第47話:龍神の再來
今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。
今回から物語の中核となる展開へと移っていきます
今後とも何卒長くお付き合いくださる事と、もし気に入られられたらブックマークして頂けると嬉しいです。
第47話「龍神の再來」
王都アレクサンドの魔道研究所、その中にリノによって作られたハイドンと隊長ズ達の騎士団寮。
そこは今や、日中の地獄を生き延びた猛者たちが、互いの傷を舐め合う「精神的避難所」となっていた。
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#### 魔道練習場:雷鳴の余韻
エレン「は、はい、こ、こうですかね……? えいっ!!」
**ドォォォォン!!**
鼓膜を突き破るような爆音と共に、巨大な雷球が練習場の的を文字通り「消滅」させた。
エレンの魔力特性は、繊細な制御を無視して純粋なエネルギーを叩きつける、まさにセシリアと同質の「天災」そのものであった。
リノ「やっぱり出来ましたね。あとは出力の調整だけですよ(雷系も最下級でこれですか……。エレンさんの潜在能力、私の予想を遥かに超えてますね)」
エレン「う、嬉しいです! 私が、あのアカデミーを落第しかけた私が、魔法を使えるようになるなんて……っ!」
リノ「ウフフ、エレンさん。明日は氷系と水系をやりましょうね。びしょびしょの凍り漬けですっ☆」
マキ(……本当にセシリアと瓜二つだな。性格は真逆で、あいつのような「傲慢さ」は微塵もないが……。リノの奴、教えるのが楽しくて仕方ないという顔をしておる。……そういえば、私もセシリアを弟子にした時は、あいつが規格外の力を振り回すたびに、同じような高揚感を感じていたものだ……)
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#### ハイドンの部屋:カオスな共同生活
一方、ハイドンの自室では、各師団で「魔改造」された隊長たちが、持ち寄った成果物で夕食の準備を進めていた。
カムストック「キャベツと玉ねぎの微塵切り、ミリ単位で完了!」
サンチェス「挽き肉の微塵切り炒め、フルーレ様の指導通りに完了!」
ジェームズ「タンドリーチキン、セシリア様の火力をイメージして焼き上げ完了!」
ガリクソン「マドレーヌとフィナンシェ、ハナ様に合格点もらったやつ完了!」
ハイドン「……。では、夕食を開始しよう。手を合わせて……って、何で当たり前のように私の部屋に入り浸っておるのだ! それに夕食のおかずに焼き菓子とか、組み合わせがありえんだろ!!」
ブキャナン「あ、飲み物がまだでしたね。今、特製の『カリンちゃんスマイル・ソーダ』を準備します」
ハイドン「(ブキャナン、お前が一番重症だ……)」
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#### 恐怖の来訪者
その時、ハイドンの部屋のドアを叩く、控えめで上品なノックの音が響いた。
ハイドン「……。そういえば、エレンさんがまだだったな。今日は魔法の練習だったと言っていたし。……エレンさん、お疲れ……さ……ま……???」
ハイドンがドアを開けた瞬間、部屋の中の時間が凍りついた。
全員が「どうしたんだ?」と入り口に集まるが、次の瞬間、全員の顔から血の気が引いた。
そこには、家出娘さながらの巨大なバッグを両手に抱え、月明かりを背負った「地上に降りた天使」が、この世で最も美しい微笑みを湛えて立っていた。
シルフィ「ウフフ、来ちゃった♡」
ハイドン&隊長ズ(……。……。……あ、終わった(確信))
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#### 魔道研究所:リノの居室
マキ(……ハイドンよ!! 逃げろ!! 今すぐ窓から飛び降りてでも逃げろ!! その「来ちゃった♡」は、モーニングスター百個分に匹敵する絶望の合図だ!!)
リノ「あはは! シルフィ様、ついにハイドン様の部屋まで来ちゃったんですね! あのバッグの中身……全部『新作の青汁(試作品)』ですよ。……ハイドン様、明日まで生きてますかねぇ☆」
マキ(笑い事か! 騎士団の幹部が「栄養過多の苦味」で全滅したら、明日からの公務はどうなる!! シルフィ、お前、聖女の名を返上して『劇物製造機』に改名しろ!!)
