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第36話:セシリア・ブートキャンプ

第36話「セシリア・ブートキャンプ」



### ドルネイ繁華街・喫茶店「トワイライト」


宿舎の手配という激務(と心労)を終えたエレンが、ようやく椅子に腰を下ろして深いため息をついた。


ジェームズ「お疲れ、エレンちゃん。いつも振り回されて大変だよな、ありがとうな」


ブキャナン「しかし……いつもこんな流れなのかい? 騎士団も君も、捕虜が逃げることは考えてないのか。現に私たちはこうして大人しくしているけれど」


エレン「だ、大丈夫です……。皆さんのことは信じてますから……。でも、もし皆さんが逃げたりしたら……監視役の私は罰として、『24時間セシリア・ブートキャンプ』に送り込まれることになってるんです……」


**ガタッ!!**

一同が椅子を鳴らして戦慄した。


ハイドン「エレンさん……だったか。に、逃げたりしないから安心してくれ! このハイドン、腐っても武人! 人としての一線、そして『恩人の命』を懸けるような卑劣な真似だけは絶対にしない!!」


エレン「う、ううう……。皆さん本当に良い人ですね……。捕虜なのに、私の心配までしてくれるなんてぇぇ……うわああん(号泣)」


カムストック「おいハイドン様、エレンちゃんを泣かせちゃダメですよ」


サンチェス「あーあ、ハイドン様がエレンちゃんを泣かした。最低だなぁー」


ハイドン「わ、私が悪いのか!? 全力で誠意を見せた結果だろうが!」


ガリクソン「ハイドン様が責任持ってエレンちゃんをなだめてくださいよ」


ブキャナン「そうですよ。年上として、しっかりお話を聞いてあげないと!」


ハイドン「き、貴様ら……。え、エレンさん、泣かないでくれ。話を聞くくらいしかできないが、よかったら……その、胸の内を話してくれないか?」


エレン「……ハイドンさん、お気遣いありがとうございます。最初は、いかつくて、ごつくて、岩みたいなデカい人で、セリフは『フンガー』しか言わない怖いイメージでしたが……こんなに若くて優しくてイケメンな人だとは……ぐすっ」


ブキャナン「アハハ!ハイドン様、そんなにめちゃめちゃイメージ悪かったんですね(笑)」


ハイドン「ブキャナン。貴様は後で必ず殴らせろ」


そこから数刻。すっかり打ち解けたエレンと元帝国幹部たちは、今晩の夕食は何を食べようか、ドルネイのどの店が美味しいかなど、和気あいあいと盛り上がっていた。


「……随分と、楽しそうね?」


その場が凍り付いた。

声がした方向を見ると、そこには騎士団幹部一同が、まるで「本物のお通夜」から帰ってきたかのような、真っ白に燃え尽きた顔で立っていた。


元帝国幹部一同&エレン「ひ、ひ、ひぃぃぃっ!!」


カレン「……まだ3時間ほどあるけど、ドルネイ城主主催の夕食会……あなたたちも全員参加よ。……分かったわね?」


カレンは口角だけを吊り上げてニヤリと笑ったが、その目は一切笑っていなかった。むしろ、自分たちだけが味わった「喪服の恐怖」を共有させようという、執念にも似た光が宿っていた。


---


### ドルネイ城・晩餐会場(前)


マキ(ハイドンよ。エレンと仲良くなった矢先に、これか。カレンは今、空腹と精神的疲労で『道連れ』を探している。……覚悟しろ。ドルネイ城主が用意したのは、ただの食事ではない。**『黒に染まった精神修行』**だ)


リノ「うふふ、マキ様。ハイドン様たちも、みんなで一緒にお焼香(晩餐)ですねー。仲間外れは良くありませんもんね。てへっ☆」


マキ(リノ、お前が一番楽しそうだな!! 頼むから私の離乳食まで『墨汁色』にしたりしないでくれよ!?)


