第64話:アレクサンドの快進撃
第64話「アレクサンドの快進撃」
ツーリアン城内。そこはもはや戦場ではなく、一人の少女による「理不尽な説教会場(物理破壊付き)」と化していた。
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エレン「ブラームスさ~ん、ぐすん……話しを聞いてくださいよぉ~~……ぐすん」
千鳥足で、ゆらりと、しかし確実に間合いを詰めてくるエレン。本能的な恐怖に駆られたブラームスが後退りした瞬間――。
**『ゴォォォォォォォ!!!!!』**
それは魔法の射程や規模という概念を遥かに超越した、天災そのもの。龍の咆哮が具現化したかのような極大火焔が、ブラームスを焼き尽くさんと放たれた。
ブラームス「うぎゃあぁ~!!!!」
死に物狂いで回避するブラームス。だが、エレンの追求は止まらない。
エレン「ぐすん……ブラームスさん……なぜ逃げるんですかぁ~」
瞳に涙を溜め、頬を赤く染めたエレンの視線が、瓦礫の陰に隠れていたジェームズを捉える。
ブラームス「む!? お前はハイドンの部下の……!」
エレン「ぐすん、ひっく……あ、ジェームズさぁん……お話、聞いてくれますぅ~? ……ぐすん」
ジェームズ「ひ、ひ、ひいいっ!! エ、エレンちゃん!! ブ、ブラームス将軍に聞いてもらいなさい!! 一騎打ちを望んでいたのは彼なんだからさ! ね? ね!?(必死の形相)」
ブラームス「な!? 貴様、なんてことを!?」
エレン「そうですよぉ~……ぐすん。ブラームスさん、あんなにわたしと一対一でお話したがってたじゃないですかぁ~……ぐすん」
ブラームス「あ、いや、その……ま、待ってくれ!? あれはだな……!」
**『ゴォォォォォォ!!!!!』**
ブラームス「うぎゃあぁあ!! た、助けてぇ!!??」
炎に巻かれながら、ブラームスは故郷の古いお伽話を思い出していた。
> 「龍を泣かしてはいけないよ。龍は泣いたら強くなる。龍を泣かした国は、一夜にして滅んだとさ」
ブラームス「ひいいっ!? お、俺の負けでいい!! 負けだ!! だから兵たちを焼き殺さないでくれ! お願いだぁぁぁ!!!」
エレン「……話も、聞いてくれますよね……???」
こうして、帝国第三の都市ツーリアンは、軍事的な陥落というよりは「龍のお説教」による精神的崩壊をもって、完全にアレクサンド騎士団の軍門に降った。
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一方、もぬけの殻だと思われていたゼッターランド帝国の最西端城塞都市だったメトロイド。
奪還を確信して到着したリスト将軍は、城門の前に広がる光景に、開いた口が塞がらなかった。
そこには、空城どころか、およそ五万に及ぶ大軍勢が、完璧な陣を構えてリストを迎え撃とうと待ち構えていたのだ。
リスト「……は? 五万だと!?アレクサンドの主力は五万全軍でツーリアンへ向かったはず……。では、目の前にいるこの大軍はいったい何なんだ!?」
五万の兵が掲げるのは、アレクサンドの旗。
そして、その中央で悠然と指揮を執るのは――。
カレンの「飛び石」戦術の真髄。
それは、敵の予想を二重、三重に裏切る「数のマジック」だった。
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メトロイド城門前。奪還を確信していたリスト将軍の視界に飛び込んできたのは、計算上存在するはずのない五万の軍勢だった。
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リスト(ツーリアンを包囲しているアレクサンド軍は五万。本国からの増援も物理的に間に合わない。ならば、目の前にいるこの大軍は何なのだ!?)
