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第32話:ドルネイ攻城戦

第32話「ドルネイ攻城戦」



### ドルネイへの進軍路


朝日を浴びて進む王国騎士団。その背後では、ゾイドの街がかつてないほどの一体感に包まれていた。


リチャード「セシリア様! カレン様! 御武運を!」


ドーガン「身に余る光栄! 命に換えてもこのゾイド、守り抜いてみせます!」


老騎士たちの決死の覚悟に対し、セシリアは馬上でビシッと指を突き出した。


セシリア「二人とも任せたぞ! だが、『命に換えて』は私の最も嫌いな言葉だ! 絶対に死ぬな! 死んだら私が地獄まで追いかけて殺すからな!?」


「お仕置きしちゃうぞ☆」ポーズを添えた、セシリア流の無茶苦茶な激励。しかし、それを受けた騎士たちは「おおお!」と涙を流して奮起する。


現在、ゾイドには一万の帝国兵捕虜が収容されている。通常なら背後を突かれる恐怖で進軍どころではないが、彼らの忠誠心は「聖女セシリア(エレン)」の演説によって完全にアレクサンド王国側(というかセシリア個人)へ傾いていた。


帝国兵小隊長「我々も命に換えてゾイドを守ります! セシリア様、どうかお気をつけて!」


ゾイド城主「一万五千人分の精進料理の予算とメザシの捻出は、我が身を削ってでも誠心誠意努力いたしますので、どうかご心配なく! 御武運を!」


マキ(城主よ……。お前の努力の方向が食糧難という名の地獄に向かっておらんか。騎士団の配給が尽きたら一万五千人がメザシ一本で過ごすことになる……。暴動が起きる前に、この戦、短期決戦で終わらせねばならんな)


---


### リノの特殊車両馬車・室内


豪華な内装の室内では、進軍中とは思えない「いつもの」光景が繰り広げられていた。


カレン「マキ様、今日も相変わらず可愛いでちゅね〜? は〜い、あ〜んちてくだちゃいね〜? ……わ〜! 上手に食べられまちたー! おりこうさんでちゅね〜!」


マキ(…………)

無言でスプーンを受け入れるマキ。その瞳からはハイライトが消えかかっている。


リノの思念(マキ様、だいぶ『あ〜ん』に慣れてきましたね。適応能力の高さ、流石です)


マキ(慣れるかーー!! 慣れてたまるかッ!! カレンのこのオンオフの激しさ、ある意味セシリアの二重人格より性質が悪いぞ!!)


カレン「……さて。ふふ、マキ様でチャージ完了。リノ、昨晩みんなに伝えた作戦を細かく個別に伝えるわよ」


一瞬で赤子をあやす乳母から、冷徹な軍師の顔へと切り替わるカレン。


リノ「私は『後方待機』……でしたよね?」


カレン「ええ。そこは変わらないわ。でも、正確なオーダーは……**『何もしないで、そこに座って微笑んでいて』**。それが今回の作戦の要よ」


リノ「……えっ? 『何もしない』のが作戦なんですか?」


カレンは紅茶の準備を始めようとしながら、淡々と、しかし鋭く戦況を分析し続けた。


カレン「二度の大敗とゾイドを失った時点で、ハイドンの兵力は一万五千程度まで減少しているわ。数だけ見れば我々と同等だけど、士気は天と地ほどの差がある。まともにぶつかればハイドンに勝ち目はないし、ゾイドからの追撃を考えればドルネイでの長期戦も不可能……」


リノ「……そうですね。追い詰められたネズミは、一番大きな穴を狙うしかありません」


カレン「ふふ、さすがリノね。私の後継者として期待しているだけのことはあるわ。ハイドンが恐れていることと、一発逆転を狙う策は一致している……分かるわね?」


リノ「私の広範囲魔法への警戒、そしてマキ様が前線に出る可能性……。それらを封じつつ、本陣ここだけを狙って大将を討ち、一気に戦局をひっくり返す。狙いは一点突破の『大将首』ですね?」


