第40話:英雄の苦悩
第40話「英雄の苦悩」
### アレクサンド王国・王都ロザーリア
「セシリア様!」「カレン様!」「騎士団万歳!」
王都の目抜き通りは、凱旋する軍勢を一目見ようとする市民で溢れかえっていた。出陣時よりも二万人近く膨れ上がった軍勢は圧巻の一言だが、その大半が「投降した元帝国兵」であることを知る者は少ない。
衛兵「セシリア様、お疲れのところ恐縮ですが、国王陛下と大臣様方が謁見の間でお待ちしております」
セシリア「ふん、あのせっかち国王め。少しは土産を整理する休憩時間くらいくれても良かろうに。……まあよい、了解した。『手短に頼む』と、そのまま伝えておけ」
衛兵「……いや、さすがにそのまんまは伝えられませんって……」
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### ロザーリア城・謁見の間
ラーズ国王「おお、よくぞ無事に帰ってきた! 正直、一ヶ月はかかると思っていたが、まさか数日でこれほどの結果を持って帰ってくるとはな」
ラーズ国王は玉座から身を乗り出し、親友でもある騎士団幹部たちを労った。
セシリア「国王よ、手短にという話だったな。これで終わりでいいか? 私はこれから荷解きがあるのだ」
カレン「そんな訳あるか!!」
**ゴン!!**
カレンのヒールが、王の前だというのに容赦なくセシリアの脛にクリティカルヒットした。
国王「……ははは。少し、もう少しだけ喋ってもいいか?」
セシリア「チッ……。仕方ないな、三行以内で頼むぞ」
国王「実はな、先刻タリム王国から『同盟の取り消し』が正式に申し込まれてきたのだ」
セシリア「……ほう。あの赤字国王め、恩を仇で返すつもりか。何を考えておる」
国王「いや、逆だ。同盟ではなく『我が国の一部になりたい』……もしくは『完全に従属国になりたい』と泣きついてきておるのだ」
カレン「……陛下、アレクサンド王国は建国以来、西側諸国最大の大国でありながら占領は一切行わず、対等な同盟を貫くのが方針のはずですが」
国王「そうなのだがな……タリム側が、アレクサンド王国になら、というか『貴国になら占領されても、従属国になっても構わない。いや、ぜひそうしてくれ』と熱烈なラブコールを送ってきていてな」
セシリア「やめといた方がいいぞ、国王。どうせ経営難だから、うちの国にM&A(合併)されれば借金もチャラになって、お金に困らなくなる……とかいう魂胆に決まっておる。奴らは葬式まんじゅうの売り上げくらいしか資金源がないのだ」
国王「……セシリア、お前は本当に気づいていないのか? 奴らはな、『セシリア様の傘下(直轄領)に入りたい』と言っておるのだぞ?」
カレン「はあああぁぁぁ!?!?」
セシリア「……嫌に決まっているだろう。なぜ私が一国の面倒など見ねばならんのだ。ペナントを集める時間がなくなるだけではないか」
大臣ズ「「「マズいぞ!」「どうするのだ!」「国家単位のファンクラブじゃないか!」」」
カレン「(……ちょっと待ちなさいよ、タリムが属国になれば、あそこの徴税権も管理権も全部うちが握るってこと? それって……私の仕事が大陸規模に増えるってことじゃないのよ!!)」
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### リノの研究所・居住区(先行入居中)
ハイドンたちが「マキのいる研究所へ荷物を運び入れていると、王宮の騒ぎが魔法通信で伝わってきた。
マキ(セシリア……。お前、ついに「救国の英雄」を通り越して「宗教的指導者」に認定されたか。一国を丸ごと自分のファンにしてしまうとは、ある意味私以上のバケモンだな……)
リノ「うふふ、マキ様。セシリア様がタリム王国のオーナーになったら、向こうの特産品は全部『セシリア様ペナント』になっちゃいますね。……でも、マキ様は私が独占しますからね?」
マキ(……タリム国王よ。お前たちが望んでいる「女神」は、中身はただの『土産物マニアの狂犬』だぞ。早く目を覚ませ!!)
