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第59話:エレンの初陣

こんな駄文をいつも読んで頂いてる方々に感謝です。

本当に励みになってます!

第59話「エレンの初陣」



バキュラの駐屯地は、まさに火山が噴火したかのような騒ぎになっていた。


---


カレン「はあ!? セシリアが勝手に出陣したですって!? あ、あのバカ!!! これ軍法会議もんじゃないの!!! わたしに処罰させるような真似を……くっ!!!」


カレンの周囲の温度が物理的に数度下がっている。扇子を握りしめる拳は白く震え、その背後ではフルーレが静かに、しかし凄まじい殺気を放っていた。


フルーレ「カレン様、すぐ連れて帰ってくるっすよ……(暗黒微笑)」


あの温厚(?)なフルーレの変貌に、剣士師団の兵たちは「どっちが敵かわからない」とガタガタ震え始めている。


だが、この混乱の最中、建物の陰から一羽の鳩を放つ者の影があったことに、気づく余裕のある者は誰一人いなかった。


---


その頃、戦場へと突き進む「セシリア直轄部隊」の中央では、前代未聞の身代わり作戦が進行していた。


エレン「や、や、やっぱ無理、無理ですよ~~~~!?」


金色の甲冑に身を包み、セシリアの象徴である巨大な剣を背負ったエレンが、馬上で滝のような涙を流している。


副師団長ズ「エレンちゃん大丈夫、わたしたちが付いてるから」

 

エレン「そ、それは嬉しいんですけどっ!? わたしなんかに先鋒を任せるなんて……無謀ですって!?」


リノ「エレンさん、落ち着いてください。貴女は今、セシリア様になりきってもらわないと困ります。……何のためにわたしが帯同してると思ってるんですか?」


エレン「リ、リノ様……で、でもわたし、戦場で一人の敵兵と戦ったこともないんですぅ……うわあん!」


リノ「エレンさんはわたしが命に代えても守りますから。ほら、前を見て」


---


背後を行く若手隊員たちは、憧れの「セシリア様(中身:エレン)」の後ろ姿に目を輝かせている。


若手隊員A「ようやく身近でセシリア様の戦闘が見れる!!」

若手隊員C「エレンは腹痛で休みとか、あいつマジでついてないよな」


エレン(ひいいっ、み、みんな来てる……。私がエレンだってバレたら、別の意味で殺されるぅぅ!!)


ヒナギク「報告! 帝国軍バッハの先鋒五千が正面より急接近!」


サーヴェル「セシリア様に代わって命令を下す!! 全員戦闘態勢をとれ!!!!」


エレン「あわわわわ……(ガチガチと鎧が鳴る音)」


マキ(……。……リノよ。流石にこやつには、まだ早かったのではないか?)


リノ(思念)『マキ様大丈夫ですよー。エレンさんに足りないのは経験と実績だけです。実力は師団長クラスのはず……だと思います。てへっ☆』


マキ(……。……『だと思います』だと!? お前、今、自分の直感だけでこの戦場を作ったのか!?)


