第31話:孤独なグルメ
第31話「孤独なグルメ」
### 王国騎士団駐屯地・セシリア本陣
ゾイド城の「メザシの悲劇」とは対照的に、駐屯地はゾイド市民たちからの感謝の差し入れで、豪華絢爛な「肉祭り」の会場と化していた。
若手隊員A「最高だな! ゾイド市民のみなさん、どんだけ貯め込んでたんだよ! この霜降りを見ろよ!」
若手隊員B「本当だ、この『すき焼き』、口の中でとろけるぞ!」
若手隊員C「マツザカビーフもいいけど、このコウベビーフの脂の甘みもたまんねえな! なあ、エレンも食えよ!」
エレン(本物)「あ……うん。とっても、美味しいね……(泣)」
若手隊員A「お前、またその『借りてきた猫』みたいなテンションかよ? 昼間のお土産屋の時の、あのイケイケな『高くつくぞ?』ポーズはどこに行ったんだよ!」
女子隊員たち「ちょっとあんたたち! エレンをあんまりいじめたらダメでしょ。エレン、こいつら放っておいて、私たちとあっちで食べましょ?」
エレン「あ、私はどちらでも……!!」
その瞬間、エレンの背筋を氷の刃で撫でられたような凄まじい殺気が駆け抜けた。
そこには、新人の隊服に身を包み、帽子を深く被り、サングラスとマスクで顔を隠した「怪しい金髪の女性隊員」が立っていた。
隠せていない黄金の髪が、怒りで逆立っているように見える。
偽新人「……エレン。貴様に用がある。ちょっと……裏へ来い」
エレン「ひ、ひ、ひぃぃぃっ!!(本物が地獄から戻ってきたぁー!)」
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### 王国騎士団駐屯地・カレンの陣
一方、カレンの陣でも、元帝国諜報コンビがコウベビーフを巡って醜い争いを繰り広げていた。
ガリクソン「ジェームズ貴様! 肉ばかり食べおって! 諜報員なら野菜を食って血をサラサラにしろと言っただろうが!!」
ジェームズ「うるさいなー! あんただってさっきから『久しぶりの肉だ』とか言って肉しか箸を伸ばしてないじゃないですか!」
ガリクソン「上司に向かってなんだその態度は! あ、また俺が手塩にかけて育てた(焼いた)マツザカビーフを盗りやがったな!!」
「……随分と、楽しそうね?」
背後から響いたのは、絶対零度の声。
ガリクソンとジェームズは、箸を皿に落としながら、ロボットのような動きで振り返った。
カレン「……話があるから、ちょっと来てもらえるかしら?」
ジェームズ&ガリクソン「ひ、ひいっ!? な、なんですか!?」
ガリクソン「(気配が……気配が一切なかった! 帝国の諜報隊員である俺たちの背後を、無音で取っただと!?)」
カレン「私は今、メザシと納豆で空腹をこじらせていて、非常に機嫌が悪いの。……あなたたち、ドルネイの守備体制と『美味い店』の情報を、今から一滴残らず吐き出しなさい」
マキ(カレンよ……。空腹の軍師ほど恐ろしいものはないな。そしてセシリア、お前もだ。部下たちが楽しそうに高級牛を食っている横で、メザシの頭を齧らされた恨み……。ドルネイのハイドンは、今日中に全滅するかもしれんな)
リノ「ふにゃ……マキ様ぁ、リノも……お肉食べたいです……。あ、ガリクソンさんの食べてる肉、横取りしちゃお……」
マキ(やめて差し上げろ! その男にとって、今その肉だけが心の支えなのだ!!)
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### 帝国軍捕虜収容所
カムストック「これ、本当にいいのかよ。俺たち、さっきまで殺し合ってた捕虜だぜ? 騎士団の配給だけじゃなく、ゾイド商店街の人たちの差し入れまでもらってさ……」
カムストックは、目の前の豪華な食事を前に困惑していた。
対照的に、サンチェスは口いっぱいに肉を放り込んでいる。
サンチェス「くれるって言ってんだからいいんじゃねーか。しかし、この『ショウガヤキ』ってめちゃめちゃ美味いよな! 飯が止まらん!」
「うん、ボクもそう思うよ。生姜の辛みと豚肉の脂の甘みのバランスが絶妙っていうかさ」
サンチェス「お、赤髪! お前もそう思うか!? 豚肉に染み込ませる時、他にも下味……例えば隠し味にリンゴとか入ってるよな?」
カムストック「……おい、サンチェス。お前、今誰と喋ってるか分かってるのか?」
フルーレ「これ、多分タマネギもかなり上質なやつを使ってるっすね。飴色になるまで炒めてあるから、コクが凄いっすよ」
サンチェス「!!!!!(え、さっき俺をボコボコにした『八刀流』の……!?)」
そこへ、背後から地響きのような、地を這うような「呪詛」に近い声が響いた。
「……なぜ捕虜の方が、私たちより高級な料理を食べておるのだ? 許せんな、到底許容できんぞ」
「そうね。私たちはメザシ一匹、納豆一パック、ほうれん草のボイルという……まるで出家した僧侶のような精進料理だったのにね……。うらめし……いえ、羨ましい限りだわ……」
シルフィ「ウフフ、二人とも、落ち着いてください。別にこの方たちが悪いわけではないですし(というか、城主が貧乏なのが悪いだけですから)」
リノ「私は精進料理も好きですよ。でも、すき焼きと生姜焼きの方が好きですけどね! てへっ☆」
マキ(リノ! 毎回だがお前のフォローはいつもフォローになってないぞ! 火に油を注いでどうするんだ!!)