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その頃
ゼッターランド帝国が、マキの不在を好機と見てまた動き出したという報せは、ハナの諜報網によって瞬時に騎士団へ届けられた。
戦の足音が近づく中、セシリアの特訓場では、今日も物理法則を無視した破壊音が響いていた。
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#### セシリアの地獄の訓練所♡
セシリア「いくぞエレン! モーニングスター六個同時だ!」
エレン「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!! また剣が折れてしまいました!!」
エレンの叫びとともに、手の中の刀身が虚しく破片となって飛び散っている。特訓が始まってから、すでに三十本以上の剣が犠牲になっていた。
エレンの給料のほとんどが刀代に消え、毎日モヤシスープやワカメサラダといった、質素な国タリム王国顔負けの食生活を余儀なくされていたのだ。
セシリア「また折れたのか? 剣を大切に扱わぬ奴にはバチが当たるぞ?」
エレン「‥‥‥(剣を折ってる張本人に言われましても‥‥)」
セシリア「……仕方がない、私の愛刀『鬼王』を貸してやろう」
エレン「そ、そんなデカくて重そうな刀、私に持てるわけないですよ〜!?」
セシリア「安心するがいい。鬼王は持つ者の魔力と筋力に応じ、その者が扱える重さに自動的に変化する便利な刀だからな」
エレンが恐る恐る手を伸ばすと、刀身がエレンの手に馴染む重量へと瞬時に変化したように感じた。
エレン「あ……本当ですね!? 私でも片手で振れる重さになりましたっ!」
エレンが軽く剣を振るうと、空気が裂けるような鋭い音が鳴る。その瞬間、セシリアの表情から「あざとさ」が消え失せ、戦場で敵を震え上がらせていた「鬼神」の殺気が一瞬だけ顔を覗かせた。
セシリア「……エレンよ。折れない刀を、今から紹介してやる。喜べ」
エレン「え? セシリア様、優秀な刀職人さんでも紹介してくれるんですか?」
セシリアはニヤリと笑うと、宙に向かって指を鳴らした。どこからともなくハナの配下のくノ一が現れ、セシリアの命を受ける。
セシリア「ラーズに今から遊びに行くと言え。予定? 空いていないなら私が無理やり空けてやると伝えろ」
数刻後、戻ってきたくノ一が「……仕方なく了解したとのことです」と伝えると、セシリアは満足げに頷いた。
セシリア「よし、エレン。行くぞ!」
エレン「は、はいっ! どんな刀を作って頂けるのか楽しみです!」
エレンはまだ知らない。自分が今から向かう先が、アレクサンド王国の宝物庫であり、そこで待っているのが「若き国王」その人であることを。
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#### 魔道研究所:リノの居室
マキ(……ラーズに会いに行くのか。あの軟弱者、相変わらずセシリアの無茶ぶりに振り回されておるな。……というか、エレン。お前、あそこが王城だと気づいていないのか?)
リノ「ウフフ、エレンさんは『刀職人さんの工房』だと思って疑ってまてんねぇ。あ、国王様は『保険としてカレン様と私を呼んでおけ』って根回し済みです☆」
マキ(……お前たち、王を私用で呼び出すなと言いたいところだが、今の私では止められん。……それにしても、宝物庫にある『鬼王』と対をなす刀……。まさか、あの『魔剣』を出す気か?)
リノ「フフフ、マキ様のお刀も一緒に保管されてるんですよねぇ……。エレンさんがその伝説の刀を握ったら、どんな反応をするか……楽しみですね!」
マキ(……エレン、お前、その刀を握ったら二度と元の『へっぽこエレン』には戻れんぞ。……セシリア、お前は本当に、手遅れになるまでアクセルを踏むタイプだな……)
エレンを乗せたセシリアの馬車が、王城への道を疾走していく。
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馬車が到着したのは、王都ロザーリアの象徴――重厚な石壁に囲まれた、ロザーリア城の正門だった。
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#### ロザーリア城・正門前
エレン「わ……ここが、そのラーズさんって方のお家なんですか……?」
門を見上げたエレンの顔から、みるみる血の気が失せていく。
エレン「って、ここ……ロザーリア城じゃないですか!!!!! ……まさか、ラーズさんって、もしかして……」
城門が開くと、不機嫌そうな顔をした若き国王・ラーズが、近衛兵を従えて立っていた。
ラーズ「セシリア、急にいったい何の用だ? 私はこう見えて忙しいのだぞ? 公務の山を放置して駆けつけたんだからな」
セシリア「おう! ラーズ! そんなに時間は取らせん。早速宝物庫に連れて行け!」
ラーズ「はあ!? そんなこといきなり言われて、ハイそうですかになるわけがないだろう!?」
セシリア「何だと!? 貴様! 国王の分際でナマイキだぞ!!!!」
セシリアが拳を振り上げた、その瞬間だった。
バシィィィィィィィィン!!
