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第33話:セシリア出陣

第33話「セシリア出陣」



### 騎士団食堂幕舎・屋台コーナー


エレンが魂の抜けた顔でトボトボと歩いていると、聞き覚えのある野太い声が掛かった。


ガリクソン「よお、金髪の妹さん。下ばかり向いて歩くと、うっかり地雷(カレンの逆鱗)を踏むかもしれんぞ?」


エレン「あ、ガリクソンさん。それにカムストックさんとサンチェスさんまで……」


カムストック「どうしたよ、エレンちゃん。そんな浮かない顔して。俺らでよければ話くらい聞くぜ?」


サンチェス「そうそう。昨日美味い豚骨ラーメンを食べさせてもらったからな。相談に乗るぞ?」


エレン「え? いやいやいやいや……! 話せないんです! 話したら私の命が……! まだ私、若いですし、死にたくないですぅ!」


三人は顔を見合わせ、無言で苦笑いした。この「死の予感」の正体が軍師カレンにあることくらい、長年修羅場をくぐってきた彼らには容易に想像がついた。


カムストック「まあ、話せないことは話さなくていい。だが、そんな顔で自分の幕舎に帰ったら、部下の若手たちが心配するぜ。とりあえず、あっちの屋台で一杯ひっかけよう」


---


### 食堂幕舎・おでん屋台


サンチェス「うまい! アレクサンド騎士団のおでんの大根、本当に味が染みてるよな。この出汁……ビールに最高だ!」


エレン「あ……は、はい……(モグモグ)」


カムストック「まあ、気晴らしに付き合うくらいしかできねえけどよ。とにかく、溜め込みすぎるのは良くないぜ?」


エレン「あ、ありがとうございます……。あれ? そういえば、ジェームズさんは?」


ガリクソン「ああ。あいつはセシリア様に連れて行かれたぞ」


エレン「セシリア様に……?」


ガリクソン「ジェームズはセシリア様の『彼氏候補』に立候補したらしいからな、ちょくちょく呼び出しをくらってる。」


**ぶほっ!!**

カムストックとサンチェスが、食べていたおでんを同時に吹き出した。


エレン「ジェームズさん……なんて恐ろしいことを‥‥。それ、もう『クーリングオフ』できないんですかね……???」


ガリクソン「解約を申し込むと言ってもセシリア様に申し込むんだろ?どうなると思う? 想像しただけで身の毛がよだつ。……もう、奴は助からん」


カムストック「一度ワンクリックで『承認』を押したら最後。解約など存在しない世界なんだ。……いい奴だったな、ジェームズ」


サンチェス「同期だし、見どころのある奴だったんだがな。……さようなら、ジェームズ。ありがとう、そしてさようなら……(夕空を見上げる)」


ジェームズ「……俺を勝手に殺して、夕日に顔を思い浮かべるのはやめてくれ……」


エレン「ひぃっ!? ジェームズさん!? ……って、ボロボロじゃないですか!! 死にかかってますよ!!」


そこに立っていたのは、鎧がボコボコに凹み、髪を振り乱して白目を剥きかけたジェームズだった。もはや歩く死体ゾンビである。


---


### リノの特殊車両・室内


その様子を、マキは「透視魔法」を使っているかのような顔で察知していた。


マキ(ジェームズよ……。さっそくセシリアの『挨拶代わりの組手』という名の暴風に巻き込まれたようだな。……諦めるがいい。セシリアという名の契約に、クーリングオフなどという甘っちょろい制度はないのだ)


リノ「うふふ、マキ様。それならマキ様も、もう私との『婚約』は破棄できませんよ? てへっ☆」


マキ「婚約した覚えは一度もない!!!なぜ外野の地獄を自分たちの話にすり替えるのだ!!」


リノ「あ、マキ様。そんなに照れて暴れたら、離乳食がお鼻に入っちゃいまちゅよー? ほーら、じっとしてくだちゃいねー(暗黒微笑)」


マキ(助けてくれ。セシリアの彼氏候補になるのも地獄だが、リノの『愛の監獄』で乳児プレイを強いられるのも大概な地獄だぞ……!!)


