第63話:大陸屈指の大軍師
第63話「大陸屈指の大軍師」
メトロイドの夜、喧騒から少し離れた一角。
膨大なシミュレーション資料の作成という、まさに「戦場」を終えたブキャナンが、幽霊のような足取りで幕舎から這い出してきた。
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ブキャナン「皆もう夕飯は食べ終わってるだろうな……。ラーメンでも食べて部屋に帰るか……」
カレン「やっほー♡ ブキャナンさーん♡」
ブキャナン「カ、カ、カリンちゃん!? どうしたの? 今日は帯刀して……」
目の前に現れたのは、可憐な新人隊員(偽装中)のカリン。
しかし、その腰には不釣り合いなほど禍々しい魔力を放つ剣が帯びられていた。
カレン「ブキャナンさんが言ったんじゃん〜。セシリア様直轄部隊なのに何で帯刀してないの?って」
ブキャナン「あ、そうだったね。それにしても凄い剣だね。魔力が抑えきれてないというか……」
カレン(……まずいわね。ブキャナンのやつ、剣を見る目まであるのね。誤魔化さないと)
カレン「え? そうなの? ……あ、カリンお腹すいてるの〜♡」
ブキャナン「俺も今から食べるところなんだ。一緒にどうだい?」
二人はメトロイド市街にある、小さなパスタ店へと足を運んだ。
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湯気の上がるパスタを前に、カリンは無邪気な声を装って問いかける。
カレン「ブキャナンさん、戦略を考えるのが得意なんて凄いよ〜」
ブキャナン「カリンちゃんこそ、剣士より戦略家や参謀向きだと思うよ?」
カレン「え〜? カリンは素質ないもん〜。ブキャナンさんみたいな凄い参謀さんには憧れるなぁ〜」
ブキャナンは自嘲気味に首を振った。
ブキャナン「俺じゃムリムリ。アレクサンドにはカレン様という本物の大軍師がいるからね。俺なんか足元にも及ばないよ。あの方のプレッシャーは並大抵じゃないんだ」
カレン「……ふーん、そうなんだね〜」
ブキャナン「軍師って職種は、味方全員の命を預かってるようなもんだからね。一手のミスで大量の仲間が死ぬ。だから普段から厳しい態度を取らなきゃいけないんだ。本当は優しい人だって分かってるんだけどね。……あの方は、勝ちすぎれば今度は敵が大量に死ぬことまで、常に考えて苦悩してるんだよ」
カレン「…………」
フォークを動かす手が止まる。
カリンの瞳から一瞬、演じていた光が消え、深い思慮の色が宿った。
ブキャナン「あ、カリンちゃんごめん! つ、つい仕事の話ばかりしちゃって……退屈だったよね?」
カレン「……ううん、いいの。つい、いろいろ思い出しちゃっただけ……」
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カレンは知っていた。自分が「鬼悪魔」と呼ばれ、冷徹な決断を下すたびに、誰かがその裏側にある孤独を理解してくれていることを。
最も身近な部下であるブキャナンの言葉は、鎧を纏った彼女の心に、パスタの熱気よりも温かく染み渡った。
カレン(……優しい、か。そんな甘いこと言ってる場合じゃないんだけどね。でも……ありがとう、ブキャナン)
翌朝。
そこには「新人隊員カリン」の姿はなく、冷徹な軍師カレンの姿があった。
彼女が下した次の一手は、味方の命を守り、敵の被害を最小限に抑えつつ、帝国の喉元を最速で貫くための――「城塞都市ブリンスタへの即時進軍」。
カレン「全軍、出発よ。……提灯の在庫を、全土に広めに行くわよ」
愛を込めた(?)無茶振りと共に、アレクサンド騎士団は再び動き出す。
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帝国第三都市ツーリアン。そこから三万の精鋭を引き連れ、剛将リストと華麗なる天才メンデルは、アレクサンド騎士団に包囲されたはずのブリンスタへと急行していた。
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リスト「アレクサンド騎士団は五万、ブリンスタの守備兵は四万。そこに我ら三万が加われば、数は圧倒的です。メンデル様の実力があれば、数刻で片付くでしょう」
リストは逸る気持ちを抑え、進軍を急がせる。自身の管轄であるブリンスタが包囲されているという屈辱。
しかし、予定では十里の距離まで接近した瞬間、城内の四万と呼応して敵を挟み撃ちにする手はずだった。
メンデル「おーい、リスト〜。悩みすぎるとハゲるよ? 僕が一緒にいるんだからさ、ものの数時間でキレイに片付けてあげるって!」