---


### ドルネイ土産屋通り・広場


セシリア「よし! ドルネイの地名入りペナントとキーホルダーは間違いなくゲットせねば。あとは提灯があれば最高なのだがな……」


3時間の自由時間。セシリアは着替えを済ませると、瀕死の重傷を負っていたとは思えない軽快な足取りで土産物屋へと消えていった。


フルーレ「相変わらずセシリア様はペナント好きっすよね。前に部屋を覗いたとき、壁が見えないくらい各地のペナントが貼られてて、ちょっとした結界みたいになってたっすよ」


エレン「本当に好きなんでしょうね。……あれ? そういえば、ジェームズさんとガリクソンさんがいない? どこに行ったんでしょう」


ブキャナン「ああ、あの二人なら『夕食会までには必ず戻る』と言い残して、何かに取り憑かれたような顔で慌てて出かけていったよ」


---


### お土産センター前


セシリア「よし、基本セットは手に入れた。だが、このガイコツキーホルダーは骨の造形が甘いな、却下だ。……あとは菓子だな!」


そこへ、セシリアを待ち構えていたかのように数人の若手隊員たちが集まってきた。


若手隊員A「よお! 待ってたぞ。エレン!」


若手隊員B「お菓子は既に4種類キープしてるぜ。さあ、恒例の『毒味』……もとい、試食会をやろう!」


若手隊員C「ラインナップは、ドルネイ丸ぼうろ、葬式まんじゅう、喪服クッキー、念仏せんべい。どれから行こうか?」


セシリア「おお! お前たち! いつも気の利くやつらだ、恩にきるぞ! 本当に今度、たっぷり、た〜っぷり可愛がってやるからな!」


セシリアは悪戯っぽく笑いながら、両目でウィンクを飛ばし、両手を丸めて「ニャンニャンポーズ」で歓喜の意を表した。


若手隊員A「あ、あ、ああ……。は、はい、たっぷり可愛がってもらおうかな……(鼻血)」


その様子を、数メートル離れた電柱の陰からガタガタと震えながら見ている男たちがいた。


ジェームズ「なんという凄まじい精神攻撃なんだ。あの純朴な若手たちでは、耐えられなくなって再起不能になるのではないか……?」


ガリクソン「……もはや無意識なのか、計算なのか。本人にしか分からんのが一番の恐怖だな」


もう片方の電柱の陰でガリクソンが深刻そうに呟く。二人とも、完全に「尾行中の不審者」のオーラを隠せていない。


ジェームズ「……ガリクソンさん。あんた、それ本当に通報されてもおかしくないレベルの挙動不審ですよ?」


ガリクソン「……どの口が言うんだ。お前も電柱と同化しようとしてるじゃないか」


---


### リノの部屋


その様子を、マキは「またバカなことをしている……」と冷めた瞳で遠隔感知していた。


マキ(……若手隊員どもよ。セシリアの言う『可愛がる』という言葉を、キラキラした恋愛的な意味で捉えるな。あれは某相撲部屋のシゴキと同じ、物理的な破壊という意味だということに早く気づけ。……命を大事にするんだな)


リノ「あ、マキ様。また他人の心配ばっかりして。私はセシリア様みたいな物騒なことはしませんよ?」


マキ(ほう、それは珍しく殊勝な……)


リノ「私は普通に、マキ様をたっぷり、じっくり、逃げられないように可愛がってあげるだけですから。さあ、次は耳掃除の時間ですよ、マキ様?」


マキ(……結局、どっちに転んでも地獄じゃないか!!! 誰か、私をペナントの裏にでも隠してくれ!!)