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thought
### 魔道研究所・屋内練習場
タリム王国の「セシリア様教」への熱烈なラブコール(合併申請)は、セシリア本人の「ペナント集めをする時間がなくなる」という斜め上の理由での全力拒否により、ラーズ王から正式にお断りの返信が入れられた。
そして、運命の配属発表。
カレンが作成した「効率的かつ、逃げ場のない配置図」に基づき、元帝国幹部たちの新たな所属が決まった。
ハイドンはセシリア直轄、ブキャナンは軍師直轄。諜報コンビ(ガリクソン・ジェームズ)はハナの諜報師団、剣士コンビ(カムストック・サンチェス)はフルーレの剣士師団へ。
そんな地獄のような(あるいは賑やかな)配属先を知る由もなく、彼らはエレンと共に練習所で組手に励んでいた。
カムストック「……おい、エレンちゃん。君、剣術の腕かなり良くないか?」
サンチェス「今年の春にアカデミーを出たばかりの新人だよな? 成績トップクラスだったんだろ?」
エレン「え、いえ、そんな……。いつも剣術は最下位争いで、何回も補習を受けてましたよ‥‥」
ハイドン「……いや、無駄のない動きだ。基礎がしっかりしている。実戦でさらに伸びるタイプだな。エレンさん、これからも我々と一緒に練習を続けないか?」
エレン「えっ! は、はい、いいのですか!?(ハイドン様たちと練習してればセシリア様から逃げられるかも……!)」
セシリア「お楽しみのところ悪いのだが、邪魔するぞ」
エレン「ひいいっ!?」
一同「**!!!!!**」
背後から漂う圧倒的な強者のオーラ。そこには、いつの間にか練習着に着替えたセシリアが立っていた。
セシリア「ハイドン、正式に決まったぞ。お前は今日からわたしの直轄だ。当面はわたしの『親衛隊長』をやってもらうからな」
ハイドン「な、な、なんだと!? それはもう決定事項なのか!?」
セシリア「当然だ。毎日わたしの組手の相手になってもらうから覚悟しろよ。死ぬなよ?」
ハイドン「い、いやだ!! ていうか親衛隊長って!? 貴殿に護衛なんか必要ないだろうが! 街一つ更地にできる女を誰が守るというのだ!」
セシリア「……む。ハイドン、わたしを護衛するのは、そんなに嫌なのか?」
セシリアはふいにと足を止めると、上目遣いで首をかしげ、人差し指をぷにっと唇にあてて「わたしを守ってポーズ」を繰り出した。
ハイドン「あ、いや……。そ、その……貴殿も一応は、その、女性だからな……。……私が守ってやらんことも、ない。……不本意だが」
セシリア「よし、決まりだな! じゃあ文句ないな?」
目をうるうるさせながら、してやったりと満面の笑みを浮かべるセシリア。
ジェームズ「……やはり、堅物のハイドン様でも、セシリア様のあざといギャップ攻撃には勝てないのか……」
ガリクソン「お前は初手で完敗して、今やただの雑用係だけどな」
ジェームズ「だまれ、元・隊長」
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### 研究所・談話室
一方、その様子をモニタリングしていたマキとリノ。
マキ(ハイドンよ……。お前、今セシリアを『女性』として意識したな? それはな、地獄の入り口にある『歓迎の花束』だということに気づけ。明日からの訓練で、お前の骨は毎日数本は折れるぞ……)
リノ「うふふ、マキ様。ハイドン様もセシリア様の『あざと魔法』にかかっちゃいましたね。あ、そういえばマキ様、さっきの練習を見てたマキ様の目が、一瞬だけ『先生』の目に戻ってましたよ? エレンさんの筋が良いって気づいたんでしょう?」
マキ(……バレたか。エレンは確かに伸びる。あの子を私の代わりにセシリアの相手ができるレベルまで育て上げれば、私の平穏な乳児生活が守られるというものだ……!)