相変わらずのチャラい口調で笑うメンデル。だが、いよいよブリンスタを包囲しているはずの陣影が見えてきた時、二人の顔から余裕が消え失せた。
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メンデル「……あれ? マジで?」
リスト「な、な、何だこれは……!?」
そこにあったのは、整然と並べられたアレクサンドの旗印と、誰もいない「空っぽの陣地」だった。
ブリンスタの城壁は無傷。しかし、包囲していたはずの五万の軍勢は、影も形もなく消え去っていたのである。
リスト「ブリンスタは無事……。だが、アレクサンド騎士団は一体どこへ……!?」
その疑問に答えるかのように、一騎の早馬が死に物狂いの形相で駆け込んできた。
密偵「報告!! メンデル様に急ぎ報告!! 第三都市ツーリアンが、アレクサンド騎士団五万に包囲されました!!現在、猛攻を受けて応戦中!! 城内に紛れ込んだ斥候が多すぎて大混乱! ブラームス将軍が救援を求めています!!」
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リスト「な、な……!? ここを狙うのではなく、飛び越してツーリアンだと!? カ、カレンというヤツ……一体何を考えているんだ!!」
リストは戦慄した。ブリンスタを包囲していると見せかけ、敵の救出軍がツーリアンを空けさせた瞬間に、全軍を反転させて手薄なツーリアンを突く。
もし短時間で落とせなければ、今度は自分たちがブリンスタとツーリアンの軍に挟まれて全滅する。あまりにも博打、あまりにも前代未聞の「飛び石」戦術。
リスト「メンデル様! 大至急、ツーリアンへ引き返しましょう!!」
メンデル「……リスト。そりゃ逆に『危険があぶない』よ。ツーリアンを短時間で落とす皮算用があるからこその作戦だろー? もし既にあっちが落ちてたらさ~、メトロイドからの後発隊にこのブリンスタまで背後から突かれちゃうよ」
さすがの「華麗なるメンデル」も、今回は頭をかいて苦笑いするしかなかった。
軍師カレンが描いたのは、単なる拠点の奪い合いではない。帝国の防衛システムそのものを根底からバグらせる、狂気と精密さが同居した芸術的戦略。
カレン(ふふ、ブキャナンさんの言った通りよ。勝ちすぎれば敵が死ぬ。だから、戦わずに心を折らせてもらうわね)
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ゼッターランド帝国第三の都市ツーリアン。その城内は、整然とした攻防戦とは程遠い、阿鼻叫喚の渦に包まれていた。
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カレン「ふふ、智将ブラームス将軍。城門をあえて開けて誘い込み、わたしとセシリアを一点集中で叩くつもりね。死ぬ気かしら?」
マリア「戦略シミュレーションの結果でも、彼ならその捨て身の策を選ぶ確率は高いと出ています」
カレンの読み通り、ブラームスは全軍に命じていた。軍師を討つのは難しいが、前線で暴れる「セシリア」さえ討ち取れば、アレクサンド騎士団の士気は崩壊すると。
ブラームス「見つけたぞ! 敵将セシリアの部隊だ!! 全軍一点突破!! かかれェ!!」
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エレン「ほ、本陣にいたら安全だって聞いてたんですが!? 何かたくさん来ましたよ? シルフィさん!?」
シルフィ「ウフフ……たくさん来ちゃった♡」
帝国兵「いたぞ! セシリア発見!! 首を上げろォ!!」
エレン「ひ、人違いですっ!! きゃああ! こ、来ないでー!!」
『ドォン!』『ドカァン!』『ドカァン!!』
バッハ戦の再現であった。パニックに陥ったエレンの周囲で、無差別の広域破壊魔法が咲き乱れる。
カレンはあらかじめ、エレンの周辺に味方を一切配置しない「孤立無援(という名の安全圏)」を徹底させていたが、護衛を命じられていたジェームズは泣きそうになっていた。
ジェームズ「エレンちゃんを守れって言われてたが……これ守る必要あるのか!? うわっ、あぶねー! こっちに飛んできた!?」
エレン「きゃああああ!? 怖い怖い怖い怖い!! 近寄らないでえええ〜〜〜!!」
ジェームズ「ぎゃあああ! こっちが怖いわ!! うわあああ近寄らないでえええ!!」
マキ「……これは何のコントなのだ?」
リノ(思念)『セシリア様の直弟子同士、息がぴったりですね♡ でも、わたしとマキ様ほど息がぴったりではありませんけどね? てへっ☆』
マキ「どこが息ぴったりなんだ! わたしは変態ではない!!」
