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第75話:統治とは福祉なり

第75話「統治とは福祉なり」



カタリス執務室。帝国が誇る三将軍にとって、そこは物理的な拷問よりも遥かに深く、精神の深淵を削り取る「地獄の社交場」と化していた。


---


ハナの仲裁により、ようやくフルーレの「バリアフリー講義」が幕を閉じた。


シルフィに引きずられながら退室する間際まで、彼女の叫びは止まらない。


フルーレ「明日までに! スロープ設置箇所の図面とハザードマップを提出するっすよ!? 避難経路の段差も全部チェックするっすからね!!」


バタン、とドアが閉まる。


ラヴェル&マーラー「(た、助かった……。命の恩人だ、ハナ様……)」


地獄から救われたと安堵したのも束の間。ハナがニヤリと不敵に笑う。


ハナ「二人とも、災難だったね? ……さあ、次はボクの『尋問時間』だから、安心していいよ」


数分後。

ハナ「お前らは! スイーツの重要性をまるで分かっちゃいないじゃないかー!! いいかい? スイーツとはね、人生そのものなんだよ!! 聞いてるのかいっ!?」


ラヴェル&マーラー「(な、何なんだ……。この新手の精神攻撃は……)」


---


さらに地獄は加速する。


リノ「あのですね、わたしは軍事都市にこそ『ちょうちん』が必要だと思うんですよぉ。夜道のバリアフリーにも役立ちますし、聞いてますかー? てへっ☆」


セシリア「ペナントだ!! ペナントがない世界など、地獄の業火で滅ぼしてもいいとわたしは思う!! お前らもそう思うだろ!? なあ!?」


シルフィ「それを飲み終えましたら、次はこの『新作』ですわ♡ ウフフ、自信作なんですよ? ウフフフ♡」


ラヴェル&マーラー「カレン様……!! 何でも、何でも洗いざらい喋ります! 軍事機密も補給路も全部吐きますから、どうか、どうか助けてください……!!」


カレン「あら? 随分と早い降参なのねぇ」


軍師の冷徹な知略を出すまでもなく、幹部たちの「濃すぎる個性」が敵将の精神を完膚なまでに粉砕していた。


---


一方、隣の席ではヴィヴァルディ将軍が、ガタガタと震えながら一枚の紙を握りしめていた。


ヴィヴァルディ「え、えっと……。貴方をアレクサンド王国公務員として、正式に採用いたします……」


エレン「……声が小さいですよぉ? もっと、心を込めて、隣の部屋まで聞こえるように読み上げないとダメですぅぅ!!(涙目)」


ヴィヴァルディ「カ、カレン様……!! 俺も、俺も助けてください……!! 死ぬ、精神が死んでしまう!!」


カレン「あら、あなたはまだダメよ。あなたを逃がしてエレンを怒らせたらわたしが呪われちゃうじゃない。そんなの嫌よ」


エレンの悲しみの元凶の全てを創り出したはずのカレンからのその言葉は、ヴィヴァルディにとって、まさしく鬼悪魔としか言い様がなかった。


---


凄惨な光景を前に、カレンの膝の上でマキが震える。


マキ「……。なんて、なんて恐ろしい光景なのだ。アレクサンド騎士団、これほどまでに狂気に満ちていたとは……」


リノ(思念:あの人たち、ちょうちんの良さをまるで分かってなかったから仕方ないですよぉ~。マキ様だけですよ、わたしの『変態なちょうちんマニア仲間』は。てへっ☆)


マキ「わたしは、ちょうちんマニアでも変態でもないと言っているだろうがぁぁ!!」


断固拒否するマキの叫びも、エレンの「公務員への未練」とハナの「スイーツ論」にかき消されていく。


明日はいよいよ、この「怨念」と「こだわり」を抱えたまま、ノルフェア攻略戦の幕が上がる――。


---


カタリス攻略後。カレンがバッハに命じて作らせた「昭和の取調室」風の部屋では、カツ丼こそ出ないものの、マーラーとラヴェルの精神は完全に白旗を上げていた。


---


カレン「なるほどね。あなたたちが貴重な軍事機密を持っていたことはよく分かったわ。……後はゆっくり休んでいいわよ?」


ブキャナン「お二方はもう、大切なお仲間です。休憩室へご案内しましょう。どうぞ、こちらへ」


地獄の尋問(こだわり講義)から解放され、安堵の表情を見せる二人。


だが、ブキャナンが扉を開けた先に待っていたのは、軍事要塞の中にあるとは思えない「カオスな桃源郷」だった。


* **副師団長ズ:** カタリスの高級ブティックや宝石店で(公費か私費か不明だが)買い占めた戦利品を広げ、「キャッキャ」と女子会モード。


* **隊長ズ:** 部屋の隅で徹マンとポーカーに興じ、怒号と歓声が飛び交う。


* **将軍ズ:** * リスト「保護猫センターと譲渡会のシステムを基礎から作り直さないと……」

* ブラームス「スイーツショップが一軒しかないのは市場独占の弊害だ。競争こそが進化を生むのだよ……」

* バッハ「バリアフリーの遅れは、そのまま都市の脆弱性に繋がるからな……」




バッハ「ん!? お前たちも来たのか? まあ座れ! カタリスとダイロンの未来(バリアフリーと猫と菓子)について語り合おうじゃないか!」


ラヴェル&マーラー「(……な、何なんだこの部屋は。アレクサンド騎士団の脳内はどうなっているんだ……?)」


部屋の片隅、琥珀色のグラスを傾けるハイドンがボソリと呟く。

ハイドン「……私の……個室……」

 

