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第52話:沈まない泥舟の誓い

第52話「沈まない泥舟の誓い」



ハイドンの部屋は、今や王都で最も血なまぐさい……いや、ある意味で最も「ホラーな」空間と化していた。


---


ハイドン「サ、サ、サンチェスとカムストックにお、お、お客様だ……。そ、外でお話してきなさい……(※全力で二人を追放)」


サンチェス&カムストック「は? 俺らにですか??? 」「ん?誰もいないじゃん?」ガチャッ「……あっ、ハイドンさん!? 鍵までかけやがった!」


二人が追い出された廊下で背筋を凍らせたのは、一瞬の静寂ののち、湿り気を帯びた「あの声」だった。


フルーレ「……わたし、綺麗っすか?」


振り返ると、そこには目を覆いたくなるような惨状があった。子供が母親の化粧品をデタラメに塗りたくったような激しいケバいメイク、赤と白の横ストライプの服、そして子供用オーバーオール。


銀幕の殺人鬼を「安っぽいコスプレ」で再現したフルーレが、両手に包丁を握りしめて立っていた。


フルーレ「二人とも、このコスチュームが好きって言ってたっすよね……? フフフ……散々噂してたっすよね……? わたし綺麗っすか? ……綺麗っすよね???」


サンチェス&カムストック「ひ、ひぃぃぃぃっ!!!!! 誰かぁぁ!! 助けてぇ!! ポマード! ポマードォォォ!!」


---


廊下から響く断末魔を聞きながら、ハイドンは天を仰いだ。だが、彼が逃げ場にしていた室内もまた、別の地獄だった。


シルフィ&セイラ「あらあら、廊下は賑やかですわね。……でも、ハイドンさんには関係のないことですわ。さあ、今夜の特製青汁……『情熱の赤・ハチミツマシマシ・ドロドロ激辛激甘仕立て』ですわよ♡」


ハイドン(……意識が……。意識が遠のく……。ああ、これぞ騎士の最期か……)


---


その時、リノから借りた鍵を手に、エレンが呑気に廊下を歩いてきた。


エレン「あれぇ? サンチェスさんとカムストックさん、廊下で寝てる……? 二人ともどうしたんですか!? 大丈夫です!?」


駆け寄ったエレンの背後に、ぬらりとフルーレの影が伸びる。


フルーレ「……わたし、綺麗っすか?」


エレン「うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! た、た、助けてぇぇぇぇ!!!(龍王も引き抜けぬ恐怖!!)」


悲鳴を上げてエレンが逃げ出し、サンチェスたちが気絶する。その音を聞いたハイドンは、薄れゆく意識の中で最後の手向けを口にした。


ハイドン「そ、そういえば……エレンさんがまだ外だった……。す、すまん……」


ハイドンはそのまま、シルフィの青汁という名の「泥」の中に顔面から沈んでいった。


---


マキ(……。……。……おい。……おいリノ。……なぜフルーレまでホラー映画の真似事をしている‥‥?)


リノ「うふふ、マキ様。フルーレ様も、日々のストレスが溜まっていましたからねぇ☆ ……あ、エレン様が泣きわめきながら廊下を爆走してこちらに向かってますよ?」


マキ(やめろ!! 絶対にここには入れるな!!呪われる!! 誰か、この地獄を止めてくれ!! せめて、ハイドンだけは生き返らせろ!!)


リノ「えへへ、ダメですよ。ハイドン様、目を覚ましたら『朝まで青汁試飲会』があるんですから☆」


アレクサンド騎士団の夜は更けていく。


---


王都の冷えた空気が漂う朝5時。ジョギングコースの集合場所には、まだ朝日も昇りきっていない薄暗い中で、アンドリューが武者震いしながら待機していた。


---


#### 集合場所:地獄への入り口


アンドリュー「ジェームズ、君の師匠があの『鬼神セシリア』だって聞いて、君の強さの秘訣にやっと納得したよ。……それにしても、本当にいいのかい? この僕が、かの鬼神に直接指導してもらえるなんて、緊張して心臓が飛び出しそうだ!」


ジェームズ「……(お前、今に知ることになるぞ。セシリア様の『指導』という名の地獄が、どのくらい心臓に悪いかを)」


そこへ、背後から引きずるような音と、可憐な(?)怒声が響いてきた。


セシリア「すまんすまん、少し遅れた! へっぽこエレンが昨晩オバケを見たから怖くて寝れなかったとか、休みたいとか言い訳しおったから、物理的に引きずってきたぞ?」


セシリアは、ぐったりと気絶しかけているエレンを片手で引きずりながら、爽やかな笑顔で現れた。そして、集合場所にいるアンドリューに気づく。


セシリア「お、さっそくアンドリューが来とるではないか? 準備はいいか、三流ホスト?」


アンドリュー「!!!!!!」


アンドリューの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。彼は昨夜、鍋屋で対峙した「金髪のお嬢さん」と、目の前の「鬼神」が同一人物であることに、今さらながら気づいてしまったのだ。


