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第54話:セシリアの秘密

第54話「セシリアの秘密」



リノの隣で横たわるマキの意識は、セピア色に染まった11年前の記憶を鮮明に描き出していた。


---


#### 回想:王宮の指南役


12歳のラーズ王子は、父である先王に泣きつくように頼み込み、マキを自分の「専属近衛隊」に引き入れ、剣術指南役に据えることに成功した。


呼び出されたマキは、小等学校を卒業するまでの1年間という期間限定で、その役目を引き受ける。


マキ「小等学校を卒業したら正式に騎士団へ配属していただく。その条件ならお受けします。私の訓練時間を割くのですから、相応の報酬はいただきます」


12歳にして、その瞳には私情を排した鋼の決意が宿っていた。


それから数ヶ月、放課後の練兵場ではデジャブのような光景が繰り返された。


1ヶ月後

マキ「ラーズ王子、弱すぎます」

ラーズ「必ず強くなってみせる!!」


3ヶ月後

マキ「ラーズ王子、さらに弱くなってないですか?」


ラーズ「お前がさらに強くなっているからだろうが!! 来月を見ておれ!!」


6ヶ月後

マキ「ラーズ王子、本気で強くなりたいという気持ちはありますか?」


ラーズ「お、お前……陰でめちゃめちゃ訓練してただろ!? ズルいぞ! 差が詰まらないじゃないか!!」


マキ「……私は、強くならなければいけないので」


淡々と告げるマキの言葉の裏には、当時から「平和のために剣を振るう」という孤独な使命感が芽生えていた。


12ヶ月が過ぎ、約束の日は訪れた。マキは養父マイクが師団長を務めていた剣士師団への入隊を果たす。そして、残酷にもその直後、彼女の初陣が決まった。


ラーズ「マキ、戦争に参加するのはまだ早すぎる! もう少し大人になってからにしてくれ! だから、行かないでくれ!!」


マキ「……大人になるまで、戦争は待ってくれるの? 待たないわよね!?」


ラーズ「だからと言って……ッ!」

マキ「私は、戦争を無くすために戦争に行くの!! 戦争を終わらせたいの!!」


青い叫びをあげる王子を背に、少女は迷わず戦場へと踏み出した。それが、後に「大陸制覇」へと繋がる茨の道の第一歩だとも知らずに。


---


#### 現在:リノのベッド


マキ「(ラーズは、私が出陣するたびに『行かないでくれ』と喚きまくってばかりだったな。今日も、当時の軟弱者だった頃を彷彿とさせる顔をしていた。フフフ……)」


暗闇の中、マキは天井を見つめながら、かつてのライバル……いや、教え子に思いを馳せる。


マキ「(ラーズのやつ、『私の体に少しでも剣を触れさせることができたら、一生専属の指南役になってやる』と約束したら、物凄い速さで強くなりおって……。おかげで私も、ついつい必死に陰で特訓する羽目になったな……)」


