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第51話:新旧・帝国諜報バトル

第51話「新旧・帝国諜報バトル」



極楽亭の店内は、安っぽい香水の香りと三流ホスト風の男たちで埋め尽くされた。



その中心で、一際派手なジャケットを羽織り、髪をこれでもかとセットした男が、まるで舞台俳優のような足取りで歩み寄る。


---


#### 宴卓の中央


「店の修理代とその鍋の弁償は、すべて君でいいかな? 可愛らしいお嬢さん?」


男は、セシリアに向かってキラリと歯を光らせる。


セシリア「お前たちがドアや窓を壊し、鍋まで真っ二つにし私の育成したモツをぶちまけたのではないか。全てお前が弁償しろ。というか、お前は誰だ?」


アンドリュー「僕は、ゼッターランド帝国の中でも厳選されたイケメンだけで構成された師団の、これまたイケメンだけで構成された『イケメン諜報部隊』の隊長を務めるアンドリューと言う美しい者さ」


セシリア「……。アホか。帝国の人口が多いのは知っているが、全くもって無駄な人材育成や無駄な構成をしているな。」


副師団長ズも、呆れを通り越して「なぜこんな奴が隊長なんだ」という絶望感に包まれていた。だが、それ以上に「早くここを去らないと、セシリア様が爆発する」という恐怖でいっぱいだった。


アンドリュー「……僕の事を知らないのかい? どうやら君は騎士団員みたいだが、あまり上位の者ではないみたいだね。僕ほど有名なら、普通は震え上がるものだけど?」


ヒナギク(……。私の調査では、アンドリューは確かに剣の実力だけは本物のはず。……でも、諜報部隊の隊長なら、なぜ目の前にいるのがアレクサンドの鬼神セシリアだと気づかないの!? 諜報能力ゼロですかっ!? 節穴ですかっ!? 何やってんですかこの人はっ!?)


---


アンドリュー「フッ、まあいい。金髪のお嬢さん、一つ聞いてもいいかい? 先の戦争で囚われた帝国の捕虜たちは、何処に隠しているんだい?」


セシリア「何を言っているのだ、アンドレ。別に隠してなどおらんはずだがな。……というか、お前たち、まだ会ってないのか?」


アンドリュー「フッ、アンドレじゃなくてアンドリューだよ。もしかして、僕に見つめられて照れているのかい? 金髪のお嬢さん」


セシリア「(こいつ……殺していいかな? いや、その前にこの寒すぎる空気をどうにかせねば……)」


---


 

その時、奥の宴会場の仕切りが乱暴に開き、千鳥足の男がフラフラと現れた。


ジェームズ「ひっく……! ちょっとトイレ行ってきまーす! ビール飲み過ぎちまったーい! ひっく!」


あまりの騒ぎに気づかず、生理現象に従って現れたのは、セシリアの特訓でボロボロになっていたはずのジェームズだった。


アンドリュー「お、お前は……第一師団のジェームズ!?」


ジェームズ「!!!! 貴様は……ゼッターランドのイケメン野郎、アンドリュー!? ……ひっく、なんでこんな所にいるんだよ!? 夢か!? これもホラー映画の続きか!?」


ジェームズの叫び声が店内に響き渡る。


それを合図に、さらに奥の「高級予約席」からも、カチリ、とグラスを置く不穏な音が漏れ聞こえてきた。


---


マキ(……。……。……アンドリュー。あのアホ面、見覚えがあるぞ。確か前回の戦場で、鏡を見ながら髪を整えている間に私が馬ごと吹き飛ばした奴だ。まだ生きていたのか)


リノ「うふふ、マキ様ぁ。よりによってジェームズ様が出てきちゃいましたねぇ。これで『隣に誰がいるか』がバレるのも時間の問題です☆」


マキ(……。アンドリューよ、逃げろ。今すぐ全力で逃げろ。ジェームズがいるということは、その奥には……ハイドンやガリクソンたち、さらにヤバいやつらがいるということだ。)


---


極楽亭の店内は、緊張感と「圧倒的な話の通じなさ」が混ざり合い、カオスな沸点に達していた。


---


アンドリュー「フッ、ジェームズ。生きていたのかい。先の戦争で真っ先にセシリアに木っ端微塵に吹き飛ばされて、壮絶な戦死を遂げたと聞いていたがね」


ヒナギク(……あ、それ。私がセシリア様に頼まれて流したデマ情報だ。そういう末端の噂だけは信じてるのね……。っていうか何よこの人! 肝心の目の前の本人の正体に気づかないなんて、諜報をなめてるのかー!!)


