第41話:この支配からの卒業
第41話「この支配からの卒業」
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### 王都ロザーリア・スーパー銭湯「王宮の湯」
湯気に包まれた女湯の一角。そこには、この世の終わりを絵に描いたような顔で湯船に浸かる二人の副師団長の姿があった。
レイラ「……サマンサ。私たち、前世でどんな大罪を犯したのかしら」
サマンサ「……分からないわ。でも、リノ様に会いに行っただけなのに、なぜ今、セシリア様の『交互浴・限界突破コース』に付き合わされているの……」
そこへ、仁王立ちで現れた金髪の暴君とフルーレとハナ。
**セシリア「お前たち! 肩まで浸かって百数えろと言っただろう! 99の次は1に戻るのが我が騎士団の鉄則だぞ!」**
レイラ&サマンサ「ひいいいいっ!!(逆戻り!?)」
セシリアは楽しそうに笑いながら、二人を熱湯と水風呂の往復へと誘う。その傍らでは、リノがマキを抱えながら、優雅に「ベビー・スイミング」の真似事をしていた。
リノ「ほーら、マキ様。レイラさんたちが茹でダコみたいになってますね。面白いお顔ですねー」
マキ(……笑えん。あいつら、明日には間違いなく『ふやけた魔道士』として使い物にならなくなるぞ。というかセシリア、お前は銭湯を訓練場と勘違いするな!)
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### 翌朝・魔道研究所 訓練場
朝日が昇ると同時に、ハイドンは絶望の朝を迎えた。
セシリア「おはよう、ハイドン! 親衛隊長としての初仕事だ。まずは私の『モーニング・スター(鉄球)』を素手でキャッチする特訓から始めるぞ!」
ハイドン「……正気か!? それは護衛ではなく、もはや暗殺の類ではないか!?」
セシリア「何を言う! 私を守る盾が、鉄球一つ止められなくてどうする! さあ、いくぞ!!」
ブンッ!と空気を切り裂く音。
ハイドンが死を覚悟したその時、横から鋭い風が吹き抜けた。
エレン「セ、セシリア様……! それは、その、危なすぎますぅぅ!!」
エレンが反射的に(そして腰が引けながら)放った木剣の一振りが、セシリアの鉄球の軌道を数センチだけ逸らした。
セシリア「……ほう?」
ハイドン「……え、エレンさん……?」
セシリアは一瞬だけ、その鋭い瞳に怪しい光を宿してニヤリと笑ったが、すぐにいつもの「狂犬モード」に戻った。
セシリア「いいぞエレン! お前も混ぜてやろう! 二人で私のモーニング・スターを止めてみせろ!」
エレン「いやぁぁぁぁ! 止めたくないですぅぅぅ!!」
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### 研究所・特設監察室
マキ(……今のは。エレン、無意識にセシリアの攻撃の『核』を見抜いて弾きおったな。やはりあの子は……)
リノ「……ふふ。マキ様、見ました? 今のエレンさんの身のこなし。ただの剣術だけじゃありません。無意識に魔力を足に溜めて加速してますね。私の研究所に入れたのは正解でした……たっぷり『可愛がって』あげられそうです」
マキ(リノ……お前のその顔は、セシリアの暴力より何倍も質が悪いぞ。エレンよ、お前が救世主になるか、それともこの二人の玩具になるか……私は静かに見守らせてもらうぞ)
リノ「あ、マキ様、今また『団長面』してましたね? はい、わたしのオッパイおしゃぶりでちゅよー」
マキ(フゴッ!? ……おのれ、いつか元の姿に戻ったら貴様をブートキャンプに叩き込んでやる……!!)
