第83話:天才的なアイドル様
第83話「天才的なアイドル様」
ショパンずラボ一階、本来ならアイドルとファンが語らうはずの穏やかな喫茶コーナー。
そこは今、大陸十傑の一人・ショパンにとって、戦場よりも過酷な「公開処刑の場」と化していた。
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テーブルを囲むのは、「冷酷非情・鬼悪魔の軍師」、「恐怖の魔女・壊滅の魔道士」、そして「(自称)お色気絶世の美女」。
ショパン「……。実物の情報も揃ったわけだからな。明日、メーカーに連絡して、さっそくラインナップを作り直すよ……」
カレン「あ、セシリアとエレンをデブでブスに作り直す指示も忘れたらダメよ? フフフ、楽しみだわ」
フルーレ「フッフッフ……。セシリア様とエレンは派手にチビデブに作り直すっすよ。私ばかりお色気美女(中身サーヴェル)扱いされるのは不公平っすからね!」
リノ「思いっきり『トホホ……』な情けない表情にしてあげてくださいね? てへっ♡」
通りすがりにその「悪魔の契約」を耳にしてしまったエレン。彼女は静かに目を閉じ、一筋の涙が頬を伝うのを止められなかった。
エレン「……一日も早く。一日も早く、世界が平和になりますように……(切実)」
マキ「……。なんて恐ろしい奴らだ。冷酷非情、恐怖の魔女……あのキャッチコピー、全く間違っておらぬではないか」
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#### 王都ロザーリアの受難
一方、遠く離れたアレクサンド王国の王宮。
ラーズ国王の執務室には、戦況報告を遥かに凌駕する勢いで「鷹便」の荷物が大量に押し寄せていた。
ラーズ「……なんだ、この巨大な荷物の山は? ノルフェアからの戦利品か?」
部屋を埋め尽くすほどに積み上げられた箱入りフィギュアの山。
そこには『冷酷非情・鬼悪魔軍師カレン』、『恐怖の魔女・リノ』、そして悪意の塊のような『お色気美女フルーレ』のフィギュアが、これでもかと詰め込まれていた。
ラーズ「……。……あいつら、一体あっちで何をやっているんだ……???」
あまりの惨状に頭を抱えるラーズ。だが、その箱の山の中に、たった一つだけ。
二十三歳の全盛期の姿を模した、美しく凛々しい『マキ・クロフォード』のフィギュアが混ざっているのを見つけた瞬間、ラーズ王の目から思わず涙が溢れ出した。
ラーズ「マキ……。お前だけだ、お前だけが私の癒やしだ……」
カレンとリノとフルーレが黒歴史のフィギュアを大量にロザーリアのラーズ王宛に送りつけようとしていた荷物に
マキが買ってもらった自身のフィギュアをこっそり入れていたのだ。
リノ(ちゃーんと見てましたけど、今回はお咎めなしにしてあげましょうかね、てへっ☆)
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カレン(ふふ、これで帝国内のイメージ戦略も、王都への嫌がらせ……いえ、近況報告も完璧ね)
軍師のタクトは、今や戦場を越えて「玩具業界」までも支配しようとしていた。
しかし、本物のサーヴェル副師団長がこの後、街中で「フルーレ様!」とサインを求められ、再び鎧の中に引きこもることになるのを、一行はまだ知らない。
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フィギュアの騒動で賑やかだった喫茶コーナーに、ふっと真剣な空気が流れる。
カレンが紅茶のカップを置き、その鋭い瞳でショパンを射抜いた。
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カレン「フルーレとリノはまたあとでね。さてショパンさん、あとは真面目な話をしましょうか……」
ショパン「……聞こうか。(やはり、今までは真面目ではなかったのか……)」
セシリア「ここからはわたしも参加させてもらうぞ」
隣に腰を下ろしたセシリアの表情には、先ほどまでの「あざといポーズ」の面影はない。
カレン「まずはノルフェアの街と市民を戦火から守るために、あえて野戦を選んでくれたこと。心からお礼を言わせていただくわ」
