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第85話:涙の数だけ強くなれるよ

第85話「涙の数だけ強くなれるよ」




帝都攻略の譜面を前に、二人の知性が火花を散らす。しかし、その緻密な計算さえも、アレクサンド騎士団の「現場力」が置き去りにしていく。


---


ハナの諜報員が影から現れ、簡潔に告げる。


「隊長ズと副師団長ズ、ただいま帰還。帝都クレイドの四つの衛星都市、すべて制圧成功です」


カレン「……モーツァルトさん。わたしの軍略の勘も、最近鈍ってきたみたい。明日の朝だと思っていたのに。早すぎるわね」


モーツァルト「(絶句)……。クレイド攻略の前に、まず周辺四都市をどうするか相談しようとしていたのですが。……もう、終わっていたのですか」


カレンの「盤面」は、本人が意識する以上に加速している。もはや帝国に、彼女の指先を止める術はない。


---


一方、フルーティの控え室は、戦後処理のアイデアが渦巻く異様な熱気に包まれていた。


* **マーラー&ラヴェル:** 「ノルフェアのバリアフリー化と最新ハザードマップこそ、未来の礎だ!」と都市計画を熱弁。


* **バッハ&リスト:** 「保護猫センターの配置は完璧だ。あとはパティシエ育成ギルドの設立……」とスイーツの未来を模索。


* **ヴィヴァルディ&ブラームス:** 「……ノルフェアの職場環境、良すぎる……」「公務員に、こんなに光が当たるなんて……」と、これまでの苦労を思い出し、互いに泣きながら酒を酌み交わす。


---


控え室の奥、バーボンのグラスを傾けるハイドンとメンデル。その隣で、ショパンは頭を抱えていた。


ショパン「……。何を、どこからツッコミを入れたらいいのやら……」


そこへ、流れるような手つきでロックグラスを作ったエレンが歩み寄る。


氷とバーボンが触れ合う涼やかな音。彼女は、すべてを許す聖母のような、あるいは全てを諦めた解脱者のような微笑みを湛えてグラスを差し出した。


エレン「……。ツッコミを入れたら、負けです。(微笑)」


ショパン(……。帝国で『恐怖の龍神』と恐れられていたこの子が、実は世界で一番、不幸な星の下に生まれてきたのではないだろうか……)


---


その頃、マザーズルームでは――。

リノの小さな胸に顔を埋められ、物理的に「蹂躙」されているマキがいた。


マキ(ふん、まだまだだな……。エレンなど、不幸キャラの中では最弱……!!)


リノの愛情(お仕置き)という名の地獄に浸りながら、元最強の剣士は、己の不幸の「格」の違いを誇示するように目を閉じるのであった。


---


静寂の控え室で語られる「王の器」の真実。しかし、その高潔な評価が下される一方で、現実の器は「風呂桶」のレベルで暴走していた。


---


ショパン「……セシリア。彼女はいったい何者なんだ? どこまで戦場を把握していた……?」


メンデル「アハハ、セシリアちゃんかい? あの子を理解するのは難しいよ」


ハイドン「傍若無人、無礼千万、支離滅裂、予測不能……ひとことで言えば『女版ジャイアン』。ただ、素晴らしい人格者であることは私が命を賭けて保証しよう」


ショパン「……。保証の重みと、前半の酷評の落差が凄まじいな」


メンデルの瞳に、少しだけ真剣な光が宿る。


「ショパンくんが街を庇って投降するのはカレンちゃんの計算通り。だけど、あの一騎打ちはセシリアちゃんの我儘だよ。君のような英雄が、ただ無気力に降伏したという汚名を残すのが許せなかったんだ。……最後は正々堂々と敵の大将と渡り合った。そう民に見せたかったんだと思うよ」


ショパン「……。完敗だ。本当に……」


ハイドン「私は彼女のためなら命を賭けてもいい。心からそう思っているよ」


---


その頃。三将軍が絶賛していた「王の器」ことセシリアは、近隣のスーパー銭湯で店長に詰め寄られていた。


店長「勝手に大浴場の温度を上げないでください! もう出禁ですよ!!」


セシリア「ふん、それは私ではない。このハナが勝手にやったことだ!」


ハナ「ボクじゃないよー! セシリア様が指示して、フルーレがボイラー室に突撃したんじゃん!!」


フルーレ「……。知らないっすね。全部このフルーティが勝手にやったことっすよ」


エリーゼ「ええっ!? 私は無理やり熱湯風呂に漬け込まれて死にかけていただけですよー!!」


追い詰められた「器の大きな」将軍は、邪悪な笑みを浮かべた。


セシリア「フフフ……。今すぐ、へっぽこエレンをここに呼べ。……すべては、あいつの指示だ」


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控え室で平和にバーボンを作り、「悟り」を開いていたエレン。


一本の電話で呼び出され、颯爽と(?)出かけて行った彼女だったが、数十分後。


エレン「…………。うっ……うわぁぁぁぁん!!」


顔を真っ赤にし、全身から湯気を上げながら、泣きじゃくって帰ってきた。


身代わりに店長に絞られ、熱湯の責任をすべて背負わされた「恐怖の龍神」の姿に、ショパンは静かにグラスを置いた。


ショパン(……。やはり、彼女が世界で一番不幸だ。異論はない)


マキ(ふん。体中から湯気が出る程度で泣くとは、まだまだ甘いな……。私など、リノの愛(物理)で魂が蒸発しかけているというのに)


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ノルフェアの朝は早い。まだ夜の帳が落ち切らぬ午前5時前、広場には「朝の爽やかな運動」とは程遠い、殺伐とした空気を纏う一行が集結していた。


