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第73話:ショパンの二連要塞

第73話「ショパンの二連要塞」



カタリスとダイロンの中間に位置する険しい桟道。


そこには、二城の連携を維持し、隙あらば横槍を入れるための帝国遊軍二万が駐屯していた。


率いるのは、情報戦のスペシャリスト・マーラー将軍である。


---


マーラー「……おい、何の冗談だ、これは」


次々と飛び込んでくる報告に、マーラーは頭を抱えていた。


諜報A「将軍! カタリスにセシリアが現れました!」


諜報B「報告! ダイロンにもセシリア襲来との報が!」


マーラー「……。どちらかが偽物なのは明白だが、ここまで堂々と二人出されると、情報の精度もクソもないな。


ラヴェルとヴィヴァルディには、俺が正体を見破るまで動くなと伝えておけ。セシリアがいる方を『本軍』と見なす作戦なんだ、焦って偽物に釣られたら目も当てられん」


偵察を本業とするマーラーは、自ら動くべくテキパキと準備を進めていた。その時――。



ワー!!!!!


後方の崖上から、耳を裂くような怒号が響き渡る。


偵察「ほ、後方よりアレクサンド騎士団の奇襲! 敵勢、およそ一万!!」


マーラー「はあ!? こんな山の中の辺ぴな場所に置いた遊軍の居場所を、正確に掴んでいただと……!?」


---


「……本当に辺ぴっすよね。めんどくさい……。っていうか、これ、わたしじゃなくてハナの仕事じゃないっすか?」


マーラー「!! 誰だ! いつからそこに……!」


振り返ったマーラーの目に飛び込んできたのは、無造作に結ったグレーのポニーテール。


そして背中に背負った、禍々しくも美しい「八本の剣」。


その特徴的な姿は、帝国の将軍たちの間でも「絶対に近寄るな」と噂されるあの――。


マーラー「その格好……。お、お前は……!」


フルーレ「(……。めんどくさいっす。わたしも、知らない間に有名になったものっすね……)」


観念したように溜息をつくフルーレ。しかし、マーラーが発した言葉は、彼女の予想を遥かに超えるものだった。


マーラー「お、お前は……!! ゼッターランドの絶対的なトップアイドルで、かなりの熱狂的な『フルーレ・ファン』のフルーティちゃんだな!!!」


フルーレ「…………はあ??????」


---


マーラーの脳内では、「本物のフルーレがこんな辺境に一人で来るはずがない=コスプレした熱狂的信者」という、あまりに独創的な変換が行われていた。


フルーレ(……。殺していいっすか? カレン様、今すぐこの男、バラバラにしていいっすよね……?)


静かに「逆鱗」に触れたフルーレ。


その背後の剣が、怒りに共鳴するようにキィィィンと鳴り響く。


一方、カタリスとダイロンでは、二人の「セシリア」が不敵な笑みを浮かべ、それぞれの城門を叩き続けていた。


本物はどちらか、あるいは両方とも偽物か。


カレンの描く「不協和音」は、マーラーの斜め上の勘違いによって、より一層カオスな旋律を奏で始める!


---


桟道の戦場は、もはや戦略とは無関係な「推し活の地獄」へと変貌していた。


---


マーラー「フッ、セシリアだけでなくフルーレまで偽物を用意するとは……。しかも、あのトップアイドルで大人気の『フルーティちゃん』を引き込むとは、さすが軍師カレン!」


フルーレ「ほ、本物っすよ!!!!!ていうか、フルーティちゃんっていったい何なんすか!?」


マーラー「とぼけるな。ゼッターランド帝国で歌や舞台、雑誌で絶対的な支持を得ているトップアイドルだろう。本物のフルーレたんになりきっている、その演技力……さすがだ!」


フルーレ「……わたしは! フルーレ本人っすよ!!」


マーラー「さすがフルーティちゃん、完全になりきっているな。だが、俺の崇拝する『本物のフルーレたん』の噂はもっと凄いんだ。身長178cmのモデル体型、バスト94のGカップ! 大人びた絶世の美女!!」


