレン「そしてモーツァルトさん。あなたは間違いなく命を落とすわ。順位が低かった、あるいはセンターになれなかった幹部全員による『全方位嬲り殺し』……。フフフ、楽しみね」
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ブキャナン「それではモーツァルト様プロデュースで、さっそく企画の実施に取り掛かりますね」
無表情に電話を手に取り、広告会社へダイヤルを回そうとするブキャナン。
モーツァルト「ま、待ってくれ!! ブキャナンくん、それは却下だ! 却下!! え? 待って、電話しないで! ごめん! 今までのことは謝るし、ラーメン奢るから! な? 俺たち仲良しじゃん!!」
プライドを捨て、元部下に縋り付く大参謀の姿に、マキは静かに戦慄した。
マキ「なんという恐ろしい光景だ……。また一人、新たな不幸キャラが増えておるではないか」
リノ(思念)「マキ様だけですよ? 幸せ絶頂キャラは♡ さあ、後でいっぱい絶頂しましょうねぇ〜?」
マキ「誰かこの変態魔道士を今すぐ牢にぶち込んでくれ!!(切実)」
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ノルフェア、ショパンずラボ。
そこには、連日の徹夜作業と玩具メーカーとの熾烈な打ち合わせの末、ついに「奇跡」を形にした男がいた。
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モーツァルトが、カレンに「命を落とすわよ」とまで言わしめた幹部総選挙の恐怖を払拭するため……否、かつて己の策で傷つけたフルーレへの「償い」として最優先で製作させた二体のフィギュア。
それは、最新技術を用いた3Dスキャンと職人の手作業が融合した、文字通りの「芸術品」であった。
隊服の微細なシワ、風に揺れる髪のハネ具合、そして凛とした眼差し。
モーツァルト「素晴らしい……! これだ、これこそがフルーレ様、そしてサーヴェル様の真の姿だ! 担当さん、ありがとう! 無理な注文によく応えてくれた!!」
玩具メーカー担当と固く握手を交わすモーツァルト。帝国No.1人気を誇るフルーレの「本物」を世に出せることは、メーカーにとっても職人としての矜持であった。
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モーツァルトは、フルーレを驚かせ、そして喜ばせるために、発売日までこの情報を完全にシークレットにしていた。
そして当日。ノルフェア最大のショッピングモールの特設売り場。一部の熱狂的な情報筋しか知らないはずの先行販売だったが、解禁直前には建物を取り囲むほどのファンが大行列を作っていた。
販売員「フルーレフィギュア&サーヴェルフィギュア、先行販売……スタートです!!!」
「うおおおお!!」「こっちだ!」「二体セットでくれ!!」
解き放たれたファンたちが雪崩のように押し寄せる。その熱狂ぶりは、帝都の包囲網すら忘れさせるほどだった。
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モーツァルトに招待され、お忍びで(のつもりで)やってきた騎士団幹部一行。だが、目の前の人だかりに立ち尽くしていた。
セシリア「……むうっ。これでは、わたしの分が買えぬではないか。おい、カレン」
カレン「分かっているとは思うけど、セシリア。フィギュア欲しさに民を吹き飛ばしたりしたら、絶対ダメだからね?」
セシリア「……。な、……ダ、ダメなのか?(※本気でやろうとしていた)」
カレン「当たり前でしょ。大英雄がフィギュアの列で暴動を起こしたなんて記事、後世に千年語り継がれるわよ」
セシリアは震える手で大剣の柄を握り、目の前の行列と、軍師の忠告の間で激しく葛藤していた。
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熱狂の嵐が去った特設会場。カレンの予言通り、台の上には塵一つ残っていない。……と思われたが、そこに残されていたのは「残酷なまでの真実」だった。
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モーツァルト「本当はいけないんですけどね。幹部の方々のために、一人二体ずつ確保しておいたんですよ」
得意げに現れたモーツァルトから手渡された袋。フルーレがニコニコしながら最初に取り出したのは、相棒であるサーヴェルのフィギュアだった。
【限定モデル 1/6スケール:剣士師団副師団長サーヴェル・ロギンス】
「驚異のGカップ。バスト94の大迫力ボディを細部に至るまで精密に再現!」
「す、すごい出来栄えだ……」
幹部たちから溜息が漏れる。隊服の隙間から覗く肌の質感、破裂しそうな布地の張り具合。モーツァルトの「執念」が結実した傑作である。
しかし。フルーレがもう一体、自分自身のフィギュアを取り出した瞬間。ノルフェアの空気が「零下」まで凍りついた。
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#### 禁断のキャッチコピー
【限定モデル 1/6スケール:剣士師団師団長フルーレ・フォスター】
「驚異のAAカップ。バスト78のあの起伏のない滑らかボディを精密再現! 空気抵抗を極限まで抑えた奇跡の体型!」
モーツァルトは青ざめた。造型のクオリティに拘りすぎるあまり、玩具メーカーが「親切心」で付け加えたパッケージの惹句まで確認していなかったのだ。
フルーレ「……。モーツァルト。……貴様、ちょっと話があるっす」
声が低い。あまりにも低い。
だが、悲劇はそれだけで終わらなかった。
セシリアが興味本位で台の横に隠された布を剥ぎ取ると、そこには見上げるほどの「フルーレフィギュア」の在庫が積まれていた。
セシリア「ん? これはフルーレの山ではないか。……まさか売り切れたのはサーヴェルだけで、フルーレは売れ残ったのか!?」
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カレン「……。モーツァルトさん。二体同時リリースは、常に『人気の格差』が可視化されるリスクがあることぐらい、考えなかったの……?」
セシリア「……案ずるなフルーレよ。この在庫はすべてエレンに買い取らせる。な? エレン、いいよな?」
エレン「ええっ!? な、なんで私に振るんですかぁー!!」
リノ「フルーレ様、カワセミは極限まで空気抵抗を抑えた究極のフォルムと言います。誇ってください! ね、エレン様?」
エレン「は、はいぃっ!! ……だからなんで私に振るんですかぁー!!」
フルーレ「モーツァルト。そしてエレン。……ちょっと、裏まで一緒に来るっす」
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一時間後。
そこには、全身を切り刻まれたかのようにボロボロになったモーツァルトと、自分の給料数年分に相当する「フルーレフィギュアの在庫」を抱え、泣きじゃくりながら帰路につくエレンの姿があった。
エレン「……うぅ。……空気抵抗がないのは……いいことなのにぃ……(号泣)」
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