セシリア「ふん。わたしが聞き集めたお前の人となりなら、間違いなく野戦を選ぶと見え見えだったからな。カレンなんかは特に、攻城戦はないと踏み切っていたようだぞ」
ショパン「……買い被りすぎだ。(セシリアは、大味でがさつな猛将タイプだと聞いていたのだが……。あの戦いの中でも情報の精度をほのめかしていた。繊細な気配りもできる……。一体、何者なんだ、この女は……)」
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セシリア「話というのは、フルーティのことだ。あいつ、剣士としての才覚は底が知れんぞ。それに、剣士の道を諦めきれていない」
ショパン「……それぐらい、知っている」
セシリア「さっきあいつのプライベートルームと専用レッスン室……どちらも見せてもらえてはいないが、剣の匂いがプンプンしていた。おそらく、隠れて訓練しているのだろう?」
ショパンは黙って目を伏せた。アイドルの仮面の裏で、泥臭く剣を振り続けていた少女の孤独を、誰よりも理解していたのは彼だった。
カレン「まあ、率直に言うわ。あの子にはアイドル活動も続けてもらうけど、同時にアレクサンド騎士団にも所属してもらうわ」
ショパン「私は敗軍の将だ。首を跳ねられてもおかしくない身。……その条件は了解した。」
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カレン「エリーゼ・スミス(フルーティ)は、セシリアに鍛えてもらうことに決めたの」
ショパン「……そうか。ならば安心だ。セシリア殿、よろしく頼んだぞ……」
寂しげに微笑み、身を引こうとしたショパン。だが、セシリアがその肩をガシッと掴んだ。
セシリア「何を言うか。お前もアレクサンド騎士団になるのだぞ? お前もわたしの直属だ」
ショパン「……は?」
セシリア「お前があの子に、これまで通り……いや、これまで以上に色々と剣術を教えてやるがいい。……いいな?」
ショパンは驚きに目を見開いた後、自嘲気味に、しかしどこか晴れやかな顔で頷いた。
ショパン「……。恩に着る……」
かつては「帝国」と「アイドル」という枠組みで守っていた弟子を、今度は「アレクサンド」と「剣」という絆で再び育てる。ショパンにとって、これ以上の救いはない。
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ショパンずラボの喫茶コーナーに、一人の少女の「真実の笑顔」が咲いた。
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カレンからの提案を聞いたフルーティ―、いや、エリーゼは、信じられないという表情で手を震わせた。
フルーティ「ありがとうございます! なんてお礼を言えばいいか……」
カレン「フフフ、お礼なんていいわよ。それより、アイドル兼アレクサンド騎士団。相当ハードな生活になるわよ?」
フルーティ「はい! 頑張ります……本当に嬉しくて、嬉しくて……!」
夢と現実の狭間で揺れていた少女に、居場所が与えられた瞬間。
その光景を柱の影からこっそり聞いていたエレンは、感動で目頭を熱く潤ませていた。
エレン「(……なんて素敵な話なの。……あ、もしかして今なら!)」
希望に満ちた顔で、エレンはカレンたちの前に躍り出た。
エレン「あ、あの……! わたしも、『公務員兼アレクサンド騎士団』とかお願いできないですか……!?」
カレン「ダメよ」
セシリア「ダメに決まっておろう」
エレン「うっ……うっ……」
一瞬で叩き落とされたエレンは、大粒の涙を流しながら、一人寂しく廊下を歩き去っていった。彼女の「定時退社」への道は、まだ果てしなく遠い。
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その頃、呼び出しを受けた一行がショパンずラボの正面玄関に到着していた。
ハイドン「……。なんという場所に来てしまったのだ。目が痛いぞ」
バッハ「ふむ、福利厚生は良さそうだ。清掃も行き届いている」
ブキャナン「建物の裏に寮があるそうですからね。……モーツァルト様は、ここへ来られたことは?」
モーツァルト「……初めて来た(青汁の味しかしない顔で)」
アレクサンドの「将軍ズ」が、その厳格な威容でパステルカラーのロビーを歩む。