乾いた音が響き渡り、セシリアの体が前方に大きくよろめいた。彼女の後頭部には、鮮やかな平手打ちの痕が残っている。
カレン「ナマイキなのはあんたよ!!!!!!」
リノ「カレン様、間に合ってよかったですねぇ(ニッコリ)」
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#### 王宮・王の間
玉座の間へ連れて行かれたエレンは、心臓の鼓動が耳元まで聞こえるほど緊張していた。
ラーズ「カレン、この娘が君から影武者の申請が来ていた娘かい? はじめまして、ラーズだ」
エレン「は、は、は、はいっ!!! え、え、エレンと申しますすすす(ひぃぃぃ、本物の国王様だぁぁぁ……!)」
ラーズ「そんなに硬くならなくていい。セシリアもカレンも相変わらずで安心したぞ。そしてリノも……」
ラーズの視線が、リノの腕の中にいる「赤ん坊」に吸い寄せられた。
その瞳には、かつての盟友を失った悲しみと、今目の前にいる存在への戸惑いが混ざり合っている。
マキ(ふん……ラーズめ。そんな悲しげな顔をして見るな。相変わらずの軟弱者め。……いや、待て。今の私は赤ん坊だ。そっぽを向くのも変だし、ここは……)
マキは一瞬だけ拗ねたように顔を逸らそうとしたが、思い直して、きょとんとした(赤ん坊らしい)無垢な顔でラーズを見つめ返した。
ラーズ「……ああ。まあ、この流れからしてだいたい察しはつくが。カレンとリノよ、エレンという娘はそれほどなのか?」
カレン「素質は本物ですよ。まだまだ発展途上ですが、そこがまた面白いんですけどね」
リノ「かなりの素質なのは間違いありません……(少し不機嫌そうに)」
セシリア「ラーズよ! この私が直々に鍛えたのだ、疑う余地などあるか!!」
全員がエレンの「異常性」を語る中、当の本人は震えながら小さくなっていた。
エレン「わ、わ、わたしは普通の人間です……ただの女の子なんですぅ……ひいいっ!!」
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#### 王宮・宝物庫へ続く回廊
エレンの悲鳴を背に、ラーズは苦笑しながら、一行を厳重な扉の先へと導く。そこには、王国の歴史そのものが眠る宝物庫があった。
マキ(……さて、ここには伝説の『鬼王』と……。そして、私の刀も保管されているわけだが……。ラーズ、まさかお前、エレンに私の刀を触れさせるつもりではないだろうな?)
リノの思念(ウフフ、もしマキ様の刀に反応したら、エレンさんは『マキ様の再来』になっちゃいますねぇ。……それとも、セシリア様の愛刀との「対」が、彼女の中で火を吹くんでしょうか?)
扉が重厚な音を立てて開く。
そこに眠っていたのは、刀剣の域を超えた「凶器」の気配だった。
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カレンが静かに口を開く。その声には、普段の狡猾さとは異なる、重々しい敬意が込められていた。
カレン「この話は、騎士団の極一部の幹部しか知らない真実よ。エレン、よく聞きなさい」
カレンが語ったのは、文献すらも朧げな「神話」の時代のことだった。かつて、この地がアレクサンド王国と呼ばれるよりも遥か昔、大陸西部には「八人の王」が君臨していたという。
彼らは人間でありながら神に等しい力を持ち、それぞれの武具を振るって守護していた。その八本の武具こそが、今なおこの国が大陸で圧倒的な力を保持する根源となっていた。
ラーズが宝物庫の中央へと一行を導く。そこには八つの剣を安置するための台座が並んでいたが、実際に存在するのは二本のみ。
一つはセシリアの鬼王、残りの四つは、歴史の闇に消えたか、あるいは持ち主を待っているかのように空席となっていた。
中央には、ひときわ異彩を放つ一本の刀が鎮座している、台座には「明王」と彫られている。
深紅の血を塗り重ねたかのような輝きを放つ「明王」、透明でありながら燃えるようなワインレッドの奔流を宿している。
エレン「す、すごい……。なんだか、見てるだけで胸が苦しくなるような、熱い……」
セシリアが、少し寂しげな眼差しでその刀を見つめる。
セシリア「エレンよ、その刀は違う。……それは、マキ様の刀だ」
エレン「騎士団長様の……刀……」
マキ(……ラーズの奴、まだ私の武具をここに安置していたのか。懐かしいな。……明王を握っていた頃の私は、まだ今ほど退屈を知らなかった)
セシリアは、その刀には目もくれず、もっとも奥まった場所にある巨大な剣を指さした。
それは、セシリアが愛用する『鬼王』の台座の隣、瓜二つの意匠を持ちながら、より重厚で、大地を割るような圧倒的なオーラを放つ大剣だった。
台座には、力強く「龍王」と刻まれている。
セシリア「ラーズ、この剣をエレンに貸してやってもらえないか? 頼む」
ラーズ「……セシリア、お前がそこまで言うか。自分の愛刀『鬼王』と対をなすこの龍王を、その少女に握らせるというのか?」
#### 運命の交差点
エレンが龍王の前に立つ。
近づくにつれ、彼女の身体に異変が起きた。これまで何本もの剣を折ってきた彼女の力が、この龍王の前では「適合」し、静かにその波長を合わせ始める。
リノ「ウフフ……。マキ様、見てください。龍王が……エレンさんの魔力に反応して、震えてます」
マキ(なっ!? 私の刀まで……!!)