当時のラーズの必死さは、マキを戦場へ行かせたくない、自分の側に留めておきたいという、子供ゆえの純粋で傲慢な愛だったのかもしれない。


リノ「……むにゃ……マキ様……陰の特訓……バレてましたよ……うふふ……」


マキ「……。……寝ている時まで、私の過去を暴こうとするな、変態魔道士め」


マキは少しだけ顔を赤らめ、静かに目を閉じた。


明後日には、また「行ってくる」と言わなければならない。だが、今度は一人ではない。あの頃の自分には想像もできなかった、騒がしくて頼もしい仲間たちが待っている。


---


出陣前日。アレクサンド騎士団の練兵場には、早朝から臓物を揺さぶるような咆哮が響き渡っていた。


---


セシリア「出陣前の仕上げの特訓をやるぞ! 皆んな、気合いを入れろーー!!」


拳を突き上げ、頬を赤らめて「はにかみ」ながら可愛らしく叫ぶセシリア。その表情だけを見れば、恋する乙女の応援のようにも見える。


だが、その背後に渦巻く魔力と、手に握られた巨大な獲物は、明らかに「可愛げ」とは対極の殺意を放っていた。


昼休み。練兵場の地面には、三つの「死体」が転がっていた。


ハイドン「死ぬ……。出陣する前に、私は戦死してしまう……(白目)」


アンドリュー「……。……なぜ、出陣前日にこんな虐殺行為を……やるんだい……?」


ジェームズ「……。……。……可愛い弟子……だからだろ……(吐血)」


そこへ、セシリアに呼び出されて別行動をとっていたエレンが、息を切らして走ってきた。


エレン「ハァハァ……! 間に合いました! まだお昼ご飯、行かれてなかったですね……! はい、これお弁当です!」


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三人に手渡されたのは、丁寧に包まれた弁当箱だった。


エレン「私、またセシリア様に呼ばれてますので、また後で! 手作りなんで、お弁当ちゃんと食べてくださいよー!」


嵐のように去っていくエレンの背中を見送りながら、三人は力なく体を起こす。


ハイドン「……あの子、なぜあんなに動けるんだ?」


ジェームズ「あの子も……鬼神の素質、十分ですからね……」


アンドリュー「……。そんなことより、エレンちゃんの手作り弁当、早く食べようよ!」


ジェームズが鋭い目で釘を刺す。


ジェームズ「アンドリュー。無警戒に喜ぶのはダメだぜ? 騎士団の女子が作るものには、必ず『裏』がある……」


ハイドン「その通りだ。私はシルフィ様やセイラさんの『特製』を見て学んだからな……」


三人は、爆弾解体でもするかのような手つきで、恐る恐る弁当箱を開けた。


---


ハイドン「おおっ!? ……これは、かなり手の込んだ『ウサギさんリンゴ』ではないか! 目も付いていて、耳が片方カールしておる! なんという可愛さ! なんというこだわり!」


アンドリュー「うわあ!! 『タコさんウィンナー』一つ一つに顔があって、みんな表情が違う! めちゃめちゃ可愛いじゃないかー!」


ジェームズ「おにぎりにも……可愛い猫ちゃんの顔が!? それに、俺の大好物のタンドリーチキンが入ってる!! ……しかも、めちゃめちゃ美味いぞ!?」


ハイドン「おおっ! 私の大好物、ほうれん草のお浸しが!! むむむ……! なんという絶妙な出汁加減!!」


アンドリュー「僕の大好きなハンバーグも……! デミグラスソースも素晴らしい味だ。ただ可愛いだけの弁当じゃない……エレンちゃん、凄すぎる!!」


三人「エレンちゃん最高!!!!」


そこに、用事を済ませたエレンがひょっこりと戻ってきた。


ハイドン「エレンさん、ごちそうさま! ありがとう、凄く美味しかったよ!」


ジェームズ「エレンちゃん、女子力高すぎだよ!! まさに騎士団の癒やしだ!!」


アンドリュー「また作ってくれないかい? 今度は僕だけのために!!」


エレンは不思議そうに首をかしげた。


エレン「あ、あの……皆さん、勘違いされてます。あのお弁当、私が作ったお弁当じゃないですよ!?」


ハイドン「え? そうなの???」


エレン「は、はい。……セシリア様が、『みんな頑張ってるから、たまにはご褒美だ。渡してこい』って……」


三人「!!!!!!!!」


---


#### 魔道研究所:リノの居室


マキ(……。……。……おい。……セシリアが、キャラ弁を作っただと……? ……あの、ジャガイモを素手で握りつぶして『マッシュポテトだ』と言い張っていたあのセシリアがか……!?)


リノ「うふふ、マキ様ぁ。セシリア様、実は料理に関しては『超』がつくほどの完璧主義者でちゅからねぇ☆ ……あ、三人が震えながら弁当箱を拝んでまちゅよ? 『鬼神の作った弁当を食べたら、呪われるんじゃないか』って怯えてまちゅねぇ♪」


マキ(……。……。……あのアホ。……ツンデレにも程があるだろう……。……。……おいリノ、私の分はないのか?)


リノ「えへへ、ありますよ☆ 私がマキ様用に作った『クマさんオムライス・旗付き』です! さあ、あーんしてくだちゃいねぇ〜♪」


マキ(……。……。……殺してくれ)


---


セシリアの練兵場の裏手、鬱蒼と茂る木々の隙間から差し込む光の先に、三人の男たちは「見てはいけないもの」を見ていた。


---


アンドリュー「バ、バカな……。こ、この弁当をセシリア様が……」

ジェームズ「な、なんということだ……(クーリングオフを考えていたのに、迷いが生じだしたではないか……)」


ハイドン「あ、あのほうれん草の御浸し……茹で具合や出汁との調合、すべてが完璧だったぞ……」


三人は、エレンが走り去った獣道の先を、吸い寄せられるように辿った。


すると、開けた空間に小さな花壇があった。そこには、軍服の袖をまくり、にこやかな笑顔で一生懸命に土をいじるセシリアと、その横で「無」の表情で無理やり働かされているエレンの姿があった。


三人「!!!!!!!(あの鬼神が……花を愛でている……!?)」


セシリアの暴力の裏にある、あまりにも繊細で不器用な「慈しみ」。そのギャップに、三人の精神は訓練以上のダメージを受けるのだった。


---


#### 夢幻の記憶:届かなかった救い


一方、リノの部屋。荷造りをするリノの作業音を子守唄に、マキは再び意識を過去へと沈めていた。


マキ(回想:14歳 ―― 剣士師団副師団長時代)


