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第45話:盗んだ馬車で走り出す

第45話「盗んだ馬車で走り出す」



昨夜の女子トーク(精神汚染)が明けたというのに、王都の騎士団施設にはさらなる絶望の風が吹き荒れていた。


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#### フルーレの剣術道場


フルーレ「フフフ……サンチェスさんとカムストックさん、喜ぶっすよ? 今日から私自らが、実戦形式で指南してあげるっす……。あ、昨晩は酔いすぎて何にも覚えてないっすよ? フフフ」


そこには、普段の素顔からは想像もつかないほど、不自然かつ下手っぴなケバいメイクを施したフルーレが立っていた。


昨夜の「お色気担当」宣言を引きずっているのは明白であり、その姿は「可愛い」を通り越して「怨念」に近い恐怖を醸し出している。


サンチェス「ひいいっ!? しっかり根に持って覚えてるじゃないですかぁぁぁぁ!!」


カムストック「サンチェス!! 貴様の失言のせいで!! 俺まで完全に微塵切りコースに巻き込まれたじゃねーか!!」


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#### ハナの武家屋敷(お菓子作り特訓場)


ハナ「ガリクソンさん、今日はフィナンシェの作り方を教えてあげるよ。マドレーヌと違って難しいからね!」


ガリクソン「……(震え声)マドレーヌと、どう違うんですか?」


ハナ「違いがわかんないとかダメだよ! そこは何回も繰り返して体に叩き込んで覚えるんだ。それが出来るようになったら、もうこれからはガリクソンさんが『お菓子系』だね」


ガリクソン(……本当に気にしていたのか。しかし、お菓子作りを体に叩き込まれる男性諜報員とはいったい何なのだ……。私はどこへ向かっている……?)


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#### 騎士団本庁・氷の女王カレン執務室


カレン「ブキャナンさん、それが終わったら次はこれをお願いね?」


ブキャナン「ひ、ひいいっっ!! 承知しましたぁっ!!」


凄まじい筆致で昭和の書類の山を崩していくブキャナン。その姿はもはや事務作業ではなく、紙との格闘である。


カレン「ブキャナンさんが来て本当に助かるわ。今まで私一人で全部やっていたから結構大変だったのよ? 会議だらけだし、戦略の企画や騎士団全体の把握もやらなきゃいけなかったし。本当にありがとうね(微笑)」


ブキャナン(!!!!!????? この量を一人で!? 他の激務と並行して!? こ、この死神……事務能力もバケモノかよ!! 帝国が負けるわけだわ!!)


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#### セシリアの秘密の訓練所♡(地獄の門)


セシリア「いくぞエレン! モーニングスター三個同時だ!!」


エレン「キャア!! イヤぁぁぁぁぁ!!!!」


頭、腹、脚。死の三点同時攻撃が直撃する――その寸前、閃光のような抜刀が空を裂いた。エレンの剣が、あり得ない速度でモーニングスターを三個同時に弾き飛ばす。


セシリア「エレン! やれば出来るではないか! 偉いぞ? ご褒美に5分休憩をやろう。……その後は、モーニングスター四個同時だ! ハッハッハ!」


頬の横で両手を合わせて可愛らしく喜びを表現し、天使の笑顔で部下を褒めるセシリア。


その傍らで、全く同じポーズで顔を覆い、大粒の涙を流しながらシクシクと泣きじゃくるエレン。


ジェームズ&ハイドン(……。……。……。……見てはいけない、あれは地獄のコントだ……)


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#### 魔道研究所:リノの居室


マキ(……セシリア、お前は本当に……。戦場でのあの不敵な鬼神の如き笑みはどこへ行ったのだ。部下への「あざといご褒美(追い込み)」が、もはや洗脳の域に達しているぞ。


……だが、エレン。あの状況で三個弾くとは、やはり本能で魔力加速を使っているな。恐ろしい才能だ)


