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第38話:配属先の恐怖

第38話「配属先の恐怖」


### 元帝国幹部宿舎・バー「レジスタンス」


ドルネイの夜風が心地よい時間帯。元帝国幹部の面々とエレンは、数日間の激動を乗り越えた自分たちを労うため、ささやかな打ち上げの席を設けていた。


エレン「そ、それでは! 色々ありましたけど、ささやかに慰労会を開催します。ハイドンさん、乾杯の音頭をお願いします!」


ハイドン「ただいま紹介に預かりましたハイドンと申します。未熟者ながら……さて皆さん、昨今の情勢は景気も徐々に回復しつつありますが、まだまだ物価高の影響、あるいは株価の変動、さらに帝国の軍事債権の暴落が我々の今後の返済計画に及ぼす影響を鑑みるに……」


サンチェス「ハイドン様! 長いです!」


ブキャナン「サンチェス、無礼だぞ! ハイドン様の長話グセは今に始まったことじゃないだろ。……ですよね? ハイドン様?(暗に早くしろという視線)」


カムストック「分かってるけどさ……長いよ。喉カラカラなんだ」


ガリクソン「一言(挨拶)って、こんなに尺を使うもんなのか?」


ジェームズ「まあ、この状況で景気の話ができるのもある意味才能なんだけど……」


エレン「み、皆さん! 確かに長いですがハイドンさんに悪いですよ……ハイドンさん、すみません。でも……長いです。」


ハイドン「………………乾杯。」


ようやくグラスが触れ合い、各々がソファに深く腰を下ろして談笑にふける。


カムストック「アレクサンド王国騎士団とは本当に不思議な世界だよな」


サンチェス「たしかに。捕虜をこんなに自由にさせる国は他にない。食い物も、精進料理以外は美味いしな」


ガリクソン「自由だからといって逃げたりしたら、エレンちゃんがジェームズみたいな目に遭うんだからな。……それは出来ないよな?」


ジェームズ「……その話は今しないでくれ。思い出すだけで骨が軋む……」


ブキャナン「まあ、あの騎士団は俺たちを迎え入れてくれると言ってくれているんだ、理想や思想がかなりしっかりしている。ついて行く価値は十二分にあるぞ。問題は帰還後の配属だ。ハズレさえ引かなければ大丈夫。……例えば、セシリア様直轄とかな」


その言葉を聞いて、セシリア直轄部隊であるエレンはみるみる顔色が悪くなり、ついには泣き出してしまった。


エレン「……う、ううっ……くすん」


ハイドン「ブキャナンなんてこと言うんだ!? エレンさん、大丈夫だから!! セシリア殿直轄も決して悪い事ばかりじゃないはずだ。女版ジャイアンみたいに見えて意外と優しいかもしれないし、文武両道を極められるかもしれないぞ?」


エレン「……そうですか……ね……くすん……(絶対嘘だ……)」


ハイドン「そ、そうに決まってる! セシリア殿の下も、慣れれば悪くないはずだ!!」


セシリア「そうかハイドン、お前はわたしの直轄に配属されたいのだな?」


一同「!!!!!!!!」


いつの間にか入り口に立っていた金髪の暴風雨。セシリアは満足げに頷くと、


セシリア「明日カレンに話してみるぞ!!」


両手を合わせて顔の横に添える、渾身の「うれちいポーズ」のおまけ付きだ。


ジェームズ「セ、セシリアさん……どうしてここが……?」


セシリア「ホテルに聞いたら皆出掛けたと聞いてな。魔道探知で探したら、ここからお前らの気配と、随分と賑やかな声が聞こえたから来たのだ」


ブキャナン「……魔道探知使えるんですね。というか、いつから聞いてたんです……?」


セシリア「ふん、失礼な。わたしはこう見えても一応マキ様の一番弟子だぞ? 魔道探知くらい使えるに決まってるだろ。物理だけだと思ったら大間違いだぞ!」


ジェームズ「……で、いつから聞いてたんですか?」


セシリア「ん? 結構前からだぞ? ハイドンの話が長くて、店に入るタイミングを逃したくらいだ」


セシリアは上目遣いで、人差し指を頬に当てる「お仕置きしちゃうぞポーズ」でニッコリと微笑んだ。


一同「………………(終わった……)」


---


### リノの宿舎・マキのゆりかご


マキ(……舐めすぎだ‥‥お前たちは、セシリアが単なるアホだと思ってたのか? 甘い、甘すぎるぞ。あいつは魔法の実力も私や、この変態魔道士に迫るものがあるというのに……。脳筋のフリをして、実はしっかり搦め手も使えるのだ。……性格はアレだがな)


リノ「『変態魔道士』ですかぁ……。マキ様、最初の頃、セシリア様に育児権を取られそうになったのを、私が全力で阻止してあげたのにねぇ。酷い言い草ですよねぇ‥‥そんな口を叩くマキ様は、セシリア・ブートキャンプに入りたいみたいですね? てへっ」


マキ(いやだ!!!!! あれはもう終身刑とか死刑囚に課すレベルの拷問だろ!!!)


