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第35話:送られ人

第35話「送られ人」



### 城塞都市ドルネイ・中央病院


ここは……どこだ?

不快な消毒薬の匂いと、清潔すぎる白い天井。セシリアは意識が戻ると同時に、弾かれたようにガバッと起き上がった。


セシリア「そうだ!! 私はドルネーイの塔でハイドンと……! ……っ、ハイドン……!」


カレン「ようやく目が覚めたようね、セシリア。あんたには言いたいことが山ほどあるわ!!」


ベッドの脇で腕を組んでいたカレンが、氷のような視線でセシリアを射抜く。


セシリア「……カレン、すまぬ。私の独断でお前の策を台無しにした挙げ句……私は、ハイドンを救えなかった……」


悔しさに拳を握るセシリア。カレンは、はぁ……と深く、重いため息をついた。


病室がしんと静まり返り、重苦しい沈黙が流れる。しかし――。


次の瞬間、隣の部屋から壁を突き抜けるほどの騒がしい声が響き渡った。


「何でこっそりモンブランを食べたらいけないんだよー!! 返してよ! ボク、怪我人だよ??? 甘いもの食べないと細胞が死んじゃうよー!!」


「なぜ昼食は肉料理なのだ!! 胃がもたれてるから肉はいらんと言ったではないか!! なぜ朝ごはんの献立にあった『ほうれん草のおひたし』と『納豆』がないのだ!!」


セシリア「…………?」


聞き覚えがありすぎる声に、セシリアは点滴の針を引き抜きそうな勢いで隣の病室を覗き込んだ。


---


### 隣の病室


そこには、隠し持っていたスイーツを看護師に没収されようとしているハナと、病院食のステーキを「重い」と突き返しているハイドンの姿があった。


セシリア「……お前、生きておったのか」


ハイドン「あ、ああ……。爆発の最中、この赤髪が『ボクの動体視力なら、爆風なんて止まって見えるもんね!』とか言って無茶しおってな……。爆心から強引に引きずり出されたのだ」


ブキャナン「ハナ様のおかげでハイドン様は助かりました。……まあ、救出された直後のハイドン様は、ショックと胃もたれで失神されていましたが」


ブキャナンが深々と頭を下げる。ハナは「えへへ、お礼にモンブラン買ってよー」とまだ食い下がっている。


セシリア「…………」


セシリアの目にじわりと涙が浮かぶ。しかし、彼女が感動の再会を果たす前に、背後から鬼の形相のカレンが近づいてきた。


セシリア「……生きていたなら、それでいい。だがハイドン、この馬鹿者が! 退院したら覚悟しておるがいい。とことん私の理想につき合わせるからな!!」


カレン「退院したら覚悟しておくのはあんたの方よ!!」


**ゴッ!!!**

容赦ないカレンの拳が、セシリアの頭にクリーンヒットした。


ジェームズ「あの……病院で暴力沙汰を起こすあなたも、大概に酷いのでは……」


看護師「院長、もうこの一団、全員まとめて出禁にしてください」


---


### 病院の中庭


マキ(ハイドン……。お前の「美しい自決」は、ハナの「肉体スペック」とセシリアの「強引さ」によって完膚なきまでに粉砕されたな。まあ、命があるだけ儲けものだ)


リノ「うふふ、マキ様。平和になりまちたねー。お祝いに、マキ様には病院食をドロドロのペーストにして食べさせてあげまちゅからね? あーん」


マキ(私は怪我人ではない!! 誰か……誰か私に、せめてメザシの一匹でもいいから『固形物』をくれぇ!!)


---


### 城塞都市ドルネイ・繁華街フードコート


「病院出禁」という前代未聞の不名誉を、自由への切符に換えた面々がフードコートに集結していた。


ハナ「ボクって天才~! 病院を強制退院させられれば、誰にも邪魔されずにスイーツ食べ放題じゃん!」


セシリア「さすがハナだな、機転が利く! 病院食の薄味には飽き飽きしていたところだ。……おい、このドルネイ名物の唐揚げ、肉汁が凄くてかなりイケるぞ!!」


シルフィ「あのですね……私の治癒魔法で傷口は塞がっても、あれだけの出血をしたんですから、普通は数週間の療養が必要なんですよ!」


シルフィは呆れ返りながら注意するが、セシリアとハナの耳には届かない。二人は「失った血液分を補給する」と言わんばかりの勢いで食べまくっている。


エレン「……ガリクソンさんたちが『ハイドンさんに会いたい』と言い出して、さっきみんなで病院に行ったら、既に出禁になってました。恥ずかしくて顔が上げられません……」


エレンが「この世の終わり」のような顔で肩を落としている。


シルフィ「ふふふ。本当にエレンさんは、帝国の隊長さんたちと仲良しですね?」


エレン「えっ!? い、いや、その、境遇が同じというか、私も実質捕虜みたいな扱いですし……あ! 隊長である皆様に失礼なことを! すみませんっ!!」


フルーレ「……エレン、そんなに卑屈になるなら私の剣士師団に移籍することをお勧めするっすよ。あっちの『狂犬』の側よりは生存率が上がるっす。……で、そのガリクソンさんたちは?」


フルーレが視線を向けた先。フードコートの最も奥、日当たりの悪いテーブルに重苦しい空気が漂っていた。


---


### フードコート・「債務整理」テーブル


そこにはカレンが優雅にコーヒーを啜り、対面にはハイドン、ブキャナン、そして巻き込まれ隊長ズ(ガリクソン、ジェームズ、カムストック、サンチェス)が並んで座っていた。


