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第76話:冷徹な大参謀と鬼悪魔の大軍師

第76話「冷徹な大参謀と鬼悪魔の大軍師」




カタリスに押し寄せた避難民は一万を超え、要塞はかつてない活気に包まれていた。


だが、その喧騒の裏で、歴史を動かす巨大な軍勢が動き出そうとしていた。


---


翌朝、カレンの執務室には主要幹部が顔を揃えていた。地図を指し示すカレンの瞳には、一切の迷いがない。


カレン「ノルフェアのショパンが動いたわ。籠城戦ではなく、野戦で決着をつけたいみたいね。ノルフェアから十里離れた山地に五万の軍で陣を構えたわ」


カレンが下した決断は、短期決戦を狙った「超攻撃布陣」。


* **先頭:** 龍神の怨念(公務員への執着)を纏ったエレン。


* **中央:** 鬼神セシリア。その直後にリノ率いる魔道士師団が火力を集中。


* **左翼:** 風評被害に燃えるフルーレ。


* **右翼:** スイーツの情熱を刃に変えるハナ。


* **後方:** カレン本営。護衛に特殊支援師団とシルフィ。


カレン「夕刻には出陣! ショパンを一気に叩き潰すわよ。各自、準備を!」


---


自室に戻ったシルフィは、副師団長のセイラに出陣の準備を急がせる。そこへ、不安げな表情のフルーティが歩み寄った。


フルーティ「シルフィさん……今日、出陣なんですか?」


シルフィ「ええ。たった一晩でしたけれど、とても楽しかったですわ。また一緒に青汁パーティーをしましょうね? ウフフ♡」


フルーティ「あ、あの……わ、わたしもついて行ったらダメでしょうか? シルフィ様は直接戦う部隊ではないんですよね?」


シルフィ「……危険ですわよ?」


フルーティ「ここに居るより、シルフィ様と一緒にいる方が安全な気がするんです。邪魔はしませんので……」


シルフィ「……ウフフ。いいでしょう、カレン様に相談してみますね」


微笑むシルフィ。だが、その瞳の奥には、甘い青汁のような底知れない色が宿っていた。


---


一方、山地に陣を張るショパン。その傍らには、帝国一の大参謀モーツァルトが冷徹な笑みを浮かべて立っていた。


ショパン「フッ、アレクサンドの連中、出陣したようだね」


モーツァルト「計画通りですよ、ショパン様。これで勝利は我が手に」


ショパン「だが……美しさに欠ける作戦だね。私の美学エステティクスに反する」


モーツァルト「ショパン様、我々には絶対勝利が必須なのです。汚れ役はすべてこのモーツァルトが引き受けますゆえ、ご安心を」


モーツァルト(……このお方も難しい。勝利以外に意味などないというのに。……そういえば、似たようなのがいましたね。情に絆され大局を見失う無能な将軍が。参謀も高い才能を持っていたが、所詮は負け犬……)


かつての同僚か、あるいは敵対した知者か。モーツァルトの脳裏に「敗者の残像」がよぎる。


---


四時間後。

五キロ先の川を挟み、アレクサンド騎士団が布陣を完了した。


対峙するのは、大陸十傑の美麗なるショパンと、大陸十傑を全てなぎ倒すと誓った鬼神セシリア。


そして、冷徹な大参謀モーツァルトと、不敵な大軍師カレン。


夕闇が迫る山地に、戦いの旋律が響き始める。それは美しき英雄譚か、あるいは怨念渦巻く狂騒曲か――。


ノルフェア近郊の山地。夕闇を切り裂く戦いの火蓋は、戦術兵器とも呼べる少女の指先から切って落とされた。


**【先鋒:エレンの陣】**

エレン「ヒッ、ヒィィ……! ジェ、ジェームズさん……わ、わたし、な、何で一番前にいるんですかねぇぇっ!?(ガタガタ)」


ジェームズ「(……そりゃ君が一番のバケモノだからだよ)い、一番信頼されてるからに決まってるじゃないか! ほら、深呼吸!」


**【中央軍:セシリアの陣】**

セシリア「ハッハッハ! どうせ今頃へっぽこは腰を抜かしているだろうが、構わん。あいつが先鋒隊をボコボコに散らせば、あとは私がショパンを討つ。至極単純な勝利の方程式よ!」


---


中央軍後方。リノは愛おしそうにマキを抱きかかえながら、冷徹な魔力を練り上げていた。


リノ(思念:マキ様、特製の耳栓はしっかり着けたから、安心してくだちゃいねー?)


マキ「……。その前に、赤ん坊を抱いて戦略魔法をぶっ放すのが、教育上正しいのかを考える必要があるのではないのか……?」


リノ(思念:深いことを考えちゃダメですよぉ。てへっ☆ じゃあ、やっちゃいますか)


マキ「ま、待て! まだ心の準備が――」


リノ「3、2、1……ファイヤー!!!」


**ズドォォォォォン!!!!!**


上空を真っ赤に染める巨大な火柱。戦略魔法級の火球がショパン軍の右翼を直撃し、巨大な爆炎の障壁となって敵の動きを完全に封じ込める。


リノ「はーい、次は左翼~♪ 3、2、1……ファイヤー!!!」


**ズドォォォォォン!!!!!**


リノ(思念:マキ様も、もう慣れっこにならなきゃですよ?)