サンチェスとカムストックが、背中に刺さるような強烈な殺気を感じて振り返ると、そこには――。
ガリクソン、ジェームズ、そして魂の抜けたような顔のエレンを引き連れた、セシリア、カレン、シルフィ、リノ、そしてマキが、瞳の奥が全く笑っていない笑顔で立っていた。
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セシリア「……カムストックよ。その生姜焼き、一口……いや、半分よこせ」
カレン「……サンチェスさん。そのお肉を差し出せば、ドルネイでの減刑を考えてあげなくもないわよ?」
ガリクソン「(……情けない。アレクサンド王国騎士団の最高幹部たちが、肉一欠片のために捕虜を恐喝している……!)」
ジェームズ「(隊長、黙ってましょう。今の彼女たちは、ハイドン将軍より100倍危険です……)」
エレン(……帰りたい……。もういっそのこと、私も捕虜になりたい……)
マキ(ハイドンよ、震えて待て。今、お前を襲おうとしているのは正義の心でも戦略的野心でもない。『メザシを食べさせられた女たちの、肉への執念』だ。これは……防げんぞ)
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### ゾイド商店街・大衆食堂「平和軒」
高級料亭でもゾイド城の晩餐会でもなく、暖簾の揺れる庶民的な食堂の座敷席。
そこには王国騎士団の幹部、帝国軍の捕虜隊長4名(ガリクソン、ジェームズ、カムストック、サンチェス)、そして魂の抜け殻となったエレンが肩身を狭そうに円卓を囲んでいた。
セシリア「マスター、おでんの大根とこんにゃくとはんぺん。それと厚揚げも追加だ。……ああ、カラシは多めで頼むぞ」
リノ「私もはんぺんと厚揚げをお願いします。あと赤ちゃん用に取り皿をふたつ」
シルフィ「あ、注文してた豚骨ラーメンと餃子、それぞれ11人前一気に来ましたよ。乗るかしらこれ」
フルーレ「……やっと、血肉になるまともな食べ物が食べれるっす」
ハナ「ボクもうお腹ペコペコだよ〜。大学芋じゃ夕食にならないもんね」
カレンはレンゲでスープを一啜りし、鋭い視線で一同を見渡した。
カレン「……それでは、食べながらでいいから聞いて。明日のドルネイ奪還の最終作戦を説明するわよ」
セシリア「カレン、一つ質問がある。替え玉を頼んでもいいか?」
カレン「はあ!? あんたもう食べたの!? 麺3玉の大盛りだったでしょ!? バッカじゃないの、この戦闘狂!!」
フルーレ「カレン様! セシリア様に私のチャーシュー取られたっす!!」
ハナ「ひどい! ボクの餃子も1個取られた! これボクのパーフェクト・ギョーザ・フォーメーションが崩れちゃったじゃん!」
帝国の隊長4名は、箸を持ったまま呆然としていた。
サンチェス「……おい、エレンちゃん。なんでこの人たちはラーメン屋で作戦会議を始めてるんだ? 緊張感って言葉を知らないのか?」
エレン「……わ、私に聞かないでください。いいですか、あまり深く考えてはいけません。ツッコミを入れたら負けなんです……」
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### ドルネイ・ハイドン陣営
一方、ハイドン本陣。
そこには、脂の乗った肉料理を前にして、顔を青白くさせている将軍の姿があった。
ハイドン「……肉料理か。悪いが、今、胃が猛烈にもたれているのだ。野菜料理に替えてもらえないか」
料理長「は、はあ……。では、こちらを」
ハイドンは悲壮な顔つきで、差し出された「ほうれん草のおひたし」を力なく突き始めた。
ハイドン(騎士団長と壊滅の魔道士が不在と思わせておいて、二人ともしっかり帯同させておったか……。あの規模の戦略魔法を二日続けて放てる魔道士など、歴史上でも数えるほどの大魔道士レベル。リノとマキが交互に放ったとしか思えん。おのれ……軍師カレン、すっかりしてやられたわ……)
だが、ハイドンはほうれん草を咀嚼しながら、不敵な笑みを浮かべた。
ハイドン(……だが、まだ終わらんぞ。ドルネイでカレンを確実に葬る……!このほうれん草、かなり美味いではないか‥‥出汁に何か一工夫加えておるな‥‥まるで口の中でハーモニーを奏でてるようだ‥‥おかわりを頼むのもまた一興‥‥フハハハハハ)
ハイドンの孤独なグルメは続く
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### 再び「平和軒」
マキ(セシリア、お前は本当に私の代理なのか? 替え玉の三玉目を頼もうとするその姿は、もはやただの食いしん坊の園芸師団長(仮)だぞ)
リノ「うふふ、マキ様。スープが飛ぶから、あんよをバタバタさせないでくだちゃいね。……あ、店主さん! ビール大瓶で!!」
マキ(リノ、お前……!!)
今回もご覧いただいた方がおられましたら、本当にありがとうございます。
個々の登場人物に思い入れが出てくると、いろいろイメージが浮かんでくるものなんですね。
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