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一方、もぬけの殻となったブリンスタでは、リスト将軍が苦渋の決断を下していた。
リスト「私が二万を率いてメトロイドを奪還して参ります! ツーリアンに五万も割いているなら、あちらは空城に近いはず。退路を断ち、奴らを孤立させます!」
メンデル「そだね~。それが現実的だよ。騎士団のケツを叩くのは大事だし。リスト、頑張ってきてね〜」
メンデルの軽い見送りと共に、二万の軍勢がメトロイド奪還に向けて進軍を開始する。
カレン(あら、リスト将軍が動いたわね。メトロイドを奪還しに行く……いい判断よ。普通ならね)
軍師の微笑みは崩れない。
メトロイド、ツーリアン、そしてブリンスタ。三つの都市を結ぶ複雑な糸を操るカレンの手のひらで、帝国軍はさらに深く踊らされようとしていた。
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ツーリアン城内。ハナ率いる諜報師団の撹乱により、帝国の指揮系統はズタズタに引き裂かれていた。
智将ブラームスが起死回生を賭けた「大将首一点突破」の博打は、戦術的には王手をかけたはずだった。
目の前に、あの金色の甲冑――「鬼神セシリア(中身:エレン)」を捉えるまでは。
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ブラームス「そこの将! アレクサンド王国騎士団総大将、セシリア・ローランドとお見受けした!!」
エレン「あ、あわわわわ……ひ、人違いですっっっっ!!(また黒い鎧の二流ホストみたいな変な人が来た~~~~!?)」
ブラームス「……私はゼッターランド帝国、華麗なるメンデル将軍が配下、ブラームスである!! セシリア・ローランド殿、一騎打ちを申し入れる!!」
エレン「て、丁重にお断りいたしますぅっ!!!!!」
ブラームス(……おかしい。聞いた情報では、真っ先に受けて立つ戦闘狂だと聞いていたが……策か? 恐れをなしたのか!?)
エレン「は、はいっ、わたしの負けでいいですから! い、一騎打ちがしたいなら、あそこにいる大幹部シルフィ様に……あれ? いない?」
振り返れば、シルフィは遥か後方で「ウフフ♡」と聖母のような微笑みを浮かべて佇んでいる。
ブラームス「……ええい、問答無用! 嫌でも受けてもらうぞ!!」
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エレン「い、いやぁぁぁ!!?? こうなったら……シルフィ様に、ヤバくなったら飲むように言われたこの飲み物を……。あら? 意外と美味しい……うっ(ガクッ)」
エレンが取り出したのは、毒々しい緑色の小瓶。一気に飲み干した瞬間、彼女の膝が折れた。
マキ「むむっ!? いかんぞ! 戦闘中に怪しい薬でパワーアップを図るのは敗北か死亡のフラグだ!!」
リノ(思念)『ウフフ、マキ様はお詳しいのですね~、おりこうさんです♡』
ブラームス「わ、訳の分からんことを……! 覚悟せよ、セシリア!!」
無防備にうなだれるエレンへ、ブラームスの剣が振り下ろされる。
『キンッ!!!』
しかし、その刃はエレンの大剣によって、吸い込まれるように受け止められた。
エレン「う……ううっ……ぐすん……。わたし、戦闘員として入ったわけじゃないのに……事務員として入ったのに‥‥ぐすん。それなのに……うわあぁぁん!!」
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シルフィ「ウフフ……『ハズレ』が出ましたか。泣き上戸の方が出てしまいましたねぇ。わたしの特製青汁カクテル、まだ改良の余地がありますわね♡」
マキ「アホかー!! 何がハズレだ! 戦闘中に酒を飲ませる奴がおるかー!!」
その時、エレンの手のひらから、空を焦がすような龍の咆哮――火焔の奔流がブラームスを襲った。
ブラームス「うわあ!? な、何だ!?」
辛うじて回避したブラームスが目にしたのは、風と雷を全身に纏い、涙をボロボロと流しながら、千鳥足で近づいてくる「怪物」の姿だった。
エレン「ブラームスさ~ん……ぐすん……聞いてくださいよぉ~。わたし、いつもいつも頑張ってるんですよぉ……それなのにぃ……ぐすん……ちゃんと聞いてますぅ~~~?(にやり)」
ブラームス「あわわわわわ(こ、こいつ……酔ってるのか!? 酔ってこの威力なのか!?)」
理性を失い、愚痴と魔力を同時に垂れ流す「泥酔龍神」エレン。
智将ブラームスの人生最大の悪夢は、まだ始まったばかりだった。
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