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第42話:誰にも縛られたくないと

第42話「誰にも縛られたくないと」



配属二日目。王都ロザーリアの各師団では、昨日に引き続き「王国流」の洗礼が吹き荒れていた。


---


#### ハナの隠密師団:武家屋敷


ジェームズ「……やった! できたぞ!!」


ガリクソン「よし! やればできるんだ!!」


二人は手を取り合い、感涙にむせんでいた。数千枚のポテトチップスを犠牲にし、ついに「咀嚼音ゼロ」の境地に達したのだ。


ハナ「二人とも、やっと音を立てずにポテチを食べられるようになったね。……じゃあ、次はマドレーヌ作りを基礎から教えるよ」


ガリクソン&ジェームズ「……は? マドレーヌ?」


ハナ「隠密はね、潜入先で『美味しいお菓子』を焼いて警戒心を解くのも仕事のうちだから。……あ、卵の殻が入ったら即・腹切りね」


---


#### フルーレの剣士師団:道場


シュパパパパッ! と、二本の包丁を小刻みに動かすカムストックとサンチェス。彼らの前には、山のような「玉ねぎ」が鎮座していた。


フルーレ「キャベツはクリアできたけど、他のはまだまだっすね……」


右手にはレモンだれ、左手には味ポンを構え、フルーレが退屈そうに欠伸をする。


カムストック「フルーレ様……目が、目が痛いです……」


サンチェス「玉ねぎの微塵切りは……まだハードルが高すぎですよ……(涙が止まらない)」


フルーレ「……泣く暇があったら手を動かす。涙で味がボケるっすよ」


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#### カレンの執務室


カレン「ブキャナンさんも頑張っているから、少しぐらいはサービスしておこうかしらね……」


昭和のギャグ漫画ばりの書類の山を、超高速で(魂を削りながら)処理するブキャナン。そこへ、カレンの秘書が静かに歩み寄った。


秘書「カレン様より伝言です。『今日は定時で帰ってもよい』とのことです」


ブキャナン「……や、やったぁぁぁ!!」


ブキャナンは、生まれて初めて「定時退勤」という言葉の輝きを知った。


---


#### 騎士団本庁:正門前


17時ちょうど。フラフラになりながら門をくぐったブキャナンを、一人の少女が待ち構えていた。

銀髪を後ろで束ねた、愛くるしい童顔の女の子。


「お久しぶり! ブキャナンさん、お元気してた?」


ブキャナン「カ、カリンちゃん!? どうしてここに!? ……というか、その新人の隊服……君、騎士団に入ったの!? どこ所属!?」


カリン「えへへ、セシリア様の直轄ですよっ!」


ブキャナン「……。……そうなんだ(よりによって、あの狂犬の直下か……。恐ろしすぎて遊びに行けないじゃないか……)」


カリン「ブキャナンさん、またお茶行きましょうよー!」


ブキャナン「……! うん、行こう行こう! 美味しいコーヒーの店、見つけたんだよ!」


カリン「やったー! いえ〜い! ねぇねえ、帝国のお友達とは連絡とれた? とれた?」


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#### 魔道研究所:リノの居室


魔道探知でその光景を眺めていたマキは、深いため息をついた。


マキ(カレンよ……。お前は本当に恐ろしい奴だな。……ブキャナン、めちゃくちゃ喜んでいるじゃないか。かわいそうに)


リノ「うふふ、マキ様。カレン様の『福利厚生』は完璧ですねぇ。あんなに可愛いカリンちゃんをエサに……あ、いえ、ご褒美に用意するなんて」


マキ(……違うぞ、リノ。あれは『餌』ではない。『鎖』だ。 あの喜びがあるからこそ、ブキャナンは明日、今日の倍の書類の山を見ても逃げ出さなくなる……。カレンの掌の上で踊らされているとも知らずにな……)


リノ「でもマキ様、ブキャナン様も幸せそうですし、ウィンウィンじゃないですか? さあ、私たちもカレン様が買ってきたクレープを食べましょうね。はい、あーん♪」


マキ(……。……む。……(パクッ)。……美味しいのが、また腹立たしいな……)


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王都の喧騒から少し離れた、セシリア専用の特訓場。そこでは今日も、物理法則と生存本能が真っ向から衝突していた。


