第43話:いつになれば俺は這い上がれるだろう
第43話「いつになれば俺は這い上がれるだろう」
騎士団寮の一角、ハイドンの自室。
そこは、日中の暴挙から逃げ延びた男たちと、魂の抜けかけた少女が集う「野戦病院」と化していた。
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#### ハイドンの部屋:生存者たちの独白
ジェームズ「痛い……。カムストック、湿布はもう少し右、いや、そこだ……ああっ……」
カムストック「贅沢言うな! こっちだって『微塵切りのフルーレ』の洗礼で両腕がパンパンなんだぞ!? お前はセシリア様とジョギングしながらイチャついてたんだから、まだマシだろ!」
ガリクソン「そうだぞ、ジェームズ。お前が『ジョギング・デート』を楽しんでいる間、俺は一人でハナ様に監視されながら、延々と朝から夕方までマドレーヌを焼かされていたんだぞ?」
ジェームズ「……あれが、イチャついてるように見えるか? 腹を空かせた猛獣の檻に放り込まれて、じゃれつかれながら時速40kmで走らされている絶望感が分からんのか……」
隊長ズ以外の者が遠目に見れば、「可愛い上官が、あざといポーズで励ましながら、部下と仲良くランニングしている」という、絵に描いたような青春の1ページに見える。……それが、この地獄の最も恐ろしい点であった。
ブキャナン「……はぁ。またカリンちゃんに会いたいなぁ。マジで超カワイイ……。天使だ……」
サンチェス「お前、徹夜明けの事務地獄帰りだろ? なんでそんなにタフなんだ。そのカリンって娘、そんなにいいのか?」
ブキャナン「いいなんてもんじゃない! 『カレン様の下で瀕死になりながら頑張っているブキャナンさんが一番輝いていてステキに見えます』と言ってくれたんだぞ……。あの癒やしさえあれば、あの死神のパワハラにだって耐えられるってもんだ!」
ハイドン「ええい! ここは私の部屋のはずだ!! なぜ皆が当たり前のように入り浸っておるのだ!!」
エレン「ぐすん……。ハイドンさん……。私を守ってくれるって言ったのに……。結局、岩を斬らされて……フルマラソンを一時間で走らされて……守ってくれてないじゃないですかぁ……」
ハイドン「ま、待て、エレンちゃん! 泣かないでくれ! ほら、岩も斬れるようになったし、一時間で完走できたじゃないか、セシリア様も褒めておられたぞ!?(……何を言っているんだ私は。むしろ私こそ誰かに守ってほしいぐらいなのに!)」
その時。
ハイドンの絶叫とエレンのすすり泣きを切り裂くように、部屋のドアが勢いよく蹴破られた。
セシリア「ハイドン! 今からここは『二次会の宴会場』に決まったぞ!! お? ちょうど全員揃っているではないか! お前ら、気が利くなぁ!」
ハイドン「うげえぇぇっ!?」
隊長ズ&エレン「ひいいぃぃっ!!(魔王降臨!!)」
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#### 廊下:リノとマキの視点
セシリアの後ろから、マキを抱いたリノと、笑顔の(しかし目が笑っていない)カレンが悠然と現れる。
マキ(……あわれな奴らめ。せめて鍵をかけておけばよかったものを。まあ鍵なんか無意味だがな……しかし、ブキャナン。お前が「天使」と崇めるカリンは、お前を働かせるための「燃料」だとも知らずにな……)
リノ「うふふ、マキ様。みんな揃ってて楽しそうですね〜。ハイドン様の部屋、意外と綺麗に片付いてますよ☆」
カレン「あら、ブキャナンさん。定時で帰したはずなのに、こんなところで油を売っていたのね? 精力が余っている証拠かしら。……明日からの書類、少し増やしても大丈夫そうね?」
ブキャナン「(顔面蒼白)……え。あ、カ、カレン様……?」
マキ(……ハイドン、ジェームズ、ブキャナン……そしてエレンよ。今夜は長い夜になりそうだ。……リノ、私の分の離乳食(酒の肴)も、あいつらの分から奪ってこい)
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ハイドンの部屋は、もはや騎士団の寮というよりは「肉食獣の檻」と化していた。
#### 宴会テーブルA:セシリアの「鋼鉄の抱擁」
セシリア「ハッハッハ! 改めて、帝国軍に完勝した祝勝会をやっておったのだ! 二次会からはお前たちも参加させてやろうと思ってな!!」
ハイドン「……。……祝勝会に参加と言われてもな。私はその、完敗した方の将だったんだが……」
セシリア「ハッハッハ!! ハイドン、堅いことを言うな! 昨日の敵は今日の友だ。共に大勝利を祝おうではないか! おいジェームズ、逃げるな! 近うよれ!」
セシリアが、首を傾げて「おいでおいで」と、少女漫画のようなあざとく可愛らしいポーズで手招きする。
だが、その背後には物理的な威圧感(ゴゴゴ……という効果音)が立ち昇っており、ジェームズは蛇に睨まれた蛙のように硬直していた。
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#### 宴会テーブルB:カレンの「笑顔の尋問」
カレン「ブキャナンさん。さっき随分ご機嫌だったみたいだけど……。そんなに私との仕事が楽しいのかしら?」
ブキャナン「は、はい……。楽しいというか……何というか……その……(冷や汗が止まらない)」
カレン「あら、お酒が進んでいないわね? 私が注いだシャンパンじゃ不服なのかしら。いいわよ、遠慮しなくて。今日は寝かせないわよ? 私と一緒に、明日の戦略と事務効率化について『朝まで』語り尽くしましょう?」
ブキャナン「(……マジで怖え。誰か助けてくれ。カリンちゃん、君の笑顔だけが今の僕の救いなんだ、助けて……!!)」
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#### 宴会テーブルC:リノの「甘い誘惑」
リノ「ウフフ、エレンさん。あっちのセシリア様のテーブルに行かなくて大丈夫なんですかぁ?」