セシリア「アンドリュー、どうした??? 初めて見るような顔をして。昨日モツ鍋屋で会っとるだろうが? 記憶障害か?」


アンドリュー「な、なあジェームズ……。この人が……セシリアさん……?????」


ジェームズ「……ああ、そうだが。昨日会ってるだろ……?」


アンドリュー「じゃあ、ジェームズ……。セシリアさんが、君の……彼女ってこと……?」


ジェームズは、朝日が昇り始める空を、まるで人生の走馬灯でも見るかのような遠い目で見つめた。


ジェームズ「……言うな……。二度と言うな……」


---


その光景を、集合場所の物陰から覗いていた連中がいた。


ヒナギク「……アンドリュー、彼、ようやく気づいたのね。自分が『死の淵』に立っていることに」


サーヴェル「かわいそうに。朝5時のジョギングに参加した時点で、彼の人生の平穏は終わったのよ」


レイラ「セシリア様が『彼氏』を公開処刑するように連れ回す姿を、これからの毎日見せつけられるのね……」


---


マキ(……。……。……おいリノ。なぜアンドリューの顔が、今にも消えそうなほど青白いんだ?)


リノ「うふふ、マキ様。アンドリューさん、昨日までの『自信満々なイケメン諜報部隊長』というプライドが、今の数秒で完全に粉砕されましたねぇ☆ あ、ジェームズ様がセシリア様に無理やり手を握られてジョギング開始です。……アンドリューさんも、後ろからダッシュで追いかけないと、セシリア様が『怠慢』とみなしてモーニングスターを投げてきますよ?」


マキ(……あれは、ジョギングじゃない。……追走劇だ。……アンドリューよ、お前が『強くなりたい』と願った結果がこれだ。……地獄へようこそ)


---


魔道研究所の一室。そこは、世界で最も危険な「朝の食卓」だった。


---


#### 氷の軍師の二重人格


カレン「は~い、マキ様おはよーございまちゅ~♡ カレンでちゅよぉ~? ごはん、もぐもぐちまちょうねぇ〜。わあ〜、今日もかわいいでちゅねぇ〜?」


カレンは、かつて大陸を震わせた鋭利な理知をすべてかなぐり捨て、極上の母性愛をマキに注ぎ込んでいた。その手つきは優しく、その声は砂糖菓子のように甘い。


マキ「ぐわあぁぁ〜〜!! HPがどんどん削られていく〜〜〜!!(……頼む、誰かこの『甘い地獄』を終わらせてくれッ!!)」


しかし、次の瞬間。スプーンを置いたカレンの瞳から光が消え、その表情は零下数十度の氷山へと変貌した。


カレン「……さて、現状報告よ。帝国軍がコルネ王国へ侵攻を開始。推定兵力は五万。……」


マキ「……切り替えが早すぎて怖すぎるわっ!!」


リノ「フフフ。カレン様、マキ様にはもちろん私が付き添いますよ。今回の相手はおそらく大陸十傑、絶対行かなきゃですね」


カレン「まだ何も話していないのに……相変わらずね、リノ。……帝国にいる三傑、大陸十傑の一人『華麗なるメンデル』が動いたわ」


リノ「マキ様が動けない事情がある。そう確信したんでしょうねぇ。彼らがマキ様を恐れて地下に潜り続けていた時間を考えれば、実に卑劣で論理的な動きですよ」


カレン「ふふっ……まあ、気持ちは分かるわ。今までよっぽどマキ様が恐かったってこと。……ま、今となっては、私の方が恐いかもしれないけれど?」


マキ「カレンよ!!間違いなく、私よりお前の方が恐いわ!!!!」


---


カレンは窓の外を眺め、扇子で顎を叩いた。彼女の脳内では、すでに数万通りの戦術シミュレーションが展開されている。


しかし、そのすべてを台無しにする「最大因子」が一つだけ存在した。


カレン(……またリノとマキ様に頼らざるを得ないなんて、私もまだまだね。戦略は完璧。兵站も、地形の優位もすべて確保した。……でも、セシリアがどこまで『大陸十傑』の連中に通用するのか、全く読めない)


大陸一の天才軍師と称されるカレンであっても、セシリア・ローランドという「計算不能の台風」だけは、シミュレーションの範疇に収まらなかった。


セシリアが暴れれば敵は壊滅するが、味方の陣形も壊滅する。

セシリアが真面目に戦えば世界を救えるが、気分一つで国を更地にするかもしれない。


セシリアの暴力は、カレンの軍略の上を、いつも泥足で通り過ぎていくのだ。


カレン「……。まったく、あの子をどう御するかが、今回の一番の難問になりそうね」


---


#### 魔道研究所:リノの居室


マキ(……リノ、カレンは今、本気で頭を抱えているな)


リノ「うふふ、そうですねぇ。カレン様は『予測可能な絶望』には強いですが、セシリア様のような『予測不能な奇跡(と災害)』には滅法弱いですからねぇ☆ ……あ、作戦会議の時間です。カレン様が、ハイドン様たちの部屋にいる『被害者の会』を全員徴用するつもりみたいですよ」


マキ(……おい。ハイドンたちのところには、フルーレもシルフィもいるんだぞ。……作戦会議どころか、地獄の合同合宿が始まってしまう……!!)


