第49話:ハニートラップ
第49話「ハニートラップ」
#### 魔道研究所・ハイドンの部屋
セイラ「私、料理も得意なんです。だから、今夜は皆様に夕飯を作らせていただこうと思いまして……。ウフフ、ご迷惑ですかね……?」
ハイドン「あ、あの! 夕飯はサンチェスが作ると……。そ、それに、お疲れでしょうから、け、け、けっこうで……(頼む、引き下がってくれ!)」
サンチェス「ハイドンさん、何を言ってるんですか! セイラさんのような美女から手料理をいただけるなんて光栄ですよ! ぜひお願いします!!」
ハイドン「(小声)バ、馬鹿者! この御方もシルフィ様と同様、異次元のセンスを持つ剛の者だぞ! 命が惜しくないのか!!」
サンチェス「(小声)マ、マジですか!? ……あ、あの、セイラさん。やっぱり料理は俺が……」
セイラ「準備完了しましたぁ☆ 遅くなりましたね、今からバタバタ作りますっ!」
セイラは慣れた手つきで隊服を脱ぎ捨て、持参した家庭的なエプロン姿に変身した。
その瞬間、サンチェスの目は、エプロンの紐が食い込むほどの圧倒的な「隠れ巨乳」のボリュームに釘付けになった。
サンチェス「は、はいっ! 喜んで! よろしくお願いします!!(即答)」
ハイドン「**お前ぇぇぇぇ!! 煩悩に負けて国を滅ぼす気かぁぁぁ!!**」
#### 20分後
キッチンから漂ってくる香りは、一見すると食欲をそそる芳醇なスパイスの香りだった。テーブルに並べられたのは、実に見事な彩りの料理たち。
* **特製スパイスカレーライス**
* **濃厚担々麺**
* **本格キムチ**
* **激辛マーラータン**
* **ヤンニョムチキン**
隊長ズ「おおおっ! 美味しそう! さすが副師団長、女子力が高い! いっただきまーす!!」
一同が勢いよくスプーンを口に運んだ、次の瞬間。
隊長ズ「ぐはぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?????」
ハイドン「(……。……知ってた。こうなることは、分かっていたんだ……)」
その料理は、見た目こそ「辛口」を装っていたが、中身は別物だった。
カレーには大量の黒糖が溶け込み、担々麺のスープはハチミツでドロドロになり、キムチは砂糖漬けにされ、ヤンニョムチキンはもはや水飴の塊と化していた。
セイラ「どうですか? 辛いものは体に刺激が強すぎますから、私の『秘伝の糖分』で優しくコーティングしておきました♡ いっぱい食べて、疲れを癒やしてくださいね?」
サンチェス「(……甘い。喉が焼ける。脳が溶ける。……。だが、目の前の胸が揺れるたびに、拒否できない……。……。助けて、フルーレ様……。ケバいメイクでもいいから、僕をここから連れ出して……!)」
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マキ(……。……。……。……惨劇だな。担々麺にハチミツを入れるなど、もはや宣戦布告に近いぞ。……おいリノ、サンチェスの顔が青ざめているのに、口だけは笑おうとして引きつっているぞ)
リノ「うふふ、マキ様ぁ。セイラ様の『糖分コーティング』、徹底してますねぇ☆ 昨日のシルフィ様の『青汁(苦味)』が残っている胃袋に、この『爆弾(甘味)』を流し込むなんて……。これぞ、完璧な連携攻撃ですね!」
マキ(連携ではない! 事故だ!! ……。だが、待て。明日、もし帝国が攻めてきたら、こいつら全員『高血糖』で動けなくなっているのではないか!?)
リノ「大丈夫でちゅよ。明日になれば、今度はカレン様が『氷の刺激』を、フルーレ様が『お色気の衝撃』を与えてくれますから☆」
マキ(騎士団が、敵と戦う前に身内に壊されていく……。……。誰か! この狂った連中を何とかしてくれ!!)
