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第82話:ショパンの芸能プロダクション

第82話「ショパンの芸能プロダクション」




ノルフェアを覆っていた激闘の残響が、静かに霧散していく。勝利の女神は、アレクサンド騎士団にその微笑みを投げかけた。


---


セシリア「さてショパンよ。お前には聞きたいことが山ほどあるぞ!」


ショパン「……少し、休ませてくれ。これ以上は美しくない……」


満身創痍のショパンが溜息を吐く。だが、その背後からさらに冷ややかな声が突き刺さる。


カレン「セシリア。わたしはあんたに、言いたいことが山ほどあるわよ?」


セシリア「……。……少し休ませてくれ。死ぬほど疲れたのだ」


軍師の正論から逃げるように目を逸らす鬼神。その時、ショパンの密偵が慌ただしく駆け込んできた。


密偵「ショパン様、急報です! 前衛で暴れていた全方位魔法攻撃が、たった今終了しました!」


セシリア「ふん。へっぽこエレンめ、派手に暴れおって。遅いぞ」


ショパン(……まだ続いていたのか。あの地獄のような砲火が……龍神エレンとはバケモノか‥‥)


マキ「ふん。結局、全てはカレンの譜面通りか。セシリアの暴走だけは想定外だったようだがな」


---


アレクサンド騎士団は、ついに東部の要衝・ノルフェアへと入城を果たす。


カレン「ここがノルフェア。随分と栄えているわね。……エレン、お疲れ様。さっそく、今夜のホテルの予約をお願いね?」


エレン「……。……『幹部』とは、いったい何なのでしょうね……?(疲労困憊)」


カレン(……これでゼッターランド東部は全て制圧。背後の憂いは完全に断ったわ。次はいよいよ……)


