第69話:新たなる大陸十傑
第69話「新たなる大陸十傑」
平原を震わせていた神速の交差が、ふと止まる。
土煙の向こう側、互いに肩で息をしながらも、その瞳にはかつてない充実感が宿っていた。
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マキとの絶望的な稽古を除けば、これほどまでに全力をぶつけられる相手はいなかった。
セシリアにとって、大陸十傑メンデルとの死闘は、飢えていた魂を潤す極上の饗宴だった。
セシリア「楽しい! 楽しすぎるぞ! なあ、メンデル!」
メンデル「アハハ、セシリアちゃん、はしゃぎすぎだよ~!」
おちゃらけた言葉の裏で、火花を散らす剣。
だが、セシリアの鋭い眼光は、メンデルの心の奥底に澱んでいた「迷い」を見逃さなかった。
セシリア「メンデルよ! くだらないことはもう考えるな!」
メンデル「なに? なに? セシリアちゃん、何のことだい? 僕なーんにも考えてないよー?」
セシリア「ふん……。今は、この闘いをわたしと一緒に楽しめ!! わたしだけに集中しろ、わたしだけを見ろ!!」
凛とした鬼神の威圧感。しかし、その刹那、セシリアは戦士として、そして一人の女として、慈愛に満ちた微笑みを一瞬だけ見せた。
メンデル「……。……サンキュ、セシリアちゃん!! 僕の全力のダンス、最後まで付き合ってくれるかい?」
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メンデルのステップが、さらに一段ギアを上げた。側近たちですら見たことのない、命を削るような神速。
力で強引に押し込もうとするその荒々しい剣技は、優雅さを脱ぎ捨てた「本能」の輝きだった。
徐々に押し込まれるセシリア。だが、彼女の口角は歓喜に震えていた。
やがて、セシリアの「鬼神モード」がメンデルの速度を凌駕し始める。
スピードが互角になれば、後は圧倒的なパワーの差だ。地響きを立てる剛剣の連撃に、大陸十傑の魔剣がついに膝を折った。
メンデル「……。……僕の負けだよ、セシリアちゃん。……僕のお願い、聞いてくれるかい……?」
力尽き、地面に伏したメンデル。しかし全力を出し尽くしたメンデルは悔いのない笑顔でいた。
セシリアは悠然と歩み寄り、その胸ぐらを無造作に掴み上げた。
セシリア「……ああ、聞いてやる。……皆の者、聞けぇい!!」
セシリアの声が、平原の端々まで轟く。
セシリア「我こそはアレクサンド騎士団副長、セシリア・ローランド!! 大陸十傑メンデル将軍を討ち取ったり!! そして、メンデル将軍たっての願いを叶え、今よりメンデルはわたしの直弟子となった!!!!」
メンデル「…………。……セシリアちゃん、僕、まだ何も言ってないじゃん……」
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城壁の上、カレンは呆然と立ち尽くしていたが、やがてその肩を震わせ、こらえきれずに噴き出した。
カレン「ふふっ……本当に、バカにつける薬はないのかしらね……。……ぷっ、アハハハ!」
帝国三大英雄の一角、大陸十傑メンデルを「直弟子」として降したという前代未聞の報。
それは瞬く間に風に乗り、ゼッターランド全土を震撼させる激震となって広がっていった。
アレクサンドの「鬼神」の名は、いまや恐怖だけでなく、予測不能な混沌の象徴として、帝国の心臓部へと迫る。
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メンデルの自責と絶望、それは騎士として最も恥ずべき「背後からの斬撃」
しかも守るべき部下を庇った女性を斬ってしまったという事実は、彼ほどの男には死に勝る屈辱だった。
しかもメトロイド、ブリンスタの大都市と帝国第三の都市ツーリアンを奪われた失態も相まって。
翌朝の「遊びに来たよ」という軽い言葉が、実は「死に場所を求めた最期の虚勢」だった。
カレンはメンデルの「死ぬつもりであること」を見抜いていた。
だからこそ、フルーレに「汚れ役(抹殺)」を頼まざるを得なかった。
軍師として正解を選びながら、情のある彼女がどれほど心を削りながらあの紅茶を飲んでいたか……。
さて、死に場所を失い、最強の師匠(?)を得てしまったメンデル。
そして、図らずも最悪の結末を回避できたカレン。
この奇妙な旧友関係が、今後の帝国攻略にどんな「想定外」を巻き起こすのか……。
ツーリアンの城門前。嵐のような激闘が嘘のように、静かな、しかし奇妙に活気のある空気が流れ始めた。
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エレン「……か、勝っちゃった……。本当に、勝っちゃったんだ……」
ブラームス「メンデル様……」
アレクサンドの騎士団員、そして元帝国兵たちは、大陸十傑が膝を突くという歴史的瞬間を目の当たりにし、ただ呆然と立ち尽くしていた。
メンデルと共に「死地」へ赴く覚悟で帯同した五百騎の精鋭たちは、主君の命が繋がったことに安堵し、その場に泣き崩れる。
セシリアは、泥にまみれたメンデルの肩を無造作に叩き、豪快に笑い飛ばした。
セシリア「メンデルよ。わたしの弟子になった以上、もう勝手に死ぬことは許さぬぞ! 死んだら殺すからな!ハッハッハ!!」
メンデル「……。……セシリアちゃん、死んだら殺すって、それもう理屈が崩壊してるよ。……アハハ、でも君らしいや」
フルーレ「メンデルさん。……次は、わたしと一騎打ちっすよ。次はフルーレの『勝負メイクモード』をたっぷりと味わわせるっす」