セシリア「おいジェームズ。知り合いか?」


ジェームズ「!!!! ひ、ひいいっ!!?? (背後に立つセシリアを見て)な、なぜここに!?」


セシリア「まあ、いいではないか。ちょうどいい、このアンドレ……いや、アンドリューとかいうのはお前が相手をしろ」


アンドリュー「フッ、金髪のお嬢さん。君は知らないのかい? このジェームズは士官学校時代から今の今まで、一度たりとも僕に勝ったことはないんだよ。さっさと片付けて、僕は『セシリア』の首を獲るという使命を果たさなきゃいけないんだ」


セシリア「(……。……私の首、目の前にあるぞ?)……。ほら、ジェームズ。お前も私の『彼氏』なら、彼女を守る義務があるだろう? さっさとやれ」


アンドリュー「な、何ぃぃ!!?? この可愛い金髪のお嬢さんがジェームズの彼女だと!!?? このイケメンの僕にさえなびかない極上の美少女を、こんな奴が独占しているとは許せん!! 叩き斬ってくれる!!」


サーヴェル(この人、怒りの焦点が完全にズレてるーーー!! 嫉妬で目がくらんで本質を見失ってるわ!!)


---


店長が店の破壊を確信して泣き崩れる中、エプロン姿のセイラがしずしずと前に出た。


セイラ「フフフ……店長さん、心配しなくても大丈夫です。今、この店舗の周辺には強力な結界を張り巡らせました。ですので、破壊されるのは『この店だけ』で済みますよ? フフフ」


店長「……。店から出て戦ってもらえますかね? そして、この店も結界で守ってもらえますかね……?(号泣)」


セイラ「フフフ……私は優しいですからね。私の開発した飲料(劇甘スムージー)とメニューを、この店で独占販売させてもらえるなら、考えてあげてもよろしくてよ? ニコッ」


店長「……。……お願いします(もう魂が抜けている)」


---


セイラはおしとやかに、殺気立つジェームズとアンドリューの間に割って入った。その背後には、甘い香りと共に逃げ場のない魔力が渦巻いている。


セイラ「その決闘、待ってください。アンドリュー様、ジェームズ様。それと……そこの三流イケメンの方々。お外に出られてください。関係のない方々に被害を出すのは、私は好みません。……お願いします(暗黒微笑)」


その微笑みに込められた圧倒的な拒絶感に、流石のアンドリューも一瞬気圧される。


ジェームズ「ちっ……。仕方ない、やるか。……(セシリア様、見ていてください。今の僕は、以前の僕とは違う……はずだ!)」


---


#### 魔道研究所:リノの居室


マキ(……。セイラめ、抜け目のない奴だ。どさくさに紛れて自分の「毒物(甘味)」の販路を拡大させるとは。……。おいリノ、外に結界を張ったということは、もう逃げ場はないということだな?)


リノ「えへへ、その通りです☆ 結界の中は、セシリア様が見守る特設リングになりました。あ、奥の座敷で寝ていたハイドン様たちも、セイラ様の結界の魔力で強制的に叩き起こされましたよ」


マキ(……。アンドリューよ。お前が戦う相手はジェームズ一人ではない。その背後に控える『不機嫌な女神たち』と『高血糖の亡霊たち』全員が、お前のそのチャラいツラを的にして待っているぞ……)