カレン「正解。だからこそ私の指示の意味も分かるわね? 厳重な護衛を付けるから、マキ様とおとなしくこの部屋で待機していなさい。一歩も外に出てはダメよ」


カレンは優しく微笑んだ。だが、リノは珍しくあからさまに不満を顔に出し、カレンの目を真っ向から見据えた。


リノ「……皆さんが必死に戦っている時に、私だけ安全な場所でティータイムですか? カレン軍師、その指示には異議を申し立てます!」


しかし、カレンはその反論を想定内だと言わんばかりに、諭すような声を出した。


カレン「これは軍師としての命令よ。そして……ゆっくり体を休めて魔力を回復させなさい。これは親友としてのお願い」


リノ「…………バレてたんですか」


カレン「ええ。あのマキ様でさえ、あの大規模魔法を連発した後は激しく疲労困憊していたわ。今のあなたも、無理をしてそれを隠している。私の目は誤魔化せないわよ」


リノ「……でも、だからといって戦場に穴を開けるわけには」


カレン「後から休ませることを前提に、あなたに無理をさせたのは私なの。だから……私を後悔させるようなことはしないで。お願い」


カレンの真摯な眼差しに、リノは毒気を抜かれたように小さく息を吐いた。


リノ「……わかりました。カレン様のお言葉に甘えさせていただきます」


カレン「……よかった。安心したら喉が渇いたわね。今回は私がお茶を入れてあげるから、三人でお茶にしましょうか?」


カレンが慣れない手つきでティーポットを扱い、ぎこちなく紅茶を淹れる。その危なっかしい姿を、リノは今日一番の柔らかい微笑みで見守っていた。


マキ(今までこいつら、こんなに仲が良かったか……? いや、元から腐れ縁ではあったが。……ふん、まあ、戦の前の静けさとしては、こういう空気も嫌いではないぞ。……しかしカレンよ、その茶葉の量は多すぎだ! 渋くて飲めたものではなくなるぞ!!)


不器用な友情が淹れた紅茶の香りが、戦場へと向かう馬車の中に優しく広がっていった。


---


### ドルネイ包囲陣・王国騎士団本陣


ドルネイに至る街道筋では、ハナ率いる諜報師団と帝国軍の小競り合いが断続的に続いていた。

だが、帝国兵たちは剣を数回交わすと、追撃を振り切るようにしてすぐにドルネイ城内へと引き返していく。


ハナ「……嫌な感じ。足止めっていうより、こっちの戦力と速度を測られてるみたい。まあ、いいや。カレン様に報告しといて」


ハナは「くにゃり」と首を傾げると、影に潜む部下たちに指示を飛ばした。


---


### 王国騎士団・セシリア本軍


セシリア「ふん、もうすぐドルネイに着いてしまうではないか。ハイドンめ、野戦を捨てて籠城戦をやるつもりか。骨の折れることだ」


フルーレ「やっぱ籠城戦っすか……。めちゃめちゃ面倒くさいっすね……」


フルーレは言葉以上に「この世の終わり」のような顔をしながら、自身の剣士師団へと戻っていく。彼女にとって、城壁という物理的な壁を相手にするのは、もっとも「美しくない」仕事なのだ。


ついに、王国騎士団は対帝国用城塞都市「ドルネイ」の正面に陣を敷いた。


見上げれば、城壁を埋め尽くすほどの帝国の旗が猛々しく翻っている。一万五千の精鋭が守る難攻不落の要塞。


長期戦になれば、ゾイドの「メザシ予算」が尽きるのが先か、こちらの物資が尽きるのが先かという泥沼の展開が予想された。


カレン「さて、ここからが本番よ。予定通り補給路を確保して。攻城戦の準備……いわゆる『梯子や投石機』の用意は後回しでいいわ」


カレンが奇妙な指示を出している最中、ハナの部下が風のように現れた。


諜報員「報告! カレン様、ハイドン将軍の参謀、ブキャナンより使者が参っております。『密命』を持っての面会を希望とのこと」


カレン「……ブキャナンの使者? 敵の参謀がこの状況で、私に裏取引でも持ちかけようっていうの?」


カレンはニコリと微笑んだ。だが、その瞳の奥には、裏切りと策略を何よりも好む軍師としての、鋭く冷徹な光が宿っていた。


---


### リノの馬車・室内


マキ(ブキャナン……。ハイドンの腰巾着のような男だが、計算高いことでは帝国内でも有名だ。この土壇場で使者を送ってくるとは、ハイドンを売るつもりか、あるいは……)