---


#### セシリアの特訓場


**ドォォォォン!!**

地響きと共に、巨大な岩がハイドンの至近距離に突き刺さる。


セシリア「ハイドンよ! 斬れるようにはなったが、まだ顔が逃げておるぞ! 敵を、岩を、運命を凝視しろと言っただろう!」


セシリアは、大人が数人がかりで動かすような巨岩を、まるでバスケットボールのチェストパスのように軽々と投げつけながら怒鳴り散らす。


ハイドン「ゼェ……ハァ……! 無茶だ、こんな特訓……死人が出るぞ……ッ!」


セシリア「むっ……弱音を吐くな! やっているうちに出来るようになるもんだ。数をこなせば、身体が勝手に『慣れる』!」


ハイドン「慣れる前に、魂が肉体を脱ぎ捨てて天に還ってしまうわ……!」


セシリア「ふん、情けない奴め。……おいエレン! お手本を見せてやれ。いくぞ!」


セシリアが、先ほどよりもさらに巨大な岩を、弾丸のような速度でエレンめがけてぶん投げた。


エレン「きゃ、きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


悲鳴を上げ、涙目で腰が引けながらも、エレンの身体は神速で反応する。


**――シュパァァァン!!**


抜刀の軌跡さえ見えぬほど鮮やかな太刀筋。巨大な岩は、定規で引いたかのように美しく真っ二つに両断された。


セシリア「見たかハイドン。このように、無心で(あるいは絶叫しながら)やるのだ」


ハイドン「(あわわわわわ……あの子、怯えながらあんな真似を……バケモノか……!?)」


シルフィ「……ハイドンさん。私、暇なんですけど? まだ一人も治療してません。大怪我しても、四肢が消えかけても私がすぐ治しますから。早く投げてもらってください‥‥ウフフ」


ハイドン「(シルフィ、あなたまで……! 聖女の皮を被ったサディストなのか……!)」


セシリア「む。時計を見れば、もうそろそろジェームズとの『ジョギング・デート』の時間だな。エレン、お前も今日も来るがいい。身体をほぐすぞ」


エレン「ひぃぃっ! またですかぁぁ!? 両手両足に50kgずつの重りをつけて、フルマラソン(42.195km)を一時間で完走しなきゃいけないなんて……もうイヤですよぉぉ〜〜!」


ハイドン「(……一時間でフルマラソン? それはもう、ジョギングではなく音速の壁との戦いではないか……?)」


---


#### 魔道研究所:リノの居室


魔道探知で、地獄のロードワークへ旅立つ一団を見送ったマキは、頬杖をつきながら呟いた。


マキ(……ハイドンよ。同情はするが、今のあいつに目を付けられた以上、強くなるしか生き残る術はなさそうだぞ。……しかし、エレン。あの岩の斬り方……。無意識に魔力を剣速に変換しているな。やはりとんでもない逸材だ)


リノ「うふふ、マキ様。エレンさんの悲鳴、だんだん音程が安定してきましたね。肺活量も上がってまちゅよ」


マキ(……あいつ、そのうち悲鳴だけで敵を気絶させるようになるんじゃないか? ……にしてもセシリア。ジェームズを『デート』と称して引きずり回すのは、あいつなりの信頼の証なのだろうが……。ジェームズの足の骨が、明日までにもつかどうかだな)


リノ「大丈夫ですよ、マキ様。シルフィ様が『治しては走らせ、治しては走らせる』って張り切ってまちたから☆」


マキ(……。……やはり、この国の女騎士たちは、どいつもこいつも『加減』という文字を知らんな……)


マキは、リノに差し出されたイチゴたっぷりのクレープを一口食べ、遠い目をして「明日への受難」に想いを馳せるのだった。


---


翌日、王都ロザーリアの空気は朝から妙に浮ついていた。


それもそのはず、騎士団幹部たちが血眼で準備を進めていた例の行事が、ついに開催されるからである。


タイトル:「マキ様はじめてのいくさ祝勝会・ひとりでできるもん・リノおかあさんといっしょパーティ」


マキ(……タイトルを聞くだけで、魔力が逆流して脳漿が沸騰しそうだ。誰だ、この悪趣味なネーミングを承認したのは。カレンか? セシリアか? それともリノか……)


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#### 王都・スーパー銭湯「王宮湯」


準備が整うまでの間、主役とその保護者(?)たちは、恒例の銭湯で待機していた。


レイラ&サマンサ「あの……セシリア様……。私たち、そろそろ湯あたりで意識が……帰ってもいいでしょうか……?」


二人の副師団長は、茹で上がったカニのような色で、今にも沈みそうに訴える。


セシリア「ダメに決まっているだろう! 肩までちゃんと浸かって、新しく考案した『マキ様万歳音頭』を百まで数えながら歌うのだ。声が小さいぞ!」


マキ(お前たち……。本当にかわいそうな奴らだな。あとで私が、秘密裏に特別休暇の書面を捏造してやるから、今は耐えろ……)


