第68話:琥珀色の鬼神
第68話「琥珀色の鬼神」
城壁の上、数分前までの悲壮感は何処へやら。
包帯を幾重にも巻き、血が滲んでいるはずのセシリアが、重力を無視して悠然と城門前へ飛び降りた。
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エレン「え? え? セシリア様!? 寝てなきゃダメですよぉ!!」
カレン「あのバカ……。シルフィの診断なら、普通は指一本動かせないはずでしょ……」
呆れ果てるカレンをよそに、セシリアは堂々とした足取りでフルーレの横に並び立つ。
メンデル「セシリアちゃん!! マジで!? 会いたかったよ~~!! 復活早すぎない!?」
セシリア「おいメンデル。お前はちょっと黙っておれ」
フルーレ「ちょっ!! 何するんすか!! 今はわたしの一騎打ちの最中っすよ!?」
セシリア「フルーレよ。お前は闘いというのを全く分かってない。見ていて全然楽しそうじゃなかったぞ。……なあ、メンデル!? お前もだろ?」
メンデル「あっちゃ~、バレてたかい?」
セシリア「馬鹿者!! 当たり前だ、昨日と全然違うではないか!! ……というわけだ。フルーレ、お前はもういい。代われ」
フルーレ「何を言ってるんすか!!?? あんた夕べ死にかけてたんすよ!? 一ヶ月は絶対安静だって言われてたんすよ!!??」
セシリア「そんなこと言われても現にこうして動けているから仕方ないではないか!! さっさと代わるのだ!! ていうかもう代わる!!! 絶対代わる!! もう決めたのだ!! メンデル!! お前もそれでいいだろう!!?」
メンデル「うん、モチのロンだよ☆」
セシリア「というわけだ。さらばフルーレ!! どいたどいた! シッシッ!!」
フルーレ「はあぁぁぁ!!??(憤怒)」
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城壁の上では、アレクサンド騎士団の頭脳と良心たちが、天を仰いでいた。
カレン「……もう作戦もへったくれもないわ。めちゃくちゃよ……」
隊長ズ「……何これ?(思考停止)」
副師団長ズ「(小声で)ツッコミを入れたら負け……ツッコミを入れたら負け……」
エレン「‥‥あのひと、本当に人間なんですか‥‥?」
マキ「わたしも、どこからどうツッコミを入れたらよいのやら……」
リノ(思念)『マキ様ぁ、まだセシリア様のアレなところに慣れないんですか~?』
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城門前。フルーレを強引に(物理的に)押し退けたセシリアが、メンデルと対峙する。
セシリア「最初に言っておく。昨日の闘い、お前は何一つ卑怯なことはしていない。全てわたしの油断だ。……それだけ、お前との闘いは楽しかった!」
メンデル「……。……セシリアちゃんだけだよ、そう言ってくれるのは。僕ちゃんも楽しかったから、すっごく嬉しー!!」
セシリア「わたしは無敗でもなければ無敵でもないからな。なんなら、毎日挑んでも負け続けたことなどザラだ! 何百回、何千回負けたか分からんぐらいだ。ハッハッハ!!」
腹を抱えて豪快に笑うセシリア。
彼女の脳裏には、かつてマキとの稽古で、泥を舐め、剣を弾かれ、それでも立ち上がり続けた日々が鮮明に浮かんでいた。
マキ「‥‥しぶとすぎて、こっちが疲れてたがな、本当に毎日毎日‥‥」
敗北を知るからこそ、彼女は「最強」に手が届いた。
昨日の負けすらも「最高のご馳走」として飲み込んだ鬼神の瞳には、昨日以上の、純粋で狂気じみた闘志が宿っていた。
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ツーリアンの城壁の上。
騒乱の渦中、力なく壁にもたれかかる影があった。
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エレン「じ、ジェームズさん!!! なぜ、セシリア様を止めなかった……ん……ですか……っ!?」
エレンの悲鳴に近い問いかけに、ジェームズは青白い顔を歪め、弱々しく、しかし満足げにニコリと微笑んだ。
ジェームズ「……ハハ。これが、止めていなかったように見えるかい……?」
見れば、ジェームズの体は再び全身血まみれ。先日の治療を台無しにするかのような、凄まじい「揉み合い」の跡。
意識を失っていたセシリアが跳ね起きた瞬間、彼は文字通り命懸けでその体に縋り付き、引きずられ、投げ飛ばされ、それでも食い下がった末のこの姿だった。
カレン「……。シルフィ、悪いけれど、またジェームズの治療をお願いね」
シルフィ「了解です。……次は青汁の容器に漬け込んでおきましょうか?」
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一方、地上。城門の前では、もはや誰も立ち入れない異様な熱量が渦巻いていた。
