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第81話:それぞれの野望、そして終幕

第81話「それぞれの野望、そして終幕」




カレンの本陣を囲む一万の兵が、その「異変」に息を呑んだ。


セシリア・ローランドが繰り出していた、あの流麗で「和」の趣を湛えた舞踊剣術――ショパンを翻弄し、圧倒していたはずのその技を、彼女は自ら打ち切ったのだ。


---


セシリアは「鬼王」を正眼の構えに戻すと、何の工夫もない豪快な一撃をショパンへ振り下ろす。当然、ショパンはそれを柳のように受け流した。


ショパン「……何の真似だ?」


セシリア「いや、やはりわたしのスタイルはこれだと思ってな。うん、実にしっくりくる」


ショパン「……ここまで馬鹿にされたのは初めてだよ」


屈辱に顔を歪ませたショパンが、怒涛の舞踏でセシリアを押し返す。


演舞のような鋭い連撃がセシリアの懐に届こうとしたその刹那、再び「鬼王」が荒々しく振り下ろされた。


**キィィィィンッ!!!!**


ショパンは受け流すことができず、その重圧を刀身で真正面から受け止めた。腕が痺れ、大地の土が爆ぜる。


セシリア「ようやく届いたか。このスタイルで貴様に届かないようでは、一生あのマキには届かないと思ってな」


ショパン「また私情か……。美しくないな」


---


その言葉に対してセシリアは呆れたような笑いを含めた表情で返す。


セシリア「ショパンよ、貴様は嘘つきだ。フルーティの泥臭く必死に頑張っていた生き様を見て、心を打たれ、手を差し伸べた。……そうだったのであろう?」


ショパン「違うと言っているだろうが……」


セシリア「本気で来い、ショパン!! 本気の貴様と戦いたくて、わたしはここに来たのだ! 魔剣も何も使わぬ貴様に勝っても、わたしは何一つ嬉しくない!!」


沈黙するショパン。その心臓を射抜くように、セシリアは最高の「特効薬」を告げた。


セシリア「ショパン、貴様に良い知らせだ。……フルーティが目を覚ましたぞ。わたしの魔道探知は優秀だ、間違いない!」


ショパン「……っ! ……くっ、余計な世話を。……まあ良い。我が魔剣『アクア』の力、真の英雄ポロネーズを見せてくれるわ!!」


---


大陸十傑ショパンがついにその本性を現す。水の魔剣「アクア」が発動し、彼の周囲にたゆたう水の盾が展開された。


一滴の無駄もない流麗な動き、それは真の意味で戦場を舞台に変える「美麗なるショパン」の真骨頂。


セシリア「ワハハ!! そうこなくてはな!! わたしが勝てば、貴様はわたしの門下に降る! それでいいな?」


セシリアの全身が、猛々しい琥珀色の輝きに包まれる。アレクサンド騎士団最強の攻撃力を誇る、最大出力の「鬼神モード」。


ショパン「大陸十傑の名に懸けて、美しく勝たせていただく。よろしいかな、セシリア殿?」


セシリア「勝つのはわたしだ! 楽しませてもらうぞ、美麗なるショパンよ!!!」


カレン「(……。このバカはもう……はあ。マリア、紅茶ちょうだい。もうバカすぎて見てられないわ……)」


呆れ果て、天を仰ぐカレン。しかし、その口元には、友であり最強の剣士であるセシリアへの、隠しきれない信頼の笑みが浮かんでいた。


---


カレンの幕舎前。そこはもはや戦場ではなく、二人の「表現者」が魂を削り合う舞台と化していた。


大陸十傑同士が本気でぶつかり合う、そのあまりの衝撃に、一万の兵も、副官マリアも、固唾を飲んで見守るしかない。


---


本気の十傑美麗なるショパンの美し過ぎる神速の舞踏がセシリアの腕、肩を削り。


本気の鬼神モードのセシリアの唸るような剛剣が受けるショパンに確実にダメージを蓄積させる。


十傑同士の凄まじくも美しい美の競演に、その場に居合わせた者全てが目を奪われ、このままずっと見ていたいという錯覚に陥る。


しかしやがて確実に終焉の時が確実に近付き始める。


お互いに満身創痍。ショパンは肩と脚から、セシリアは額から鮮血を流している。


だが、その瞳に宿るのは絶望ではなく、かつてない高揚感だった。