カレン「……というわけで、この多額の『ドルネーイの塔(文化遺産)破壊賠償金』および『騎士団派遣費用』の請求書、支払い期限は今月いっぱいなの。返済できないっていうなら、私の方で素晴らしいお仕事を紹介してあげてもいいわよ?」


ハイドン「……実家に連絡して、なんとか送金してもらえるよう交渉する。だから少し待ってくれないか?」


ブキャナン「ハイドン様! ご実家は今、多額の借金があるんでしょ!? そんな無茶ぶりしたら、ご家族全員夜逃げしますよ!!」


ハイドン「……ブキャナン。貴様、使者として行った時に『金ならいくらでも払うから』と大見得を切ったそうじゃないか!」


カレン「あら、揉めてるみたいね。まあ踏み倒す気なら別にいいわ。あなたたち全員、今日から『24時間セシリア・ブートキャンプ』に参加してもらうことになるけれど、いいかしら?」


**「「「「「!!!!!?????」」」」」**


ハイドン、ブキャナン、そして隊長ズの顔から一瞬で血の気が引いた。あの「破壊の権化」と24時間過ごすくらいなら、死んだほうがマシ――。全員の脳裏に、ボロボロになったジェームズの姿が過った。


捕虜一同「……他の仕事を……どんな過酷な労働でも構いません、斡旋してください……(涙)」


---


### リノの馬車


マキ(カレンよ。お前は本当に……金の回収に関しては帝国軍より容赦がないな。そしてハイドン。お前の第二の人生は、どうやら軍人ではなく「借金返済」から始まるようだな)


リノ「うふふ、マキ様。平和になりまちたねー。お祝いに、マキ様にも特製離乳食(高タンパク・筋肉増強剤入り)を食べさせてあげまちゅね。セシリア様みたいに強くなれまちゅよー。あーん」


マキ(強くなりたくない!! 私はこのまま、頭脳派の可愛い赤子として平穏に暮らしたいんだ!! 誰か、この変態魔道士の請求書も作ってくれ!!)


---


### ドルネイ城・謁見の間への道中


カレン「さ、お金の話(返済計画)は解決したわ。師団長たちは今からドルネイ城主と面会があるから、私についてきてちょうだい」


ハナ「ええっ!? ここでもまた、あのお通夜みたいな展開があるの!? ゾイドでこりごりだよ、ボクもうヤダよ!!」


セシリア「さすがハナだ、お通夜とはよく言った! 貿易都市と言っても、どうせ夜の食事会はカッパ巻きとかお新香巻きくらいしか出らんだろうな。エレン、お前また私の代わりに『参列』してこい」


エレン「え、ええっ!? わ、私もイヤですよぉ……。あの空気、寿命が縮まるんですから!」


カレン「あのねぇ……。ドルネイはタリム最大の貿易都市なのよ? 繁華街や商店街の活気を見たでしょ? ゾイドと一緒にしないで。……ほら、エレンはハイドンさんたちの宿舎の手配。リノも行くわよ」


リノ「ですね、かなり発展してますよね。馬車から見えるスイーツ店、全部回りたいでちゅ」


---


### 一方、宿舎に向かうエレン一行


エレン「あ、あの……エレンです。ハイドンさん、ブキャナンさん、はじめまして。それと……その他大勢も、私についてきてください。……っていうか皆さん、お通夜みたいな顔してどうしたんですか?」


ハイドン「……いや、な、なんでもない(借金残高の桁を思い出している)」


ガリクソン「……エレンちゃん、その他大勢は酷いな。俺たちのプライドはもうボロボロだよ……」


ジェームズ「(無言で魂が口から出ている)」


---


### ドルネイ城・謁見の間


カレン「師団長たちはみんな入って」


重厚な扉が開く。しかし、一歩踏み入れた瞬間に全員の動きが止まった。


城壁の向こうの活気はどこへやら、謁見の間には、城主をはじめ評議会の面々が全員、漆黒の喪服のような正装に身を包んで整列していた。


ドルネイ城主「……王国の救世主たる皆様。ドルネイの『正装』にて、最高のお出迎えをさせていただきます」


部屋の隅には白い菊の花が飾られ、線香のような香りが微かに漂っている。


カレン「……(小声)セシリア、あんたが余計なこと言うから言霊ことだまみたいになっちゃったじゃない……!」


セシリア「(小声)私じゃないぞ! お通夜と言ったのはハナだ!」


ハナ「(小声)ええっ!? 酷いやセシリア様、ボクのせいなの!? でもこれ、どう見てもお焼香する流れだよぉ……!」


シルフィ「(小声)皆さん静かに。……これ、貿易都市特有の『黒を尊ぶ伝統』なだけですよね……? そうであってほしいですわ……」


フルーレ「(小声)無理っす、もう木魚の音が聞こえてきそうっす……」


マキ(カレンよ。貿易都市の活気とは何だったのか。……ハナよ、お前の予知能力はもはや呪いの域だな。そして城主よ。せめてその白いネクタイかポケットチーフを少しでも色付きにしてくれ。これでは奪還祝賀会ではなく、帝国軍の追悼式ではないか……!)


リノ「うふふ、マキ様。南無阿弥陀仏でちゅねー」


---



今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。

個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。

今後とも何卒長くお付き合いくださる事と、もし気に入られられたらブックマークして頂けると嬉しいです。

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