そこで彼らが見たのは、床に突っ伏して泣き崩れているエレンの姿だった。
ブラームス「エレンちゃん!? どうしたの、誰に泣かされたんだい!?」
エレン「うっ……ぐすん……。セシリア様と……カレン様です……ひっく」
ブラームス「……。(相手が悪すぎる、慰める言葉が見つからない)」
鉄の規律を誇る将軍たちですら、この事務所の「空気」と「人間模様」には圧倒されるしかなかった。
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パステルカラーに彩られた『ショパンずラボ』のロビー。そこは、鉄の規律を重んじる元帝国軍将軍たちにとって、戦場よりも理解不能な「異界」であった。
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ハイドンは、壁一面に貼られた等身大ポスターの前に立ち尽くしていた。
ハイドン「この娘ぐらいは、さすがに私でも知っている。我が軍の若手隊員たちも夢中になっていたからな……ん?」
彼の視線が、その隣のポスターに移った瞬間、鉄の将軍の顔が劇的に引きつった。
ハイドン「うおっ!? な、何だこれは!!??」
そこには、トップアイドル・フルーティと全く同じポーズ、同じ角度、そして同じ「わたし超カワイイ♡」のキャッチコピーを背負った、セシリア・ローランドの姿があった。
モーツァルト「ハイドンくん……。俺、まだ本人に会ってないんだけど、この人があの『鬼神セシリア』なの……?(震え声)」
ハイドン「な、何をやっておられるんだ、あのお方は……!?」
そのあまりの完成度(と、隠しきれない鬼気迫るオーラ)に、事務所のNo.2、No.3のアイドルたちは「社長、またとんでもない大型新人を連れてきちゃった……」と、戦う前から再起不能なほど肩を落としていた。
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「うおっ!? 何なんだこれは!?」
ロビーの奥から、バッハ、ラヴェル、ヴィヴァルディといった将軍ズの叫び声が上がる。
ハイドンたちが駆けつけた先には、もはや引き返せないレベルの「狂気」が展示されていた。
**『アレクサンド騎士団幹部コーナー』**
そこには、カレン、ハナ、シルフィ、リノ、フルーレ、エレン、そしてセシリア。
彼女たちが隊服姿で剣を構え、決めポーズを取る等身大パネルに加えて。
個別に一人一人が決めポーズで映ったポスター。
全員が横並びでセンターを争うような「ユニットPRポスター」までがズラリと並んでいたのである。
メンデル「アハハ! マジウケる!! あどけないっていうか、あの子ららしいや!!」
ハイドン「メンデルさん、笑い事ではありませんよ……。我が軍の威信に関わります……」
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数刻前。カレンは玩具メーカーの担当を呼びつけ、フィギュアの作り直しを命じていた。
しかし、その担当は実物の彼女たちを目にした瞬間、クリエイターとしての本能を爆発させたのだ。
担当「これ、めちゃくちゃ良いですよ! フィギュアは時間がかかりますが、ポスターやパネルならすぐ行けます。これ、絶対に爆売れしますよ! さすがショパン様、目の付け所が天才だ!!」
ショパン「……。いや、私は関与して……」
カレン「(ニヤリ)……。ええ、そうでしょう? 『アレクサンド聖騎士団・グッズ販売』さっそく準備に取り掛かってちょうだい」
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もはや誰もこの流れを止めることはできない。
ハイドンは、フルーティのポーズを真似るセシリアのポスターを直視できず、静かに天を仰いだ。
ハイドン(……。アレクサンド騎士団とは、これほどまでに恐ろしい集団だったのですか……?)
元帝国軍の将軍たちが、パステルカラーの波に飲み込まれていく。
一方、エレンは「等身大パネル」にされた自分の姿を見て、再び「定時退社したい」と泣き崩れるのであった。
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