---


#### 魔道研究所・リノの特設会場(居室)


ボロボロになったレイラとサマンサを見送った一行が部屋に入ると、そこはもはや「国家機密施設」の面影など微塵もない、極彩色の空間が広がっていた。


前回を上回るお遊戯会のような飾り付け。壁には「祝・マキ様大勝利!」と、おそらくハナが徹夜で刺繍したであろう垂れ幕が踊っている。


マキ(……前回も思ったが、こいつら、力を入れる方向を完全に間違っておるぞ。この熱量を軍備に回せば、今頃大陸の半分は平定できているはずだ)


リノの思念(いいじゃないですか。皆さん、マキ様のことが大好きなんですよ。愛ですよ、愛☆)


マキ(……ふん。それはいいが……。……リノ。こいつら、今までこんなに仲が良かったか? 以前はもっと、こう……互いを牽制し合い、隙あらば首を獲るような殺気があったはずだが……)


シルフィ「さあ! 主役のマキ様も揃いましたので、始めたいと思います。セシリア様、乾杯の音頭をお願いします!」


セシリア「えー、コホン! 今回のマキ様のはじめてのいくさ、圧倒的な、それはもう圧倒的な勝利を祝して――乾杯!!!」


一同「「「いえ〜い!!! 乾杯!!!」」」


マキ(圧倒的勝利か……。確かに、今までこれほど犠牲を出さず、かつ迅速に圧勝したことなど一度もなかった。しかも、私が戦力から外れているというのに。……何かが違う。私の知らない間に、こいつらの歯車が……むぐうっ!?)


感傷に浸るマキの口に、突如として銀のスプーンが突っ込まれた。


カレン「は〜いマキ様ぁ、おいちいでちゅかぁ〜? お野菜も入ってまちゅよぉ。じょうずにもぐもぐちてくだちゃいねぇ〜? うふふ、いい子でちゅねぇ〜……」


マキ(……お前は多重人格者かっ!? 昼間の冷徹な軍師はどこへ行った!! 吐け! さっさと元のカレンを吐き出せ!!)


マキの必死の抗議もぐもぐをよそに、パーティはかつてないほどの熱狂と共に幕を開けた。


---


カレンの「あーん」攻撃を受け流しながら(完食しつつ)、マキは周囲の様子を観察していた。


セシリア「ハハハ! ハナ、この肉うまいな! さすが『隠密おやつ師団』の団長だ!」


ハナ「……おやつ師団じゃない。諜報師団。でも、マキ様のために隠し味にいろいろ入れたから、元気が出るよ」


フルーレ「シルフィ様、お酒……じゃなくて特製ジュースのおかわり。……あと、キャベツの千切りが足りないっす」


シルフィ「はいはい、フルーレさんは本当にキャベツが好きですね。はい、聖女特製ビタミンたっぷりジュースですよ〜」


マキ(……平和だ。吐き気がするほど平和だ。だが……嫌いではないのが、自分でも腹立たしい。かつての私なら、今頃は次の遠征の地図を睨んでいたはずなのに……)


リノ「マキ様ぁ、お顔が緩んでまちゅよ? 嬉しいんでちゅねぇ〜。あ、今の表情、高画質で記憶に保存しました☆」


マキ(……? 今、何か不穏な気配が……リノ、お前今、何を……)


セシリア「よーし! 一次会はこれぐらいにして! 私はこれから、新入りのハイドンたちの部屋へ激励(襲撃)に行ってくるぞ!!」


カレン「あら、いいわね。私もブキャナンさんの様子を見に行こうかしら。まだ泣きながら書類やってるかもしれないし」


マキ(**……やめろ! 奴らを、ハイドンたちをこれ以上追い詰めるな! 奴らの精神崩壊(MP切れ)は、私の監督責任になるのだぞ!!**)


---


### 二次会会場:ハイドンの部屋(前夜祭……ならぬ前・お通夜)


その頃、騎士団寮の一角にあるハイドンの部屋では、男たちが静かに震えていた。


ジェームズ「……ハイドン様。明日、生きてますかね、僕たち」


ハイドン「……。……答えを求めるな、ジェームズ。今はこの静寂(癒やし)を噛み締めよう……」


エレン「……。……(部屋の隅で、ガタガタ震えながら岩を斬るイメトレ中)」


彼らの背後に、魔王(セシリア&カレン)の影が忍び寄る――。

今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。

個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。

今後とも何卒長くお付き合いくださる事と、もし気に入られられたらブックマークして頂けると嬉しいです。

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