軍師の冷徹な瞳の奥に、次なる巨大な獲物の影が映る。


---


その頃、アレクサンド王国の王都ロザーリアでは、幾羽もの鷹便が空を舞っていた。届いた報せに、街中が祭りのような喧騒に包まれる。


**『セシリア、大陸十傑ショパンを撃破。アレクサンド騎士団、ノルフェア制圧!』**


王宮の窓からその光景を眺めるラーズが、静かに独りごちる。


ラーズ「カレンの奴、この短期間でノルフェアまで……。それに、セシリアか。マキの目に狂いはなかったということだな」


かつてマキが見出し、鍛え上げた「鬼神」の牙。


それが今、大陸の勢力図を根底から塗り替えようとしていた。


アレクサンド王国騎士団は、ついにゼッターランド帝国の喉元に「王手」をかけたのである。


---


ノルフェアの街。そこは戦火が嘘だったかのように、至る所に劇場が建ち並び、華やかな歌声が響く芸能の都であった。


勝利の余韻に浸る間もなく、一行は「敗将」ショパンの案内で街の心臓部へと向かう。


---


セシリア「さあショパンよ、次は『ショパンずラボ』を案内するのだ!」


ショパン「……本当に少しも休ませないつもりなんだな。それに、今の私が顔を出せる場所ではないんだが……」


ボロボロの正装で溜息をつくショパンの後ろには、シルフィとフルーティ、そして避難していたアイドルたちが続く。


さらにカレン、ハナ、エレン、マキを抱っこしたリノ、そして最後尾には「なぜ私がこんなところに……」と言わんばかりの不貞腐れ顔をしたフルーレ。


一行が到着したのは、街の中でも一際異彩を放つ、パステルカラーの派手な看板が躍るビル。


**『かわいいを提供する♡ ショパンずラボ』**


セシリア「……。なんか、凄まじい場所だな。後でハイドンも連れて来よう。あいつの硬すぎる世界観が粉々に砕け散るぞ」


カレン「ショパン、あなたの趣味、凄まじいわね。軍事予算をどこに溶かしていたか一目でわかるわ」


ショパン「……。何も言わないでくれ……」


---


ビル内は「かわいい」の飽和状態。徹底されたパステルカラーの衣装に身を包んだジュニアアイドルたちが、ゼッターランド全域で絶大な人気を誇る理由を無言で主張している。


特に目立つのは、トップアイドル・フルーティの巨大ポスター。

【新曲:わたし超カワイイ♡】のキャッチコピーと共に、究極に「あざとい」ポーズを決める彼女の姿。


セシリア「……。かなりあざとすぎるポーズだな。フルーレの顔でこれをされたら、思わずぶん殴りたくなるぞ(笑)」


フルーレ「完全に風評被害っすよ!! 私、そんなポーズ一度もしたことないっすからね!!」


そう言いながら、セシリアはポスターと全く同じ「あざといポーズ」を完璧にコピーしてみせた。


ショパン「……どっちの方が実害があるんだ。というか、本当にさっきまで私と死闘を演じていた鬼神か、あれは……?」


---


あまりの光景に混乱するショパン。その横に、音もなくエレンが並び立った。


彼女は静かに目を閉じ、悟りを開いた高僧のような深みのある動作で、ゆっくりと首を横に振る。


エレン「……。ツッコミを入れたら、負けです……」


その言葉には、数々の無茶振りと戦場のカオスを最前線で浴び続けてきた強者だけが到達できる、魂の重みがあった。


ショパン(……。実戦経験こそ少ないと聞いていたが、この娘が一番『地獄』を見てきたのだな……)


大陸十傑すら戦慄させる、アレクサンド騎士団の「日常」という名の深淵。


ノルフェアの夜は、戦いとは別の意味で、ショパンの精神を削り取っていく。


---


一行はビルの深部、アイドルたちが日夜レッスンに励むスタジオを巡回する。そこには、戦場の喧騒とは無縁の、純粋に夢を追う少女たちの汗と涙があった。


---


リノ「わたしと同年代の方が多いから、刺激になりますね」


マキ「同年代か。……ふん、この子らは皆、お前らと違って『まとも』な少女だと思うぞ」


リノ(……。はい、お仕置き確定です。中には変態も混じっていると思いますよ? 主にわたしの目の前に)


不穏な思念波が飛び交う中、一行は事務所の最大の収益源であるグッズショップへと足を踏み入れた。


ハナ「すごい! 半分はフルーティのグッズじゃん。やっぱりトップアイドルは扱いが違うね!」


---


ショップの奥深く、エレンが一際異彩を放つ一角を見つけ、絶句した。


エレン「……。**『アレクサンド騎士団コーナー』**? 敵国の騎士団グッズを、帝国で販売しているんですか?」


ショパン「……。まあ、かなり人気が高いからな。玩具メーカーと提携して販売していたのだ」


そこには、騎士団幹部をモデルにした精巧なフィギュアが並んでいた。


ハナ「ボクのフィギュア、かなり良い感じじゃん!」


シルフィ「ウフフ、わたしのもですわ。実物より少しだけ微笑みが深いかしら?」


セシリア「ギャハハ! カレンのフィギュアがめちゃめちゃ笑えるぞ! 悪魔みたいな凶悪な顔でタクトを構えておる! リノのイメージも凄いぞ!? まさしく『恐怖の魔道士』になっておる!! ワハハ!!」