マキ「慣れるかっ!!!!」


---


ショパン陣営の眼前で燃え盛る爆炎。だが、帝国の大参謀モーツァルトは不敵に口角を上げた。


モーツァルト「フフフ……カレンとやらも大したことはありませんね。爆炎に阻まれた我々の両翼は、最初から『空陣』ですよ。さあ、狩りの時間だ」


直後、アレクサンド騎士団の左右から帝国軍の伏兵一万五千ずつが姿を現した。


諜報員「左より伏せていた帝国軍が急襲! 数はおよそ一万五千!」


諜報員「右からも同じく! ハナとフルーレの陣を突破し、セシリアの本軍と交戦に入りました!」


モーツァルト「脆いですね。事前に準備していた作戦が崩れた時は、こんなものです」


ショパン「……そういうものなのか。美しくない展開だが、勝ちは勝ちだね」


---


勝利を確信したモーツァルト。しかし、その耳に届いた次なる報告は、彼の「完璧な盤面」を叩き割るものだった。


諜報員「急報!!!!我が両翼軍のさらに背後から、フルーレとハナの軍にそれぞれ猛攻を受けています!! セシリア本軍との挟撃に遭い、大苦戦中! 援軍要請が出ています!!」


モーツァルト「な、何だと……!? まさか、アレクサンドの両翼も……最初から『空陣』だったのか!?」


---


**【カレンの本陣】**


悠然と紅茶を啜りながら、カレンは戦況図の駒を指で弾いた。


カレン「あら。わたしはさらに『裏の裏の裏』まで警戒していたけれど……。綺麗に挟撃が決まったところを見ると、『裏の裏』で止めておいて正解だったみたいね」


モーツァルトが用意した伏兵を、さらに外側から包囲するように布陣させていたカレン。


「爆炎」は敵を止めるためではなく、敵を「おびき寄せるためのカーテン」に過ぎなかった。


---


ノルフェアの山地に、爆炎と絶叫が交錯する。


モーツァルトの計算を嘲笑うかのように、カレンの「裏の裏」が帝国の両翼を食い破り始めていた。


---


**【ショパン本陣】**

モーツァルト「……カレンめ、小賢しい真似を……っ!」


ショパン「モーツァルト、そんな顔をするなよ。美しさに欠けるぞ」


焦燥を隠せない大参謀に対し、あくまで優雅さを崩さないショパン。


しかし、飛び込んでくる報告は、その「美学」を物理的に粉砕するものだった。


諜報員「報告! 先鋒隊が壊滅的打撃を受けています! アレクサンドの将、一名が中央軍の中心地に突入し、無差別全方位魔法攻撃を継続中! 止まりません!」


モーツァルト「撹乱されるな! 全方位魔法など、すぐに魔力切れを起こすはずだ!」


……数十分後。

諜報員「全方位魔法、依然として収まりません! 被害拡大! 止まる気配がありません!!」


モーツァルト「……馬鹿な。化物か……? まさか‥‥そいつが、鬼神セシリアなのか……!?」


ショパン「セシリアなら、私がお相手しよう」


愛刀を手に立ち上がろうとするショパンを、モーツァルトが制する。


モーツァルト「……お待ちください。アレクサンド騎士団が常に無茶な強行軍や無謀な突撃を行える理由……。そこには『種明かし』があるのですよ」


---


**【アレクサンド騎士団後衛:シルフィの陣】**


前線へ治療部隊を派遣し、シルフィの周囲には僅かな護衛のみが残されていた。


傍らでは、フルーティがシルフィ特製の「トロピカル青汁」と、セイラ特製の「青汁のハチミツ漬け」を平然と口にしている。


フルーティ「シルフィ様、お供がこれだけになって大丈夫なんですか……? もし敵が来たら……」


シルフィ「ウフフ……。大丈夫ですよ」


シルフィの身体の周囲には、常人の肉眼では決して捉えられない薄い光の膜が揺らめいていた。


高位の回復魔道士のみが到達しうる、あらゆる攻撃を無効化する「絶対防御」。


この揺るぎない「癒やしの源」があるからこそ、前線の幹部たちは死を恐れず暴れられるのだ。


フルーティ「……その『絶対防御』があるから、安全なんですか?」


シルフィ「……!! ウフフ。これ、見えているのですね?」


驚きに目を見開くシルフィ。だが、その刹那――。


**フッ……。**


シルフィが全幅の信頼を置いていた「絶対防御」の光が、唐突に、霧が晴れるように消失した。


シルフィ「!!!???」


**ドシュッ!!**


衝撃と共に、シルフィの右肩を細い刀身が貫く。鮮血が舞い、戦場の後方にあった「聖域」が初めて蹂躙された。


---


モーツァルト(……アレクサンドの強さの源泉は、後方のシルフィによる『超広域支援』。ならば、その『盾』を内側から壊せばいい……。そうでしょう? フルーティとやら‥‥)


絶対防御を失い、肩を射抜かれたシルフィ。


目の前で無邪気に青汁を飲んでいたアイドルの瞳が、初めて「美しくない」冷徹な光を宿した。


カレンの「裏の裏」のさらにその奥。モーツァルトが仕掛けた「毒針」が、ついに騎士団の急所を捉えたのである。


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