---


### ドルネーイの塔・外周


カレン「……ええ、しっかり頼むわよ。明日の総攻撃に備えて、今夜は適当に揺さぶっておいてちょうだい」


カレンは、疑似夜襲の指示を受けたセシリアとシルフィが、意気揚々と軍を率いて出陣するのを見届けた。二人の姿が地平線に消えた16時半、カレンは一人、静かにドルネーイの塔へと馬を走らせる。


道中、警護に付き添うフルーレとハナの顔は不安でいっぱいだった。


フルーレ「カレン様、マジで一対一で会談っすか? 冗談じゃ済まないっすよ?」


ハナ「絶対罠だって! 相手はあの陰険なブキャナンだよ!? 危険すぎるってば!」


カレン「フフ、心配してくれてありがとう」


カレンは微笑むが、その視線は鋭く塔を見据えていた。罠なのは百も承知。しかし、この機会を掴めば無血開城どころか、帝国軍を根底から瓦解させられる。


彼女は普段は帯刀しないのだが、今回は珍しく腰に帯刀した白い柄の剣を指先で確認した。


---


### ドルネーイの塔・内部


「ブキャナン様! カレンがこちらへ向かっています。間もなく到着です!」


物見の報告を受け、ブキャナンは口角を歪めた。


ブキャナン「そうかい。カレンは動いたか。こちらの意図はバレているだろうが、あいつも自信家だからね……。さて、予定通り実行するとするか。……あの方に伝えよ!」


「何をやる予定なのだ? 私に隠さず話すがいい」


ブキャナン「な、なっ!? お、お前は!? いつの間にそこに立っている!!」


暗闇から現れた影に、ブキャナンの心臓が跳ね上がる。


---


### ドルネーイの塔・正面


カレン「さて、到着したわ。ハナ、フルーレ、あなたたちはここで待機して……」


カレンが塔の重い扉に手をかけようとした、その瞬間。


**『ドォォォォォン!!』**


天地を揺るがす轟音と共に、塔全体が禍々しい青白い光に包まれた。目に見えるほど濃い魔力の奔流が壁を伝い、巨大な魔法障壁が塔を完全封鎖する。


カレン「なっ……今、魔法障壁!? 仕掛けてくるのは分かってたけど、私が入る前に発動させるなんて、ブキャナンは何を――……まさかっ!?」


カレンは慌てて魔道探知を塔の内部へと飛ばした。そこから帰ってきた波形は、彼女が知る中で最も「騒々しくて、野蛮で、最高に厄介な女」のものだった。


カレン「……あ、あ、 あ、あ、あのバカァァァァァァァ!!!」


カレンの絶叫が夜空に響く。疑似夜襲に向かったはずの「狂犬」は、軍師の裏をかいて一人で塔に先回りしていたのだ。


---


### 塔の最上階


ブキャナン「なぜお前がここにいる! カレンはどうした!!」


セシリア「ハッハッハ! 何やら楽しそうな気配がプンプンしとったからな! カレンの奴、私に内緒でおいしいところを独り占めしようなど、甘いわ!」


セシリアは豪快に笑いながら、腰の剣に手をかけた。その覇気だけで、塔の窓ガラスがピキピキと音を立ててひび割れる。


セシリア「ブキャナンとやら。隠していても覇気で丸わかりだぞ? そろそろタネ明かししたらどうだ。……そこに『もう一人』おるだろう?」


ブキャナン「…………なんという事だ。カレンの首を取れば、この戦の全てが清算されると思っていたのに。掛かったのがセシリアとは……」


ブキャナンの背後、厚い幕を切り裂いて、一人の男が姿を現した。


ハイドン「……予定が狂った。だが、ここでアレクサンド王国最強の剣を折れば、それはそれで帝国にとっては吉報か」


ハイドン将軍、自らの出陣。魔法障壁で完全に孤立した塔の中で、セシリアは不敵に笑い、剣を抜いた。


---


### 塔の外・リノの馬車


マキ(……カレンよ。お前が『セシリアは疑似夜襲に行った』と信じていたこと。それが最大の計算違いだったな。あいつは『秘密の匂い』には、リノ並みに鼻が利くのだ……)


リノ「うふふ、マキ様。セシリア様、すっごく楽しそうにしてますねー。障壁のせいで助けに行けませんが、まあ、あの塔が物理的に壊れるのが先か、ハイドンが泣き叫ぶのが先か……賭けますか?」


マキ(塔が壊れる方に全財産賭けてやるわ!!)