泣き虫の影武者、心配性の副師団長ズ、そして腹黒い聖女(?)リノ。


この凸凹な陣容が、後に帝国軍を震撼させる「龍神伝説」の第一歩を記そうとしていた。


---


ついに「セシリア(中身:エレン)」と帝国軍先鋒が激突した。

バキュラ郊外の平原に、怒号と鋼のぶつかり合う音が響き渡る。


---


エレン「あわわ……本当に来ちゃってますよぉ~~」


馬上でガタガタと震えるエレンを余所に、左右を守る二人の副師団長が動いた。


サーヴェル「フルーレ剣士師団、副師団長サーヴェルである! 第一部隊、我に続け! 左から叩くぞ!!」


ヒナギク「ハナ諜報師団、副師団長ヒナギクだ! 第二部隊、わたしに続け! 右から叩く!!」


二人の動きは電光石火。普段、師団長たちの規格外な強さの陰に隠れているが、彼女たちもまた選りすぐりの精鋭。帝国兵を紙細工のように切り裂き、翻弄していく。


エレン「……す、凄い……。これならわたしが戦わなくても勝てるかも……」


安堵の溜息をつくエレン。しかし、帝国軍の狙いは最初から「大将の首」一点に絞られていた。


---


帝国兵「セシリアを発見!!!! 包囲しろ!!!」


平原の起伏から次々と帝国軍の伏兵が現れ、一瞬にしてエレンを孤立させる。


帝国兵「分断に成功!! これより敵将セシリアを討て!!!!」


エレン「ひいいっ!? だ、誰か助けてくださいっっ!?」


だが、頼みの綱であるサマンサ、レイラ、そしてリノは助けに入るどころか、マキを抱えたままスルスルと数十歩後退していく。


エレン「リノ様!? そ、そんなぁ……話が違うじゃないですか~~~!!(号泣)」


---


帝国兵「一斉にかかれ!!」


恐怖が沸点に達した瞬間、エレンの中で何かが爆発した。


エレン「いやあぁぁぁぁ!!!!」


エレンの指先から、巨大な火球、雷球、氷球、水球が無差別に放たれた。それも、呼吸をするかのような速度で。


『ドオン!!』『ドゴォン!!』『ズドォン!!』『ドカァン!!』


帝国兵長「な、何だこいつは!? 詠唱もなしでこんな規模の魔法を!?」


戦場を埋め尽くす四色の上級魔法(※本人にとっては初級)の雨あられ。大地が裂け、空気が爆ぜる。


マキ(……ヤバいぞ!? この威力は!! 当たったら即死レベルではないか!! リノ! 止めるのだ!!)


リノ(思念)『マキ様大丈夫です。エレンさんの魔法、当たんないですから。てへっ☆』


マキ(はあ!? ダメダメではないか!? 何がてへっだ! リノ!!)


リノ(思念)『だから死人は出ませんよー? でも、あんな威力が目の前で爆発し続けたら、かなりの威嚇と恐怖にはなるんです』


---


魔法に怯んだ隙を突こうと、帝国兵たちが槍を突き出す。


帝国兵長「離れるな!! 囲んで一斉にかかれ!!」


エレン「いやぁあぁ!? こ、来ないでえ~~~!!」


泣き叫びながら、背中の大剣を無我夢中で振り回すエレン。その一振りで、十数人の帝国兵が木の葉のように吹き飛んだ。


離れれば無詠唱魔法の嵐。近づけば大剣の餌食。


恐怖で我を忘れたエレンが繰り出しているのは、図らずもあの金髪の鬼神を彷彿させる技術だった。


マキ(……こ、これはセシリアの『百花繚乱』……)


リノ(思念)『ウフフ。脳筋って言われてるセシリア様は、実は凄く理にかなった攻撃をしていたんですよぉ~。てへっ☆』


目の前で繰り広げられるのは、泣きじゃくる少女による、圧倒的な蹂躙劇。


帝国軍にとって、それは「セシリアが更なる進化を遂げた」という絶望の始まりに他ならなかった。


---


戦場は、もはや一方的な虐殺の場と化していた。


エレンの制御不能な「号泣乱舞」と、副師団長たちの冷酷なまでの掃討により、帝国軍先鋒五千は跡形もなく消滅した。


---


エレン「あ、あわわ、当たらない、当たらないです……えへっ、えへへ……(涙でぐしゃぐしゃの顔で無意識に笑う)」


帝国兵「ひいいっ! こ、こいつ笑ってやがる!? 殺戮を楽しんでいるのか!?」


帝国軍にとって、エレンの「パニックによる号泣と無差別攻撃」は、「冷徹に獲物をいたぶる鬼神の愉悦」としか映っていなかった。


セイラが負傷兵の山を歩き回り、倒れた帝国兵に不敵な笑みを向ける。


セイラ「ウフフ……痛そうですね? アレクサンドに忠誠を誓うなら治してあげてもいいですよ? ウフフ……」


マキ(……恐ろしいヤツだ。これではシルフィと変わらんではないか。……いや、それ以上に恐ろしいのは、何も知らずに戦場を塗り替えたエレンの方だがな)


---


しかし、バッハ将軍にとっては、この惨状こそが「好機」だった。


バッハ「五千ずつ師団を分け、徹底的に包囲しろ! 誰一人逃がすな! その間に俺がセシリアを討ち取る!!」


バッハが率いる一万五千の帝国本隊が、獲物を狙う猛獣のように牙を剥いて迫る。


先鋒を全滅させたばかりのセシリア隊(中身:エレン)は、疲弊し、孤立しているはずだと判断したのだ。


ヒナギク「諜報部の情報では敵は一万五千。バッハ将軍自ら本隊を率いてきました」


エレン「ひいいっ!! さっきより酷くなってるじゃないですかぁぁぁ!!」


セイラ「ウフフ……包囲されてしまいましたよ? 撃破するしか助かる道はありませんわよ?」


---


リノが、静かにエレンの肩を叩く。その腰には、普段は見慣れない青い鞘と青い柄の「剣」が帯刀されていた。


リノ「エレンさん、今からわたしが説明する布陣でいけば確実に勝てますから、安心してくださいね~」


リノが描いたのは、防御に特化した布陣だった。前後左右を副師団長たちが固め、ど真ん中に「セシリア(エレン)」を配置する。一見すれば、守護対象を徹底的に守り抜く、理にかなった防御陣形。


エレン「あ、ありがとうございます……リノ様、あなたこそがわたしの心の支えですぅ……!」


マキ(……リノ、お前は鬼か!!!)


