第62話:アレクサンドの常識
第62話「アレクサンドの常識」
メトロイドの広場では、歴史の転換点となる光景が広がっていた。カレンが戦略を練り、セシリアが武力で道を切り拓く中、その「後始末」という最も困難な任務を、ハイドンとエレン(セシリア姿)が担っていた。
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ハイドン「……私は、今の選択肢に辿り着くまでに随分時間をかけてしまった。もっと早くセシリア様たちにお会いできていれば、と心から思う。皆さんに強要はしません。ですが、この私の『第二の人生』に、どうか力を貸してはもらえないだろうか」
かつての帝国の英雄、人格者として名高いハイドンの真摯な言葉は、敗北に打ちひしがれていた五万の捕虜たちの心に深く染み渡った。
そして、その横で金色の甲冑を纏った「鬼神(中身:エレン)」が、震える声を必死に抑えて口を開く。
エレン(セシリア姿)「帝国の皆さん、わたしがセシリア・ローランドだ。……先ほどの戦いでは、色々吹き飛ばしたり魔法を連発したりして、本当に申し訳なかった。……戦争はお互い辛い思いしかしない。そんな悲劇を無くすための戦いに、わたしは挑んでいる。共に歩んではくれないか……?」
帝国兵たち(あ、あの慈悲深い瞳……! 圧倒的な力を持っていながら、我々に謝罪し、共に平和を願ってくれるというのか!?)
広場を埋め尽くした五万の兵から、地鳴りのような拍手とスタンディングオベーションが巻き起こる。
「セシリア様!! バンザイ!!」
「ハイドン将軍、我々もついていきます!!」
舞台裏でそれを見ていたカレンは、満足げに扇子を畳んだ。
カレン(フフフ……セシリアがハイドンを味方につけた効果が、ここまで劇的に出るとはね。エレンも、演技とは思えないほど心のこもった「聖母」ぶりだわ。これぞ最強のプロパガンダね)
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一方、尋問室(という名の企画会議室)では、本物のセシリアがバッハを追い詰めていた。
セシリア「おい二流ホストよ! 計画はどうなった?」
バッハ「バリアフリー、花街道、保護猫、スイーツ、ちょうちん、青汁……い、今すぐにでもやりたいのですが、よ、予算が……」
セシリア「むむ。それなら帝国に予算の申請を出してみたらどうだ?」
バッハ「!! 無理ですよ!! ここはもう貴方たちの占領下でしょう!?」
セシリア「無理かどうか、やってみないと分からんだろう! やる前から諦めるな!!」
数日後、帝都クレイド。
ゼッターランド皇帝の手元に、一通の……いや、束になった稟議書が届いた。
皇帝「……なんだこれは。『メトロイド・スイーツショップ・フランチャイズ化計画書』? 『夜道に優しいちょうちん設置案』? 予算申請……バッハ、貴様……私をバカにしているのか?」
敵軍に占領された城主が、敵の軍事機密ではなく「パティシエ育成予算」を自国に請求してきたのである。
皇帝「バッハを死刑にしろ!! 最大級の反乱罪だ!! 全土に勅令を出せ!!!」
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さらに数日後、その知らせはメトロイドにも届いた。
バッハ「な、なぜだ……!? 私は言われた通り、前向きに検討して書類を送っただけなのに、なぜ死刑判決なんだ……!!」
セシリア「ふむ、冷たい国だな。そんなに死刑になりたいなら帰れば良いが?」
バッハ「帰れるわけないでしょうぉぉぉ!! 助けてください、アレクサンド万歳! ちょうちん万歳!!」
こうして、帝国の一翼を担った剛将バッハは、皮肉にも「アレクサンドに最も忠誠を誓わざるを得ない」立場へと転落していった。
カレン(あらあら、これでバッハも完全に詰んだわね。……さて、皇帝が激怒して本気を出してくる頃かしら?)