メンデル「フルーレちゃん、さっきは邪魔しちゃってごめんね。……ただでさえ可愛いフルーレちゃんの勝負メイク、めっちゃ楽しみだよ~☆」
セシリア「よかったな、メンデル。それは夜の方がオススメだぞ?」
マキ「……貴様、いきなり殺しにかかっとるではないか!! 本物の口裂け女の方がまだ優しいぞ!!」
リノ(思念)『マキ様ぁ、本物の口裂け女さんとお会いしたことがあるんですね~? さすがマキ様、顔が広いです、てへっ☆』
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カレン「……そろそろいいかしら? セシリア、あんたには言いたいことが山ほどあるわよ……」
氷のような笑みを浮かべ、扇子を広げたカレンが背後に立っていた。そのプレッシャーは大陸十傑以上かもしれない。
シルフィ「カレン様、説教の前にまずはお二人の治療が先ですわ♡ ウフフ♡」
聖母の如き微笑みを浮かべるシルフィの手には、キンキンに冷えた保冷バッグ。
中には、もはやアレクサンド騎士団の象徴とも言える「特製青汁」がぎっしりと詰まっていた。
一方、城壁の上や周辺では、この歴史的一騎打ちを「興行」に変えた強者たちがいた。
ハナ「はい、一騎打ち記念スイーツ、焼きたてだよー!」
ヒナギク「並んで並んでー! 売り切れ御免だよ!」
ガリクソン「力が出るぞー! 食えー!」
ハナ率いる屋台チームは、歴史的一騎打ちを見に集まった百万人近い市民や兵士を相手に凄まじい勢いで商品を捌いていく。
さらに、セイラ率いる特殊支援師団は、背中に生ビールタンクのようなサーバーを背負い、戦場を駆け回りながら「青汁カクテル」を完売させていった。
この一騎打ちの最中に、わずか二時間で叩き出した売上は、実に数百万円以上。
敗北したはずのメンデルは、その光景を見て「……これ、戦争なんだよね?」と、遠い目をして呟くのだった。
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メンデルという最強の「弟子」を抱え、さらに経済的にも潤い始めたアレクサンド軍。
しかし、カレンの瞳はすでに、この勝利の後に動き出すであろう「残り二人の英雄」の影を捉えていた。
カレン(……さて、この『バカな勝利』を、どうやって次の詰み盤に繋げようかしらね)
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メンデルの下した「投降」の決断は、思わぬ連鎖を引き起こした。
ノルフェアへ退却したはずの帝国軍三万が、主君の生存と「弟子入り(?)」の報を聞きつけ、次々と城門前へ姿を現したのだ。
武器を捨て、跪く兵士たちの列。それは、大陸十傑メンデルがいかに将兵から深く慕われていたかを、静かに、しかし雄弁に物語っていた。
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一方、城内。
「今度こそ、あのバカの耳をちぎれるまで引っ張って説教してやるわ!」と息巻いていたカレンだったが、目の前の光景に足を止める。
カレン「……セシリアがいなくなったですって?」
メンデル「あっちゃ~。ついさっきまで隣にいたんだけどね? 僕への修行メニューでも考えに行ったのかなぁ、アハハ」
カレン「……仕方ないわね。ちょっと連れ戻しに行ってくるわ」
カレンはメンデルの監視をフルーレとハナに任せると、迷うことなく、ある場所へと直行した。
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そこは、先ほどまで大繁盛していた土産売り場の裏手にある、古びたベンチだった。
そこには、全身の包帯に血を滲ませたまま、ぐったりと横たわるセシリアの姿があった。
その手には、なぜか「ツーリアン記念」と書かれたペナントが二枚、ぎゅっと握りしめられている。
一瞬、その動かぬ姿にカレンの表情が凍りついた。
だが、近づいて耳を澄ませば、ペナントを大事そうに抱えながら、幸せそうに「スー、スー」と寝息を立てる音が聞こえてくる。
カレン「……セシリア。あんたって、本当にバカすぎるわよね……。バカすぎて、こっちの身がもたないわ……」
毒づきながらも、カレンの口元には安堵のため息が漏れた。
自分たちがどれほど心配し、胃を痛めていたかも知らず、戦利品を手に夢の中へ逃げ込んだ戦友。
カレンは自分が羽織っていたカーディガンをそっと脱ぎ、無防備な鬼神の体にかけてやると、そのまま隣に腰を下ろした。
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リノ「フフフ……。カレン様も、本当に素直じゃないですねぇ」
少し離れた物陰から、さっき買ったばかりの「ツーリアン名もちょうちん」を手に、リノがクスクスと笑う。
マキ「ふん……。あいつらのコントは昔から相変わらずだ。あの満身創痍で鬼神モードまで使って、無事で済むはずがないことなど、カレンは百も承知だからな。……それにしてもセシリア、よくやってくれた‥‥」
マキの言葉には、教え子の成長に対する、不器用ながらも深い慈しみが込められていた。
さらにその光景を、少し離れた電柱の影から、包帯まみれのジェームズとガリクソンが温かい目で見守っている。
激闘の後の、束の間の平穏。この「見守り」まで含めて、アレクサンド騎士団の、いつもの、そして最高の景色であった。
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