冷や汗が止まらない。二万の軍勢で、五万が守る強固な城塞都市を落とすのは無謀の極み。
しかし、手ぶらで退却すれば待っているのは皇帝による処刑だ。
リスト「くっ……このまま退却などできるか! 全軍前へ!! 玉砕覚悟で道を切り拓け!!」
死兵と化した帝国軍が突撃を開始したその時、アレクサンド軍の先鋒から、聞き慣れた、しかし信じがたい声が響き渡った。
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ハイドン「リストよ、久しぶりだな!!」
リスト「ハ、ハイドン!? 貴様、生きていたのか……!? それに隣にいるのは……バッハ!? まさか、その五万の兵は……!」
ハイドン「察しの通りだ。元はメトロイドを守備していた帝国兵たちだよ」
リスト「な、何だと!? 陥落からまだ三日足らずだぞ!? 貴様ら、帝国への忠誠を忘れたのか!!」
リストは馬を前に進め、元部下たちに向けて絶叫した。
リスト「我こそはゼッターランド帝国軍、リスト将軍である!! 今すぐに帝国へ帰順するのであれば、一切の罪に問わぬと我が約束しよう!! さあ、こちら側に戻ってくるのだ!!」
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奪われたのは城ではなく「心」
静寂。しかし、それに続いたのは帰順の動きではなく、地を揺るがすような民と兵の叫びだった。
元帝国兵「我々は力で屈したのではない! セシリア様の崇高なる思想に賛同したのだ!」
元帝国兵「セシリア様とバッハ様は約束してくださった! もうメトロイドを『最前線基地』にはしないと!」
元帝国兵「花と緑、スイーツと青汁と提灯がいっぱいの平和な街……猫もお年寄りも住み良い街にすると! そんなバッハ様を、帝国は死刑にすると言ったではないか!!」
バッハは横で複雑な顔をしていたが、兵たちの熱狂は止まらない。
元帝国兵「これがメトロイド最後の戦闘だ! 勝って、市民とバッハ様を守り抜くぞ!!」
「オオオォォォォォ!!!!!」
五万の軍勢から放たれる圧倒的な戦意。それは「義務」で戦うリストの二万を、精神的な圧力だけで押し潰さんとしていた。
リスト(……バカな。提灯とスイーツで、これほどの軍勢が作り変えられたというのか!? カレン……セシリア……貴様ら、一体何をしたんだ……!!)
戦わずして勝負は決していた。リスト将軍の二万は、もはや武器を構えることさえ躊躇うほどに気圧されていた。
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メトロイド城門前。
圧倒的な戦力差、そして変わり果てた旧友たちの姿。リスト将軍に残されたのは、帝国武人としての最期の矜持だけだった。
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リスト「我こそは帝国が誇るリストなり! その最期、とくと見届けよ!! メンデル様……すみません。お先に征きます……!」
リストが覚悟を決め、自らの喉元へ、あるいは敵陣へと突き進もうと剣を掲げたその瞬間。
「キィィイン!!」
鋭い金属音と共に、飛来した銀色の鎖がリストの剣に複雑に絡みついた。
リスト「誰だ!? 邪魔をするな!! 死なせてくれ!!」
ヒナギク「ハイドン様とブキャナン様から、リスト将軍なら必ずこの行動に出ると言われて潜んでおりましたが……本当にその通りでしたね」
鎖の主、ヒナギクが屋根の上から静かに舞い降りる。その後ろから、ハイドンがゆっくりと歩み寄った。
ハイドン「リストよ。お前は本当に一本気で真面目な男だな。……死ぬのはいつでもできる。少しで構わない、私の話を聞いてくれないか」
剣を封じられたリストは、がっくりと膝をついた。帝国への忠誠と、目の前の「提灯と猫の楽園」と化したメトロイドの現実。その狭間で、彼の固い心にヒビが入り始めていた。
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一方、陥落したツーリアンの城内では、ブラームス将軍が「物理的な死」よりも恐ろしい「精神的な拷問」に耐え続けていた。
エレン「ぐすん……ブラームスさ~ん。わたしの話しを、聞いてくださいよぉ~~……」
ブラームス「聞いてる!! 聞いてるから!! ちゃんと全部聞いてるから、その火焔放射をやめて落ち着いて!!」
エレン「わたしぃ……将来の夢は公務員になってぇ……平凡な、普通の生活をして……平凡な家庭を築くのが、夢だったんですよぉ~~……ぐすん、ぐすん」