---


メンデル「ショパンくんとエリーゼちゃんもよく来たね」


ショパン「朝5時からジョギング……。軍人なら珍しくはないが、わざわざ集まる意味があるのか?」


ハイドン「セシリア様の日課らしいからな……。郷に入っては郷に従えだ」


アンドリュー「エリーゼちゃんは、ジョギングは大丈夫なの?」


エリーゼ「はい。アイドルとして体力作りは欠かさなかったので、毎朝走ってましたし大丈夫ですよ!」


ジェームズ(……。普通のジョギングだと思って来ているみたいだな。……可哀想に)


そこへ、眠気で魂が抜けかけたエレンの首根っこを掴んで引きずるセシリアが現れる。


セシリア「ふん、みんな揃っているな。へっぽこエレンがまた『寝かせてくれ』と泣き言を言っておったから、引きずって連れてきたぞ」


エレン「うぅ……おうちに……布団に帰らせてください……」


セシリア「さて、揃ったところでスタートだ。……最下位だった奴は、今日一日わたしの『組手』の相手をしてもらうからな?」


ジェームズ(初参加の一般人まで入れておいて、それは鬼畜すぎるだろ……!)


---


開始から数十分。ジョギングは、もはや「走る」というより「命を削る」競技へと変貌していた。


アンドリュー「ハァ、ハァ……! くそっ! このままでは組手(死)が……!」


ジェームズ「ハァ、ハァ……! しぶとい奴め、頼むから転べアンドリュー! お前が相手をしろ!!」


ハイドン「ゼェ、ゼェ……。あの四人(十傑と龍神とトップアイドル)は、なぜ……あんなに早いのだ……!?」


一時間後。ゴール地点には、文字通り燃え尽きた男たちが倒れ込んでいた。


エリーゼ「ハァ、ハァ……。メンデル様とショパン様が早いのは知ってましたが……エレンさん、凄すぎですよ……!」


エレン「ハァ、ハァ……。エリーゼさんこそ、アイドルとは思えない脚力……。油断したら、組手の生贄にされますね……」


二人の背後で、セシリアが氷のように冷たい(楽しげな)笑みを浮かべる。


セシリア「さて……ジェームズ。ゆっくり、じっくり、組手の相手をしてもらうぞ?」


ジェームズ「…………。(遺書、書いておけばよかった)」


---


その頃、帝都クレイドでは、カレンの放った「視覚戦術」が驚異的なスピードで成果を上げていた。


騎士団幹部と将軍ズの全身パネルは、ただの宣伝物から、市民たちの「希望」へと変わりつつある。

「戦う必要なんてない」「この人たちが来るなら、むしろ歓迎だ」

そんな空気が、兵舎から居酒屋の隅々にまで浸透していく。


カレンが譜面に描いた「無血開城」への旋律は、もはや皇帝にも止めることはできない。


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朝日が差し込むノルフェア森林公園の片隅。そこには、およそ戦士の訓練とは思えない、奇妙に「微笑ましい」光景が広がっていた。


---


身の丈ほどもある巨大な大剣を、まるでおもちゃのように片手で軽々と振り回す、甘えん坊な表情の可愛らしい少女。


そして、「まったく、お前はしょうがないなぁ」と言わんばかりの優しい苦笑いを浮かべ、大剣を構えて準備運動をする青年。


ショパン「……。これから『組手』をやるんだよな?」


メンデル「アハハ、はたから見ればデートに見えちゃうのが、この二人の面白いところなのさ」


ベンチではエレンとエリーゼが、特製青汁スポーツドリンク「アオジリアス」を飲みながら、「あ、始まるよー!」「頑張れー!」とキャッキャしながら観戦ムード。


一方、芝生の上ではジョギングで燃え尽きた二人がピクリとも動かず、先ほどまでの「狂気の死走」の凄絶さを物語っていた。


---


セシリア「それでは始める。全力でいくぞ!!」


その言葉と同時に、セシリアの全身から琥珀色のオーラが爆発的に噴き出す。それは彼女が本気で「獲物」を狩る時の色。


**ギィィィィン!!!**


ジェームズ「いきなりこれかよ……。俺、また死んだな……」


振り下ろされた大剣の一撃を、辛うじて両手で受け止めるジェームズ。だが、地面にめり込むほどの重圧に、彼の筋肉が悲鳴を上げる。


必死に隙を突いて反撃を試みるが、セシリアは羽虫でも払うかのようにそれを弾き飛ばし、そこからはもう見るに耐えない「人間サンドバッグ」状態へと突入した。


---


エレン「あー。セシリア様があの色の光を出した時は、めちゃめちゃ痛いんですよー?」


エリーゼ「なんか、音が重いっすねー。わたし、ついていけるかなー(ワクワク)」


ショパンは無言でその一方的な蹂躙を見つめていたが、ふとメンデルが問いかける。


メンデル「どうだい、ショパンくんから見て」


ショパン「……ジェームズか。素質が高いとは前から見ていたが……。あの猛攻に、まだ意識を保っているのは驚嘆に値するな」


メンデル「フフフ、まだまだだけどね。セシリアちゃんの『見抜く目』は本当に凄いよね。あの子、才能がない相手には自分から組手なんて誘わないからさ」


エレン「ジェームズさん、頑張ってくださーい!(少しでも長く持ちこたえて、私に順番が回ってこないようにしてくださいっ!)」


アレクサンド騎士団・不幸キャラ部門で不動のトップを走るエレンが、猛烈に追い上げるジェームズへ、切実な(保身を込めた)エールを送っていた。


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