フルーレ「…………」


マーラー「君も可愛いが、俺が崇拝してやまないフルーレたんには程遠いんだよ。さあ、その『フルーレごっこ』はやめて……」


フルーレ「…………。……殺すっすよ。細切れにして、その幻想と一緒に地獄へ送ってやるっす!!」


---


数刻後。カレンのもとに血相を変えた密偵が駆け込む。


密偵「報告! フルーレ様の師団が、桟道の遊軍二万を撃破! それも……徹底的に、完膚なまでに、跡形もなくズタボロです! 敵将マーラーは……危篤状態とのこと!」


カレン「(……よっぽど地雷を踏んだのね)……さすがフルーレ。いえ、フルーティちゃんかしら? ぷっ」


軍師の美しい唇から、我慢しきれない失笑が漏れた。


---


一方、要塞都市ダイロンの城門前。


城壁の上から見下ろすヴィヴァルディは、眼下に立つ「セシリア」の姿に戦慄していた。


ヴィヴァルディ「な、なんだ……。セシリアの奴、笑ってやがる……。あの不気味な笑み、何を企んでいるんだ!?」


だが、その兜の下の真実エレンは、企みどころか魂が抜けかけていた。


その手には、ぐしゃぐしゃに握りしめられた『公務員内定通知書』。


エレン「フッフッフ……。受かっちゃった……。合格しちゃったんだよぉ……。でも……でも……。アハハ……(白目)」


小学校の卒業文集にまで書いた夢。安定した生活、有給休暇、ボーナス……。


その全てが「幹部(終身刑)」という現実の前に砕け散ったのだ。その哀愁は、もはや殺気となって周囲を威圧していた。


---


リノの陣。遠隔からエレンの様子を察したマキは、思わず十字を切った。


マキ「……。あのへっぽこ、なんだか可哀想になってきたぞ。夢を絶たれ、不本意な力(龍神)に振り回される姿……」


リノ(思念:可哀想ランキング、急上昇ですね~。マキ様も『大陸制覇』の夢を『ちょうちん集め』に上書きされた口ですし、親近感ですね♡ てへっ☆)


マキ「……一緒にするな!!(泣)」


絶望が生んだ「最強の偽セシリア」。


ヴィヴァルディは、その哀しみの深さを「底知れぬ強者の余裕」と勘違いし、防衛のタクトを震わせ始める――!


---


【要塞都市ダイロン・城門前】


ヴィヴァルディ「……。な、なんだ、あのプレッシャーは。セシリアの奴、一歩も動かずにこちらを睨みつけ、震えてやがる……」


城壁の上から見下ろすヴィヴァルディは、冷や汗を流していた。


眼下の「セシリア(エレン)」からは、大地を揺らすような、底知れない「怨念」が立ち上っている。


エレン「(ひっく……。お父さん、お母さん。公務員になったら、いい人見つけて結婚して、週末はロザーリアのスイーツ食べ歩きして……。そんな私の、私のささやかな……)」


エレンの中で、積み上げてきた人生設計図が音を立てて崩れていく。


その絶望が臨界点を超えた瞬間、彼女の瞳が黄金色に輝き、背後に巨大な龍の幻影が揺らめいた。


エレン「わたしの……わたしの輝かしい安定した未来を……返せぇぇぇぇーーーっ!!!!!!」


**ドォォォォォン!!!!!**


悲痛な叫びと共に放たれた龍の咆哮が、ダイロンの頑強な城門を物理的に歪ませる。


ヴィヴァルディ「ひ、ひぃぃ!? 怒った! セシリアが、公務員(?)になれなかった怒りで理性を失ったぞ!! 総員、防戦一方だ! 決して外に出るな!!」


---


【カタリス・セシリア本陣】


一方、カタリス城門前で優雅に「一騎打ち」を要求していた本物のセシリアに、マーラー軍壊滅の報が届く。


セシリア「……。ほう、フルーレがマーラーを危篤に? しかも、その理由が『フルーティちゃん』の噂だと?」


伝令の報告を聞き、セシリアは腹を抱えて爆笑した。


セシリア「ハッハッハッハ!! フルーティだと!? あの無愛想なフルーレが、帝都ではGカップの絶世の美女としてアイドル扱いされているのか! 面白い、実に面白いぞ!!」