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### 王都ロザーリア・各師団配属初日
王都に帰還した元帝国軍の面々を待っていたのは、歓迎の宴ではなく、想像を絶する「実務(地獄)」の洗礼だった。
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#### カレンの執務室:事務処理の要塞
カレン「ブキャナンさん、この書類、早急に終わらせておいてね。早急によ? 分かったわね?」
ブキャナンのデスクには、もはや物理法則を無視したレベルで積み上がった、昭和のギャグ漫画ばりの「書類の山」が5つ。視界を遮るほどの絶望である。
ブキャナン「うわっ! 何ですかこれ!? 嫌がらせですか? こんなの無理っしょ!?」
カレン「つべこべ言わずにやる! やらなきゃいけないことはやる! とにかくやる! 分かった!?」
ブキャナン「その、理不尽な精神論のノリは、今のご時世では完全にアウトですよぉ〜!?」
文句を言いながらも、ブキャナンのペンが超高速で動き始める。カレンはその背中を眺めながら、不敵な笑みを浮かべた。
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#### ハナの諜報師団:武家屋敷風練習場
ガリクソンとジェームズは、目の前の光景に語彙を失っていた。
そこにあるのは、うず高く積まれた「ポテトチップス・コンソメスープパンチ」の山。
そしてその横では、屈強な構成員たちが、ポテチの付録の「騎士団トレーディングカード」の袋とじを、一心不乱に破り続けている。
「くそっ、またキラキラ(SR)じゃなかった……」
「また『セシリア様・狂犬モード』カードかよ。これダブり10枚目だぜ……」
ガリクソン「……この光景は一体……」
ジェームズ「(呪文のように)ツッコミを入れたら負けだ、ツッコミを入れたら負けだ……」
そこへ、天井から音もなくハナの側近(忍者)が降臨する。
側近「御当主様からの伝達です。『このポテトチップスを、音を立てずに食べられるようになれ』とのことです」
ガリクソン&ジェームズ「そんなこと出来るかぁぁぁ!!!!!」
ハナ「……練習すれば、できるようになるよ」
「サクッ」という微かな音さえさせず、背後でいつの間にかポテチを咀嚼しているハナ。
ハナ「これ、隠密行動中の唯一の楽しみだから。音がしたら、即・追放ね」
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#### フルーレの剣士師団:剣術道場
こちらでは、元帝国軍の武闘派二人が、なぜか両手に包丁を握らされていた。
カムストック&サンチェス「……だから、なぜキャベツなんですか!!」
目の前のテーブルには、キャベツの山。
フルーレ「……まだっすか? お腹空いたんすけど」
右手にはゴマドレッシング、左手にはキャベツのタレを構えたフルーレが、面倒そうに呟く。
カムストック「これでも目一杯ですよ! 剣より重いですよこの包丁!!」
フルーレ「……しょうがないっすね。わたしがやるから、ちゃんと見ててくださいよ」
次の瞬間、銀光が閃いた。
シュパパパパパッ!! という爆音に近い刻み音と共に、キャベツが細胞レベルで分解され、極上の千切りへと変わっていく。
二人が、フルーレの異名「微塵切りのフルーレ」の本当の由来(台所事情)を知った瞬間であった。
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#### 再び、カレンの執務室
カレン「ふぅ、やっと会議が終わったわ。ブキャナンさん、進捗はどう?」
ブキャナン「……17時までに終わらせられませんでした。あと1時間の残業で片付けます。……というか、そもそも人間がやる量じゃないっしょ、これ」
ブキャナンは肩を回しながら、それでも平然と最後の束に手をつけている。
カレン(フフフ……私の優秀な秘書官が「10日」かかる仕事量を渡したはずなのに、初日でここまで終わらせるなんて……。思った以上の逸材ね、ブキャナン。もっと、もっと『可愛がって』あげるわ……ウフフ)
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#### リノの研究所・特設モニター室
マキ(カレンよ……。お前、ブキャナンを過労死させる気か? そしてハナ、ポテチの食べ方で選別するな。フルーレは、部下を『調理器具』としか思っていないのか……。……お前たち、私の教えをどこで間違えたのだ?)
リノ「うふふ、マキ様。みんな各々の『色』が出てて良い傾向ですねぇ。……あ、マキ様。今夜はみんなで、フルーレ様が刻んだ『山盛りキャベツ』を食べにいきましょうね。マキ様には、特製の『キャベツお粥』を作ってあげますからね」
マキ(……私は、あいつらが震えながら刻んだ恨みのこもったキャベツなど、喉を通らんわ!!)
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王都ロザーリアの朝。魔道研究所の各部屋からは、昨日配属されたばかりの元帝国軍たちの「悲鳴」が漏れ聞こえていた。
#### ハイドンの部屋
ハイドン「……う、動けん。腕が……腕が上がらぬ……。あの狂犬、本当にモーニングスターを全力で振り回しおって……」
昨日の特訓で全身バキバキのハイドン。そこへ、元気すぎる足音が近づいてくる。
セシリア「ハイドン! 朝だぞ! 今日は『飛んでくる岩を素手で砕く特訓』からスタートだ! 早く来い!」
ハイドン「……誰か、私をゼッターランドの静かな森に帰してくれ……」
#### カレンの執務室(早朝)
ブキャナン「……終わった。終わらせましたよ、カレン殿……。10日分の書類、徹夜で仕分け完了です……(真っ白に燃え尽きている)」
カレン「あら、お疲れ様ブキャナンさん。さすが元参謀ね。じゃあ、これは『午前の部』の資料だから、お昼までに目を通しておいてちょうだい。……あ、コーヒーのおかわり、いる?」
ブキャナン「……死神の淹れたコーヒーなんて、怖くて飲めませんよ……(と言いつつ、差し出されたカップを震える手で取る)」
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### リノの居室
マキ(……騒がしい朝だな。だが、かつての私なら、この時間は一人で黙々と剣を振っていたはずだ)
リノ「マキ様ぁ、おはようございます。今日はカレン様たちが美味しいクレープをお土産に買ってくるそうですよ? 楽しみでちゅねぇ」
マキ(……クレープか。かつての私が聞けば鼻で笑っただろうが……。……リノ、私の分は多めにイチゴを入れておくよう、念話で伝えておけ)
リノ「うふふ、了解です☆」
マキ(……まったく。私はいつから、こんなに甘いものに目がなくなったのだか……)
最強の騎士団長は、自分でも気づかないうちに、凍りついていた心の氷解を楽しんでいた。
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今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。
個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。
今後とも何卒長くお付き合いくださる事と、もし気に入られられたらブックマークして頂けると嬉しいです。