ブラームス「うん、うん。そうだね? 幸せに生きたいよね? 分かるよ。俺だってそうだよ! 生き延びられるものなら幸せになりたいよ!!(切実)」
ジェームズ「ブラームス将軍! あと少しでカレン様が到着されるそうですので、それまで頑張って話し相手になってあげてください! では、俺はこれで!!」
ブラームス「ちょ!? おい!! 待て、行くな!! 一人にしないでくれ!!」
ブラームスは必死にジェームズの裾を掴もうとするが、ジェームズは「あばよ!」と言わんばかりにヒラリと躱して逃走を図る。
しかし――。
『ドォォォォン!!!!』
逃げようとしたジェームズの目の前に、極大の轟雷が落ち、退路を断った。
ジェームズ「ひ、ひいいっ!?」
エレン「ひっく……ぐすん。ジェームズさ~~ん……どこ行くんですかぁ~~? ぐすん」
ジェームズ「うわあぁぁ!? セシリア様(本物)、助けて!! お願いだから助けて!! もうセシリア様でいいから俺の命を助けてくれー!!マジで!!」
ジェームズは思い返していた。これまで、ことあるごとにエレンにお酒を勧めては、「お酒は苦手なんです」と断られていたあの日々を。
もしあの時、無理にでも飲ませていたら、今頃アレクサンド王都は消滅していたのではないか……。
夜空を眺め、遠い目をしたジェームズの頬を、一筋の涙(と雷の余波)が伝った。
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メトロイドとツーリアン。帝国の重要拠点が次々と塗り替えられていく中、捕らえられた将軍たちはアレクサンド騎士団という「異次元の集団」に飲み込まれようとしていた。
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ハイドンによる淡々とした、しかし熱のこもった説得は、頑なだったリストの心を少しずつ、確実に溶かしていった。
リスト「……ハイドン。お前が力に屈服する男でないことは、誰よりも私が知っている。そのお前がそこまで崇拝するセシリアとカレン……一体どんな人物なのか、一度会ってみたくなったぞ」
ハイドン「素晴らしいお方だ。会えばお前もすぐに分かるさ(ニヤリ)」
ブキャナン「リスト将軍はコテコテの武闘派ですから、セシリア様とはきっと気が合いますよ。……ブラームス将軍は参謀タイプですから、カレン様にお会いさせてあげたいですね(ニヤリ)」
そこへ、血相を変えたバッハがドアを蹴破る勢いで飛び込んできた。
バッハ「朗報だ!! アレクサンド本国より予算申請の許可が下りたぞ!! すぐに提灯の量産と保護猫センターの建設に取り掛かれる! いよいよ、我々の理想郷が始まるぞ!!」
リスト(……帝国の大将軍が、なぜ建設現場の監督のような顔で喜んでいるんだ……?)
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一方、陥落したツーリアンの執務室では、大軍師カレンが優雅に椅子に座っていた。
カレン「ブラームス将軍。被害を最小限に抑えた見事な指揮、わたしは称賛しているわ。おかげで我が軍も無傷よ」
ブラームス「……恐れ多いお言葉。……部下たちが無傷で済んだのは、カレン様の慈悲深き軍略の賜物かと存じます……」
カレン「ええ、ほぼ無血で済んで、ようやく安心できたわね」
ブラームス「……はい。『私以外』は無血と無傷で本当によかったです……」
ブラームスはズタボロのボロ雑巾のようになりながら、虚空を見つめて微笑んだ。
その足元には、彼の裾をガッチリと掴んだまま、幸せそうな寝顔で爆睡するエレン。
さらにその横では、ジェームズが震える指で床に「サ……ヨ……ナ……ラ……」とダイイングメッセージを刻んでいた。
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その頃、東の拠点ブリンスタ。
戦況の報告を受けたメンデルは、相変わらずの軽さで状況を分析していた。
急使「報告! ツーリアン陥落、ブラームス将軍捕縛! さらにメトロイドのリスト将軍も敗北し、捕縛された模様です!!」
メンデル「あっちゃ〜、やっぱこうなっちゃったか〜。このままじゃメトロイドとツーリアンからダブル攻撃されるじゃん?挟撃される前に俺から動くのが良くね? うん、そうしよう!」
守備を捨て、即座に打って出る判断。これこそが「華麗なるメンデル」の真骨頂。彼は三万の兵をまとめ上げ、ブリンスタの門を力強く押し開いた。
メンデル「さあ、アレクサンドの面白い子たち。俺と踊る準備はできてるかな〜?」
帝国の三傑が一人、ついに本気で牙を剥く。
有史に残る壮絶な激闘――その幕が、いま静かに、しかし鮮烈に上がろうとしていた。