リノ「うふふ、マキ様。エレンさんの泣き顔と、セシリア様のあざとい笑顔、コントラストが最高でちゅねぇ☆ 今日の離乳食の隠し味に、エレンさんの涙を一滴……」


マキ(入れるな! 呪われるだろうが!! ……それにしても、カレンの事務量……。以前から知ってはいたが、あいつ、よく過労死しなかったな。私が戦場に集中できていたのは、あいつが裏でこの「泥」をすべて一人で処理していたからか……)


最強の騎士団長は、赤ちゃんという無力な視点になって初めて、部下たちの「異常なまでの有能さと狂気」を再確認するのであった。


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王都の夕暮れは、ブキャナンにとって唯一の「救い」が舞い降りる時間だった。


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#### 騎士団本庁・正門前


17時。定時退勤という名の解放を得たブキャナンが門をくぐると、そこには夕日に銀髪を輝かせたポニーテールの美少女が立っていた。


カリン「えへへ、今日は定時だったんだねっ?」


ブキャナン「カリンちゃん!! 来てくれたんだ!?」


カリン「ここは通り道だからね〜。毎日17時にはブキャナンさんがいるかどうか覗いてから帰るの。そしたら今日会えたから、嬉しっ☆」


ブキャナン「俺もカリンちゃんに会えて嬉しいよ! 本当に、君だけが俺の癒やしだ……」


カリン「ねえ? ねえ? 帝国のお友達の話、もっと教えてっ? あと帝国の機密、カリンもっと知りたいなぁ〜?」


ブキャナン「うん、うん、教える! 全部教えるよ! よし、今からお茶しよう!」


カリン「いえ〜い☆」


……ブキャナンは知らない。

カレンが「お茶」を奢りながら、ブキャナンの僅かな反応、リアクション、呼吸一つ、視線の揺れ一つから、彼の「最高にピンズドな理想の女性像」を完全に解析していたことを。


今の「カリン」という人格は、カレンの超人的な脳内演算によって出力された、ブキャナンの精神的防壁を無効化するための対ブキャナン用最終兵器であることを。


カレン(……現時点では、北や南と事を構えるより、東とやり合う方が圧倒的に有利だわ。ゼッターランド帝国にいる『大陸十傑』の内、三人の詳細が分かり次第、こちらから動く……!)


「カリン」として甘い声を出しながら、カレンの脳内ではアレクサンド王国の覇道を確実にするための冷徹なシミュレーションが、ミリ秒単位で更新されていた。


カレン(それにしても、帝国も愚かなものね。ブキャナン程の稀代の逸材を見抜けずに軽く扱っていた。絶対に手放してはいけない駒だったはずなのに……。フフフ)


ブキャナン「帝国の三傑? 直接の面識はそんなに多くないけど、会話した内容や実績から、強さはだいたい把握してるよ?」


カリン「え〜!? ブキャナンさん凄〜い!! やっぱブキャナンさんってステキな人だわ〜! ねえ、ねえ? 教えて教えてっ☆」


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#### 魔道研究所:リノの居室


魔道探知で「カレンの仮面舞踏会」を見せられたマキは、冷や汗を拭った。


マキ(カレン……やはり恐ろしい奴だ。あんな完璧な演技、多重人格としか思えん。……だが、ブキャナンもブキャナンだな。あのチャラついた態度の裏で、十傑の能力を正確にスカウティングしているとは。帝国では出世を望まず、牙を隠していたということか)


リノ「お互いWin-Winみたいだから、いいんじゃないですかぁ〜? 今の私とマキ様の関係も、お互いWin-Winですし。てへっ☆」


マキ(全然Win-Winではないぞ!! 私の方が圧倒的にやられっ放しではないか! さっきから何だ、この「猫耳帽子」の感触は! 早く脱がせろ!!)


リノ「ダメでちゅよぉ〜。今、カレン様がハニートラップで機密を抜いてる間に、私はマキ様の『可愛さの機密』をこのカメラに収めなきゃいけないんですから☆ ほら、にゃーん、ですよぉ?」


マキ(……。……にゃ、にゃーん(ヤケクソ)。……カレン、ブキャナン。お前たちも地獄だろうが、こっちも別の意味で地獄だぞ……!!)