全員「「違います! みんなの部屋です!」」


ハイドン「……だ、……そうです……」


メンデル「ハイドン、がんばれ!!(肩ポン)」


---


一方、別の部屋ではヴィヴァルディが限界を迎えていた。


ヴィヴァルディ「……この度は、貴殿をアレクサンド王立公務員として、正式に……(もう三十回目だぞ……)」


エレン「心がこもってないですぅぅー! もっと、わたしの失われた安定への祈りを込めてやり直しですー!!」


床には、エレンの「公務員内定取り消し」の余波(龍神の落雷)を浴びたジェームズがうつ伏せで倒れており、震える指で床に『ヴィヴァルディ、がんばれ』という凄惨なダイイングメッセージを刻んでいた。


---


その頃、リノはマキを抱っこし、カタリスの土産物屋で「ご当地ちょうちん」をゲットしてホクホク顔だった。そこで、偶然にも財布を握りしめたフルーレとかち合う。


リノ「ウフフ、フルーレ様~! 奇遇ですね。ちょうちん、お探しですか?」


フルーレ「あ、いや、リノ……。奇遇っすね。……ちょうちん、っすか?」


明らかに挙動不審なフルーレ。慌てて何かを背後に隠したが、リノの鋭い目は逃さない。


彼女が手にしていたのは、ご丁寧に「カタリス」と焼印が入った、なんとも言えない趣の『木刀』だった。


しかも、それを購入する瞬間、フルーレはかつてないほどニコニコしていたのだ。


マキ「……。フルーレ、お前もか!!? お前も変な収集癖(ミュージアム志望)だったのか!!?」


「ペナント(セシリア)」「ちょうちん(リノ)」「木刀フルーレ」。


アレクサンド騎士団の幹部が揃う時、大陸には最強の「お土産ミュージアム」が誕生しようとしていた。


---


ノルフェアの陥落を予感した市民たちが、次々と城外へ逃亡を図り始めていた。


彼らが目指したのは、かつての「人望のカリスマ」ハイドン将軍が従軍しているアレクサンド騎士団の陣営である。


---


カレン「……民間人だと分かった時点で自由を与えてあげてちょうだい。我々は征服者ではなく、解放者なのだから」


カレンの命により、ハイドンとセシリア(中身はエレン)が亡命者の身分確認を行っていた。


その列の中に、ある「顔」を見つけたエレンが絶句する。


エレン「えっ! あなたはまさか……!!」


そこにいたのは、今や帝国中で話題の中心となっているトップアイドル、フルーティその人であった。


---


フルーレ「……。フッフッフ。貴様がフルーティとかいう偽物っすか? ……タダで済むとは思わないことっすよ?」


剣を抜きフルーティに歩み寄るフルーレ。


シルフィ「フルーレ、ダメですよ? 民間人に手を上げるのは騎士として御法度です。フルーティさん、怖がらなくて大丈夫ですからね? ウフフ♡」


フルーティ「あ、ありがとうございます……! 憧れのフルーレさんに初めてお会いできて感激していたのですが、まさかそんなにご迷惑をおかけして、ご立腹だったなんて……」


せっかく憧れだったフルーレに会って、感激も束の間、滅茶苦茶にブチ切れられたフルーティは困惑していた。


ハナ「まあ、そこは気にしなくていいんじゃない? それにしても、怖いぐらいフルーレにそっくりだよねー。ボクたちは見慣れてるからいいけど」


フルーティ一行は、帝都クレイドへ逃げるか迷った末、「帝都もすぐに戦場になる」と判断し、あえてアレクサンド騎士団へ投降する道を選んだのだという。


---


リノはマキを抱っこし、にこやかにその光景を見守りつつも、カレンの耳元で囁く。


リノ(小声)「カレン様。あからさまに怪しすぎるんですけどぉ……?」


カレン(小声)「あら? リノはそう思うの? わたしは怪しいとは思わないけれど」


リノ(小声)「……。カレン様がそう言うんなら、大丈夫(なにか策がある)なんですね。てへっ☆」


マキ「(……ふん、狸と狐の化かし合いか)」


---


フルーレ「……とにかく、こいつとは話があるっす。連れて行くっす!」


カレン「フルーレ、ダメよ。その子はシルフィに預けるわ。シルフィ、お願いね?」


シルフィ「フルーティさん、わたしの部屋に泊まっていただきますがよろしいですか?」


フルーティ「いいんですか!? ありがとうございます!!」


手出しを封じられたフルーレは、悔しげに舌打ちしながらも、邪悪な笑みを浮かべた。


フルーレ「……まあ、シルフィの部屋なら無事では済まないっすよ。朝まで青汁を飲まされるがいいっす。フッフッフ。愚かな人間風情め、青汁にまみれて滅び去るがいいっす! フハハハハ!!」


しかし、一時間後。


シルフィ「こちらの試作品もどうぞ召し上がってください」


フルーティ「おいしい!!これめちゃめちゃ美味しいですよ!! 試作品じゃなく、即・本採用でいけます!!」


---


その様子を遠巻きに魔道探知で見ていたマキは、戦慄を禁じ得なかった。


マキ「……フルーレよ。お前のその発想は、もはや魔王の発想と変わらぬぞ。それにしても、フルーティ……。貴様、あの青汁が好きなのか……?」


リノ(思念:マキ様がわたしのことを大好きなのと同じなんじゃないですかぁ? てへっ☆)


マキ「一緒にするなと言っているだろう!!(赤面)」


シルフィの青汁を笑顔で飲み干すという、騎士団幹部すら躊躇する荒行を難なくこなすフルーティ。


彼女は果たしてただのアイドルなのか、それともショパンが送り込んだ「美しき刺客」なのか――。


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