凱旋するたびに積み上がる武勲。街の人々の歓声。だが、マキの心は戦場の返り血で少しずつ冷えていた。そんな彼女を、先王が静かに呼び出す。


先王「マキ、私の養子になっていただきたいのだ」


マキ「お断りします!! 王の養子になるなど、私には恐れ多いこと!!」


先王「ま、待て! 勘違いしないでくれ。別にラーズの妃になどと考えてはおらん。……確かに、ラーズがそう泣きついてきたのは事実だがな」


マキは、亡き養父「クロフォード」の名を捨てられぬと断った。だが、その帰り道、案の定待ち構えていたラーズに詰め寄る。


マキ「ちょっとラーズ!! あんた、いい加減にしなさいよね!!」


ラーズ「ま、待てマキ! 僕は別に妃になれとは……」


マキ「あんたみたいな軟弱者の妃になりたい女なんか、いるわけないでしょ!?」


ラーズ「違う!! 僕はマキに戦場で……もう、手を血で汚させたくないんだ!!」


ラーズの瞳は、どこまでも真っ直ぐだった。


その光が眩しすぎて、マキは「ふい」と顔を横に背けた。


マキ(……もう、血でいっぱい汚れているよ。これから、もっと……もっと……)


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#### 現在:静かな昼下がり


マキ「(あの軟弱者ラーズには、参ったものだ。あの手この手を使って、私を戦場から遠ざけようと企みおったからな……)」


窓の外を眺めるマキの瞳に、一瞬だけ寂寥の影が差す。


マキ「(優しかった先王……嬉しかったのだ。あの時、家族になってくれと言ってくれた言葉……本当は、嬉しかったのだ……)」


自分を戦場から引き剥がそうとしていた彼らの不器用な愛を、今のマキはようやく、正しく受け止められるようになっていた。


マキは、自分を縛っていた孤独な鎧を少しだけ解き、吸い込まれるように深いお昼寝へと入っていった。


リノ「……うふふ、マキ様ぁ。今、すっごく可愛い寝顔をしていましたよ☆マキ様はもうひとりじゃないです、私がいますから」



出陣前々日。王都のあちこちでは、表の軍議とは全く別の「戦い」が繰り広げられていた。


---


#### 本庁前


ブキャナンは、二日間の徹夜という極限状態にいた。その姿は「歩く屍」そのものであり、出陣準備のための休暇を噛み締める余裕すら残っていない。


本庁の門をくぐろうとしたその時、鼓膜を震わせたのは、この世のものとは思えない甘い声だった。


カレン「やっほー♡ ブキャナンさ〜ん! カリンだよぉ♡」


ブキャナン「!!!! カ、カリンちゃん!!」


脳内に直接アドレナリンが注入されたかのように、ブキャナンの目がカッと見開かれる。


カレン「徹夜明けおつかれさまっ! カリンとお話して、少しでも元気になってねっ♡ ……で、さっそく帝国の情報のことなんだけどね〜? **『華麗なるメンデル』のことを、事細かく教えてっ?**」


上目遣いで微笑む「カリン」の瞳の奥に、一瞬だけ鋭い軍師の光が宿ったことに、極限状態のブキャナンが気づくはずもなかった。


---


#### セシリアの訓練所裏


一方、ハイドン、アンドリュー、ジェームズの三人は、セシリアとエレンが花壇の奥にある小さな小屋へ入っていくのを目撃した。


ジェームズ「……この小屋はいったい? 爆弾の保管庫か、あるいは拷問部屋か……」


三人は息を潜め、窓から中を覗き込む。そこでジェームズが目にしたのは、世界の理を覆すような光景だった。


そこには、怪我をした野良猫を優しく抱きかかえ、見たこともないような慈愛に満ちた笑みを浮かべて薬を塗っているセシリアの姿があった。そしてその横では、保護されたであろう30匹もの猫たちのトイレを必死に掃除し、ご飯を配給しているエレンの姿が……。


三人「!!!!!!!(あの鬼神が……猫の看護を……!?)」


アンドリュー「(小声)……ジェームズ、僕たちは見てはいけないものを見てしまったんじゃないかな?」

ハイドン「(小声)……ああ。これを知られたら、今度こそ口封じに消されるぞ……」


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#### 魔道研究所:リノの居室


マキ(……。……。……おいリノ。……本庁の前で、カレンがまたブキャナンを『カリン』として骨抜きにしているぞ。……あいつ、出陣前に情報を一滴残らず絞り出すつもりか)


リノ「うふふ、マキ様。カレン様は『無駄』を嫌い不機嫌になる天才ですからねぇ☆ ……あ、三人がセシリア様の『猫屋敷』を見て、魂が抜けかけてますよ?」


マキ(……セシリアの猫好きは、昔から変わらんな。……。……あのアホ、昔は『虎を飼いたい』と言って先王を困らせていたというのに、今は野良猫の世話か……。……。……ふん、意外とマメなヤツだ)


リノ「えへへ、セシリア様は『弱くて純粋なもの』にはとことん弱いですから。……だから、今のマキ様はセシリア様にとって、世界で一番守るべき『子猫ちゃん』と同義なのですよ☆」


マキ(……。……。私は、猫ではないッ!!)


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