リノの言葉通り、傍らにあった『明王』と、そしてエレンの目の前の『龍王』が、まるで主を待っていたかのように共鳴の音を響かせ始めた。
エレン「なんだか……これ、呼んでるみたいなんです……」
エレンがその柄に手をかけようとした瞬間、宝物庫の空気が一変した。
ただの「影武者」として巻き込まれた少女が、歴史の表舞台へと引きずり出される、決定的な瞬間が訪れようとしていた。
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宝物庫の空気は、伝説の武器たちが放つ共鳴音で震えていた。エレンはその重圧に押し潰されそうになりながら、半べそをかいて後ずさりする。
エレン「や、やっぱり‥‥こ、こ、こんな大それたものを……! 私なんか、む、無理ですって! ひえぇぇ〜っ、お家に帰りたいですぅ!!」
セシリア「ええい、往生際が悪いぞ! いいから早く手に取るのだ。それとも、明日からモーニングスターを十個同時に増やされたいのか!?」
エレン「ひいいっ! じ、十個!? や、やります! やればいいんでしょぉぉ!!」
究極の二択(絶望か、未知の伝説か)を迫られたエレンは、泣きながら『龍王』の柄に手を伸ばした。
その指先が冷徹な鋼に触れた瞬間――。
**――シュンッ……。**
あれほど荒れ狂っていた『龍王』のオーラ、そして呼応していたセシリアの『鬼王』やマキの刀『明王』の共鳴が、嘘のようにピタリと止まった。
広大な宝物庫に、耳が痛くなるほどの静寂が広がる。
エレン「あ、あれ? ……止まった。……やっぱり私、ハズレだったんですよー! よ、よかったぁぁ〜! ハズレてくれたぁぁ!!(安堵の涙)」
エレンは腰を抜かしてその場にへたり込むが、周囲の重鎮たちの反応は真逆だった。
ラーズ「……。セシリア、お前の勘は、やはり『当たり』だったみたいだな」
セシリア「ふん、当たり前だ。貴様、今の今まで疑っていたのか? 国王の分際でナマイキな奴だ」
カレン「エレン、残念ながら……それは『アタリ』よ。このクラスの魔剣はね、新しい主が近づいたことを知ると、目覚める喜びで激しく相手を求めるの。そして、主の手に渡った瞬間に、満足して落ち着くものなのよ」
エレン「えっ……。じゃあ、今の静けさは……『納得しちゃった』ってことですかぁ!? イヤですよぉぉ!!」
セシリア「騙してすまなかったが、鬼王をお前に貸した時に既に気付いていた。この刀は誰にでも振れるものではないからな。」
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#### 宿命の始まり
エレンの手の中で、龍王はまるで体の一部であるかのようにその重さを変え、馴染んでいた。
かつての「へっぽこエレン」は、今、王国の歴史に刻まれるべき「八王の遺産」の継承者となってしまった。
ラーズ「……よし。カレン、セシリア。その娘に龍王の使用を許可する。ただし、帝国との戦いが終わるまでは、その剣の正体は極秘だ。……エレン、期待しているぞ」
エレン「期待しないでくださいぃぃ……!!(号泣)」
こうして、史上最も弱気な一般市民の「伝説の継承者」が誕生した。
#### 刀の残響
一方、台座に残された『明王』だけは、今なお淡いワインレッドのオーラを放ち、リノの腕の中にいる「ある存在」を求めて微かに震え続けていた。
マキ(……。明王よ。お前の忠義は嬉しいが、今は静かにしていろ。……ふっ。お前たちも、早く新しい主を探すがいい。私がまともに振るえるほど成長するまで待つのは、お前たちにとっても辛かろう……)
リノ「ウフフ……マキ様。お刀が、寂しそうにマキ様を呼んでますねぇ。……でも、ダメですよ? 今のマキ様は『おしゃぶり』が主武装ですからねぇ☆」
マキ(……。……誰か、この変態魔道士を、今すぐこの明王で斬ってくれ……!!)