---


### ドルネイ土産屋通り・ベンチ前


セシリア「おっと、もう16時か。お前たち済まないが、また友達と待ち合わせがあるのでな、今日はここで帰らせてもらうぞ」


セシリアは、手元の「ドルネイ丸ぼうろ」の最後の一欠片を惜しみそうに口に運ぶと、若手隊員たちに向かって小首をかしげ、両手を合わせて「ゴメンねポーズ」を作った。


若手隊員A「そ、それは残念だが、約束があるなら仕方ないよな。女子隊員たちと観光か?」


セシリア「まあ、そんなところだ。この穴埋めは必ずするぞ、じゃあまたな!」


嵐のように去っていくセシリアの後ろ姿を見送りながら、若手たちは頬を染めて呆然と立ち尽くしていた。


若手隊員C「……なあ、エレン(中身セシリア)って、あんなに可愛かったっけ?」


若手隊員B「……ああ。なんか今、心臓が『念仏せんべい』みたいにバキバキに砕かれた気分だ……」


---


### 喫茶「トワイライト」


一方、本物のエレンと元帝国幹部たちの「被害者の会」は、コーヒーのおかわりを注文しつつ、さらに深い世間話に花を咲かせていた。


ハイドン「……しかし、我々まで夕食会(お通夜)に参加とは。カレン殿の執念には恐れ入る」


サンチェス「まあ、ゾイドの時は凄まじかったんですよ?俺たちが生姜焼きを食べてたら、セシリア様が地獄の底から這い上がってきたような殺気で乱入してきたんですから……」


エレン「私は……スキヤキを一口食べようとした瞬間に、セシリア様が怒り狂って現れて、そのまま拉致されました。あの時の絶望に比べれば、お通夜のほうがまだ静かな分マシかもしれません……」


カムストック「ハイドン様、そういうことらしいです。これでもまだマシな方なんですよ?」


ハイドン「そ、そうなのか……? 王国のスタンダードは、飯を食うだけで命を狙われるほど過酷なのか……」


そこへ、ブキャナンが手元の報告書を眺めながら、深刻な顔で割り込んできた。


ブキャナン「それよりハイドン様。困った報告が入っています。ハイドン様が存命で騎士団に投降したという噂を聞きつけた帰国途中の帝国兵たちが、次々とこのドルネイに引き返してきて、投降(再会)を希望しているのですが……」


エレン「そ、そうなんですよ……。おかげで私、また増え続ける捕虜や投降兵の方々に、セシリア様のふりをして演説しなきゃいけないんです……。もう喉がガラガラですよぉ……」


ハイドン「……はぁ。あいつら、素直に国に帰れば良いものを。いいか、ここから先は帝国からの公費(給料)は一切出んのだぞ! 私はもう、自分の飯代も怪しいというのに、あいつらの分まで支払い切らんのだぞ……!」


ハイドンの人徳が、皮肉にも彼の借金地獄にさらなる拍車をかけていた。


---


### スーパー銭湯「ドルネイの湯」


そんな喧騒を余所に、マキはリノに抱えられながら、湯船に浮かぶアヒルのおもちゃを眺めていた。


マキ(ハイドンよ……。普通なら部下が慕って戻ってくるのは将軍冥利に尽きる美談だが、今の状況では「借金取りの集団」が押し寄せてくるのと同義だな。人徳が高いというのも、考えものだ……)


リノ「マキ様、お湯加減はどうですか? ほら、あんまり遠くを見るとのぼせちゃいますよ。……ハイドン様たちのことは、カレン様がきっと『有効活用』してくださいますから、私たちはリラックスしましょうね」


マキ(「有効活用」……。カレンのことだ、あの帝国兵たちをまとめてインフラ整備という名の強制労働に従事させる図が見える。……リノ、お前のその「普通に喋る」トーン、逆にカレンに近い冷徹さを感じて怖いのだが……)


リノ「……ふふ、何のことですか? さあ、次は露天風呂で月を見ながら、マキ様の体をピカピカに洗ってあげますね。逃げちゃダメですよ?」


マキ(この風呂の壁が、今の私には『ドルネーイの塔』より高く見える……!!)


---



今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。

個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。

今後とも何卒長くお付き合いくださる事と、もし気に入られられたらブックマークして頂けると嬉しいです。

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