マキは戦慄していた。リノが提案したこの布陣は、そのまま前進すれば、敵軍の最も厚い層――バッハ将軍が陣取る「本隊のど真ん中」にエレンが自ら飛び込むよう設計されていたからだ。


リノ(思念)『え? 鬼? ……いえいえマキ様、これは「エレンさんが一番敵をたくさん倒せる場所」をご案内しているだけですよ? ほら、皆さん、準備はいいですね☆』


マキ(……。……。エレンよ、お前は今、自分がこれから「敵軍の心臓部」へダイブしようとしていることすら気づいていないのか……)


悲劇(あるいは喜劇)の幕が上がる。


泣き虫エレンは、自ら選んだその布陣で、帝国最強の一角バッハ将軍を真っ向から迎え撃つこととなる。


---


リノの描いた「エレン・デリバリー作戦」は完璧だった。


両軍が正面から激突した瞬間、三倍の兵力を誇るバッハの中軍は、吸い込まれるようにエレンの中軍を包囲。戦術的には「王国軍の孤立」だが、リノにとっては「梱包完了」の合図に過ぎなかった。


---


エレン「リノ様~!? なんかさっきより状況が悪化してる気がするんですが……だ、大丈夫ですよね? あ、あ、あれ? リノ様……?」


エレンが涙目で振り返ると、そこには信じられない光景があった。リノ、サマンサ、レイラの魔道師団師弟トリオが、驚くべきフットワークで遥か後方へと後退していく姿が。


エレン「きゃああぁぁぁ!? リノ様~~離れないでくださーい!!! 帰って来てぇぇぇぇ!!!」


リノ「(メガホン代わりの手で)わたし達魔道士は後方支援が仕事ですから~~前線は頑張ってくださ~~い!! てへっ☆」


マキ(……鬼か……悪魔か……。カレンもかなりの悪魔だが、それ以上の怪物がここにおる。こいつは「鬼悪魔」だ……)


リノ(思念)『あら酷いですね~? 味方も巻き込みかねない核弾頭(セシリア様)を敵のど真ん中に放り込むのはカレン様の常套手段ですよぉ? 周りを気にせず暴れられる、お互いWin-Winな作戦ですから♪』


マキ(セシリアの場合は本人が暴れたいという前提だ!! しかしあのへっぽこは違うだろーが!! 可哀想に!! 南無阿弥陀仏!!)


---


『ドカァァァァァァァァン!!!!』


エレンの絶叫と共に、戦場に最初の「爆鳴」が轟いた。


エレン「いやぁ!? 来ないでっ!? 怖い怖い!! 近寄らないでっ!!!」


恐怖でパニックに陥ったエレンの無詠唱魔法が、間髪入れずに帝国軍を消し飛ばしていく。


さらに最悪なことに、逃げ場を探してエレンが走り出した先は、常に「最も敵兵が密集している場所」だった。


エレン「きゃあぁぁぁぁぁ!? 寄らないでくださーい!!!!!」


めちゃくちゃに振り回される大剣。エレンの周囲では、常に五十人ほどの帝国兵が空を舞うという惨劇が繰り返される。


帝国兵「うわあ!? セシリアがこちらに来たぞ!?」


帝国兵「ひいいっ!? に、逃げろ!! バケモノだ!! 助けてくれー!!」


エレン「怖い怖い怖い!! もうヤダぁ~~~~!!!! いじめないで~~~~助けて~~~~!!」


『ドオォォォン!!!!!』


マキ(……。……。なんという光景だ。どちらが怖がっていて、どちらが助けを求めているのか、セリフだけでは判別がつかんではないか!!)


リノ(思念)『どちらもWin-Winの関係ですねっ! てへっ☆』


マキ(お互い恐怖に負けているという関係の方が正しいのでは……)


---


阿鼻叫喚の図図が広がる中、リノの表情から「てへっ」が消え、一瞬で鋭い「参謀」の顔に戻った。


リノ「……さあ、いよいよ大物が出てきましたよ?」


砂塵の向こう側、逃げ惑う帝国兵を自らの手で斬り捨て、凄まじい威圧感を放ちながら進軍してくる影。


バッハ「おのれセシリア……! 乱心したか、あるいはそこまで我らを侮るか!! このバッハが直接、その首を落としてくれるわ!!」


帝国軍が誇る剛将・バッハ。

エレンの人生史上、最大の「恐怖」が、今まさに目の前に現れようとしていた。

事務員で騎士団に採用されたはずのエレンが

とうとう戦場に駆り出されるかわいそうなお話

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