---


### ドルネーイの塔・最上階


ハイドン「ブキャナン、お前は予定通りさっさとここから立ち去れ!!」


ブキャナン「し、しかしハイドン様! そういう訳には……! 障壁の維持とカレンへの備えが……!」


ハイドン「退かぬなら、敵より先に私が貴様を斬るぞ……?」


ハイドンの眼光に、ブキャナンは蛇に睨まれた蛙のごとく硬直した。


ブキャナン「わ、分かりました……ハイドン様、御武運を……!」


参謀ブキャナンは脱兎のごとく、塔の隠し通路へと消えていった。残されたのは、青白い魔法障壁に閉じ込められた空間と、二人の「将」のみ。


セシリア「内輪話は済んだか? ハイドンよ。随分と部下に優しいのだな」


ハイドン「フッ……。私は大陸全土にその名を轟かせる『氷の死神軍師』カレンの首が欲しかったのだ。策に策を重ねて嵌めたつもりが、まさか貴様のような猛獣が飛び込んでくるとはな……」


セシリア「何を言う。私はアレクサンド王国軍の総大将だぞ? 大将同士の一騎打ちだ、何の不服があるのだ」


ハイドン「セシリア。貴様はマキに次ぐ剣技と魔法の使い手と過剰な評判だけは聞くが、その実、知名度も実力もまだまだ浅い。ただの猪武者としか思われていないのだ。対してカレンは……大陸の勢力図を一人で書き換える存在。首の価値が違いすぎる」


セシリア「ふむ。酷いことを言う奴だな。まあ、私はそんな評価はどうでもよい、自分の評価なんか全く興味がないからな。だが……お前が強いということは、こうして対峙してよく分かる!これほど嬉しい事はないぞ!!」


未だに「カレンが良かった」と残念そうにしているハイドンに対し、セシリアは楽しげに愛剣を引き抜いた。


セシリア「ハイドンよ! 私との一騎打ちを受けるのか受けないのか、どちらだ? まあ、『受けない』と言っても無理やりやるのだがな! ハッハッハ!」


ハイドン「……噂以上の馬鹿者だな。よかろう、猪の首を狩るのもまた一興か」


---


### ドルネイ城・城壁付近


その頃、本来セシリアが指揮しているはずの疑似夜襲陣営では――。


シルフィ「セシリア様、適度な揺さぶりは済みましたわ。そろそろ引き揚げますよ……って!? あなたは!?」


セシリアの鎧を纏った人物が、おどおどと兜を脱ぐ。


エレン「シ、シルフィ様……すみません。セシリア様に『身代わりをやらないと、一晩中マンツーマンで組手をさせる』と脅されて……」


シルフィ「……。セシリア様、噂以上のバカですわ……」


---


### ドルネーイの塔・周辺


カレン「ほんっっとセシリアの奴!! 噂以上のバカとしか言いようがないわ!!」


カレンは塔の結界を睨みつけながら、怒りに震えていた。せっかくの無血開城の策が、物理特化の「猛獣」によって台無しである。


マキ(カレンよ。怒るな。ハイドンも今、全く同じことを思っている。……ただ、一つだけ言えるのは、あの『馬鹿』は、一度剣を交えればハイドンを戦慄させる。……ハイドンよ、せいぜい後悔するがいい。貴様が侮ったその『猛獣』は、神すら噛み殺す狂犬だぞ)


リノ「カレン様、落ち着いてください。セシリア様が負ける心配はありません。心配なのは、あの文化遺産の塔が……一撃目で崩壊しないかどうかですね‥‥損害賠償高そうですよ、てへっ☆」


その言葉を裏付けるように、塔の内部から空気を引き裂くような凄まじい衝撃波が放たれた。

今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。

個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。

今後とも何卒長くお付き合いくださる事と、もし気に入られられたらブックマークして頂けると嬉しいです。

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