エレン「こ、ここにいさせてくださいっ! お願いしますっ!! あそこに行ったら、またいつ岩が飛んでくるか分かりませんからぁ!!」
リノ「エレンさんはいつも頑張っていますからねぇ。私と一緒に、ゆっくり紅茶でも飲んでくつろぎましょう。……ところでエレンさん。セシリア様とのお稽古のあと、気分転換に私と『魔法の練習』もしませんかぁ?」
エレン「えっ、で、でも……私、魔法の素質ぜんぜんないですよ!? 苦手なんです、座学も術式も!」
リノ「ウフフ、あくまで気分転換ですよぉ。基礎の基礎から、手取り足取り、みっちり、ねっとり、教えてあげますから心配ないです。てへっ☆」
エレン「わぁ! それなら、ぜひお願いします! 楽しみですっ!」
リノ「こちらこそ、よろしくです……。ウフフ……(暗い微笑)」
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#### マキの視点
リノの腕の中からその光景を見ていたマキは、深い溜息を漏らした。
マキ(……やはり、この変態魔道士め。エレンのずば抜けた『魔法の素質』を見抜いておったか。セシリアに体を叩き直され、リノに魔力を開発される……。エレンよ、お前は本当に、本当にかわいそうな奴だな……南無)
リノの思念(マキ様ぁ。今、また私のことを『変態』って呼びましたね? はい、今夜のお仕置き確定でちゅよ〜〜☆)
マキ(なっ!? 思考を読むなと言っておろうが!! 離せ! 貴様のその「ねっとりとした教育」に私を巻き込むな!!)
地獄の二部合唱のような二次会。
マキの騎士団の「新体制」は、帝国軍の生き残りたちの胃に、消えない穴を空けようとしていた。
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ハイドンの自室という名の「野戦病院」は、ついに全域が魔王たちの支配下に置かれた。
#### 宴会テーブルD:同期3人娘の「格付けチェック」
フルーレ「で、この中で誰が一番童顔かって聞いてるんっすよ!? ハッキリ言うっす!」
サンチェス「……。……誰が一番って……フルーレ様が一番大人っぽいのは確かですよ!(あぶねぇ! やはり気にしていたのか、この包丁使い!)」
シルフィ「サンチェスさん。それでは『三番目に大人っぽい』のはどなたなんですかぁ?(ニコニコ)」
ハナ「シルフィ、それはちょっとモロすぎだよ〜? サンチェスさん、二番目に大人っぽいのは誰? ボクかな? ボクだよね?」
サンチェス「あわわわわわわ……(これ、詰んだ……! 誰を指しても消される!)」
ガリクソン&カムストック「(小声)……南無。あいつ、死んだな」
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#### 宴会テーブルA:セシリアの「地獄の応援要請」
セシリア「ハイドン! 明日からモーニングスターは二個同時でいくからな! 両手で扱えば効率が二倍だ!」
ハイドン「なっ!? 一個でも死の淵を彷徨う殺傷能力だぞ!? 二個なんて無理に決まっている!!」
セシリア「ジェームズも最初はそう言っておったが、三日でクリアしたぞ? 岩を斬るのには五日かかったがな」
ハイドン「(ジェームズ……! お前、そんな次元まで堕ちていたのか……!)」
ジェームズ「フッ……。生きるためには、クリアしていくしかないんですよ、ハイドン様……」
セシリア「ちなみに、あのへっぽこエレンでも両方二日でクリアしたのだ。ハイドンもやればできるはずだぞ? ……ね? 応援してるから、頑張れ!!(上目遣いで、瞳をうるうるさせながら『エイエイオー!』のポーズ)」
ハイドン「(……。……可愛い。……いや、可愛すぎるがゆえに、この暴力的な要求とのギャップで精神が崩壊しそうだ……!)」
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#### 宴会テーブルB:カレンの「氷点下ティータイム」
カレン「フフフ……ブキャナンさんとお話していると、本当に楽しいわ。会話がすごく弾むわね。ねえ、今度私とお茶でもどう? ……で。帝国の機密についてだけど……(微笑)」
ブキャナン「……。……お、お茶、ですか」
カレン「あら? 嫌なのかしら? 私の淹れるお茶は、自白剤……じゃなくて、アロマの効果が凄いのよ?」
ブキャナン「ひっ!? い、嫌ではないですよ!! 喜んで! 喜んで機密も全部吐き出……お茶をいただきます!!」
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#### 宴会テーブルC:リノの「擬似安全地帯」
リノ「ウフフ、どのテーブルも会話が弾んで盛り上がっていますねぇ。エレンさん、他のテーブルに行きたくなったら、いつでも行っていいんですよぉ?」
エレン「あわわわ! わたし、ここがいいですっ! ここだけが唯一の安全地帯なんですから!」
リノ「ウフフ。ありがとうございます……(不敵な笑み)」
マキ(エレンよ……。この部屋に安全地帯など存在せんと、なぜ学ばない。下手したら、お前も今からこの変態魔道士の『実験台(変態的)』にされるぞ。……リノ! そのニヤケ顔をやめろ!)
リノの思念(マキ様ぁ。エレンさんの魔力を開花させた後は、マキ様に『猫耳帽子』を被せて撮影会ですよぉ〜!)
マキ(貴様ぁぁぁ!! 誰か、誰かこの変態を止めてくれ!! ハイドン! モーニングスター三つになってもいいから、私をここから救い出せ!!)
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今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。
個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。
今後とも何卒長くお付き合いくださる事と、もし気に入られられたらブックマークして頂けると嬉しいです。