リノ「カレン様、なんだか楽しそうな顔をしています。悪いことを考えてる時のカレン様は、お肌のツヤが良くなりますから」


マキ(リノ、お前はカレンをなんだと思っているんだ。……しかし、この密談。ドルネイの城門が内側から開くか、それともカレンが使者を食い物にするか。見ものだな)


---


### 騎士団・カレンの幕舎


張り詰めた空気の中、カレンはブキャナンから届いた5枚もの書簡を、指先で弄びながら読み終えた。


カレン「……なるほど。つまり現状、ドルネイで戦闘の継続を望んでいるのはハイドン将軍ただ一人。参謀のブキャナン殿をはじめとする他の要人は、皆この無益な争いを終わらせたい……。そういう解釈でいいのかしら?」


ブキャナンの使者「左様にございます。戦後の条件さえ合意にいたれば、戦わずして城門を開く所存。ブキャナン様は、明日の18時、ドルネイ地方東南にある文化遺産『ドルネーイの塔』にて、カレン様と一対一での会談を希望されております」


カレン「相分かったわ。話し合いで解決できる可能性があるのなら、試す価値は十二分にある。使者殿、ブキャナン殿によろしく伝えてちょうだい」


使者は「交渉成立だ!」と言わんばかりの明るい顔で、足早にドルネイへと去っていった。


---


使者の姿が見えなくなると同時に、警護に当たっていた師団長たちがカレンを囲んだ。


シルフィ「カレン様……本気でこの話をお受けになるつもりですか? 罠の匂いがプンプンしますけれど」


フルーレ「あからさま過ぎるっす。これに引っかかると思われているなら、相当舐められてるっすよ?」


ハナ「まあ、カレン様にいらない心配だよねー。どうせブキャナンと一対一で話す気なんて、さらさらないでしょ?」


カレン「あら? 私はブキャナン殿と、正真正銘『一対一』で対談に臨むつもりよ。……いけないのかしら?」


エレン「え、え、ええええっ!? 死にに行くようなもんですよ!!」


シルフィ「……何か、勝算があるのですか?」


カレン「さあね? ……あ、そうそう。このことはセシリアとリノには絶対に内緒にしておいてね? もし喋ったら……ひどいわよ?」


カレンの「ひどいわよ?」に、エレンはガクガクと震え、師団長たちも一様に口を閉ざした。


---


### リノの特殊車両・室内


同じ頃、カレンの厳命など露知らず、馬車の中ではマキが天井を仰いでいた。


マキ(変態軍師カレンよ……。お前は、そこに座っている変態魔道士リノを甘く見ているな。半径100m以内で密談など、こやつの魔道探知からすれば、拡声器で叫んでいるのと同義だということを知らぬとは……)


リノ「……さっきからマキ様、『変態』って言葉を使いすぎじゃないですか? 将来、結婚する相手にそんなこと言ったらどうなるか……たっぷり分からせてあげますね。てへっ☆」


マキ(目が……目が笑っていないぞリノ! あと、誰が結婚すると言った! 私は独身貴族を貫くのだ!!)


リノ「カレン様も水臭いですね。そんな面白いイベントを隠そうとするなんて。明日の18時……『ドルネーイの塔』、ですね……。ふふふ、楽しみでちゅねー、マキ様」


マキ(あ、終わった。これ、ブキャナンもカレンもまとめてリノの掌の上だ……)

今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。

個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。

今後とも何卒長くお付き合いくださる事と、もし気に入られられたらブックマークして頂けると嬉しいです。

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