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鎖帷子や重厚な鎧という名の「物理的封印」から解放された、騎士団の隠れ美女たち。彼女たちは、王都の路地裏にある隠れ家的なモツ鍋屋で、束の間の休息を取ろうとしていた。
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#### 王都・モツ鍋屋「極楽亭」
サーヴェル「ヒナギク、お疲れ。鎧がキツい季節になってきたから、この定時後の解放感がすごくいいよね」
ヒナギク「本当ですよ……鎖帷子から解放されたこの喜び、今日はもう浴びるほど飲みますよー!」
そこへ、別の師団から合流したサマンサとレイラがやってくる。
サマンサ「お疲れ〜、二人とももう来てたんだ?」
レイラ「今日はおいしいモツ鍋食べて、ライムチューハイでキメちゃいましょう!」
サーヴェル「あと来ていないのはセイラだけ? 彼女、モツ鍋食べたいって言ってたから予約してるはずだけど……」
ちょうどその時、入り口からセイラがエプロン姿のまま慌ただしく入ってきた。
セイラ「お待たせしました〜! 四人とももう来てたんですね? ……あれ? **五人いる?** 一人多くないですか?」
ヒナギク「一人多い……? そんな怖いこと言わないでくださいよ〜(笑)。最近、剣士道場はオバケが出るって噂で持ちきりなんですから」
サーヴェル「その噂、マジで洒落にならないわよ……」
その空気を切り裂くように、聞き覚えのある豪快な声が背後から響く。
セシリア「それより、早くモツ鍋を食べたいのだが」
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一同「!!!!!!!!」
振り返ったそこにいたのは、いつもの殺気とあざとい笑顔を隠しきれない、我が団の「鬼神」ことセシリアだった。彼女は当然のように、一番上座にドカッと腰を下ろす。
セシリア「どうしたお前たち? まるでオバケでも見たかのような顔をして? 私がモツ鍋を愛好してはならんのか?」
一同(……いや、セシリア様。オバケのほうが、まだ話が通じる分マシなんですけど……!!)
セシリア「なにか失礼な事を言われた気がしたが、気のせいか?」
一同「「き、気のせいですっ!!」」
一同の内心は絶望に染まっていた。
彼女たちがせっかく「鎧」や「鎖帷子」を脱ぎ捨てて美女に戻ったのに、その先で待ち受けているのが、よりによって「モーニングスターでテーブルを粉砕しかねない」最強最悪の災厄だったのだから。
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マキ(……。……。……サーベル、ヒナギク、サマンサ、レイラ、セイラ。この騎士団の隠れ美女軍団が、全員揃って宴会か。……そこにセシリアが乱入とは、なんという悪夢だ)
リノ「うふふ、マキ様。今のこの店の空気、セシリア様の存在だけでモツ鍋のニラが萎びていくほど凍りついてますよ☆ ……あ、サーベル様が隠していたお色気をセシリア様に凝視されて、また鎧を着ようか迷っている顔が最高ですねぇ」
マキ(……お前、……おい、何かトラブルが起きる予感しかしないぞ。セシリアが、彼女たちに興味を持ってしまったら……)
リノ「……あ、帝国の間諜が近くに潜んでる気配がします。この宴会、ただの飲み会では終わりそうにありませんよ?」
マキ(……やっぱりな。帝国も愚かだが、この王都の美女たちの「宴」の熱気に巻き込まれたら、間諜の奴らもまともな諜報なんてできんぞ……)
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モツ鍋屋「極楽亭」の喧騒は、すでに狂気の領域に達していた。
そこに、運悪くも「もっとも関わってはいけないテーブル」へ向かって歩を進める、ゼッターランド帝国の間諜三人組がいた。
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諜報員A「おいおい、あそこを見てみろ。極上の美女揃いじゃないか」
諜報員B「本当だ。……ターゲットの情報収集なら、あんな連中の隣に座るのが一番手っ取り早い」
諜報員C「ああ、我々のこの顔立ちなら、ナンパなんて朝飯前だ。さあ、行くぞ」
三人は自信に満ちた笑みを浮かべ、獲物を狙う鷹のようにサーベルたちのテーブルへ近づいていった。
……彼らは知る由もなかった。そのテーブルには、アレクサンド王国最強の「鬼」が同席していることに。
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セシリア「おいサマンサ! そのニラは私の領域のニラだ、手を出すな。あとセイラ、そのモツはあと12秒煮込まないとダメだ。ヒナギク! しらたきは90秒煮込んで食べるのが基本だぞ。それが一番美味しい食べ方だ!」
セシリアは、いつもの鬼神のような殺気を「OLの先輩風」の愛嬌で包み込み、完璧な温度管理で鍋を支配していた。
セシリア「……私はちょっとトイレに行ってくるぞ。私の育成しているモツを取ったら殺すからな?」
口元に手を当て、可憐に頬を染めるポーズで立ち去るセシリア。
彼女が姿を消すと、残された五人は凍りついたまま、ただ呆然と「聖域」を守り続けた。
レイラ「な、なんでセシリア様が当たり前のように参加してるのよ!?」
サーベル「し、知らないわよ!! 私たちが座ったら、いつの間にか横にいたんだから!!」
ヒナギク「こ、怖いですぅ……私の鎖帷子よりも、セシリア様の圧力のほうがずっと重いですぅ……」
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そんな修羅場の空気を察知することもなく、帝国諜報員たちは、満面の笑みで彼女たちを囲んだ。