リノ「えへへ、それもまた戦略ですよマキ様。……帝国のメンデル将軍、今のカオスすぎる騎士団に突っ込んだら、きっと正気じゃいられなくなりましてよ☆」


---


魔道研究所の一室、夕食の香りと緊張感が入り混じる中、戦場へ向かうための「軍議」が幕を開けた。


---


#### 狂乱の食卓


カレン「は~い、マキ様〜カレンでちゅよぉ〜? ごはんもぐもぐちまちょうね〜、わあ〜お上手でちゅね〜? 可愛らちいでちゅねぇ〜?」


カレンは相変わらず、マキに対して幼児用のスプーンを向け、至高の母性を見せつけている。


その背後で、セシリア、フルーレ、ハナ、シルフィ、リノが「さも当然の光景」として食事を並べていた。


マキ「(ぐわあぁぁ〜〜!! MPが……精神力まで削られていく〜〜〜!!)」


カレン「……それでは、食事をしながらでいいから聞いてね。軍議を始めるわよ。ハナから聞いた情報では、帝国は同盟国コルネ王国の国境に侵攻を開始。兵力は推定五万……」


一瞬で氷の軍師の顔に戻ったカレンの切り替えに、マキはテーブルを叩いて叫ぶ。


マキ「やはりお前は多重人格か!!!!!」


リノ(思念)『フフフ、マキ様、いい加減に慣れましょうね〜?』

マキ「慣れるかっ!!!!」


戦略図を広げ、淡々と解説するカレンに、セシリアは目を輝かせた。


セシリア「やっと大陸十傑が出てくるのか! 楽しみで仕方ないぞ!! カレンよ、その『メンデル』とはどんなヤツなのだ!?」


カレン「全く、この脳筋は……相手は大陸十傑の一人よ? あんたが負けたら、この国まで落とされるのよ。わかってる?」


フルーレ「カレン様、この人に説教するだけムダっすよ。あ、リノ、ハンバーグおかわりっす」


ハナ「そうそう。セシリア様は十傑が出るのをずっと待ち焦がれてたんだもんね。あ、ボクは唐揚げおかわり!」


シルフィ「まあ、セシリア様が死なない限り、わたくしが全回復させますので大丈夫ですよ。皆さん、青汁のおかわりはよろしいのですか?」


セシリア「私がやられでもしたら? ……フン、そんなの私が勝てば良いだけではないか! カレンは心配症だな。みんな、泥舟に乗ったつもりで構えておけばいい!! ……あ、リノ、ご飯おかわり大盛り!!」


リノ「セシリア様、泥舟に乗ったら普通は沈みますよぉ?(笑)」


セシリア「む!? リノよ、それは一般論での泥舟のことだろう? もしも『沈まない最強の泥舟』があったとしたら……考えただけで面白いだろう? 相手は驚きまくるぞ!! ハッハッハ!!」


---


セシリアの豪快な笑い声に、室内が爆笑に包まれる。


かつてマキが陣頭指揮を執っていた頃の、張り詰めた糸が切れるようなピリピリした空気はそこにはなかった。


カレン「……はあ。バカはいいわね、悩みがなくて。フフフ、まあ……セシリアらしくていいわ」


マキ「(なぜ皆んな、こんなに楽観的に楽しんでいられるのだ……。私の時はいつも戦死のリスクを前提に極限の緊張感で……。……それは、私の考えが間違っていたということか……? むぐう!?)」


マキが思考に耽っていると、リノが口の中に滑らかなプリンを放り込んだ。


リノ「マキ様〜? プリンでちゅよ〜? 甘くておいしいでちゅね〜? 今回もマキ様に勝利をプレゼントしちゃいますので、安心してくだちゃいね〜? ウフフ」


マキ(……もうどうにでもなれ、だ)


---


#### 魔道研究所:リノの居室


マキ(……カレンが軍師で、セシリアが先鋒。そしてリノが後方支援。……この布陣、勝てる気しかしないのはなぜだ)


リノ「うふふ、マキ様、気づきましたか? 彼女たちはもう『負ける』という選択肢を脳から削除してます。これが、今の騎士団の強さ。泥舟だろうと何だろうと、セシリア様が先頭で漕げば海さえ割れるのですわよ☆」


マキ(……帝国のメンデル将軍、お気の毒にな。……あのアホたちが、『最強の泥舟』に乗って正面突破してくるぞ)


今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。


またも東のゼッターランド帝国の侵攻、今回はかなり力を入れて侵攻する構えを見せてます、果たして守り切れるか???


今後とも何卒長くお付き合いくださる事と、もし気に入られられたらブックマークして頂けると嬉しいです。

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