---


数分後

結界の向こう側、静寂が支配する戦場には、かつての「帝国一のイケメン諜報部隊」の残骸が転がっていた。


#### 結界内


サーヴェル「勝負あり、ですね」


レイラ「最初はそこそこいい勝負だったんだけど……後半のジェームズ、まるで別人じゃない」


セイラ「死線の潜り抜け方が違います。圧倒的でしたね」


サマンサ「……結局、ただの『リンチ』になっちゃったね」


膝をつき、呆然と地面を見つめるアンドリュー。彼の自慢の金髪は乱れ、その表情にはプライドの崩壊が色濃く刻まれていた。


アンドリュー「こ、この僕が……あのへっぽこジェームズに……なぜだ!? なぜなんだ……ッ!!」


ジェームズ「気にすんなアンドリュー……。上手く説明はできないが……そうだな、死線を乗り越えた数の差、かな。人間、死にかけたら強くなる……うん、そういうことにしておこう(セシリア様の訓練に比べたら、お前の剣術は癒やしだったんだよ……)」


アンドリュー「くっ……悔しい……!! 僕はどうすれば強くなれる!? このままじゃ終われないんだッ!!」


ジェームズ(……あれ? お前、そんな熱いキャラだったっけ? ……まあいいや。よし、ここでアイツを放り込んでやれば、セシリア様の標的が俺からアイツに分散するはず……!)


ジェームズ「ああ、いいぞ。強くなりたいなら、俺を鍛えてくれてる『師匠』を紹介してやってもいいが……」


アンドリュー「!!! ジェームズ、いいのかい!? ぜ、ぜひ頼むッ!!」


ジェームズ「ああ。じゃあ明日の朝5時からジョギングするから、そこで紹介するよ……(ニヤリ)」


---


その瞬間、後ろから**バシィィィィッ!!** と乾いた音が響く。


ジェームズ「ぐはぁっ!?」


セシリア「圧勝はしたが、最初の方は何なのだ!? アンドレのスピードに翻弄されておったではないか!! ……ふん、言いたいことは山ほどある! 行くぞ!!」


セシリアは先ほどまでの殺気を一瞬で消し去り、ジェームズの腕にギュッと抱きつくと、可愛らしくグイグイと引きずり始めた。


ジュース「た、た、助けてぇ〜〜(声が遠のいていく)」


アンドリュー「……い、イチャイチャしながら連れて行かれた……。あのカップル、いったい何者なんだ……?」


呆気にとられたアンドリューが恐る恐る後ろを振り返ると、そこにはさらなる地獄絵図が広がっていた。先ほど店に乱入してきた50人の部下たちが、全員、文字通り「塵」のように地面に転がされていたのだ。


アンドリュー「な!? いったいいつの間に……!?」


ガリクソン「鍛え方が足らんよ。遊び相手にもならなかったぞ」


手にはスパチュラとホイッパー。戦士というより、狂ったパティシエのような風貌のガリクソンが、つまらなそうに呟く。


アンドリュー「あ、あなたはガ……ガリクソンさん!? この50人すべてを、あなた一人で……!?」


ガリクソン「アンドリュー、お前が本当に強くなりたいなら……俺の『師匠(ハナ様)』も紹介してやってもいいがな(ニタァ……)」


---


シルフィ「四流ホストさんたち、大丈夫ですか? あらあら、酷いお怪我ですね……。このままでは危険ですわ」


地面で呻くホストたちを見下ろすシルフィ。彼女の手には、怪しげな緑色の瓶が握られている。


シルフィ「すぐに治して差し上げてもいいですが……。わたくしが創ろうとしている『青汁バー』のホストをしてくれると約束してくれるなら……すぐに、お助けします。ウフフ♡」


その微笑みは聖女そのもの。しかし、彼女が差し出したのは、飲む者を地獄へいざなう「極上の劇薬」だった。


---


#### 魔道研究所:リノの居室


マキ(……。アンドリュー。……お前、明日の朝5時にジェームズの元へ行くな。……それは……悪魔との契約の儀式だ)


リノ「うふふ、マキ様ぁ。アンドリューさん、これで『イケメン諜報部隊』から『地獄の青汁ホスト部隊』に転職決定ですね☆ ……帝国の精鋭が、これで完全にアレクサンドの『家畜』になりました!」


マキ(……帝国諜報部隊、全滅。……戦わずして勝利するとは、我が騎士団の幹部たちは……やはり化け物だ)