諜報員A「お姉さんたち盛り上がってるね? しかも美人揃い!」
諜報員B「僕たち観光で来てるんだけどさ、この街のこといろいろ知りたいから教えてほしいな」
諜報員C「よかったら一緒にモツ鍋パーティに参加させてもらいたいんだけど、どうかな? もちろん、僕たちのおごりで!」
彼らにとっては、カモを見つけた瞬間――のはずだった。
副師団長ズ「ぜ、ぜひご一緒に!!!!!」
彼女たちの返事は、あまりにも早かった。
それは、セシリアが戻ってきた時の「トラブルの矛先」を、自分たちから彼らへ逸らすための、必死かつ生存本能による「生贄召喚」であった。
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マキ(……あぁ。あぁ……。哀れな。……あれはナンパではない。食肉加工場へ向かう家畜の行列だ)
リノ「うふふ、マキ様。帝国の間諜さんたち、自分の首を絞める紐を自分で編んで首にかけてますねぇ。……あ、セシリア様がトイレから戻ってきましたよ。獲物を見つけたときのあの嬉しそうな表情……☆」
マキ(……あの男たち、セシリアの怒りを知ったら、帝国に帰る前に王都の地下牢で人生を終えることになるな。というか、ヒナギクたちのあの「ぜひご一緒に!」という必死の顔! まるで地獄から救い出してくれる英雄を見つけたかのような……)
リノ「えへへ、彼ら、自分たちが『盾』にされたことに気づいてまちゅかねぇ? 鍋の中に、間違ってセシリア様のモーニングスターが投入されなければいいんですが」
マキ(……いや、アイツならやりかねん。……この店が地図から消滅するぞ)
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モツ鍋屋「極楽亭」の喧騒は、まさに死と生が隣り合わせの空間となっていた。同じテーブルを囲む8人だが、その思惑は天と地ほどに乖離している。
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諜報員A(……へっ、チョロいぜ。ただのOLの集まりかと思いきや、随分と世間知らずな……)
諜報員B(だな。特にあの先輩風吹かせてる眼鏡の女……ただ可愛らしいだけで、騎士団の機密なんか微塵も持ってなさそうだ。頭が悪そうだしハズレじゃないのか?)
諜報員C(……おい、本当にこの連中から騎士団の動向が聞き出せるのか? むしろただの飲み会に付き合わされてるだけじゃないか?)
彼らは自分たちの「ナンパ術」が完璧であり、目の前の美女たちが自分たちにメロメロになっていると信じて疑わなかった。
自分たちが今、大陸で最も恐れられる「鬼神」の夕食の席に座らされているとは露知らず。
一方で、美女たちは電波も使わず、アイコンタクトだけで高度な作戦会議を繰り広げていた。
ヒナギク(……ねえ。こいつら、部下が調べさせた帝国の諜報員リストに載ってた奴らなんだけど。こんなところで捕まえていいの?)
サーヴェル(馬鹿ね。こっちから見れば下手っぴなのがバレバレよ。でも、このタイミングで現れるなんて……神の采配だわ!)
レイラ(そうよ! セシリア様の「取り調べ(という名の説教)」に付き合うより、こいつらを防波堤にして私たちはずらかるのよ。これで今夜の命は安泰!)
サマンサ(ふふ、自分らが「プロの諜報員」気取りで、私たちをチョロいOLだと思ってる……。自分たちが「セシリア様への生贄」に選ばれたとも知らずに……滑稽ね)
セイラ(……皆さん、悪どいのはよくないですよ? でも、頃合いを見て私たちが先に帰れば、あとはこの3人がセシリア様のお相手をしてくれますね)
全員の視線が、鍋の向こうで得意げに笑う諜報員たちに向けられる。その眼差しは「愛」ではなく「同情」と「確信」に満ちていた。
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セシリア「……ふぅ。今トイレから戻ったぞ。……おや? 見知らぬ男たちが、私のモツを食べているではないか」
セシリアが戻ってきた瞬間、テーブルの温度が物理的に氷点下まで下がった。
だが、諜報員Aは全く空気を読まず、満面の笑みでジョッキを掲げる。
諜報員A「おっと、お姉さん! お帰り! いやあ、偶然の出会いに乾杯しようぜ!」
一同「……乾杯」
冷ややかな乾杯の音が店内に響く。
五人の美女たちは、セシリアの殺気が最高潮に達する瞬間を、今か今かと待ちわびていた。
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マキ(……。……。……おい、リノ。これ、本当に見届ける必要があるのか? 間諜の末路があまりに悲惨そうで、見ていられんぞ)
リノ「うふふ、マキ様。悲惨だなんてとんでもない。彼らは『美女に囲まれて最高に幸せな最期』を迎えるんですから、ある意味での勝ち組ですよ☆」
マキ(……。お前、たまに悪魔以上に恐ろしいことを言うな。……それにしてもセイラ、お前、さっきから鍋の中に『ハチミツを隠し味』にして入れていないか?)
リノ「えへへ、気づきましたか? セシリア様が鍋を一口食べた瞬間、セシリア様vs帝国諜報員たちの『地獄の追いかけっこ』が始まりますねぇ。……あ、準備完了です。いざ、開戦!」
マキ(……副師団長たち、早く逃げてくれ。巻き添えを食うぞ……!!)
今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。
シルフィの部下もやはり凄いお方だった、という…まさにハニートラップです。
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