リノ「残念ですが、そうはいきませんよぉ。マキ様は私が責任を持って、世界一えっちであざと可愛い女の子に育てますからね! さ、おむつ替えの時間ですよ〜」
マキ(**やめろ!! 最強の騎士団長にそれを教え込むのは、セシリアの特訓より過酷だぞ!!!**)
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### 魔道研究所・正門守衛室
国家機密の塊であるこの施設は、例え騎士団員であっても幹部クラスの許可がなければ一歩も足を踏み入れることはできない。
リノがマキを抱っこして守衛室へ向かうと、そこには魔道師団の副師団長、レイラとサマンサがソワソワしながら待っていた。
レイラ「リノ様! おかえりなさいませ! ご無事で何よりです!!」
サマンサ「リノ様のご活躍、騎士団中に広まっていますよ! 無血開城の立役者、『慈愛の魔道士』として有名です!」
リノ「レイラさん、サマンサさん。わざわざ来てくれたんですか、ありがとうございます。中でお茶でもと言いたいのですが、国家の決まり事で……本当にすみません」
レイラ&サマンサ「いえいえ! そんなこと気にしないでください! リノ様のお元気なお顔を拝見できただけでも、私たちは幸せですから!」
二人の目はキラキラと輝き、心底リノを敬愛しているのが伝わってくる。
マキ(こいつらは本当に良い部下だな。心からリノを慕っておる。しかし、その慕っている相手が王国一の「変態魔道士」だというのが、また不憫でならんのだが……)
リノの思念(マキ様、心の声が漏れてまちゅよ。はい、今夜のおむつ替えは「超低反発・特製おむつ」の実験台にお仕置き確定でーす☆)
マキ(ぎゃああ! 思考を読むなと言っておろうが!!)
レイラ&サマンサ「それでは、私たちはこれで失礼いたします!」
清々しい笑顔で守衛室のドアを開け、帰路につこうとした二人。しかし、そこに立っていた「絶望」によって、彼女たちの世界は一瞬で暗転した。
セシリア「……お前ら。わざわざここまで来たということは、今晩もスーパー銭湯に行きたいのだな? 本当に可愛い奴らだ。よし決まりだ、銭湯に来るのだぞ? 絶対だぞ? フフフ……」
首をかしげ、可愛らしく「おいでおいでポーズ」を決めながら、満面の笑みを浮かべるセシリア。
レイラ&サマンサ「うぎゃああぁぁぁぁ!? セ、セシリア様ぁぁ!!??」
二人の悲鳴が王都の空に虚しく響き渡った。
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### 魔道研究所・武道練習場
一方、練習場では明日に迫った「配属初日」を前に、重苦しい空気が漂っていた。
ジェームズ「ハイドン様……心中お察しいたします……。明日からセシリア様とのマンツーマン組手……死なない程度に、頑張ってくださいね……(ニヤリ)」
ハイドン「……ジェームズ。言葉こそ同情しておるが、お前、ニヤけが隠しきれておらぬぞ。口角が上がっておる」
ガリクソン「ジェームズは、ハイドン様の組手時間が増えれば増えるほど、自分がセシリア様に『可愛がられる』時間が削減されるのが嬉しくてたまらないんですよ。最低な奴です」
エレン「……。……なぜ、なぜ私までセシリア様と組手をさせられる羽目に……。私はただの、ただの事務担当の連絡員(と身代わり)だったはずなのに……」
エレンは隅っこで膝を抱え、ガタガタと震えている。
ジェームズ「エレンちゃん、心配しなくて大丈夫だよ。骨の一本や二本、シルフィ様がすぐに治してくれるから。……まぁ、セシリア様の拳がめり込んだ時の『魂が抜けるような痛み』だけは、魔法でも消せないんだけどね……フフフ」
ガリクソン「……ジェームズよ。お前、ついに悪魔に魂を売って、向こう側の住人になったのか……?」
ハイドン「……明日、私の遺体が上がったら、故郷のゼッターランドにほうれん草の種と一緒に埋めてくれ……」
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### リノの居室
マキ(……ハイドンよ。お前が「女性」として意識した報いは、想像以上に早く、そして重くのしかかってきたな。だが安心しろ、お前が再起不能になったら、私がハイハイで駆けつけて……いや、無理だな)
リノ「マキ様ぁ、そんなにニヤニヤして、さてはハイドン様たちの受難を楽しんでまちゅね? 悪い子でちゅねぇ。さあ、今夜はレイラさんたちも来る『セシリア銭湯の会』に、マキ様も『ベビー・スイミング』として強制参加させちゃいましょうか!」
マキ(**お断りだ!! あの狂犬の風呂につき合わされたら、私の繊細な肌がふやける前に精神が崩壊するわ!!!**)
今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。
個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。
今後とも何卒長くお付き合いくださる事と、もし気に入られられたらブックマークして頂けると嬉しいです。