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時を少し戻し、帝都クレイドから第三都市ツーリアンへと続く街道。
そこには、皇帝の怒火を一身に浴び、耳を塞ぎたくなるような説得(説教)を終えたばかりの一団があった。
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「あっちゃ〜……皇帝マジギレしちゃってたよ〜。俺、二時間も説教食らっちゃったし。ていうかバッハ、あいつマジでヤバくね? 保護猫活動費で年間1兆円の予算請求とか、マジ笑えるんだけど〜(笑)」
「メンデル様、笑い事ではありませんよ……」
「そうですよ、あんなにブチ切れた皇帝陛下、心臓に悪すぎですって!」
呆れ顔で諫めるのは、副官の**ブラームス将軍とリスト将軍。
そして、軽い足取りで馬を走らせる男こそが、大陸十傑の一人にしてゼッターランド帝国が誇る三大将軍の一人――「華麗なるメンデル」ことメンデル・スゾーンである。
そのチャラい言動とは裏腹に、戦場に立てば無慈悲なまでの美技で敵を蹂躙する、帝国最強の一角。
メンデル「まあ、バッハのバカを始末すれば陛下も機嫌直るっしょ? しっかしメトロイドまで遠いよな〜、マジ萎えるわ〜」
リスト「……まずはメトロイドを早急に奪い返さないと、次は我々が処刑台行きですよ」
ブラームス「アレクサンドも今頃、本国から物資を運び込んでメトロイドを要塞化している真っ最中でしょう。早めに叩くに越したことはありません」
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そこへ、砂塵を巻き上げて一騎の早馬が飛び込んできた。諜報員の顔は驚愕で引きつっている。
諜報員「ほ、報告! メトロイドのアレクサンド騎士団、城を捨てて進軍を開始!! 街道を東部へ向かい、城塞都市ブリンスタに向けて全軍で進撃中!!」
リスト「……はあ!? メトロイドを占領してまだ二日も経ってないんだぞ!?」
ブラームス「正気か!? 補給線も確保せずにさらに奥地へ!? カレンという軍師はバカなのか……それとも……」
一瞬の沈黙。しかし、メンデルだけは腹を抱えて笑い出した。
メンデル「アッハッハ!! マジおもしれー!! ウケる、マジウケる!!まあ、メトロイドまで行く手間が省けてラッキーじゃん?」
リスト「メンデル様、笑い事じゃないですよ! ブリンスタは俺の管轄なんですから!!」
メンデル「大丈夫だって! ブリンスタには俺が行くからさ。ブラームスはツーリアンを留守番頼むぜ? そうと決まればリスト、早く行こうぜ! 伝説、作っちゃおうか!」
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時系列はメトロイド陥落直後の祝勝会。
城内が勝利の美酒に酔いしれる中、静かにグラスを傾ける二人の男がいた。かつて帝国軍で肩を並べた、ハイドンとバッハである。
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ハイドン「久しぶりだな、バッハ」
バッハ「お前はハイドン!? 生きて……アレクサンド側にいたのか!?」
ハイドンは、憔悴しきった旧友の姿に複雑な笑みを浮かべた。セシリアに許可を取り、二人は静かな(はずの)場所へと移動する。
ハイドン「かなりセシリア様や騎士団幹部の洗礼を受けたみたいだな。……だが見ている限り、お前も気に入られたようで安心したぞ」
バッハ「……気に入られた? いったいあの人たちは何なんだ!? 街路樹だの提灯だの、軍事機密の代わりにスイーツのレシピを吐かされる尋問なんて聞いたことがないぞ!!」
ハイドンはウイスキーを一口含み、遠い目をして語り出した。
ハイドン「セシリア様をすぐに理解するのは難しいな。……だが、信じるに値する方だ。あの方は傍若無人で奇想天外、無礼千万で破天荒、歩く核兵器にしてジャイアンのような御仁だが……良い人であることは間違いない。そこは私が保証しよう」
バッハ「……。……。それ、本当に信じて大丈夫な人か? 『いい人』の定義が私の知っている辞書と違う気がするのだが……」
何をどう聞いても良い人には聞こえない凄まじい人物の定義に困惑するバッハ。
ハイドンは、自分が処刑の間際にどう救われたか、そしてセシリアが掲げる「誰もが笑える世界」という荒唐無稽な覇道を、淡々と、しかし熱く説いた。
バッハ「……分かった、ハイドン。お前がそこまで言うのなら信じよう。だが……」
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感動的な再会の空気は、突如として破られた。
副師団長ズ「ハイドンさーん! またお洋服買ってくださいよ〜! あと美味しそうなお店見つけたんでご馳走してほしいです〜!」
ヒナギク「あ、バッハさんも奢ってくれるならご一緒しませんか〜?」
サマンサ「ハイドン様、酒がなくなったんでそのウイスキーもらっていいですか?」
レイラ「あ、バッハ様も一緒にトランプします? 負けたら提灯の図面追加ですよ?」
バッハ「……。……ハイドン。場所を変えて静かに話すと言ったが、この場所はいったい何なんだ? 敵味方の境界線が崩壊しすぎではないか?」
ハイドン「……。……私の個室、らしいのだが」
副師団長ズ&隊長ズ「違います!! みんなの部屋です!!(即答)」
ハイドン「……だそうです」
バッハ「……。……。アレクサンド騎士団とは……軍隊ではなく、巨大な『親戚の集まり』か何かなのか……?」
バッハは悟った。この騎士団において、プライバシーや階級、あるいは「敵将」という概念は、セシリアという巨大な太陽の前では無価値なのだと。
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バッハが「みんなの部屋」でトランプの準備をさせられている頃。
別室ではカレンが地図を広げ、次の標的――城塞都市ブリンスタへの最短ルートを指でなぞっていた。
カレン「ふふ、バッハも馴染んだようね。……さて、帝国が『華麗なるあの方』を動かす前に、もう一段階ギアを上げさせてもらうわよ」
エレンが知らない間に決まった、次なる「龍神」の出陣。
メトロイドの平和な夜は、まもなく終わろうとしていた。
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