カレン「…………。ショパンさん。あとで、ゆっくりお話しましょうね?」


リノ「ショパンさん、じっくり、たっぷり対談しましょう。てへっ♡」


ショパン「ま、待ってくれ! 写真がないから、様々な噂を元にメーカーが勝手に作ったんだ! 私は直接関与していない!!」


---


ショップの中央、最も輝く場所に鎮座していたのは、不動の売上一位を誇るフィギュアだった。


ハナ「売上トップはマキ様なんだね」


それは二十三歳の全盛期マキに瓜二つの、息を呑むほど完成度の高い傑作。ショパン曰く、帝国全土で爆発的な売上を記録しているという。


だが、問題はその隣。マキに迫る勢いで売れまくっている「第二位」のフィギュアであった。


セシリア「……。売上二位のこれ、誰のフィギュアだ……???」


そこにいたのは、長身で凛々しいグレー髪。妖艶な笑みを浮かべ、推定Gカップという破壊的なスタイルを誇るお色気美女。


台座のプレートにはこう記されている。


**『1/6スケール:フルーレ・フォスター』**


カレン「……。これ、フルーレに似てるの髪色と髪型だけじゃない。顔もスタイルも、そのまんま副師団長のサーヴェルじゃない……」


フルーレ「ショパンンンン!!!! やはり貴様が元凶かっすか!!!! ぶっ殺すっすよ!!!!!」


---


ショパン「うわあああ!? 芸能事務所で真剣を振り回すなー!! 死ぬ! 芸術的に死んでしまう!!」


フルーレの怒りの剣が、パステルカラーの壁を無慈悲に切り裂く。


サーヴェル(鎧でスタイルを封印していたフルーレの部下)のデータをフルーレの名前で売るという、ショパンの「美しい(悪辣な)」マーケティング手法。


エレン(……。やっぱり、ツッコミを入れたら負けですね……。というか、この騎士団に『肖像権』という概念はないのでしょうか……?)


エレンは遠い目で、暴れるフルーレと逃げ惑う十傑を眺めていた。

ノルフェアの夜は、まだ始まったばかりである。


---


「ショパンずラボ」のグッズショップは、もはや戦場以上の緊張感に包まれていた。


アレクサンド騎士団の面々が、自分たちの「歪められた偶像」を前に、それぞれの感情を爆発させている。


---


マキはセシリアに買ってもらった「マキ・クロフォードフィギュア」と「マキ推しタオル」を宝物のように抱えて、ホクホクとご機嫌な様子。


だが、隣のセシリアは悪戯っぽく笑いながら、さらに追加の品をレジへ運ぼうとしていた。


セシリア「マキ様にはあと、この『冷酷非情・鬼悪魔の軍師カレン』と、『恐怖・壊滅の魔道士リノ』もわたしからプレゼントするとしようか」


箱には死神の鎌が描かれ、背景には魔界の業火が燃え盛る、子供が泣き出すレベルの凶悪なイラスト。


ハナ「マキ様がガチで怯えてるからやめてあげてよ? 特に2体目、リノのはシャレにならないくらいヤバいよ」


マキ「……。そ、それはあまりにも恐いからいらないぞ……。間違いなく子供向きではない……。恐すぎる……」


リノ(……。マキ様には『お仕置き』という言葉では生ぬるい、壮絶な蹂躙が必要でちゅねー♡)


リノは、フルーティのイメージカラーである薄緑色のフリフリなベビードレスと、「ショパンずラボ」の提灯を手に、聖母のような(底冷えする)微笑みを浮かべていた。


---


シルフィ「ウフフ、こちらのコーナーもかなり売れているのですね」


ゼッターランド帝国の英雄コーナー。そこには『戦場の貴公子シューベルト』『美麗なるショパン』『華麗なるメンデル』といった、女性ファン垂涎のフィギュアが並ぶ。


……が、その一角に、明らかに空気の違う「なぜ作った?」レベルの在庫の山があった。


セシリア「……。この『大参謀モーツァルト』、めちゃくちゃ性悪そうで凶悪なツラだな。売上最下位なのも納得だ」


カレン「……。ショパンさん。ますます、企画についてじっくりお話ししたくなったわ。いい? 今すぐメーカーに指示して、セシリアとエレンのフィギュアを、思いっきりデブでブスなイメージで発注なさい。今すぐよ!!」


ショパン「……。誰か助けてくれ。もう芸術どころの話じゃない……」


エレン「ぎゃあああ!? わたしまで巻き込まれてるぅ!? 流れ弾がひどすぎますっ!!」


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その頃、ノルフェアのファミレスで夕食を摂っていた副師団長ズは、異様な事態に直面していた。


サーヴェル「な、なぜ皆さん、わたしに握手やサインを求めてくるの!? わたしはただの副師団長よ!?」


ショパンずラボが放った「爆売れ・フルーレ(中身はサーヴェル)フィギュア」のせいで、彼女は一躍、街の時の人となっていたのである。


マキ「ふん。……あいつ、また全身鎧に封印されそうだな」


リノに抱っこされたままのマキが、どこか遠い目で部下の受難を予言した。


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