最強の騎士団長(23歳・中身)のプライドが、リノの変態的愛情によって、音を立てて崩れていった。


---


セシリアの「可愛がり」という名の猛特訓により、身も心もボロボロになったエレン。しかし、彼女は律儀だった。フラフラの足取りでリノの魔道研究所へと現れる。


---


#### 魔道研究所・リノの部屋


エレン「すみません、遅くなりました……」


隊服を着替え、魂が抜けかけたような顔で現れたエレンに、リノは慈愛に満ちた(しかしどこか計算高い)微笑みを浮かべる。


リノ「気にしなくていいですよ。エレンさん、まずはこの紅茶を飲んで疲れを癒してください」

差し出されたのは、最高級の茶葉とリノ特製の魔力回復薬が微量にブレンドされた、香りの良い紅茶。


エレン「……。なんだか、やっと生きた心地がしてきました……」


一口すするごとに、エレンの表情に生気が戻っていく。


リノ「フフフ。落ち着いたら、魔道練習場に行きましょうね」


---


#### 魔道練習場


そこはかつて、騎士団長時代のマキが一人で魔法の研鑽を積み、少女時代のリノがそれを憧れの眼差しで見つめていた、二人にとっての聖域だった。


リノ「エレンさん、まずは炎の魔法から教えますね。一番簡単な術式はこうして、こう……」


リノが空間に映像魔法で術式を投影する。複雑な数式を視覚化し、魔力の「流れ」を色分けして見せる教え方は、アカデミーの硬い授業とは正反対だった。


エレン「わ、分かりやすいです! アカデミーの時はちんぷんかんぷんでしたが、こうやって教えてもらうと、なんだかパズルみたいに分かってきました!」


リノ「(やはり、飲み込みが異常に早いですね。知識がないのではなく、感覚が鋭すぎて既存の理論が邪魔をしていただけですか……)」


エレン「魔素をこうして、流れをこう……。えいっ!!」


**ゴウッ!!!**

鼓膜を揺らす轟音。エレンの手の先から放たれたのは、初級魔法とは思えない巨大な火球だった。それは50m先の的へ一直線に飛び込み、爆音と共に的を粉砕した。


エレン「キャアッ!」


自分の放った威力に驚き、尻もちをつくエレン。


リノ「今の感覚を忘れないようにしてください。次は『この威力が出る』と分かって制御すれば大丈夫ですから」


リノ(フフフ……。最下級の火球魔法でこれですか。しかも、ほとんど無詠唱。この直感的な魔力操作……。お顔がそっくりなだけでなく、魔質のタイプまでセシリア様と同じ『天賦の暴君』型なんですね。面白いです……)


マキ(やはりこの娘、このタイプか……。セシリアと初めて会った時に感じた、あの『理屈を超えた暴力的な才能』。単なる影武者では終わらんぞ、こいつは……)


---


#### 騎士団寮・ハイドンの部屋


十数回の練習を経て、少しずつ魔法の制御に自信を持ったエレン。肉体は疲弊しているが、心は達成感で満たされていた。


この喜びを、唯一の理解者(?)であるハイドンに報告しようと、彼女はニコニコしながら部屋を訪ねた。


エレン「ハイドンさん、お邪魔しまーす! あのね、私魔法が……って、ええっ!?」


しかし、ドアを開けた先にあったのは、喜びを分かち合う余地など微塵もない惨状だった。


床には白目を剥いて転がるジェームズ、壁にめり込んだまま動かないカムストック、そして「お菓子……マドレーヌ……」と謎の呪文を唱えながら震えるガリクソン。


そして中央では、ハイドンが抜け殻のような顔で、シルフィの青汁の空きカップを握りしめたまま固まっていた。


ハイドン「……。……あ、エレンちゃんか。……岩、斬れたか……? モーニングスター、避けたか……?」


エレン「ハ、ハイドンさん……。しっかりしてください……! 南無……」


覚醒した光の裏で、闇に呑まれた男たちの夜は、まだ明ける気配がなかった。


---

今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。

個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。

今後とも何卒長くお付き合いくださる事と、もし気に入られられたらブックマークして頂けると嬉しいです。

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