涙を流してまで笑い転げるセシリア。


セシリア「よかろう! その勢いでカタリスを飲み込んでしまえ! ラヴェルよ、覚悟しろ。今の我が軍には、公務員になれなかった怨霊と、アイドル扱いされた復讐鬼がいるのだからな!!」


---


【ノルフェア・ショパンの私室】


ショパン「……。フルーティちゃん? ……ああ、あの僕がプロデュースしたアイドルのことか」


薔薇を愛でながら、ショパンが不敵に微笑む。


ショパン「偽物で本物をあぶり出す……。それが僕の美学エステティクスだよ。……さあ、本物のフルーレ。君の『美しくない』怒り、僕がノルフェアで受け止めてあげよう」


---


要塞都市ダイロン。鉄壁を誇ったその城門前は、今や戦略や戦術といった言葉では説明のつかない「極限状態」の阿鼻叫喚に包まれていた。


---


討って出て城壁を死守しようとするダイロンの精鋭二千が、文字通り紙屑のように吹き飛ばされていく。


無詠唱魔法の雨と、空間を切り裂く「百花繚乱」。


その中心に立つのは、黄金の鎧を纏った「公務員になれなかった怨霊」ことエレンである。


エレン「いやぁぁ~!? 怖い! 怖い! 怖い! 近寄らないでぇぇ~~!!(涙目で乱舞)」


ジェームズ「ぎゃあぁ~!? 怖い! 怖い! 怖い! 近寄らないでぇぇ~~!!(涙目で追従)」


マキ「……。またこのコントか。本当に良いへっぽこコンビだな、貴様らは」


リノ「わたしとマキ様の『変態コンビ』には、まだ程遠いですけどね。てへっ☆」


マキ「わたしは変態ではないと言っているだろう!!(赤面)」


---


ヴィヴァルディ「……。さすがは大陸十傑を破った鬼神セシリア。一人で二千を翻弄するとは、凄まじいな……」


ヴィヴァルディがその武力に戦慄していた、その時。


家臣「ヴィヴァルディ将軍!! 大変です!! 城内がハナとシルフィによって制圧されました! 我が三万の軍は背後から強襲を受けています!!」


ヴィヴァルディ「な!? 何だと!? い、いつの間に!!」


振り返れば、そこは地獄だった。

左からは、目にも留まらぬ速さで兵士の急所を突き、木の葉が舞うように兵を刈り取るハナ。


右からは、巨大な結界を物理法則を無視して連続展開し、兵士を雑草のようになぎ倒しながら悠然と歩くシルフィ。


まさに「モーゼの十戒」のごとく道が開き、三万の帝国軍は内側から瓦解し始めていた。


---


ヴィヴァルディ「くっ……! こうなったら、目の前のセシリアを討って突破を図るしかない! 全軍、突撃ィ!!」


決死の覚悟で城門から打って出たヴィヴァルディ。しかし、その目の前を凄まじい火炎が横切り、進路を断つ。


炎の向こう側に立っていたのは――雷と風の衣を纏い、狂ったように笑い転げる「セシリア(偽)」の姿だった。


エレン「キャハハ……! 笑えますよねぇ~? キャハハ! わたしったら、せっかく公務員試験に受かったのに……内定取り消し(という名の終身雇用)になっちゃったんですよぉぉ!! アハハハハ! 笑えるぅぅーー!! ねぇ? ヴィヴァルディさん?」


その横では、とばっちりの雷に打たれたのか、ボロボロになったジェームズが白目を剥いている。


そしてエレンの手には、シルフィ特製の「超高濃度・青汁カクテル」の瓶が握られていた。


エレン「キャハハ! ヴィヴァルディさん! 一緒に……一緒に私の悲しいお話、聞いてくださいよぉぉーー!! アハハ!!」


ヴィヴァルディ「(……ひ、退け。こいつは人間じゃない。公務員になれなかった怨念が、魔王を呼び出しちまったんだ……!!)」


理性をかなぐり捨てた「最強の一般市民」の咆哮が、ダイロンの空に虚しく響き渡る。


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