セシリア「……ハァ、ハァ……。ショパンよ! 楽しいな!? ますます貴様が欲しくなったぞ! わたしの理想の世界を作るための『手下』となれ!!」


ショパン「……フフフ。御免被る。私は私のやりたいことをやるだけだ……」


剣を交えながら、二人は至近距離で声を潜める。


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セシリア「(小声)ふん、まあ良い。わたしは貴様が気に入った! お前の莫大な資金源、芸能プロダクション『かわいいアイドル事務所ショパンずラボ』……。その所属アイドルもスタッフも、皆両親を亡くした孤児だということ。そして『こども劇団ショパン』『ショパン歌劇』……。全て、わたしの理想と同じではないか。フフフ」


ショパン「(小声)……。綺麗事を。私はゼッターランドの頂点に立つため、世界制覇の野望のため、その資金集めをしていただけだ」


セシリア「(小声)貴様が演じている役柄がそれか? わたしに演技は通じぬぞ。その資金、今どこにある? 『世界こども育成推進機構』に、謎の人物から毎月莫大な寄付が贈られているそうだが……知らないか?」


ショパン「私は美しく勝利を収め、大陸制覇の野心と共に生きる男だ! そんな綺麗事をやるような人物と一緒にするな!!!!」


図星を突かれたショパンが、叫びと共に水の魔剣を振り抜く。


だが、その剣筋はもはや冷徹な暗殺者のものではなく、守るべき者のために振るわれる、熱く、泥臭い「生」の旋律だった。


---


セシリア「ワッハッハ! 何ともまあ、様々な劇団を経営しトップに立つ者が、一番演技が下手くそとは! これは笑えるな!!! ……ますます気に入ったぞ!!!」


ショパン「フフフ……。もう能書きはいい。……美しく、終わらせよう」


優しく笑うショパン、それに対してセシリアもにっこりと笑い返す。


セシリア「終わらせはしない。貴様の演劇は、これから始まるのだ。わたしの野望の『手下』としてな!!」


セシリアの琥珀色の闘気が、最大出力を超えて膨れ上がる。


ショパンの「美しい偽悪」を粉砕し、彼が守ろうとした子供たちの未来ごと、自分の夢に巻き込もうとする鬼神の抱擁。


---


本陣を囲む一万の軍勢が目撃したのは、歴史に刻まれる「終局」の瞬間だった。


水の魔剣「アクア」が放つ無数の水飛沫が、陽光を反射して美しい水玉のカーテンを作る。その中を、ショパンの全霊を込めた演舞が突き抜けた。


---


大陸十傑の渾身の一撃。それは間違いなくセシリアを捉えた。


しかし、彼女を包む琥珀色の光はさらに眩さを増し、その重圧を真正面から受け止める。


セシリア「貴様の思い、しかと受け取ったぞ……!」


魔道を志す者の中でも、地系の適性を持つ者は極めて少ない。地味、あるいは人気が低いからではない。


その「難易度」があまりにも高いからだ。だが、峻険なハードルを超えて極めた先には、圧倒的な破壊力と鉄壁の防御が約束される。


一見すれば、セシリアは決して筋肉質ではない。むしろ「華奢な体格の女の子」という表現が相応しい外見だ。


しかし、身の丈程の大剣を軽々と片手で振り回すのは筋力ではなく地系の魔力、重力や磁力が作用しているとみられる。


そして彼女の地系魔法は雷のみならず、水に対しても絶大な耐性を発揮する。濁流を呑み込み、泥濘に沈める地のことわりが、ショパンの鋭利な旋律を無効化していった。


---


セシリア「次はこれがわたしの思いだ、しかと受け止めよ!」


琥珀色の閃光が、戦場を横一文字に切り裂いた。


セシリアの渾身の一撃が、水の盾を粉砕してショパンを直撃する。


ショパンは魔剣アクアを盾に防ごうとしたが、大地の重みを乗せた衝撃までは殺しきれず、そのまま崩れるように膝を突いた。


ショパン「……。私の負けだ。……美しい、一撃だよ」


その言葉を聞いた瞬間、セシリアはいつもの荒々しさを消し、一瞬だけ聖母のように優しく、慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。