セシリア「さあメンデル、楽しませてもらうぞ。……しかし、その前にだ」
**『ドォォォォォン!!!』**
突如、セシリアの手から至近距離のフルーレに向けて、殺意の塊のような爆炎が叩き込まれた。
フルーレ「うわあぁぁ!? 何するんすか!!」
反射的に飛び退き、危ういところで回避するフルーレ。その手元では、再び「雷王」が黄金の火花を散らし、メンデルの魔剣を威圧しようとしていた。
セシリア「つまらん真似をするな、フルーレ。……全力のメンデルと戦わねば、意味がない」
メンデル「セシリアちゃん。気持ちは嬉しいんだけどさ、今のは当たったら危険が危ないよ……?」
セシリア「心配するな。いつも当てようとしているのだが、フルーレの奴は必ず躱しおるからな。ハッハッハ!」
フルーレ「…………(当てようとしてたんすか、わたしの上司は……)」
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もはや常識も軍略も、この二人には通用しない。
セシリアは大剣の切っ先をメンデルの喉元へ突きつけ、包帯の下から溢れ出す闘気をさらに膨らませた。
セシリア「我が名はセシリア・ローランド! いざ尋常に!!」
メンデル「……参ったな。最高のダンスパートナーに、二度も誘われちゃ断れないよね」
メンデルもまた、魔剣テスラを抜き放ち、真剣な眼差しでその身を沈める。
セシリア「さあメンデル!! 楽しませてもらうぞ!!!」
大地が震え、ツーリアンの城壁が鳴動する。
昨日、一度は折れたはずの鬼神の剣が、いま、更なる「高み」へと至る一撃を放とうとしていた。
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ツーリアンの平原に、昨日を遥かに凌駕する衝撃波が吹き荒れる。
観戦する帝国兵、そしてリノや治療中のジェームズまでもが、その眼前の光景に息を呑んでいた。
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セシリア「フハハ……メンデルよ! 楽しいな!?」
メンデル「アハハ! 本当に怪我人かい? 君の辞書には『限界』って言葉もないみたいだね!」
セシリアの振るう剛剣は、昨日よりも鋭く、重い。
対するメンデルもまた、大陸十傑の意地を見せ、神速のステップで火花を散らす。
メンデルが魔剣テスラの真価を解放し、不可視の雷の刃を幾条も放つ。
しかし、セシリアはそれら全てを、まるで予知しているかのように紙一重で躱し、無詠唱の五属性魔法――火、雷、氷、水、嵐を同時に叩きつける。
メンデル「おっと! 当たったらマジでヤバいヤツばっかりじゃん!」
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メンデルの瞳から、ついに余裕の色が消えた。魔剣テスラがオレンジ色に激しく明滅し、天を指す。
メンデル「セシリアちゃん、受けてくれるかい? ……僕の、最終奥義だよ」
**『ズドォォォォォン!!!!』**
天から降り注いだのは、一本の雷柱ではない。
空間そのものを焼き尽くすような、極大の雷撃。逃げ場のないその一撃がセシリアを直撃した。……誰もがそう思った。
しかし、爆煙が晴れた中心。セシリアは、不敵な笑みを浮かべたまま「無傷」で立っていた。
セシリアの周囲には、大地の魔力、磁力、そして重力が、琥珀色のオーラとなって渦巻いている。
それは地系魔法を極限まで圧縮した「鎧」。テスラの雷撃は、そのオーラに触れた瞬間に大地へと受け流され、霧散していた。
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セシリア「ハハハ、凄い技だったぞ!! では、次はこれを受けてみよ!!」
琥珀色のオーラを纏ったセシリアが、地を蹴る。
**『ドォォォン!!』**
踏み込んだ地面がクレーターのように爆ぜ、瞬時にメンデルの懐へ潜り込んだ。
メンデル「うっ……!? お、重い!! なんてパワーなんだい!?」
必死に剣で受け止めるメンデルだったが、その腕が悲鳴を上げる。
慌てて近距離から雷撃の弾幕を張るも、セシリアの琥珀色に輝く「大地の鎧」はそれを無慈悲に弾き返し、彼女の突進を止めることはできない。
城壁の上、マキはその様子を見て、深いため息をついた。
マキ「……ふん、この姿を見るのも久しぶりだが。あの頃から何も成長しておらんではないか。……セシリアの未熟者めが」
マキは、セシリアが「鬼王」という地系最強の剣を手に入れたことで、その属性を剣に「乗せる」技術を覚えるかと期待していた。
しかし、目の前のセシリアがやっているのは、己の強大な魔力をそのまま「力」として強引に鎧に変える、力任せの「鬼神モード」。
かつてマキとの稽古で、敗北の淵に立たされるたびに発動させていた、彼女の本能の形態だった。
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