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「極楽亭」の喧騒をよそに、高級予約席の面々は、まるで何事もなかったかのように優雅に箸を運んでいた。モツ鍋の芳醇な香りと、隣の部屋から聞こえる地獄のような悲鳴が、彼女たちにとっては最高の「BGM」であった。


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#### 高級予約席「龍の間」


シルフィが軽やかな足取りで扉を開けて入ってくる。その背後には、治療(という名の洗脳)を終えた「元・帝国精鋭ホスト部隊」の残骸が、虚ろな目をして控えていた。


シルフィ「五流ホストの方々の治療を終えてまいりましたわ。……それと、青汁バーの商談も成立いたしました。ウフフ♡」


カレン「やっと終わったみたいね。……まったく、帝国の諜報部隊もバカじゃないの? 昨日からうろついていたけれど、セシリアの勘の鋭さと魔道探知能力を舐めているのかしら?」


ハナ「でもカレン様も優しいよね。セシリア様が暴れないように、わざとボクらに気を消させて、隣の隊長ズや副師団長ズを『あえて』泳がせていたんでしょう?」


カレン「ふん……。私たちがいると分かったら、あの人たち、本音で息抜きできないじゃない。たまには羽根を伸ばさせないと、いつか発狂して死ぬわよ?」


フルーレ「ウフフ……。わたしも本音が聞けてよかったっすよ。……口裂け女にチャッキーにフレディっすか。……ウフフ、いい夢が見られそうっすね」


---

#### ハイドンの部屋


一方、ハイドンの部屋は、もはや「被害者の会」の総本山と化していた。


アンドリュー「ハイドン様、あなたもこちらにおられたのですねッ! 帝国から逃げ出した私を……受け入れてくださるなんて!」


サンチェス「今、エレンちゃんがリノ様に『部屋を貸してほしい』と交渉に行ってるから安心しろ(……なんか寒気がするが、気のせいか?)」


カムストック「住み心地はかなりいいぞ(……俺も背筋が凍るような殺気を感じるのだが、気のせいか?)」


ガリクソン「まあ、くつろいでいけ。俺が白餡プリンを作ってやろう」


セイラ「ハイドン様はお優しいから、ゆっくりしていってくださいね♡」


サーヴェル&ヒナギク「セシリア様が、フルーレ様とハナ様に『鎧と鎖帷子の封印を解け』と交渉してくださったわ。その代わり……毎日、セシリア様と銭湯に入らなきゃいけないけれどね」


レイラ&サマンサ「リノ様も『安全のためにこの施設の部屋に引っ越してきなさい』って言ってくれたから、物理的にもう大丈夫よ!」


ハイドン「ええい!! ここは私の部屋なのに!!! 入り浸る人間が増えとるではないか!! ここは『被害者の会』の集会所ではないぞ!!」


ハイドンの悲痛な叫びも虚しく、ドアが静かに、そして重厚にノックされた。


シルフィ「ウフフ♡ 来ちゃった♡」


扉を開ければ、そこには家出娘さながらの巨大なバッグを抱えた聖女が、この世のものとは思えない微笑みを浮かべて立っている。


シルフィ「今日は、特別な『特濃・青汁スムージー』を持ってきましたの。皆さんで飲みましょう?」


その背後から、さらに聞き覚えのある「めんどくさそうな」声が重なる。


フルーレ「ウフフ♡ 来ちゃったっすよ? ……ねぇ、ハイドンさん。……わたし、綺麗っすか……?」


そこには、普段の鎧を脱ぎ捨て、不気味なほど艶めかしく微笑むフルーレの姿があった。


---


#### 魔道研究所:リノの居室


マキ(……。……。……。……あぁ、もうダメだ。この騎士団、明日の朝までに全滅する……)


リノ「うふふ、マキ様ぁ! フルーレ様まで乱入して、ハイドン様の部屋が『美貌と狂気と青汁』の闇鍋になりましたねぇ☆ ……これで、ハイドン様の部屋は完全に『崩壊』する準備が整いました!」


マキ(……。おい、誰か。……誰か、セシリアを呼んでこい!! この狂気じみた女たちの群れを解散させられるのは、あの『鬼』しかいない!!)





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