そして、愛剣「鬼王」を高く、高く天へと掲げる。


**二人目の大陸十傑・美麗なるショパン、沈黙。**

**勝者、鬼神セシリア・ローランド。**


この瞬間、ゼッターランド帝国の「大参謀」と「三英雄の一角」が、同時にアレクサンドの門下に降ることとなった。


---


その頃、シルフィの陣。


意識を取り戻したフルーティ(エリーゼ)の鼻腔を、得も言われぬ「生命力に溢れた(苦そうな)」香りがくすぐっていた。


シルフィ「あら、お目覚めですか? ちょうど『一番搾り』ができましたわよ。ウフフ」


フルーティが目にしたのは、かつての祖母の草粥を思い出させる、あまりにも深い緑色の液体だった。


---


本陣に響き渡る勝鬨かちどき。一万の軍勢が、鬼神セシリアの圧倒的な武威に震え、そしてアレクサンド騎士団の勝利を確信した。


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琥珀色の余韻が漂う戦場に、避難民に扮した一万の偽装兵のリーダーを伴い、ハイドンとブキャナンが姿を現した。


ハイドン「カレン様、この者達はやはり避難民でした。どうかお咎めなきよう御考慮願います」


リーダー「……。いえ、我々がアレクサンド騎士団に刃を向けようとしたのは事実。処罰は受けるつもりです」


カレンは手元の紅茶を置き、まるで最初から決まっていたことのように告げる。


カレン「何言ってるの? ハイドンさんが避難民と言っているんだから、避難民でしょ? さ、ノルフェアに一緒に入るわよ?」


軍師の言葉に、リーダーは言葉を失う。


数刻前、包囲網の中で交わされた会話が彼の脳裏をよぎった。


リーダー「……。我々が偽装兵だと、最初から気づいておられたのか?」


ハイドン「貴殿とは昔、会ったことがある。帝都で私に握手を求めてきたではないか。私は一度でも会った人間を忘れたりはせぬ」


リーダー「……。私は、あの日の一介の一般兵でしたよ……」


彼ら偽装兵の多くは、かつてモーツァルトが「街を焼き払え」と命じた際、ハイドンがその身を呈して守った地の兵士たちであった。


かつての敵将に命を救われた者たちが、今、再びその「慈悲」によって救い上げられたのだ。


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一方、嵐の去ったシルフィの陣。

そこでは戦場とは思えない、あまりにも「健康的」で「シュール」な宴が開かれていた。


フルーティ「この青汁、美味しいです! もう一杯、いただけますか?」


シルフィ「ウフフ。まだまだたくさんありますわよ?」


かつて祖母の草粥で鍛えられたフルーティの舌にとって、シルフィの魂の一杯は、もはや「至高の栄養剤」でしかなかった。


エメラルドの光を纏い、急速に生気を取り戻していく。


モーツァルト「**う、うげえぇぇぇぇ……っ!!(絶望)**」


死よりも苦しい再生の果てに、無理やり流し込まれる「命の苦み」。


大参謀のプライドは、もはや青汁の緑色に染まりきっていた。


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#### 終幕の足音


カレン本陣。膝を突いたままのショパンは、隣で笑うセシリアと、遠くで民を導くハイドンの姿を見て、静かに目を閉じた。


ショパン「……。不細工な負け方だ。だが……キミたちの描く譜面は、私の想像よりも遥かに美しいようだ」


ノルフェアを巡る激闘は、十傑と大参謀の投降、そして一万の民の合流という、カレンの「盤面」通りの結末を迎えようとしていた。


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