リノ「ふふ、じゃあ大人しくわたしと一緒に朝までネンネしましょうね。逃げ出したら、ブートキャンプへ直送ですよ?」


マキ(……この騎士団に安息の地はないのか……!)






### タリム平原・帰還の進軍路


ドルネイの復興と守備をリチャードとドーガンという二人のベテランに託し、王国騎士団と二万の投降兵という巨大な列はアレクサンド王国への帰路についた。


リチャード「カレン様、セシリア様。交代要員が来るまでは、このドルネイ、骨が粉になろうとも死守いたしますぞ!」


ドーガン「セシリア様、どうかご無事で。……ああ、願わくば王都に着くまでにペナントで荷馬車を壊さないようお気をつけください」


セシリア「お前たち、しっかり頼むぞ! 期待しておるからな!」


そうして軍勢は、アレクサンドまでの帰路の中継地点であるタリム王都「タリムシティ」を目指して進軍を開始した。


---


### カレンの移動執務馬車


カレン「あと少しでタリムシティに到着するわ。それまでは狭いかもしれないけど、私の馬車で辛抱してもらうわよ」


セシリア「何が狭い部屋だ! 私の馬車より二回りは広いではないか! 私は一応、今回の作戦の総大将なんだぞ!? なぜ軍師の部屋の方が豪華なのだ!」


カレン「執務室も兼ねているんだから当然でしょ。あんたの『土産物専用倉庫』と化した馬車と一緒にしないでくれる? ……ハイドンさん、あなたたちは適当にくつろいでいていいわよ」


ハイドン&隊長ズ「……は、はい(くつろげるわけがない……)」


豪華なソファの端っこで、帝国軍の猛者たちが借りてきた猫のように小さくなっている。


---


### リノの豪華馬車・個室


一方、リノの部屋では静かな対話が続いていた。


マキ(リノよ、まだ考え事をしているのか?)


リノ「……まあ、そうですね。フルーレ様やハナ様、シルフィ様は外で護衛として働きっぱなしなのに、私だけこうして休んでいていいというのは……」


マキ(あれほどの戦略級魔法を連発したのだ、少しは自分を誇っていい。お前がいなければ、この戦は「死者ゼロ」という奇跡の結果にはならなかったのだぞ?)


リノ「……でも……」


マキ(なんだなんだ、いつもの変態魔道士らしくないぞ。お前がそんなにしおらしいと、こっちの調子まで狂うではないか)


リノ「……。マキ様にまで気を遣わせてしまうなんて、私はまだまだダメダメですね。……そうですね! 私がもっと魔道を追求して強くなれば、誰も危険な目に合わせず、皆さんに気を遣わせることもなくなるんですから!」


マキ(ふふっ。やっといい顔になったではないか。それでこそ我が騎士団の天才魔道士だ)


リノ「……でも、『変態魔道士』はあんまりですよねぇ……? セシリア様はまだマキ様の親権を狙っているみたいですし……どうしましょうかねぇ?」


マキ(ま、待て! セシリアは『一年半後にはマキ様に岩を斬らせるレベルまで育てる』とか言っている、アレな思考の持ち主だぞ!? そんな奴に親権を渡したら、私は物理的に殺される!!)


リノ「それでは、私流にマキ様を育ててあげましょうかねぇ〜。てへっ☆」


マキ(ぎゃあああ! お前はお前で、私をどういう方向に育てたいのだ!?)


---


### 馬車外・護衛任務中


フルーレ「……暇っすね。馬の上で寝てていいっすかね?」


ハナ「さすがに寝ちゃダメだよ。任務はちゃんとやんなきゃ。……もぐもぐ(マドレーヌを食べる音)」


シルフィ「マドレーヌを頬張りながら言うあなたもあなたですがね。……あとフルーレ、寝たら馬から落ちますよ」


エレン(セシリア代役)「……ツッコんだら負け、ツッコんだら負け……」


エレンは遠い目をして、自分に言い聞かせるように呟き続けていた。


---


### タリムシティ・ビジネスホテル「タリム・ステイ」


カレン「いい、今日の18時から国王主催の夕食会よ。ハイドンさんたちも全員参加。エレン、また彼らの宿の手配をお願い。私は先に城へ行って打ち合わせをしてくるわ」


エレン「は、はいっ! ではハイドンさんと、愉快な隊長さんたち、行きましょうか」


ガリクソン「……エレンちゃん、その『愉快な』っていう枕詞、俺たちのプライドがじわじわ削られるから勘弁してよ……」


---


### ホテルロビー・喫茶コーナー


エレン「チェックイン終わりました。こちらが部屋のキーです。タリムシティが初めての方、簡単に観光案内しましょうか?」


ハイドン「いや、エレンさんにはこれ以上手間をかけさせられん。まずは長旅の疲れを癒やすべく、ここの名物である温泉に浸かろうと思う」


ブキャナン「賛成だ。ここの温泉街は西側諸国でも指折りの名湯だからね。心身ともにリフレッシュが必要だ」


---


### タリムシティ大浴場・サウナ


カムストック「……で、サンチェス。お前、帰還後の配属はどこを希望してんだ? やっぱりセシリアさん直轄か?」


サンチェス「んなわけあるか! まだ死にたくない! 消去法でフルーレさんの剣士師団だろうけど……俺、あの人を怒らせてる心当たりがあるんだよな……」


ガリクソン「お前、初対面で何しでかしたんだよ」


サンチェス「いや、聞いてたより若く……っていうか幼く見えたから、ついそれを口にしたら、目が笑ってなかったんだよな」


ブキャナン「そりゃお前が悪い! 女性、特にあの実力者たちに外見の幼さを指摘するのは禁忌タブーだぞ。有り得ない話だ」


ジェームズ「……基本的に、カレン様以外はみんな童顔だからな。特にセシリアさんなんて、戦場での噂と実物が180度違ってて、俺も脳がバグりそうだったし」


ブキャナン「アハハ、まあ俺はそんなヘマはしないさ。じゃあ、俺は先に上がるよ。少しロビーで涼んでくる」


---


### 温泉ロビー


風呂上がりのコーヒー牛乳を飲み干し、ブキャナンが優雅に寛いでいると、ロビーの隅で四つん這いになって何かを探している女性を見かけた。


「困っている女性がいれば助ける」が信条のブキャナンは、迷わず声をかける。


ブキャナン「お嬢さん、何かお探しですか?」


「あ……コンタクトを落としてしまって……」


ブキャナン「それは大変だ。お手伝いしますよ」


10分後。


ブキャナン「あった! これじゃないですか?」


「ありがとうございます! 眼鏡もどこかに落としちゃったみたいで……予備もなくて、メイクすらまともに出来なくて困っていたんです。さっそく洗浄して装着……あ、やっと見える。……って、あれ、あんた……」


ブキャナン「お嬢さん、礼など不要ですよ。当然のことをしたまでです。まあ、こうして知り合えたのも何かの縁。お茶でもご一緒しませんか?」


「…………いいですけど…………」


ブキャナン「私はブキャナンと申します。では、良い店を探しに行きましょう! あ、お嬢さんのお名前は?」


「……**カリン**と申します……」


ブキャナン「カリンさんか、良い名前だ! 銀髪の可愛らしいお顔ともイメージぴったりですよ。そういえば、よく似た名前で凄く怖い軍師がいるんですがね。奇遇にもその人も銀髪だ。まあ、今はあんな恐ろしい人のことは思い出さなくていいか! アハハ! じゃあカリンさん、デートを楽しみましょう!」


「……ええ、楽しみですわ。」


カリン(カレンの偽名)の瞳が、温泉の湯気よりも熱く、鋭く据わったのをブキャナンはまだ知らない。


---


### リノの馬車・移動中


マキ(ブキャナンよ……。お前、よりによってコンタクトと眼鏡を外して完全ノーメイク(素顔)状態のカレンをナンパしたのか。しかも本人を前に「怖い人」呼ばわりまでして……)


リノ「あーあ、ブキャナンさん。地雷を踏むどころか、地雷の上でタップダンスを踊っちゃいましたね。カレン様、プライベートを邪魔されるのと、素顔を見られるのを極端に嫌うのに……」


マキ(……あいつ、今日の夕食会のメインディッシュ、自分ブキャナンの首が出てくるんじゃないか?)


リノ「てへっ☆ どんな凄まじいデートになるか楽しみですね、マキ様?」


マキ(**ちっとも楽しみじゃないわ!!!**)


今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。

個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。

今後とも何卒長くお付き合いくださる事と、もし気に入られられたらブックマークして頂けると嬉しいです。

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